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15 空気をきれいに

「…どういたしまして」


跪いた魔王を急かして立ち上がってもらうと、真面目な顔をしていた。



「まさかこれほどすんなり結界の修復をしてしまうとは思わなかった」

「わたしもだよ」



わからなくてなんとなく試したことが的面に効くとは思わなかった。



「こんなことならもっと早く手を打つべきだった。力づくで聖女に協力させていれば…」

「いやー、それは…」



アブない発言をしているけど実際もっとはやく聖女の協力を取り付けていればと悔やまれる。



「いえ、聖女皆がリンカ様のようにできたかは怪しいですよ。聖女アスカは瘴気が見えるなどとは言っていませんでした。それに浄化の光、リンカ様は金色ですが彼女は青白かった。聖女にも能力にバラつきや違いがあると考えられます」

「そうさな、聖女とはいってもそれぞれ別の人間だしな。そういうこともあるか」



へえ、聖女といってもみんなまったく同じ力を持ってるわけじゃないのか。

ひょっとして聖女講座で教えてもらってないと思ってた神聖魔法の効能も、人によって違っているからわたしのは前例になかったのかな。



「でもとりあえず修復できたけど我流だからこのままずっと大丈夫かはわからないよ?」

「様子見しながら根本的な解決策を探していく。いまはこれで充分だ。よくやってくれた」



うれしそうな表情をしている魔王を見ていると達成感が湧いてきてわたしもうれしくなった。

魔王もツヴァイもガエルも、こんなに喜んでくれている。力になれてよかった。

以前魔王討伐しにきたわたしが魔王一派をよろこばせて、それを見てよろこんでいるなんて不思議なことだ。

と、そこでウィルの爽やかイケメンな顔が浮かびふと思った。



「そういえば女神エールヒルデは初代勇者に光属性の力を授けたんだよね? ということはウィルの光属性の力は女神エールヒルデの力も同然。なら封印の結界、もっとなんかできるんじゃない?」

「そうかもしれんな。だが奴は奴でやることがある。奴の助力は今は先送りにする」



やること? ウィル側でも何か動きがあるのか?



「ウィル、なにかしてるの?」

「ああ。だが放っておけ」

「なんで? こっちにとっても助かることなら手伝おうよ」

「いいや、ここで踏ん張れないようなら手を貸す気はない。奴はいい子ちゃん過ぎた。言われるがまま人の言うことを聞いてきたから嵌められたんだ。ここらで自力で考えて行動を起こさないようなら永久にいい子ちゃんのままだ」



なかなか辛口な批評だ。

魔王はウィルのこれまでの行動が気に入らないようだ。

でも立ち上がって成長するのを望んでいるようにも聞こえる。

初代勇者の親友だったようだし、その子孫には特別な思いがあるのかもしれない。



「さてと、それじゃあ瘴気の元栓は閉じたし、やりますか!」

「というと?」

「魔王城の空気を浄化します」



そもそも「空気きれいにしたいな」という欲求から始まったので、さっそくやってみよう。

わたしは腰のベルトに通した薄手の革製バッグから魔導書を取り出した。魔物図鑑だったあの本だ。

そして最初のページを開く。



「清浄の杖」



右ページの魔法陣が光り、あらかじめ入れておいた清浄の杖が出現した。

杖を握った右手を前に出して魔法を唱えた。



「ホーリーヒール!」



杖の先に金色の光が輝き、周囲の瘴気を浄化していく。



「瘴気が聖女殿に吸い寄せられていく!」

「凄まじい浄化速度です」



わたしの魔力量がすごい速さで消費されていく。

呼吸が早くなってきて、全身から汗が出てきた。

まるでランニングでもしているように心臓もバクバクいっていて、足もガクガクしてきた。

すると背中を力強い腕に支えられた。

見上げれば魔王が無言でわたしの背に腕をまわして杖の先の光を見ていた。


わたしは全力を振り絞った。

昨日瘴気石を大量に浄化したのと同じくらい、限界まで浄化し続けた。

視界が一面浄化の光に包まれた。


光が収まると、謁見の間に瘴気はなくなっていた。

ガエルが謁見の間を飛び出して行く。

ツヴァイもその背を追った。

わたしは力の入らなくなった手から杖を取り落として膝からくずおれた。その体を魔王の腕が受け止めて膝裏に腕を回され抱き上げられた。

わたしはその体勢のまま魔王と共に開け放たれた扉をくぐり、廊下に出た。

廊下を歩き窓から中庭が見える。

廊下も中庭も瘴気がなくなっていた。



「瘴気がなくなったぞーーーー!!」



ガエルが中庭で叫び、その近くでツヴァイが辺りをぐるりと見回していた。


きっとすぐ魔王城周辺から瘴気が流れ込んでくるだろう。こんなに綺麗な空気は長くはもたない。

けれど今は自分を褒めよう。



「お疲れ様、リンカ。よくやった」

「お褒めに預かり光栄です、陛下」



その視界に黒いモヤが映った。

横から流れてくる。

目で追うと、黒い壁から湯気のようにゆらゆらと出てきている。

この黒い壁、瘴気を吸い込んで黒くなっていたんだったか。つまりーーー



「『魔王城自体を丸ごと浄化しないと延々と瘴気が湧き出てくる』ということか?」



瘴気の漏れを感知し察した魔王がわたしと同じ答えを導き出した。

一時だけで魔王城の空気完全浄化は終わりを告げた。

わたしはぐったりと脱力し疲労感に襲われた。


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