///人生に光と陰があるのなら///
///――years ago 02///
「こんなところでなにをしているんだ?」
昼休みに親友の教室に寄ってみたが、姿が見えなかったので手当たり次第に探して、ようやく校舎裏で見つけることが出来た。
「教室に居たら、周りがウザいんだよ。一々、相手にもしてらんねぇ」
俺の親友はどうやらクラスに溶け込めていないらしい。そんな気は前々からしていたが、やはりこの見た目と口の悪さが原因と見て間違いないだろう。
「野球部の連中は、お前のことを避けてはいないんじゃないか?」
「避けてはいねぇが、上っ面だけのやり取りだな。いわゆるビジネスライクな関係ってやつだろ」
「なんだそれ?」
「俺も言っていてきめぇって思ったよ」
「ま、お前はなにも悪いことをしていないんだ。苛々する必要も、人前で食事をしちゃ行けないってわけでもないだろ」
「それはそうだが……今回は、テメェに言いたいことがあったからわざわざ教室から外した」
「なんだ?」
「お前、あんまり俺と学校じゃ話し掛けるな」
「藪から棒なことをお前はあまり言わないと思っていたんだが」
はぐらかすように言ってみたが、どうやら親友は真剣らしい。
「俺と居ることで、テメェにも変な噂が立つかも知れない」
「変な噂……あー俺が生徒会長に推薦されて、お前が裏で脅しを掛けて票を集めさせようとしているみたいな噂か」
「なんだ、もう噂は立っていたか。ならよけいに俺と学校で話さねぇ方が良いな」
委員長から始まり、次は生徒会長だ。真面目キャラを演じているわけではないけれど、真面目というレッテルを貼られた以上、俺はその決め付けから逃れられず、自分を偽っているのか、それともこれが本当の自分なのかも分からないままに中学生活を送り続けているわけだが、同様に親友も不真面目なキャラを押し付けられて、それから逃れられずに居る。
かと言って、それらを全て放り出したあとに、俺と親友に“なにが”残っているのか。それが怖い。だから俺たちはずっと、そのレッテルに、その決め付けられたことに従っている。放り出した瞬間、手元になにも残らないのではないか。そんな不安が付き纏っているのだ。
「委員長になるのと生徒会長になるのでは、やっぱり難易度に差があるからな」
「はっ、真面目な割にゲームはやっているなんて珍しい」
「真面目だろうとゲームくらいはするものだ。まだVRゲームには手を出せてはいないが……あれは高すぎる。揃えるにしたって、高校生になってからだろうな。いや、高校生になってもまだ揃えられないかも知れない」
「バイト禁止の高校じゃ、金も稼げねぇだろうからな」
「正当性があればバイトも出来るだろうけど、ゲームは家庭の事情やらなんやらと関係無い」
「ゲームを買いたいからバイトしたいです、なんて通ったら笑っちまうよ」
親友は飄々と言うが、どことなく表情には寂しさのような、哀愁のようなものが漂っているようにも思えた。
「人の決め付けってのは怖ろしいな」
「顔の良い悪いで美人だのブスだの言っているのと変わらねぇよ。俺は誤解されやすく、テメェは受け入れやすかった。そういう因果ってやつだ」
「なんだその中二病みたいな言葉は」
「だろ? 『因果』って言葉が悪い言葉みてぇに聞こえるもんな」
それでも親友はその寂しさを俺には気付かせたくないのか、強い声音で笑ってみせた。その強がりが、俺に対する気遣いや優しさであることは誰よりも分かっていることだ。しかし、それをずっと享受し続けて来たわけじゃない。
「お前がなんと言おうと、中学でもたまに声を掛けてやる」
「テメェにメリットなんざねぇだろ」
「メリットデメリットで俺は親友と付き合わない。そういうもんだろ? それとも、親友と思っていたのは俺だけか?」
「……ま、テメェだけにしておきたいところだが、それだとテメェの台詞がクサ過ぎて笑えて来るから、親友ってことにしておいてやるよ」
言い回しがなんとも面倒臭いが、それは親友が気恥ずかしさを誤魔化しているだけだ。俺も俺で、親友の言うようにクサい台詞を口にして少しばかりの気恥ずかしさがあったので、これでチャラにはなっただろう。
「で、親友よ? お前の恋路は一年前から進歩してんのか?」
「聞いて驚け。この前、人前じゃないが手を繋いだ」
「おっせー」
「これぐらいの速度で良いだろ。まだ告白もしてないんだから。けど、二月にはお前に言ったようにチョコは貰ったな」
「二月は『おー妬ける妬ける』って言ってやったが、そこから今月に至るまでの進歩が手を繋いだだけじゃ、おっせーしか言えないな」
「彼女の性格を知っているだろ。グイグイ行き過ぎたら、逃げられる」
「釣りじゃねぇんだから、二月にチョコ貰った辺りでもうちょっと男気を見せろよ。ホワイトデーにお返しするついでに告白すりゃ良かったじゃねぇか」
「それは……確かにそうだが」
現状、俺の恋愛は親友の言うように非常にスローペースだ。そもそも彼女が俺に少しずつ気を向けてくれるようになったのも、中学一年の秋の終わり頃だった。それで一年経って、まだ告白にすら至れていない。それでも、俺が傍に居ると彼女はどこか嬉し気にしてくれるし、ついでに寡黙ではあるけれど、ちょっとだけ読書中にこっちを見て、退屈していないかどうか心配してくれる。
「……ま、誰もが同じペースで歩くわけじゃねぇか。それだけ遅かったら、別の誰かに取られてしまいそうなもんだ。その傾向が無いんなら、向こうもそのペースで満足しているんだろう」
「誰かに狙われてなきゃ良いけどな」
「お前、付き合ってもいないのに女子を疑うなよ。そんなつまんねぇ勘繰りしていたら、向こうも勘付いて気まずい空気が流れるぞ。誰かが狙っているとか、お前が誰かに好意を持たれているかも知れないとか、そんなのはどうだって良いんだ。お前は真っ直ぐ進め。そういう性格だろ」
「そういう性格ってことにされているからな」
「なら、それに従っておけ。周りなんて見なくて良い……いや、場所を選ぶ上ではちょっとは見ておけ。それであとは、今まで通りで良いんじゃないか?」
いつの間に恋の相談になってしまったんだか。でも、ずっとこんな話をしていると、俺だけが恥ずかしい目に遭うのでそろそろ話題を変えてしまおう。
「来年の夏、野球部を引っ張れよ」
「キャプテンにはなる予定がねぇから、んなことは無理だな」
「でも、お前の洞察力や知識は一級品だ。誰からも頼りにされていないとしても、技術でスタメンは勝ち取れるだろ。そこから、力を見せ付けてやれば良い」
「はっ、そう上手く行くものかねぇ、親友よ」
「親友の言葉を信じろ、親友」
少しばかり親友の表情に明るさが戻ったように感じられた。
「お前が生徒会長に推薦候補されてしまったんだとしても、俺は応援してやるよ。陰ながら、だけどな。表に出たら、逆効果になっちまう」
「まるで光と陰みたいな言い方だな」
「それも良いんじゃね? テメェが光で俺が陰。大体いつもそんな感じの毎日だっただろ。それとも、陰の方が中二病っぽくて良いか?」
「いや、俺はそういうことを言いたいんじゃなくて」
本当に、親友は過小評価されていて、不遇過ぎる。
「お前はなんで光になれないんだ、って……お前をちゃんとした目で見てくれないクラスメイトや先生に、腹が立って来ただけだ」
「なぁ、親友」
親友に俺の肩を組んで来る。
「テメェが知ってりゃ、それで良いんだ。テメェが分かっているなら、それで良い。俺は下手をすると、酷い噂でも流れてテメェの恋路の邪魔になるかも知れない。向こうがお前のことを怖がったりしたら大変だ。だからそういう時が来たら、幾らでも侮蔑してくれ。罵ってくれて構わない。放り出してくれ。その方が、俺も安心できる」
「誰がお前の言うことなんて利くか。酷い噂が流れようと俺は俺で、お前はお前だ。俺は、親友を放り出しなんて絶対にしない」
「……はっ、なにマジになってんだよ。言ってみただけだ。でもな、親友。テメェのおかげで、俺は陰でも頑張れているようで、気持ちが楽になる。ありがとう」
「普通にお礼言えるんだな、お前」
「親友のクセに冷てぇこと言いやがるな」
砕けた笑顔を向けて来た親友の肩を俺も組んで、二人揃って馬鹿なことを言い合う。そうこうしている内に昼休みは終わり、俺と親友はコンビニで買った昼飯を急いで平らげて、それぞれの教室に戻るのだった。




