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【完結済み】チートもハーレムも大嫌いだ。  作者: 多中とか
本章 異世界にて、惑う
32/65

第26話 仕事に明け暮れる。そしてトラブルの影

2/9分は後1話投稿します。


平日18時投稿、土日祝12時投稿



 その日は、あと二件、仕事をもらいに民家を訪れた。その二件ともに、おつかいをお願いされ、一件目は町中でほつれた衣類を回収し、仕立て直して戻す仕事であり、衣類を回収する場面の手伝いをしたのだった。そのために町中を二人のメイドが走り回った。



 二件目は長老院に入れそうな老年の女性が、果物をもらってきてほしいという依頼だった。そのおばあちゃんは、長老院に入るほどの実績もないので奥所属のままこの年まで働いて来たけれど、そろそろ寿命を感じるという。アコンの民は、自らの寿命を察知したら、精力を込めて働いたり活動したりすることに本気になるか、おばあちゃんのように動くことをやめて余命を好きなことをして過ごす、という2パターンに別れることが多いとユージェは言っていた。おばあちゃんは、アコンの民にしてはめずらしく、食欲が強く残っていたそうで、最後、死ぬ前に好きな果物をたくさん食べて過ごしたい、という希望だった。



 僕たちは彼女の要望通りに、村の中で果物を作っている人や、聖樹の配給先に訪れて、希望の品をいただいた。聖樹の配給は、若い方の二代目聖樹のもとで行われており、ここでは長老院所属の方を通して、配給をお願いした。

 二代目聖樹の内部空間というのは、まだ居住区としては解放されていなかった。税として取り立てられたものが、貯蓄されるために、二代目聖樹の内部空間は使われているとのことだった。



 ユージェに、古い方の聖樹と新しい方の聖樹はなぜ内部の空間の利用の仕方が異なっているの、と聞いてみたら、よくわからない、とのことだった。

 なにやら、古い方の聖樹の空間利用のされ方が通常なのだが、二本目というのは、数百年たってもまだあまり有効活用されていず、それでいて使う必要性に迫られないから、古い方は居住メインで、今まで通り使われ、新しい方は、ある時期から税の貯蓄に使われ、むやみに引き出せないように管理されているそうだった。



 そのあいまいな線引きで困ったことがいままでおこっていないから、今後も大きな変化はなくこのまま使い方をあたらためることなく続けていくのだろうと思う。



 こうして、二件のおつかいを終わらせた頃には、二人のメイドは街中での視線に全然気にならなくなっていた。もともとそれほど気にしていなかったというのもあるけれど、民らも受け入れつつあるような雰囲気だった。

 二人は乾燥係のおばちゃんのもとに帰った。彼女は扉を開けると、床に散乱する湿った衣類の山から水分を吸収しているところだった。



「お仕事お疲れ様」と声をかけてくれる。



「服返してよ」



「せっかちだねえ、ユージェは」



「もういいでしょ」



「はいはい」



 そんな感じで、ユージェは早く元の衣類に戻りたいようだった。

 おばちゃんの仕事がそれなりに片付いたら、朝濡れて乾かしてくれたものを持ってきてくれた。僕たちは、着替えだして。僕は恥ずかしくなって、部屋の隅の方に行ってから着替えた。

 二人は服装を元に戻して、ユージェはもちろん、僕もまあ安心している部分があった。

 今日はユージェについていって、仕事をした。がんばったと思う。



 雨の止んだアコンの村は、土のにおいが強く香っていた。村を走って移動する時に感じていた。足もとはぬかるんで走りにくく、革の靴に赤土が入り込んで、足の裏の感覚が気持ち悪かった。



「今日は4件の仕事をこなしたわね。上出来だったわ」



「いつもよりうまくいったんだ」



「まあまあね。これで乾燥係のおばちゃんを含めた4人が聖樹に私たちの仕事ぶりを祈ってくれる。私たちも、4件目のおばあちゃんのために果物を聖樹からいただくときに、果物をくださいって祈ったでしょう。あれと同様に、仕事を依頼して、達成してもらった人は聖樹に祈るのよ。そうすることによって、仕事を達成した人がアコンの村でサンが供給されることを保証されるのよ」



「祈らずに、物々交換でもいいんだっけ」



「そうね。まあ今回は、サンの受給権の保証ということになるでしょうね」



「なるほど」



 今日の仕事はこれでおしまいだった。帰宅後、ミネさんに教えてもらった柔軟体操を十分にして眠った。

 その日を境に翌日も翌々日も続けて同じように仕事をすることになる。

 ミネさんはなぜかこない。

 ユージェが文句を言いながら、僕の指導と彼女の仕事を両立させて数日を過ごした。夜は柔軟をして身体を柔らかくするように努めた。歩き方も自然になる様にユージェを観察してまねていった。

 


 そうして仕事の助手を始めて三日経つ。

 雨は降ったり降らなかったり。日は登り沈む。民はもしかするとわずかに減っていっているのかもしれない。テスェドさんは数日前に、院長に言われたことを教えてくれた。それを思い出す。流行り病を克服するために民を使いつぶしているということだった。それは村全体のため、聖樹の存続のための有効打かもしれないけれど、村にする民の、生活を考えれば到底容認できるものではないとテスェドさんは怒ったのだ。この流れはおそらく今も続いている。テスェドさんはここ数日間、村の結界の内に姿を見せることなく、村の外を警備している。もちろん彼だけでなく、そこには戦士団のメンバーが決死の覚悟で戦っているのだろう。何をしているか。それはわからない。テスェドさんに聞いておかなくちゃ、と今更になって思う。

 


 僕がユージェの後を追う生活が始まって二日目以降、メイド服を着させられることが多かった。乾燥係のおばちゃんのところからメイド服が回されてきて、なぜか僕たちに着ててほしいとほしいと要求される。

 


 初日のインパクトが大きかったらしい。巫女としての振る舞いの訓練と社会勉強のはずだったのに、そこにはメイドとしての振る舞いを要求されているのではないのか、と若干勘違いしそうになる民たちの反応があった。

 


 仕事の内容としては、大体は、物をもらってきてほしいだとか、食料を運んだり、調理したりしてほしいだとか、逆に調理したものの感想を言ってほしいだとか、戦闘訓練に付き合ってほしいだとか(僕は出来ないのでユージェが組み手の相手をした。なぜかメイド服のまま)、何でも屋にふさわしい、ごちゃごちゃ感だった。



 二日間中に一度だけ、女が喚いている場面に出くわすことがあった。場面は泣き叫ぶ女性と、男性二人が対面で口論している様子だった。

 なんでも、女性が仕事を達成できずに、サンの供給が止まってしまうことになったとか。そういうことで、どうして仕事を達成扱いにしてくれなかったのか、と依頼人ともめていたらしい。彼女は占い師で、今後の運勢や運気の上がるアドバイスをお客にしているのが仕事らしいのだが、ことごとくその占いが外れるということで、次々と依頼人らが文句をつけ、結果として聖樹に、現状担っている占いの業務が、仕事として不成立扱いにされてしまったらしい。今までの文句を言ってきた者たちの分も仕事として不成立扱いだから、サンの供給量が一気に削減されてしまった。このままでは、日常を送っていくうえでサンを扱うことができない、サンが使えないのは、身体強化はもちろん占いの質にも関わるんだとか。サンが供給されていたのに外していたのは何だったんだ、ということではあるが、彼女の常軌を逸するような喚き具合は、サンを取り上げられることへの恐怖を、アコンの民たちの様子を象徴しているようだった。



 サンが扱えなくなることを、手足がなくなることだ、ということに等しいとテスェドさんに聞いたのを思い出す。



 彼女は喚き、それを見ていられないと思った近隣の住民たちが、なだめに入るが、彼女は仲裁の住民たちに恐れを抱いたのか、パニックになり逃走。偶然僕たちの方に来た彼女をユージェが事も無げに気絶させたのだった。



 そもそも聖樹を讃えている村で占いとかはやるのかな、とか、巫女の仕事の一つじゃね、とか思わないでもなかったけれど、どうやらユージェによると、占いで村を活気づけられるなら、仕事として成立するらしい。村に浸透していた占い師の前例もあるのだとか。でも、多くが天気の予報や農作業の相談などで、占いというよりおばあちゃんの知恵袋に近かったとか。それに比べたら、彼女の行う運気やら気分についてはあいまいだ。おそらく彼女の話術がよほど占い師としては下手だったということなのだろうね、という感想になるそうだ。



 そういったトラブルも対処しつつの二日間だった。

 話は変わるが僕は数日後、民に演説することになっているらしい。流行り病がある中、そして隣国の部隊がアリを殺すついでに攻め込んでくるかもしれないという現状、その不安や逆境に対して民をけん引する星となれ、ということだ。



 だが民たちが本当に不安がっているか、というとそうでもなかった。ここ数日ユージェと村を回ってみて感じたところでは、民たちは呑気だった。いつもと変わらない日常。ユージェも特に気にしている様子はない。これはどうしてなのだろう。



 僕はそのことを段々不思議がるようになっていった。日にちが経つごとに、テスェドさんが音信不通で、顔を見せないことに不安になり、その一方でユージェとの村でのありふれた日々が垂れ流すように続いていく。村の中では平和であふれているのではないか、僕が夢で聞いた話や流行り病はどこか別のところの話なのではと疑うような気持ちだ段々してくるのだった。



 それほどまでに平和だった。



 しかし、その平和をかき乱す、騒乱の幕開けの合図は唐突に現れた。

ユージェの仕事を手伝い始めて4日目の朝、つまり、巫女として演説する二日前のこと、とある人物が亡くなった。

 それは、僕に巫女をやめろとクレームをつけてきたあの男だった。




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