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先祖返りエルフは悪魔の誘惑を振り切れない  作者: 鴉ぴえろ
第二章:誘惑者のランナウェイ
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第二話:半端

体調を崩してお休みしてました……! またぼちぼち更新再開していきます。

『あら、何の騒ぎかしら?』

『……構わないで、ルクスリア。面倒には巻き込まれたくないですから』


 宿屋の入り口では、何か誰かが言い争うような怒鳴り声が聞こえて来る。宿の食堂では、何事かと騒ぎに意識を向ける人ばかりだ。

 面倒なことには巻き込まれたくない。私は旅人であって、この村で起きた騒ぎとは無関係なのだから。

 しかし、声は大きくて嫌でも会話の内容が聞こえてきてしまう。


「妹がいなくなってまだ一日なんだ! まだどこかで生きてるかもしれないのに、もう死んだみたいに言いやがって!」

「ケイン! 気持ちはわかるが落ち着けって!」


 宿の前で騒いでるのは青年らしき声、その騒いでいる青年とは別の青年が必死に騒ぎを収めようとしている。

 妹? いなくなった? 一日経ってる?


「もしかしたら攫われたのかもしれないじゃないか! ここに犯人が立ち寄ったかもしれねぇ、だから話を聞かせろって言ってるんだよ!」

「そんな事言われても、協力出来ることと出来ないことがあるし、何より攫われたと決まった訳じゃ……」

「じゃあなんだ! 妹はどこに行ったってんだ!」

「山に山菜を採りに行ったんだろう? それなら、魔獣に襲われた可能性だって……」

「山はもう探した! でも、いないんだ……! いないんだよ!!」


 怒声からだんだん涙声になって来ている青年は、よっぽど切羽詰まっているように見える。

 拾った話から判断すると、昨日から騒いでるケインという青年の妹の行方がわからない。山菜を採りに山に入ったという話だけど、それから戻って来てないという。

 山は探したけれど、痕跡や妹の姿は確認出来なかった。それで追い詰められて、攫われたんじゃないかという可能性を考えて、宿に怒鳴り込んできたという流れだろう。


(……気の毒だとは思うけど)


 起きてしまう時は起きてしまう事だ。外には人を害なす魔獣や、野盗なんかも出没するのだから。


「……そういえば、最近この辺りで野盗を見かけたって話じゃなかったか?」

「あぁ、もしかしたら……その妹が攫われたって可能性はあるかもな……」


 思わず、ほら、と思ってしまった。声を潜めて話すのは私以外の客だった。どうやら最近、この付近で野盗を見かけたらしい。

 山菜を採りに山に入った時に野盗と出くわしてしまって攫われた、という可能性が濃厚になってきた。こればかりは運が悪かったというべきか、それとも外に出たその子が迂闊だったのか……。


(……私には関係ない話)


 面倒なことに巻き込まれる前に宿を出ようか。私自身、あまり人目につきたくない事情がある。支払いを済ませて、さっさとここを離れよう。

 お会計を済ませて、荷物を取りにいくのに部屋に戻ろうとする。その途中で、先程から怒鳴り声を上げていたのだろう青年が膝をついて泣きじゃくっているのが視界の隅に見えてしまったのだった。



 * * *



「――私には関係ないのにっ! あぁ、もう! 少し調べるだけだから!」

「お人好しねぇ」


 クスクスと笑いながら言うルクスリアに歯噛みしながらも、私は行方がわからなくなっていた女の子の足取りを調査する為に山にやって来た。

 無視することは出来た。それでも出来なかったのは、自分の心が弱いからなんだろうか。別に、村の誰かに探しにいくと伝えた訳じゃない。これはただ自己満足だ。もし、いなくなった痕跡が見つけられなければ、そのまま旅立つつもりだった。


「……中途半端なことしてるって思う?」

「何が中途半端なの?」

「ちゃんと探すなら、村に事情を伝えて探すって伝えれば良い。協力して探した方が見つかる確率は上がる。でも、私はそれをしなかった」


 山の中の森を進みながら私は痕跡を探す。けれど、それらしきものは見つからない。山はそれなりに大きく、一人で探すのは困難を極めるだろう。

 そんなの理解してない訳じゃない。だから、本当に行方不明になった女の子を探すつもりなら協力を募るべきだった。

 でも、私はしなかった。こうして一人で、ただ自己満足の為に女の子の行方を探している。どう考えたって中途半端な行いだ。


「……自分が嫌になりそう」


 探すと決めたなら、最善の行動をすべきで。

 見捨てると決めたなら、中途半端な行動はすべきじゃなくて。

 そのどっちも選べない自分はなんて意思が弱いんだろう、と自己嫌悪が沸き上がってくる。

 心が弱いから力も弱い。最初から冒険者なんて向いてなかったのかもしれない。そんな思いがグルグルと脳裏に過る。


「別に良いと思うけれど?」


 けれど、ルクスリアは軽い調子で肯定した。思わぬ肯定に私は顔を上げてしまう。


「別に良いって……中途半端だと思わないの?」

「思うわよ? 助けたいと思うなら最善じゃないし、見捨てるなら中途半端。どっちつかずの行動よね。今のアーネの行動は」

「だったら……」

「それの何がいけないの?」


 純粋に疑問を抱くようにルクスリアが問いかけてくる。その問いに私は咄嗟に答えることができなかった。


「……だって、中途半端だから」

「中途半端はダメなの?」

「……褒められるようなことじゃない」

「誰がそれを決めるの?」


 誰が私の行動を咎めるというのか。その疑問にまたしても私は何も言えなくなる。

 ルクスリアはただジッと私を見ている。その妖しい瞳に覗き込まれると、足下が不確かになってしまいそうになる。


「アーネは怯えすぎじゃないかしら」

「……怯えすぎ? 私が?」

「もう貴方を見捨てる人なんていないじゃない。誰も貴方を助けてくれないのだから」


 胸を貫かれるような痛みが走った。ルクスリアの言葉はそれだけ鋭く、思わず呻いて胸を押さえてしまう。


「誰も貴方の行いを評価なんてしないわ。貴方が評価を求める人なんて誰もいないもの。かつてはそんな人がいたのかもしれない。でも、全部を捨てた貴方に評価してくれる人なんていらないでしょう? そんな繋がりですらも貴方は捨てたかったんじゃないの?」

「……それは」


 私の行いを誰も評価しない。中途半端だと咎める人はいない。

 それは確かにそうだ。私はもう『黄金の鷹』の一員でもなければ、冒険者ギルドに所属する冒険者でもない。


 私が中途半端だと思うこの行いを、一体誰が評価するというのか。それは確かにその通りだ。

 だって、私は評価されることを求めてない。評価して欲しかった人たちは、もう私の手の届かない所に行ってしまったのだから。


「他人が怖いけど、見捨てられない。そんなアーネが自己満足でもまだ誰かを助けようと思える。それは綺麗なものだと思うけれどね」

「……本当に?」

「えぇ。それに中途半端って言えば私たち、悪魔も中途半端だもの」


 そう言うルクスリアの表情には、何の感情も浮かんでいない。ただ淡々と事実を語るようにルクスリアは言葉を続ける。


「私たちは人の感情を尊ぶ精霊として生まれた。けれど、その結果として暴走を招いた。最初の願いは果たされず、悪魔と名を変えて世界の脅威として恐れられた。でも、私たちは神によってその存在を消される訳でもなく、いつか私たちが有用される時代が来る日までと眠りについた。でも、これってとても中途半端じゃない?」

「……それは、でも、いつかって望まれてるじゃないですか」

「えぇ。だから中途半端で何がいけないの? 必ずどっちかに寄らないといけない訳じゃないのよ、アーネは。もう貴方は自由よ、最善と最悪に縛られる必要はないわよ」


 最善と最悪に縛られる必要はない。その言葉が胸を軽くした。

 あぁ、思えば最善と最悪という言葉に呪われていたのかもしれない。最善か、最悪か、ずっとそのどちらを選ぶことしか出来なくなっていたのかもしれない。


 最善を選べなければ、私に居場所はなくなる。だから最悪を切り捨てて、最善を引き寄せようとしていた。

 そうでなければ『黄金の鷹』に付いていくことが出来なかったから。でも、今の私は自由だ。何を捨てるのか、掴み続けるのか、それはもう選んで良いんだ。

 何度か深呼吸をする。目を閉じて、息を整える。自分の呼吸と気持ちが落ち着いたのを見計らって目を開く。


「……出来ればもう誰とも関わりたくない。それでも、誰かを見捨てて平気でいられる自分にはなれない」

「そう。なら、貴方の行動は間違いじゃないわ」

「ありがとう、ルクスリア」


 この行いは最善ではない、けれど、私にとっては何も切り捨てないという意味では最善なんだ。

 女の子の痕跡が見つからなければ、それは仕方ないと割り切ってしまう自分を受け入れよう。

 でも、もし見つけることが出来て、それが私に救えるものならば、その時は全力を出して救おう。

 だから自己満足で良いんだ。後悔はするかもしれない。それでも、この答えを選ぶことが私には必要なんだ。


「それで何かアテはあるの?」

「何か痕跡があれば、痕跡から魔力を探知して魔術で追えると思うのだけど……とりあえず山菜を探してたって話だから、山菜がありそうな場所を巡るよ」

「そう。じゃあ、さっさと探しましょうか。日が落ちれば流石に動けないでしょうからね」

「夜の山を移動するのは自殺行為ですからね」


 そして私は森の中を進んでいく。長年、冒険者をやっていれば森なんかも歩き慣れてしまう。それにデミ・エルフとはいえ、私もエルフだ。自然の中というのは自然と馴染んでしまう。

 人が歩いた道というのは痕跡が結構残っているもので、人が歩いた道を辿って山菜があると思わしき地点を巡って行く。

 地面を観察して、最近ついた足跡がないかなど注意しながら進んで行く。


「……あっ」

「ん?」


 その途中、不意に私は声を漏らしてしまった。すると宙を浮きながらついてきたルクスリアが私の方へと視線を向けてくる。


「――あった」


 それは不自然な足跡だった。まるで痕跡を隠すような、そんな足跡だ。

 隠された痕跡を注意深く見てみると、まるで何か争ったような形跡があり、そこからあまり人が踏み入ってないだろう方向へと続く、真新しい痕跡が見つかった。

 更に注意深く探っていくと、女の子が身につけるような腕飾りが落ちているのだった。


 

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