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13 彼女の心残りと聖教会からの使者

お読みいただきありがとうございます。

「ツヴァイという男は覚えているよ。この日記にある容姿や能力といい、僕もリンカときっと考えてることは同じだと思う」


 わたしたちは目を合わせ相手も同じ考えだと確信し同時に言った。


「「魔王の配下に元勇者の仲間がいる」」


「いやいやいや、それはおかしいだろう。なんで敵のお仲間になるんだ」


「それはわからないがなにか理由があるんだろう」


「人間嫌いだから皆殺しとか?」


「フェルディナンド、真面目な話だ」


「こんな眉唾物の推察、真面目にできるか!」



 3日日記の読破で潰れ、内容を咀嚼して飲み込むのに一晩かけ、4日目にウィルとフェルに時間をとってもらい内容を打ち明けた。

 わかりやすいようこちらの世界の共通語で要点を書き出して指差しながら全12巻分を一気に説明した。

 そして今は議論の真っ最中だ。


 この話し合いを聞いたら世界中から非難轟々だろう。


 『ツヴァイという400年前の勇者パーティの一員の男はわたしたちが戦った四天王のツヴァイと同一人物』


 正義の味方から悪の道へなんて例え話にしてもタチが悪いに違いない。

 勇者や聖女ほどの崇拝ではないものの、勇者パーティーは偉人として敬われているようだから。

 聖女アスカの夫の魔導士フェデリコさんも等身大の銅像が作られて王都の広場で街を見守るように建っている。

 偉人を銅像にしたがるのは世界が違っても人の感性は同じらしい。



「四天王って魔族って話じゃなかった? 人間から魔族ってなれるの?」


「え、リンカ様まだこの推察続けるんです? 罰当たりですって」


「聖女がいいって言ってるから合法だよ。それからわたしへの言葉遣いはもうウィルと一緒でいいよ、使い分けるの大変でしょ」


「あ、いいの? 助かるよリンカちゃん。実は使い分け面倒だったんだよ。おれのことはフェルくんって呼んでね!」


「フェルディナンド、ちゃん付けはどうかと思う。態度も馴れ馴れしすぎる」


「いいじゃないの、かたいこと言いっこなしで気兼ねしない関係でいこうよ。リンカちゃんもおれたちもこれがずっとは疲れっちゃうでしょ」


「…そうかもねフェルくん」


「ほらみろ、リンカちゃんがいいってさ!」


「まったく、リンカはフェルディナンドに甘いよ。どんどん調子に乗っていくよ?」



 はじめの印象こそ悪かったけど、意外としっかりした人みたいだし彼は信用できると思う。

 結構周りを見ていて空気を読んで会話をつなげたり、わざと軽い物言いをしているようなのだ。


 一度、わたしの部屋に第一王子が訪ねてきたことがありあれこれ聞かれた。

 聞かれたといっても「不自由はないか」とか「読書ばかりでは体に悪いから庭に散策に出られては?」とか。

 まぁなんてことない内容でわざわざ部屋にくる用事でもないことを話して帰っていったが。

 「フェルディナンドがご迷惑をお掛けしていないか」っていうのも聞かれたけどどう受け取ればいいのか。


 その訪問を小耳に挟んだフェルが「突然だったそうですがお困りになりませんでしたか?」なんて通りすがりに会った時に様子を伺ってきた。

 こういう細やかな振る舞いが自然にできる。

 根はいいやつなのかもしれない。

 コミュニケーションスキルとして身につけたのかもしれないが好感度が上がってきている。



「僕がエルグランで調べた限りは魔族に人間がなったという記録も言い伝えもなかったよ」


「おれもないなぁ。人間だと思われてた男がじつは人狼で村人を喰い殺した、なんていう民話はあったが。えーと、『血塗れ人狼』だったか」


「民話って体験談を元にしてる言い伝えなんだよね。それって関係あるのかも」


「血塗れ人狼はもとは人間で人間から魔族になった、と?」


「動物は瘴気の影響で魔物になるんだから、人間が瘴気の影響で魔族になってもおかしくないんじゃない?」


「…たしかに、ありえるか」


「…本当なのかよ。勘弁してくれ」



 フェルが「おれはもしや覗いてはいけない深淵を覗いてしまったのか…」と嘆くのをよそに二つ目の話題にうつり意見を交わす。

 まずは400年前の魔王について。

 瀕死には見えなかったのに剣で刺され最後は聖女の魔法で本当に倒せたのか。



「魔王から感じる圧は正直勝てないかもしれないと思うほど強力だった。400年前の魔王の強さはどれほどかはわからないが、あれと同等なら10人いても倒せただろうか…」


 10人いて無理ならわたしたち完封じゃなかろうか。

 もちろんされた方だ。

 戦わなくて済んで命拾いしたのでは。


「そんなに戦力差があるのかよ… なら400年前の魔王討伐は失敗してるっていうのか?」


「でも魔王は魔法で消滅したと聖女アスカ様はおっしゃっている。表舞台にも出てこなくなっている。それなら倒したのは間違い無いんじゃないかな。ただ…思い出したんだけれど、聖女アスカと共に戦った勇者アレクサンダーが妙なことを後に息子の一人に語っていた」


「妙なこと?」


「魔王が笑ったって。剣を胸に突き刺した時に」


「笑った?」


「その顔が忘れられないって一度だけ酒を飲んでいるとき話したって」


「…なんだか気味が悪くなってきた。胸の辺りがもやもやするわ。ねえ、この話やめよう? そんな昔のことなんて調べようがないんだ。当時の人たちがわからなかったことは今のおれたちにはわかんないって」


 それもそうだ。

 引っかかるけどしかたないので三つ目の件だ。

 実際、わたしに一番関係あるのはこれだ。



「ねえ、いままで元の世界に帰った聖女っているの?」


「…」


「ねえ、ウィル」


「僕は聞いたことがない…」


「そっか…」


「リンカちゃん…」


「でも、まだ方法がないって決まったわけじゃないからね! 希望は捨てずに探すのは続行するので、なにか情報が手に入ったら教えてね!」


「うん、もちろん」


「協力するよ」



 それに思い出すのは魔王のあの言葉だ。



『勇者も、異世界からの聖女も、魔王も、いなかった』

『なぜ今のような異世界人の少女だよりの不甲斐ない世界になったと思う?』

『その理由に、お前が元いた世界に帰るための手がかりがあるかもしれんな』


 

 希望を捨てたくなくて(すが)りついているのだろうかと思った。

 でも違うようで、なぜかわたしは魔王のあの言葉を信じている。

 あの人は嘘をつかない、真実を言っていると、わたしは頭ではないところで判定を下した。

 あの人をよく知らないのに。

 不思議だけどその判断に迷いはなかった。





               *





 初日に通された応接間にわたしたちは集まった。

 陛下から急ぎ話したいけどがあると部屋に使いがあったので応接間にくると両陛下が既にソファーにお掛けになって紅茶を口にされていた。

「遅くなり申し訳ありません」と言うと「なにをおっしゃいます一番乗りではありませんか。やんちゃ坊主たちは一度汗だくで部屋にきましたが失格にしましたので。服を着替えて出直してこいと追い返しました」と返された。

 訓練がたいへん捗っているようだ。

 次にエドゥアルド殿下が入室し、そのあとにやんちゃ坊主と評された二人が少々罰が悪そうに入ってきた。

 訓練が楽しくてはっちゃけてつい礼儀をわすれたのかね。

 仲良しさんだね。

 そしてそんな二人をまたエドゥアルド殿下が見ている。

 なんなの。



「聖教会から使者がきた、勇者ウィリアムと聖女リンカ両名を聖教会へ招待し話を聞きたいと」


 

 こちらから聖教会に使者をだして10日が過ぎ、聖教会から使者がきた。

 聖教会のトップ、教皇直筆の書状による招待。

 こちらから送り出した使者は聖教会に緊急の用件として教会上層部である委員会の召集を要請した。

 そして委員会にロンバルディの国王陛下からのエルグラン王の非道な行いとわたしたちの自国での保護の許可の要望が伝えられると委員会は紛糾したそうだ。


 「すぐに保護の許可を出すべき」「エルグラン王に問いただしてくれる!」「信じがたい、真偽を調べるべき」「聖女様の担当者はなにをやっていた!」「むしろ聖教会が保護すべき」などなど収拾がつかず、「もう当人たちに来てもらっていろいろ直接聞こう!」となったらしい。



 聖教会は教会とついてはいるが、ひとつの独立した中立の国だ。

 聖教会は国のトップ、国王のような位置にいるのが教皇。

 その下には日本なら国会議員やエルグラン王国でいう貴族議会のような組織が委員会だ。

 ほかに省庁のような細分化した実務を行う部署があり、教皇から見習いまでの全ての聖職者のみで役職を構成している。

 役職とはべつに神職としての階級もあり、厳格な縦割り社会らしい。


 また、聖女は聖教会において至高の階級であり、教皇よりも立場は上の位置付けらしい。

 そう感じる態度は未だ聖教会関係者から受けたことないけど。

 勇者も聖女と同じランク扱いらしい。



「勇者様と聖女様をお迎えするためと、あちらから迎えの馬車を寄越したのでそれに乗って来ていただきたいと」


 

 迎えを寄越すとは「絶対きてね」という強い意志を感じる。

 使者と一緒に聖教会の聖騎士隊の護衛付きで馬車を走らせてきたらしい。

 聖騎士とは聖教会の所有する聖騎士団の騎士のこと。

 聖騎士とかわくわくするジョブ…いや職業だ。


 しかし聖教会に行くのか…気乗りしないな。

 あの神官を勇者パーティーの一員にって寄越したくらいだからあんまり信用していない。

 というかあの神官を送り込んだ聖教会もエルグラン王と仲良しこよしなのでは。



「その書状を見せていただけますか?」


「ああ、これだよ。流麗な字で書かれている。教皇様直筆など稀なことだ」

 


 横から覗き込むと筆記体のように文字がつなげて書いてある。

 見た目美しく流れるような筆運びだが繋げずに離して書いてもらったほうが読みやすくてわたしは有り難い。



「話を聞きたいとそれのみですね。聖教会まで招いてそれだけでしょうか」


「ウソじゃないか判断したいとか、あるいは二人を監禁して自分たちの保護下に力づくで置いちゃうとか?」



 監禁、やるかもしれない。

 エルグラン王と繋がってるやつがウィルを亡き者にしようと待ち構えてるかもとか、わたしを捕まえに密かに引き渡すかもとか、悪い方にどんどん想像が膨らんでしまう。



「まあ待ちなさい君たち。悪い方に考えが行きすぎではないか? ただ元気な顔を見たいのかもしれない。飛び込んでみるのも良いと思うよ。神職についている者は高潔な者がたくさんいる。世界の秩序に心血を注いでいる者を私は何人も見てきた。きっと君たちの力になってくれる人がたくさんいるよ」



 真摯な陛下の言葉に思い直した。

 そうだよね、きな臭いやつはいそうだけどそういう人ばっかりと決めつけていた。

 悪い方に考えがいきがちなのはわたしの悪いクセだ。

 もっと前向きにいこう。

 聖教会内にもよくしてくれる人もきっとたくさんいる。

 当事者から直接話聞きたいだけかもしれない。


 わたしたちは旅の準備を大急ぎで終わらせ翌日に王都ロンバルディーアを発った。

聖女アスカの時代を200年前から400年前に変更してあります。

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