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1 魔王城で朝食を

第二部はじまりました。

『浴槽にお湯をはってありますのでどうぞお使いください。脱いだ服は籠へ入れてください』


与えられた部屋に戻ると居間のテーブルに書き置きがあった。

なぜ書き置き?

お風呂場を確認したら猫足の可愛い浴槽には湯気が立ち昇り、手を入れるとちょうどいい温度のお湯がなみなみとはってあった。脱衣所には植物を編んで作られた籠がありバスタオルも掛けてあった。


誰が用意したんだろう。使用人がいるのかな。

以前この城に来た時はそれらしい人は見なかったけど。

「まぁいいか」と何某かが用意してくれたお風呂に入った。




『魔王城に住む』

わたしは世界を守っていた魔王に協力するためにこの魔王城に住む提案を受け入れた。

そう決めたわたしに「まずはここで暮らすことに慣れろ」と魔王は言った。

バリバリ動かないとと思っていたわたしは拍子抜けした。

「一日二日で解決する問題ではない。長期戦になるだろう。だからそう急がず基盤を整えてからだ」

そういわれ納得した。




「まずは風呂、そのあと食堂で朝食だ」

そう言い渡されとりあえず部屋に戻ったらこの状態だ。

体を洗い、湯船につかってほかほかになり気持ちよく脱衣所に向かう。

と、脱いだ服が土埃もなく綺麗になっていて畳まれていた。

花のようないい香りがする。

この30分くらいで洗濯したのだろうか?

また書き置きがあり『洗濯しました』と一言ある。

直接言えばいいのでは…


髪はタオルドライしてヘアオイルをつけた。

ドライヤーはこの世界にはないので自然乾燥だ。

ヘアオイルやシャンプーにリンス、石鹸などはあるのでお風呂に入ってさっぱりした。

綺麗になった服一式を身に纏い脱衣所、そして部屋を出た。

すると廊下に魔王が壁に背を預けて立っていてビクッとした。

俯かせていた顔を上げわたしを見ると、右手で髪に触れた。一瞬で髪が乾く。魔法で水分をとってくれたようだ。


「いくぞ」


さっさと歩き出す魔王を慌てて追いかけた。



食堂は広く、中央に長テーブルがありすでに料理が盛られた皿が置かれていた。一つの席だけ。


「お前の分だ。座れ」

「あなたは食べないの?」

「仮初の体だ。食事は必要ない」


そうか、魔法で作った体だって言ってた。

普通の生き物とは違って食事する必要ない体の作りなのか。

わたしは料理の置かれた席に、魔王はその向かいの席に座った。

料理はコンソメスープにバターロール、スクランブルエッグに少々のサラダ、焼いたベーコン。

ちゃんとした食事だ。

魔物しかいないこの魔王城になぜこんなちゃんと食べられるものが⁇


「そう怪訝な顔をするな。食えるものだ」

「…人間が食べて大丈夫? 食べたらメデューサになったりしない?」

「失礼なやつだな。瘴気なんて入っていないちゃんと人間の世界の食い物だ」

「…いただきます」


スプーンでスープをすくい口に運ぶと旨味が広がった。


「…おいしい」

「料理人が喜ぶな」

「…料理人、いるんだ。使用人も?」

「いる」

「全然姿をみないんだけど…」

「やつらは主人たちの前に姿を現してはいけないという使用人の規律を厳守しているからだ」


そういえば中世ヨーロッパだとそういう時代があったと聞いた覚えがある。


「…だからって書き置きする?」

「書き置き?」


なんでもないと答えおいしく食事を終えた。


「さて、では城の案内…は必要ないか?」


目の前の本人を討伐しにきて歩き回ったから大体はわかるからね。


「そう、だね。あ、でも勝手に見て回っただけだったからできれば案内してもらいたいかな」

「ああ、戸棚やクローゼットまで開けていたな。物取りかと思ったぞ」

「あ、あれはゲーマーの習性というかっ」


ついアイテム探しをしてしまった。

なんせ魔王城だからレアな物ありそうだし。



「重要な点をまず教えておくが、この城の中に居る限り俺に位置情報は筒抜けだ。おかしな動きがあればすぐに俺の知ることと思え」

「いや、協力するし裏切るつもりはないよ。だけれど、肝に銘じます」

「宝物庫のものや食料庫をまた漁るなという意味だからな」

「ごめんなさい!」


前来たときにやりましたとも。

ばっちり気づかれてた。

きっとがめつい上に食い意地がはってると思われている。ちなみに宝物庫は鍵がかかってて開かなくて食料庫はその時は空だった。

恥ずかしい。もう絶対やらない。

「忘れて!」と言っても面白そうにこっちを見るだけでスルーされてしまった。

おのれ、魔王め。


最後までお読みいただきありがとうございます。


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