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先祖返りエルフは悪魔の誘惑を振り切れない  作者: 鴉ぴえろ
第三章:魅惑のオーバードーズ
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第五話:目的

『どうですか? ルクスリア』

『んー……』


 軽食を取りながら私は地図を広げながらルクスリアに問いかける。ルクスリア以外の悪魔を探す為の目星をつけるため、二人で地図を眺めている所だ。


『目星はだいたいついたわ。ここから一番近い場所なら、この辺りかしら?』


 ルクスリアが示した位置、そこは今は街になっている場所だった。

 今、私たちがいるカンファーから数日は移動しなければいけない距離にある。特に遺跡があるらしいとも聞いたこともない名前だった。


『……思いっきり街ですね』

『そうね。地下に埋まって、その上に街が建てられたんじゃないかしら?』

『それ、どうやって入るんですか?』

『近くに行ってみないと何とも? 最悪、転移陣がまだ使えるかもしれないし』

『……当たり前のように転移陣とか言わないでくださいよ』


 失われた古代の魔術の産物の一つである転移陣。実際に動いているものはほとんどなくて、限られたものも国の管理下にあるようなものだ。

 私の持っている装備ですら、現代においては高級品。転移陣なんて個人で管理出来るようなものじゃない。


『転移陣はともかく、古代の魔術だったらアーネだって使えば良いじゃない?』

『あのですね……古代の魔術は失伝しているんですよ? 私に使える訳ないじゃないですか』

『私が知ってるけど』

『へぇ、そうですか。それは凄いですね。…………んんっ!?』


 思わず私は地図から目を離してルクスリアを二度見してしまう。実体化していないルクスリアは他の人には見えないから、私はいきなり虚空を二度見する挙動不審な人になってしまっていた。

 そんな私に通行人などが訝しげな視線を送ってくるけれど、私は平静を装うように咳払いをしてから地図を仕舞って早足にその場を離れる。


『教えて欲しかったら教えてあげるわよ?』

『悪魔って魔術も使えるんですか?』

『だから魔法も魔術も大元は一緒なんだって。だから基本の魔術ぐらいなら教えてあげられるわよ』

『それは嬉しいですけど……でも、私に扱えますかね?』

『扱えるというか、手を加えられるかどうかって話だと思うわよ』

『手を加えられるか?』

『魔術は元々ある法則を応用したもの。だけど、それって個人差があるのよ。古代の魔術は状況、個人に合わせた魔術を構築出来るのが強みなのよ。例えば身体強化だって本来は自分の体格に合わせて微調整をするものなのよ。アーネは元の構成を弄ってないみたいだけど』


 ルクスリアの話を聞いて、今までなかった発想に目から鱗が落ちるような思いだった。

 けれど、同時にそれこそが失伝してしまった古代の魔術なのだとも思った。新しい魔術を研究している人は多いけれど、それを完全に個人に合わせてしまうなんて考えた人は少ないと思う。


 魔術は今の時代でも冒険者の多くが嗜んでいるけれど、あくまで嗜んでいるだけで構成を弄ろうとするような研究者ぐらいだ。

 だけど、その多くが古代の魔術の復元だったり、新しい魔術の開拓だったり、既存の魔術の構成を弄ろうとする話は聞いたことがない。


『あぁ、なるほど。だから魔法の方が魔術より栄えてるって話なのね。魔術が魔法に対しての強みは自由度の広さだもの。もう魔術の構成を弄れる人も一握りになったのね』

『古代では違ったんですか?』

『そうね。私の知っている人は個人個人で構成を弄ってたわよ。だから逆に原型しか残らなくて、今に至るのかもしれないわね』

『つまり魔術は元々、原型を改変することで使用するのが前提……?』

『そうよ。その改変の行き着く先が概念として固定された魔法よ。だからあっちは強力な分、遊び甲斐がないのよね』


 遊び甲斐って……。でも、それなら魔術が魔法に劣っていると言われるのは納得してしまう。魔法は完成品ありきで、魔術は未完成の状態から始まっている。この認識が出来ないと魔術は魔法に比べて劣ってると言われても仕方ない。


『でも、どうして古代文明は滅びてしまったんでしょうか?』

『……アーネはなんで滅びたと思うの?』

『……今、有力な説は世界規模の魔物のスタンピードですね』


 神もいた古代文明時代、その終焉は世界規模で発生した魔物によるスタンピードだと考えられる。

 今は環境に適応した魔物がそれぞれ人里離れた地に住まうようになっているけれど、その魔物の祖先と思わしき化石は〝全世界〟の地層から見つかっている。


 その後、環境に適応して種族が定着して、適応出来なかった魔物は死に絶えた。でも古代文明の地層と推測される地層からはあらゆる魔物の祖先と思わしきものの痕跡が見つかる。

 そこから古代文明が滅びたのは世界規模のスタンピードが発生したため、その影響で滅んでしまったんじゃないかと言われている。


『魔物ね。まぁ、私もそうなんじゃないかと思うわ』

『……ルクスリア。魔物ってなんなんですか?』


 名前は似ているけれど、言うなれば精霊の仲間とも言える魔獣は人と敵対することはない。但し、その領域を荒そうとする者には容赦はない。

 代表的なのは、空の支配者である竜、海の覇者である大蛇、陸の王者である獅子が有名だ。


 人だけではなく、その魔獣にすら襲いかかるのが魔物だ。国も魔物の対策には力を入れているけれど、それでも足りない場面は多い。

 だからこそ冒険者という職業は成立しているんだけどね。そこに雑用にも近いお悩み相談のような依頼も取り入れていったことで冒険者ギルドは成り立っている。


 じゃあ、この魔物は一体何なんだろうか? ルクスリアの話を聞いていると、神が意図して創ったものとは思えない。


『魔物は神に逆らった人が、神の創造を真似して生み出した外道の産物よ』

『……神に逆らった?』

『マスターは神だって言われてるけれど、私から言わせればお調子者で、脳天気で、嫁さんが大好きなハーレム野郎よ』

『……神の威厳はどこに?』

『ないわよ、そんなの。……良くも悪くも人だったのよ。だからマスターから教えられた技術をマスターを超えたり、利用しようとした人間がいた。その果ての産物が魔物よ。あれは魔術などで生態そのものを歪められた改造生物なのよ。まぁ、なんで魔物が今も残っているのかは疑問だけど』

『ルクスリアも疑問に思うのですか?』

『マスターが討ち漏らすとは思えないしね。……だからマスターが去った後、誰かが魔物を生み出す技術でも復活させて暴走でもさせたんじゃないかしらね?』

『……そうだとしたらゾッとしますね』


 神のことを知れば知るほど、魔物という存在は何故生まれたのか? と疑問に思っていたけれど、ルクスリアの語る経緯を知ることで背筋に悪寒を感じてしまう。


『……今でも神が残っておられれば、と思うのは甘えでしょうかね』

『さぁ? アーネは子孫だろうし、嫌な顔はしないと思うわ。でも……』

『でも?』

『マスターは私を封印する前に言ったわ。いつか私がマスター達以外の人にも受け入れられる時代が来るって。その時まで根気よく待ちなさい、って。……今、思えばあれって別れの言葉だったんでしょうね。あの人、神だとか言われてるし、寿命も延ばして長生きしたけど、それも嫁さんのためみたいな感じだったし』

『……そうだったんですね』

『えぇ。だから何でも自分が解決すれば良いと思ってなかった。……もう居ないってことは、きっと満足して死んだんでしょうね。死ぬ時は床で眠るように死ぬって言ってたから』

『……本当に人みたいですね』

『人なのよ、あの人は。……だからきっと、もう会えない』


 ルクスリアはまるで遠くを見つめるように、少し切なさを含めた声でぽつりと言った。

 彼女ももう親と会うことは出来ないんだと改めて認識した瞬間、私の胸に一つの想いが生まれた。


『……ルクスリア』

『なに? アーネ』

『悪魔探し、頑張りましょうね』


 まだ彼女には家族が残っている。私のように、わかり合えないと切り捨てた訳でもない。長い時の中で隔てられてしまった彼女たちの縁を結べるのが私だと言うのなら。

 それが私の生きている意味だと言うなら、頑張りたいと思えた。いつかルクスリアに家族と再会させたい。それが私の目標になったのだった。


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