神谷神奈と荒れる星喰 後編
「はっ、こんなもんで私達を倒せると思ったか! 舐めんな!」
神奈が「〈フライ〉」と叫び、分身体に飛びかかる。
不利を悟ったのか分身体は逃げ出すが、それをすかさず追う。空中で複雑な軌道を描いて飛び回り、やっと追い付いて肩を掴む。
「つーかまえたあ!」
神奈は連続で殴打を叩き込み、最後に魔力で加速させた蹴りで分身体を蹴り砕いた。硬質な肉体だったが神奈レベルの力なら問題ない。
「余裕余裕っ」
戦闘を終えた神奈はアスアンの横に降り立つ。
これで守りきったと安心したいが出来ない。
アスアンが「うっ!?」と不快そうな顔で胸を押さえる。それと同時、先程も見た白い球体が無数に出現した。全ての球体が人型へと変化していく。
「うわっ、ありゃ一人じゃ無理だ。神音達を守りきれない。アスアン、バリアの修復で忙しいところ悪いけど、私が言う名前の人をここに召喚してくれ。戦力が足りない」
「う、ううっ、分かった」
神奈は思い付く限り、強い仲間の名前を言っていく。
最初は小学生の頃から競ってきた男性、隼速人。
「なっ!? くそっ、あと少しで仕事を終えられたのに……」
最強の悪霊から霊力を引き継いだ女性、秋野笑里。
「あれっ? 私、ラーメン屋に居たのに……ラーメンが目の前にあったのに。食べる直前だったのに……」
今や喫茶店の店長代理、レイ。
「店が消えた!? いや、消えたのは僕か」
前世ライオンの転生者、獅子神闘也。
「……ふぁあああ〜、何だあ?」
未だに神奈を信仰するストーカー、影野統真。
「神谷さん! 見失ったけど会えて良かった。天寺に場所を訊いても分からないの一点張りで困っていたんです」
政治家になるため活動中、南野葵。
「……帰っていい? 今大事な時期なんだけど」
宇宙中に名が知れ渡る傭兵、スピルド。
「まさか俺を転移させるとは」
正義のコスプレヒーロー、法月正義。
「これはまさかジャスティスワープ!? 誰が真似したんだ!」
神奈とたまに遊ぶ転生者、神原廻。
廻の恋人であり転生者、神々天子。
光の速さで動ける転生者、米神明八。
「おいおい、ラーメン屋行く途中だぜ?」
たぶん友達の中で一番善人、白部洋一。
「恵、このプレゼントを受け取って……あれ居ない!?」
現代最強の霊能力者、藤堂綺羅々。
「依頼人と話していたんだけど」
その他の強い奴等も次々と現れる。
「扱いが雑じゃぞ!」
星喰分身体に対抗する戦力は整った。
地球に居る神奈の知り合いかつ強い奴等オールスターだ。
「いきなり呼んでごめんな! でも地球の危機だから許してくれ! とりあえず、あの白い怪物が敵だからみんなで倒すぞ!」
「説明も雑じゃぞ!」
「常識破りだな。行くぜえ!」
星喰の分身体と神奈達が一斉に動き出す。
無人島は一気に戦場と化した。
速人が刀で切り裂き、葵が鋭い植物で貫き、綺羅々が霊力の込められた符で雷撃を浴びせる。その他の者達は殴打や魔力弾で分身体を蹴散らす。
分身体の強さは全て違う。数体は他と比べて遥かに強い個体も居たが、それらは法月、廻、天子、洋一の四人が速やかに倒す。
戦いは神奈達が有利なまま進んだ。
数だけは分身体が有利だ。倒しても倒しても新たに湧き出る。しかし、分身体同士は協力の姿勢を見せない。どれだけ数を揃えたところで烏合の衆。仲間と連携する神奈達には勝てない。
「分身体の送られるペースが遅くなっていく」
変化に一番早く気付いたのはアスアンだ。
何千か、何万か、数え切れない分身体を滅し続けると、徐々に分身体の生み出される速度が遅くなる。内包する魔力量も微かにだが少なくなっていた。
地球の内側からだと分かりづらいが、分身体を倒すごとに星喰の体躯が縮んでいた。既にその体躯は半分以下になっている。
星喰は確実に、弱っている。
「……あれ? 神音、宇宙が見える!」
攻撃のためにずっと空を見上げていた斎藤が叫ぶ。
本来なら空に宇宙が見えて当然だが、星喰に地球が呑まれたのだから、空に見えるのは星喰の胃壁のみのはずだ。それなのにいつの間にか白い壁は消えていた。
「本当だね。じゃあ、星喰は死んだのか? それにしては奴の魔力が消えていない。本体はどこへ消えたんだ?」
「地球の中ですよ」
神音の傍に、星喰本体と戦っていたゴッデスが降り立つ。
「どういうことだい?」
「奴の体がエネルギーの塊となり、地球の中へ移動したのを感じ取りました。おそらく、すぐに現れるでしょう」
分身体の出現がピタリと止まる。
残りは一体のみ。ゴッデスがそれを指差す。
「あれですね、本体は」
「なるほど……みんな聞け! 最後の一体が本体と融合したぞ! そいつを倒せば星喰との戦いは終わりだ!」
本体のエネルギーを得た分身体は雄叫びを上げる。
暴力的な咆哮で大気が震えた。
「最後の一体か。なら、全力で行くぞ」
神奈は自分の全魔力を右拳へと集中させる。
「〈超魔激烈拳〉!」
通常の三倍以上の威力を秘めた拳が、星喰の拳と激突する。
力は拮抗したかに思えたがそれも数秒。
気合いの雄叫びを上げた神奈の拳が打ち勝ち、星喰へと突き刺さった。
「グギョオオオオオオオオオオオオオオ!?」
悲鳴を上げながら星喰の体が弾け飛ぶ。
白い花火のように肉片と血が散らばり、静寂が訪れる。
地球の命運を賭けた星喰と神奈達との戦いはこれで終わったのだ。
* * *
激闘のあった無人島を一人の少女が歩く。
黒い髪と猫耳、尻からは尻尾が生えた彼女は深山和猫。
ありとあらゆる次元を生きる超次元生命体。
「おっ、見つけたにゃん」
彼女は地面に落ちていた白い生物を拾う。
ミミズのような体の単眼生物、星喰だ。
エネルギーが枯渇したせいで、地球よりも大きかった体躯は手のひらサイズにまで縮んでいた。今の体躯とエネルギーでは地球人の子供にも勝てないだろう。
「ありゃりゃ、随分と縮んじゃったにゃんね。昔、私にボロ負けした時もこれくらいになってたっけ。あの星騎士団とかいう連中を利用してエネルギーを溜めていたんだろうけど、残念だったにゃんね」
昔、星喰は運悪く最強の生物とエンカウントした。
星喰は力の差も分からずに喧嘩を吹っ掛けて惨めに敗北。それ以来、失った力を蓄えつつ復讐の機会を待っていたのだが、結局また争いに負けて力を失ってしまった。
「相手が悪かったにゃん。地球にさえ来なければ、負けることもなかっただろうに。まあ、来世はもっと賢く生きるんだね」
和猫は星喰を口の中に放り込む。
味を舌で確かめると顔を顰めて噛み千切る。
「まずっ。旨味のない肉にゃん」
味が良ければ養殖したのに、と和猫は残念そうな声を零した。
* * *
星喰との戦いがあった翌日。
神奈は喫茶店マインドピースを訪れていた。
席の向かい側には星騎士団団長、ドットリネルが座っている。他の団員はといえば、近くのテーブル席に座って料理を好き放題に食べている。
「……俺達ビャクダ人は、アマス人の奴隷として扱われていた」
「アマス人?」
「惑星アマスの人間だ。奴等は俺達の母星に戦争を仕掛け、勝利することで人権を奪い取った。奴等は俺達に何をしても許された」
奴隷としてビャクダ人を飼い、馬のような乗り物にしたり、性のはけ口にしたり、好きな時に殺す。悲劇を煮詰めたような最低最悪の歴史が積み重なってきた。
「そんなことを、奴等は他の異星人にも行っていた。奴等は悪だ。俺達は悪を憎み、平和を得る為にアマス人を皆殺しにした。偶然見つけた星喰の力を借りてな。それが星騎士団設立の始まりだ」
「……地球人も悪だって?」
「今は反省している。暴走していたんだ、悪を憎む心が。些細な悪事やルール違反も憎み、アマス人と重ねて見てしまっていた。貴様にも、滅ぼした惑星の民にも申し訳ないことをしたな。今更謝っても許されないだろうが……すまない」
ドットリネルは頭をテーブルに付けて謝る。
彼は星喰に裏切られて頭が冷えたらしい。今まで星喰の力を自分のものだと勘違いして、万能感を得ていた。その強大な力に酔い、心が暴走していたのだ。
「まあ、許されないよな。でも間違いに気付けて良かったよ。気付けないまま死ぬ奴もいるからな。ありきたりな言葉だけど、過去は変えられなくても未来は変えられる。これからどうするつもりなんだ? 続けるのか? 星騎士団」
「続けるさ」
頭を上げてドットリネルは告げる。
強大な力を持つ星喰の助けはもうない。
彼等の今まで通りの活動は出来ないだろう。
活動を続ければ死ぬかもしれないのに、迷いはなかった。
「理不尽に虐げられる者の救済をしたいのだ。今後は暴力を控え、言葉で問題を解決していこうと思う。俺達の罪は消えないが、誰かを助けることで償いたい」
「そっか。誰かを助けるための活動なら私も協力するよ。自分達で問題を解決出来ないと思ったら相談に来てくれ」
「ありがとう。さらばだ。行くぞお前達!」
星騎士団の団員達は「はい!」と元気良い声を出す。
彼等は地球から去って行った。今後の彼等の活動が良いものであることを神奈は願う。
きっと、心配は要らない。
間違いを自覚したのに、同じ間違いを繰り返すわけがないのだから。もし間違えたら次も神奈が殴って止めてみせる。
「私もなんか良いことするかな。ゴミ拾いとか」
あとがき
番外編は一旦休憩して、次に投稿するのは中学の空白期にしようと思います。投稿日は未定ですが、いつか必ず。皆様、またいつかお会いしましょう。




