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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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恨みを上回る悲しみ

 一体いつからサールサーク卿は“愚者”だったのだろうか。僕がサールサーク卿を知った当時は、どうだっただろうか? 思い返してみても、どこからかは分からない。

 だってサールサーク卿は真面目過ぎるプレイヤーだったから。誰に命じられるまでもなく、そういうキャラをロールしていた。それがあの人の本質であると疑わなかったし、ブラリ推奨プレイヤーを毛嫌いするのも、真面目だからで片付けていた。正義にうるさいのではない。正義に忠実なのだ。自身が思う正義というものを絶対に捻じ曲げない。


 『オラクルマイスター』でもブラリ推奨プレイヤーとは関わらないように推奨されている……まぁこれは、ギルドの募集要項というか基本要項をさっきサールサーク卿を呼び出す前に読む暇があったから分かったことで、つまり読むまでは気付かなかったことであるんだけど。


 正義に忠実で、真面目を貫き通すサールサーク卿が“愚者”であるはずがない。そう信じて疑わなかった。だって、狂っているようにはまるで見えなかった。僕のように妄想に耽るわけでもなく、紫炎のように人間関係を壊しに掛かるわけでもなく、バイオのようにゲームは誰かを殺すための練習だと断言するような危険な発言をするわけでもなく、パッチペッカーのように人を苦しめることを喜ぶような性格の捻じ曲がり方をしているわけでもなく、真っ直ぐだった。


 真っ直ぐであることがサールサーク卿にとっては“愚者”なのかも知れない。実は真面目ではなく、人並みに不真面目で、規律にそこまでうるさいわけでもなく、正義にだって拘りがあったわけではないのかも知れない。

 サールサーク卿は真面目で真っ直ぐで実直で、真っ当なプレイヤー。そういう風に決め付けていた。けれど、それが“愚者”として顕著に現れた性格であるのならば、本当のあの人は、どのような生き方をしていると言うのだろうか。


「サールサーク卿の声から、なにが見えた?」

「男の人。見たことも会ったこともない。黒髪で、なんて言うか……シュッとしている、かな」

「そこまで分かるんだ?」

「スズが怒った辺りで、ちょっとだけあの人の声音が変わったから、薄っすらと見えるようになった。感情が揺れたおかげかな。最初は感情が全くこもっていないというか、ガードが固い感じで、私の耳で声を聞き取っても、顔が全然見えなくて」

 顔が見えることがまずおかしいんだけど、それこそがルーティの“異常性”の強みなので、黙っておく。

「悲しい顔。誰かを憎くて憎くてたまらないっていうよりは、人生に悲観して、なにかにずっと悲しんでいる顔」

「恨んでいるって言っていたのに?」

「恨んではいるんだろうけど、それ以上に悲しみが強い……の、かな。スズぐらい分かりやすかったら、もっと探れたのに」

「スズぐらいはよけいだ」

「ほーら、すーぐ顔に出る。あと口調を敬語にして、声も高めにしないとネカマってバレるよ」

「怒った時点でもうバレていますよ」

「でもスズって怒ると声が高くなるじゃん」


 ……はい?


「初耳ですが」

「だって初めて言ったし」

「おかしいですね。これまでも声を張ったことって何度もあったんですけど」

「うん、だから怒っている時は声が高くなっているからバレない」

「ああいや、怒っていなくても声を張っていることってありますよね?」

「でもそれは意識して高くしているんでしょ?」

 そう言われればそんな気もする。

「スズって滅多に怒らないし、怒っても声を張るんじゃなくて、ネチネチボソボソと文句を言うことがほとんどでしょ」

「人前で大声を出すのって目立つから嫌なんですよ」

「だから、怒った時に声を張ったら、高くなるって知らなかったんだ?」


 思えば、特殊ミッションでリグリスと共闘したけど、その時もバレるの覚悟で声を張ったけど、バレていなかったな……。


「つまり私は怒ると女の子みたいな声が出ると」

「正確には怒鳴ると、その声に自分もビックリして緊張状態に入って、構わず声を出し続けると高くなる」

「じゃぁ矯正のしようがないですね」

「なんで諦めるの。人前で緊張しないように発声練習すれば良いだけでしょ。あと自分の声にビックリしないようにすれば良いだけじゃん」

「それが無理なんですよ」


 陰気で根暗でネガティブな僕をナメないでもらいたい。断言しよう。そんな矯正は、不可能だと。


「でも、久し振りにスズが怒鳴り声を出したところを見たなぁ」

「なんでちょっと嬉しそうなんですか」

「喜怒哀楽がしっかりしているのを見て、幼馴染みとして一安心。それに、バイオさんのために怒るのも意外だった」

「バイオさんは、私に似ているところがあるんですよ。あの人を馬鹿にされると、自分も馬鹿にされているみたいに聞こえて……いえ、それだけじゃありませんね」

「素直に言ってみなさい」

「私の知っているバイオさんを、変わろうとしているあの人を馬鹿にされたことに、腹が立ちました」

 昔はともかく、今の啓二さんは妹の望月のことも気に掛けているし、なんだかんだで僕に喧嘩腰で話し掛けては来るけれど、僕より少しだけ長生きしている分、経験から助言もしてくれる。好きか嫌いかだと嫌いではあるけど、でも、繋がりを断ちたいと思えるほど嫌いなわけじゃない。


 大樹さんも好きか嫌いかだと嫌い寄りだけど、僕は慕っているわけだし、啓二さんのこともなんだかんだで好きか嫌いかで言えば嫌いだけど、敬慕はしているのかも知れない。考えれば考えるほど、気持ちが悪いけど。


「よろしい。素直に言えることは良いことです」

「なんでルーティにこういうこと言わなきゃならないんでしょうか」

「それはスズのことを私が一番分かっているからです」

「納得しましたから、その『ですます』口調はやめて下さい」

 ルーティまで『ですます』を多用し出したら、僕とルーティの会話って色んな意味で混線すると思う。

「スズってさー、私に迷惑ばかり掛けているって思っているでしょ?」

「当たり前じゃないですか」

「でも、スズに頼ってもらわなきゃ私はこれだけメンタル面が強くなることもなかっただろうし、スズが居なかったら愚痴を聞いてもらえるような人にも出会えなかっただろうし、なんだかんだで役には立っているんだよ。これは私が面倒臭いことに立ち向かった結果だね。最近じゃ一日一回の電話も二日に一回に減ったし、いやぁ成長してくれてこっちの負担が減ったのはありがたい限りだなー」

「申し訳なさで、言葉が見当たりません」

「でも逆にスズは、私にはない強さがあると思うんだよ。メンタル弱いし、なに考えているか分かんないし、電話に絶対に出なきゃならないって義務感とか出なかったらスズはどうなっちゃうんだろうって怖さもあったけど……今は、頼りたいって気持ちが少しずつ大きくなっている、かも?」

「疑問符を付けられると、私はその発言を信用できません」

「なら言い切れるだけもっと私に、安心させて欲しいよ。そうすれば、素直に頼れるようになる。頼りたくなる……うん、きっと。だってスズの言葉から見える現実のスズの顔は、前より頼れそうだなーって感じになっているから」

 これ、さっきの言葉での殴り合いで負けたことについて、まだ慰めてもらっているんだろうか。ルーティに褒められているような褒められていないようなことを言われるのは、望月や倉敷さんに言われるよりは疑わないけど、なにか裏があるんじゃないかって気持ちはまだ浮かび上がって来る。

「私じゃサールサーク卿からは本音を吐き出させることはできませんでした。それについての慰めはもう良いですよ」

「違う違う、そりゃサールサーク卿がギルドフロアに戻った直後は慰めていたけど、さっきのは本当の本当にスズが変わってくれて嬉しいっていうのを伝えているだけだって」


 子供の成長を見守る母親みたいな言い草だな。今までも散々、愛玩動物扱いされて来たけど、一応はランクアップしているのかな?


「なら、その、ありがとうございます」

「うん、それで良し。それで? サールサーク卿のことはこのあと、どうやって探るつもり?」

「そこは……もう、バイオさんに直接、問い質すしかないんじゃないかと」

 一度、断られているがルーティ曰く「引き下がらないんなら、次がある」らしいので、可能性は残されている。

「なんでこんなに本腰を入れているんでしょう、私は」

「シャロンのこともあるし、バイオさんを放ってはおけないからでしょ」

「ルーティはあの人の思い付きで被害者にされたのに、よく言いますよね」

「でも実際は違う人だった。ちゃんと謝罪もされたし……そりゃ、言いたいことは沢山あるけれど、チームを組むんなら私が歩み寄らなきゃ。バイオさんはそのことを後悔してくれているから、私とのやり取りがギクシャクしているって分かるから。分かるなら、分かった方から強めに歩み寄らなきゃね」

 許す許さないではなく、寛容な心を持っている。僕なら一生、恨み続けるのにな。


 ……恨み、か。悲しみが上回っている恨みって、一体どれほどのものなのだろう。大したほどのものじゃないのか、それとも悲しみの深さが桁違い過ぎて、恨みの量がどう頑張ってもそれを上回れないだけなのか。


「まだ時間あります? あるなら、もう一つぐらいミッションに付き合いますけど」

 バイオに吐き出させるにしたって、今日は無理だ。だったら残った時間はルーティのために使おう。そう思った。

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