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先祖返りエルフは悪魔の誘惑を振り切れない  作者: 鴉ぴえろ
第四章:共鳴のコンジャラー
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第一話:侵入

 ルクスリアに次の目的地の目星をつけて貰い、カンファーを後にした。

 次の目的地である街への道中は何事もなく、数日の旅の後で目的の街へと辿り着いた。


『なるほどね……これは目的の場所の上に街が出来る訳だわ』

『この街は遺跡の用水路の一部を流用しているんですね』


 街の名前はトリアイナ。上から見ると三又のように遺跡の用水路跡を流用して水を行き渡らせている街だ。

 遺跡の大部分は埋まったままで、用水路を辿っていけば遺跡を探索することが出来る。遺跡の上に建てられていると言えばニューデールと同じ条件の立地だ。

 ニューデールと違うのは、この遺跡は稼働していないらしい。だから探索しようにも奧にも進めず、掘り起こした用水路跡を流用して街を建てたらしい。


『どうします? ルクスリア。ここの遺跡は稼働してないらしいですけども』

『埋まってても、掘り起こした部分を見るに表層だけでしょう? それに人の出入りを拒んでいるということは、私と同じ状況かもしれないわ』

『つまり、奧には悪魔が封印されている可能性があるってことですね』


 この街についてから一日、休みを取ってから街を探ってみたけれど、遺跡の奧に繋がるような入り口は無さそうだった。

 あるとすれば用水路を辿って中に侵入する方法だけど、ここは街の管理者が警備を置いているので簡単に中には入れない。


『下手に遺跡を起こすとここも使えなくなるかもしれないものね。使える所だけ使うってのは悪くない判断だと思うけれど』

『ニューデールとはそこも違いますね。あそこはまだまだ掘り起こそうとしている人も多いですし、新米の冒険者の訓練の一環としても解放されていますし』

『街が出来た経緯の違いもあるんでしょうね。さて、中に入りましょうか。行けるわよね? アーネ』


 不敵に微笑むルクスリアに対して、私は肩を竦めるようにして溜息を吐いた。

 警備の人たちには少し悪い気もするけれど、〝魅了〟で通して貰おう。そう思いながら遺跡に繋がる入り口に立ち塞がる警備を見据えた。


「すいません、ちょっと良いですか?」



   * * *



「ルクスリアの力は本当に凶悪だと思います」

「あ、そういう事を言っちゃう?」


 すんなりと封鎖されている用水路の奧へと向かいながら、私はぼやくようにルクスリアに言う。

 ルクスリアは人目がないからといって実体化して私の隣を歩いていた。


 改めて隣に並ぶと、ルクスリアは背が高い。私より頭一つ分ほどは大きいので、彼女の豊かな胸の所に私の目線が来てしまう。

 思わず自分の胸を撫でてしまう。……邪魔にならないことは幸せ、過ぎたる望みは自分を苦しめるだけだ。


「どうしたの?」

「……いえ、人は身の丈にあった望みがあれば十分幸せだと思いまして」

「何言ってるの……?」


 呆れたような目で見られたけれど、持つものには持たざる者の気持ちなんてわからないんですよっ。


「……それにしても、古代文明の遺跡ってなんでこんなにもあるんでしょうね?」

「なんで、って言われても、残ってるからじゃない?」

「現代まで遺跡が残っている技術が凄いのは認めますけど……そもそも、ここはどういった目的で作られたんですか?」

「ここ? この研究施設はプラントだったかしら」

「プラント?」

「野菜とか果物とか品種改良したり、研究していた場所って言えば伝わる?」

「あぁ、なるほど。だから、こんなに大きな用水路があるんですか?」


 中に入ってから暫く歩いてみたけれど、用水路はまだまだ終わりが見えない。

 街の規模すらも超えるだけの用水路は埋まっている部分も多くて、トリアイナの規模も用水路全体から見れば半分も使えてないとルクスリアが言っていた。


「ここは主に食料になる作物を研究していた場所ね。古代文明の野菜はここで育てられたものが半分以上を占めていたと言っても過言ではないわよ?」

「そこまでの規模の遺跡だったんですか」

「えぇ。……もう、ほとんど土砂に埋もれて見る影もないけれどね」


 少しだけしんみりしたようにルクスリアが言うと私は何も言えなくなってしまう。

 そこで一度、会話が途切れたけれどすぐに気を取り直したようにルクスリアが話題を変えるように話を始める。


「だいたいの研究施設には、世界中を飛び回っていたマスター専用の区画が作られてるわ。VIP待遇って奴ね。私たち、悪魔が封印されているとしたらそこだわ」

「VIP……? 特別な部屋ってことですか?」

「そうよ。一種のシェルターみたいなものでね、ニューデールの私の部屋もそうなのよ? だから貴方みたいに波長があって、契約出来る人か、もしくはちゃんとそこの存在を認識してセキュリティを突破出来る人じゃないとあそこまで辿り着けないようになっているの」

「へぇ……」


 一体、どんな仕組みになっているのか。興味は沸くけれど、ルクスリアの知っている魔術は私の知る魔術よりも洗練されていて、とても難解だった。

 まだ自分の技術として扱えていないので、きっと聞いても理解出来ないと思って聞くのは止めておいた。


 ルクスリアと会話していると、奧に重厚な扉が見えて来た。見るからに開かずの扉と言わんばかりの雰囲気に息を呑んでしまう。

 手が届く距離まで来たけれど、私の身長の三倍はあるだろう扉だった。一体、どうしてこんな大きな扉にする必要があったんだろう?


「扉、ですよね? ルクスリア」

「正確には門ね。本来だったら水量を調節したり、排水したりするためのものなんだけど。これは簡単に壊せないし、開けようにもロックされてるから、普通に開けるのは無理でしょうね」


 そう言いながらルクスリアは門の傍まで来て、その門の端にある壁に手をついた。

 何かを探すように壁を見ていた彼女は、目的のものが見つかったのか声を上げる。


「あったわよ」

「何がですか?」

「開閉の操作のためのコンソールよ」

「……はぁ」


 一体、何の事だかさっぱりわからない。ルクスリアは暫く、そのコンソールと言う名前の装置に触れていた。

 装置の見た目は魔術陣が刻まれている不思議な材質の板で、魔術道具の一種なのは理解出来る。でも、使い方が全然わからない。


「ん、休止はしているけれど施設自体は死んでないわね。認証も可能、と。……認証開始、認証名〝ルクスリア〟」


 ルクスリアが名を名乗って、魔力を魔術道具に通したかと思うと不思議な音が聞こえてきた。

 そして、一歩遅れるようにして低い唸り声のような音が響き渡るように聞こえてきた。思わず身を竦めてしまうけれど、そんな私の様子に意識を向けずにルクスリアは操作を続ける。


「〝開門〟」


 ルクスリアが一言呟くと、板が淡く光ったかと思うと音が更に大きくなっていった。

 そして、私の目の前で開きそうになかった門がゆっくりと勝手に開いていく。圧巻なその光景に私は口をぽかんと開けて見ることしか出来ない。


「完全に遺跡が死んでなければ問題なさそうね。さぁ、行きましょう? アーネ」

「……なんだかもう、深く考えない方が良い気がしてきました」


 この光景を見たら、遺跡を研究している魔術師や研究者たちは驚いて腰を抜かすかもしれない。

 ……もしかして、ルクスリアがいれば今まで侵入や探索が不可能とされてきた遺跡の奧にも進むことが出来る?

 そんな想像をしてしまうと、私という存在の希少価値がどんどん高くなっていくような気がして、うんざりとしてしまった。


 魅了の力を使えるってバレたらただでさえ面倒なのに、遺跡の操作や探索にまで利用価値があると知られれば売られる所の騒ぎではなくなってしまうかもしれない。

 こんな風に生きる予定はなかったのに、本当に人生はわからないものだと私は肩を落とすしか出来なかった。

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