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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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-Epilogue 04-


「空気が薄い……酸欠になりそう」

「気のせいだぞ、立花」

「人との距離が近いだけで空気は足りているぞ」

「カラオケなんだからもっとなんかこう、楽しめよ。手拍子しているだけで参加している気になれるから」

 四人以上での行動は僕の体に弊害がもたらされることを思い知る。カラオケって、クラスメイト全員で行かなくたって良いだろ。部屋は別々だけど、たまに交代するかのように部屋を行き来してる奴も居るし、これなら日程を決めて、別々に来た方がもっと時間を有効的に活用できると思う。

「立花君、これデュエットで唄わない?」

「え、いや、僕はそんなに歌は上手くないから」

「カラオケ来ているんだから勿体無いって」

 なんで男に誘われずに女子にデュエットを誘われるのか。駄目だ、過酷な環境過ぎる。帰りたい、帰りたい……。

「……立花」

「え、あ、うん。なに?」

 女子に誘われたことで男たちに妬まれているのかと、怯えつつ返事をする。

「その髪型、ちょっと弄らせてくれないか?」

「なんで?」

「いや、なんつーかもう少し、ちゃんと整えたらもっと良くなるんじゃねって」

「なにが?」

「雰囲気っつーか、見た目? 顔付き? よく分かんねぇけど、モテそう」

 モテそうって理由だけで僕は髪を弄られなきゃならないのか。

「美容院に行った時に、前髪を結構、バッサリと行ったんだけど?」

「それいつだ?」

「……結構、前だけど」

「ならまた伸びて来てんだろ。美容院行く前にちょっと触らせてくれって。俺、将来は美容師になりたいし。別に髪を切るわけじゃなくて、整え方を変えるだけだから」

 唐突な将来の夢を語り出す辺りがヤバい。これがリア充の会話なのか。やってられない。

「えっと、デュエットの、話は?」

「髪を弄ってもらってからで良いよ。それくらい待てるから」

 待たなくて良いし、髪を触られたくもない。なのに僕に拒否権は存在しないらしく、項垂れつつ僕は観念し、ソファに座る。

「普段から髪は弄んないのか?」

「ファッションと一緒で、あんまり興味が無くて。見た目を気にする余裕も無くて」

「んーむ、自分磨きは大事だぞ、立花」

「そう、なんだ?」

「女にモテたいから流行に乗るってのもあるけど、なんつーか、見た目ビシッと決めている人って見ていて嫌な気分にはならないだろ? あーいうの大事だと思うんだよ。ファッションに興味無くても、高校じゃ制服でも大学じゃ私服だろ? その場合、着る服で悩まね?」

「一理ある」

 思わず納得してしまった。

「髪型もそれと同じで、ずっと同じ髪型で通しても良いけど、伸びて来たら逆に変な感じになるだろ? 伸びて来る髪に合わせて、セットも変えるとそれはそれで気分転換にもなる。ま、伸びる前に切って、ずっと同じ髪型ってのも有りだけどな」

「なるほど」

 また納得してしまった。僕は訪問販売には一番、気を付けているのだが、それでも洗脳されやすい可能性がある。

「これぐらい髪が伸びているんなら、立花の場合は大人しめにして、あとはこの辺りをちょっとだけ弄って……」

 髪を整えられている間、女子たちに「おー」と言われ、いつものメンバーもまた同じように、なにやら感動している。

「凄い凄い、イケるイケる。立花君ってやっぱり素材は良いんだよー」

 素材は良い=普段から身だしなみに気を付けろ、という忠告だと察しているので、素直に喜びはしない。というか、なんだか恥ずかしい。こう、みんなに見られているのは落ち着かない。ソワソワする。あと視線が気になって、怖くなって来る。寒気がする。

「あの、僕もう帰って、」

「あ、デュエットだ。立花君、唄お」

 けれど、僕の不安や恐怖なんてお構いなしで、マイクを持たされて曲は流れ始める。


 知っている曲だ。コアな曲じゃなく、当たり障りのない有名な曲。恐らくは一緒に唄ってくれる女子が僕に気を遣ってくれたのだろう。歌詞も頭の中には入っているが、音程を外さない自信は無いので、慎重に唄い出す。自分の声にビックリしつつ、思わず高い声を出してしまいそうになったが、ギリギリのところで持ち直し、そのあとは安定させて唄い切る。


「割と唄えるじゃないか」

「選んでくれた曲が難しくなかっただけだよ」

「んじゃ、まぁ俺の渾身の歌を聴いておけよー」

 僕からマイクを奪い取るようにして、クラスメイトが立ち上がる。僕は静かにいつものメンバーの傍に移る。やっぱり、ここが落ち着く。この傍観している感じが、僕らしい。


 そのあとは、なんだかいつもと違うテンションというか、その場のノリに流される感じで、けれど自我はちゃんと保ちつつ、目立ち過ぎず、そしてクズいこともせずに時間が来てお開きになった。カラオケ店の前でクラスメイトと別れ、やっと一息つく。

「立花君って歌もそれなりに出来るんだ?」

「そう言う望月こそ」

 望月は途中参加だった。彼女がみんなに「僕に呼ばれた」と嘘をついた時には、これはもう僕の高校生活は終わったと思ったものだが、すんなりと受け入れられてしまって、拍子抜けしてしまった。多分だけど、もう僕と望月の間柄はそういうのではないということが、クラスメイトだけではなく学年全体に知れ渡っているんだと思う。だからと言って、噂が立ちそうな嘘を平気で言うことは勘弁願いたいところだけど。

「立花君が、やったんでしょ?」

「なにを?」

「神楽坂さんを御巫さんに会わせるの、とか。あと、そこまでの段取りとか」

「さぁ? 僕はなんにも知らない」

「こういう時にも嘘をつくんだね」

 望月が僕をジッと見つめ、僕はその視線に耐えかねて目を逸らす。それから、雑踏の音だけが鼓膜を揺らし、彼女との間に沈黙が流れる。

「自分の成果は、自信を持って言わないと駄目だと思う」

「僕じゃないよ。僕は君が言うように、段取りを整えただけ。あとは全部、君のお兄さんと松本さんと、御巫さん、それに神楽坂さんのおかげだよ」

 あと松本さんの父親とか。あのイヤミったらしい数学教師が、今日は憑き物でも落ちたのではと思うほどに、とても清々しそうな顔をしていた。あと、転勤や転職についても考え直すとも言っていたかな。そこについてはブーイングが浴びせられていたが、決して怒りはしなかった。あれで良い教師になってくれるかもとみんなは思っているだろうけど、人はそう簡単には変わらないから、当分は今まで通りのイヤミったらしい授業を続けるに違いない。

「でも、始まりは全て立花君でしょ?」

「だから僕は、」

「立花君が居たから、兄さんは私たちに昔のあやまちを話してくれた。立花君が居たから、松本さんと御巫さんの居場所を知ることが出来た。立花君が居たから、神楽坂さんが病院に行くことが出来た。立花君が居たから、」

「言い過ぎだよ。それに、“痛み”を伴う対戦についてだって、僕は君や啓二さんに深くを教えることはなかった。それなのに二人とも、あの戦いに臨んでくれた。そして、勝ってくれた。あれが(かなめ)だったんだ。疑念を抱きながらも臨んでくれた、そして勝ってくれた。それが無きゃ、全て無駄になるところだった。そんな賭けをしていたんだよ。言うほど、立派なことじゃない。言うほど、誇れることじゃない」

 謙遜し過ぎるのも、望月には悪いのだけど、でも、本当に僕がやったことなんてほとんど無い。そりゃ一つぐらいはやったかも知れないけれど、残りは全て他人任せだった。


 啓二さんは鼻血を出して、ついでに両手に痕は残らないまでも火傷を負って、望月は右脇腹がパックリと裂けて、何針か縫った。啓二さんはともかく、痕が残ってしまう望月には申し訳ないと思わないわけがない。女の子に出来てしまう傷痕がどれほどの重みになるか、今後の苦しみになるか、分からない歳でも無いし。


「だけどね、立花君? あなたが関わってくれていなかったら、私は兄さんの本当の意味での笑顔を見ることはきっと出来なかった」

 望月の目には涙が蓄えられ、頬に一筋の線となって流れて行く。

「あなたが……あなたと出会えていなかったら、私はずっと兄さんに怯えていたままだったし、兄さんは私のことを名前で呼んではくれなかった。あなたが居なきゃ、兄さんは昔のことで苦しみ続けていただろうし、あなたが居なきゃ、きっと松本さんと仲直りすることだって出来なかった。あなたが……あなたが、してくれたんだよ?」

「……そう思うなら、それで、良いけ、っど?!」

 不意に望月に抱き締められる。

「あなたには感謝してもし切れない。兄さんだってきっとそう。だから、これはそのお礼。女の子って、こんなに柔らかいって知ってた?」

「え、あ、いや、えと、あの」

「でもね、今度は立花君から抱き締めるんだよ?」

 望月は程なくして僕から離れる。

「誰を?」

「立花君が好きになった人。女の子から抱き締めに行かせるなんて、そんなことさせちゃ駄目だよ。ちゃんと立花君から、男らしく、抱き締める。私との約束」

「約束って言われても……」

「約束」

「……分かったよ」

 そう言わなきゃならない感じがしたし、気付いたらそう言っていたし、なによりさっき抱き締められたことで頭の中がグッチャグチャになっている。

「私、思ったんだけど……感謝だけで人を好きになるのは違う。もっと、沢山の、様々な感情を携えて、蓄えて、抱え込んで、それでようやく好きになる。それが複雑だけどシンプルな好きになること。だから、私が本格参戦するのはやっぱり無しの方向で」

「なにに本格参戦?」

「それは秘密。でも、ちょっとぐらいはちょっかいを掛けたくなるかも。立花君って、そういう人だから」

 言葉の前後がどうも噛み合っていないような気がするんだけど、望月は一人で納得し、凄く満足しているような顔をしているので、変に指摘することも憚られた。

「それじゃ、またね」

「うん、また」

 帰路についた望月の足は軽く、そして未来への不安など無いかのように力強かった。

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