小さな勇者は夢を語らう
小さな勇者は夢を語らう
空の向こうには、あの真っ白な雲の上では神様や綺麗な天使が居て、キラキラとした毎日を過ごしているんだ。
海の底では、人魚や色とりどりのお魚さんたちが踊りを踊りながら愉快に毎日を過ごしているんだ。
そんな絵本に出てくるみんなと、ボクはお友達になりたかったんだ。だから冒険に出るって決めたんだ。
段ボールで勇者の剣を作って、お鍋の蓋を盾の代わりに。
途中で動物を家来にできるように、お団子をリュックにしまって旅に出ようとしたけれど、お母さんにお鍋の蓋を取られちゃった。
これからボクはお友達になる冒険に出るんだって言っても蓋は返してもらえなかったから、諦めて勇者の剣と一緒に冒険に出るんだ。
お母さんに行ってきますをして、最初はどこに行こうかなってちょっと考えて、決めたのはボクがよく行く近所の公園。
普段はあまり人もいなくて静かな公園なんだけど、今日は少し騒がしかった。それは砂場で小さな子どもが泣いていたから。
どうしたの? って聞いてみたけど、ずっと泣いてて全然お話ができなかった。けれど勇者の剣を見たら泣きやんでくれたんだ。
欲しいの? って聞いてみたら、涙が流れていた目を拭きながら、うんって頷いたから勇者の剣をあげたんだ。
ありがとうってお礼を言われて、それからボクらは一緒に遊んだんだ。勇者の剣を使って勇者ごっこ。本当はボクが勇者をやりたかったけれど、ボクの方が年上だから、我慢して悪役をやってあげたんだ。
そうやって遊んでいたら、この子のお母さんが迎えに来てバイバイをしようとしたら、遊んでくれたお礼にってキャラクターのシールをくれたんだ。
あの子とバイバイしたら、公園で一人ぼっちになっていたんだ。それで公園で遊ぶのを止めて今度は河川敷に来たんだ。
おっきいお空に綺麗に光る川があって、今にも走り出したくなったけれど、お腹がぐぅって鳴ったんだ。だからリュックからお団子を取り出して、草っぱらの上に座って食べ始める。
甘くてもちもちしていて美味しいお団子はどんどんボクのお腹の中に入って、気がついたら最後の一つになっていた。最後の一つだから大事に食べようとしてたら、にゃあと鳴き声が聞こえたんだ。目の前には一匹の猫さんが居て、お団子を欲しそうにしているから、欲しいの? って聞いてお団子を差しだしたら、ボクの手のひらから取って食べ始めた。
そこでボクは友達になるための旅に出ていたのを思いだして、猫さんに今から僕の家来だからねって話しかけた。
それで、お団子を食べ終わった猫さんは大きな欠伸を一つして、のそのそとゆっくり歩きだしたんだ。
ボクの家来になったのに、一体どこにいくの? って聞いてみても、振り返ったりもしないで、尻尾を揺らしながら歩いて行くから、ボクは後を追いかけたんだ。
河川敷を離れて、道路を渡って、住宅地に入っていたんだ。それでも猫さんは歩き続けて、暗くて狭い路地裏を通り抜けて、空き地を横切って、何処までも後を追っていたんだけれど、猫さんはひょいと塀に飛び乗って、ボクから見えなくなってしまった。
ボクの家来なんだから戻って来てよ、と大きな声で呼んでみても猫さんは全然戻ってこないから、しょうがないから帰ると決めた。だけど、今いる場所がどこなのか全然わからなかったんだ。
見たことのない風景に知らないマンションがあるだけで、何処に居るのか全然わからなくてとても心細くなってきた。
知らない場所に居るのが怖くて、涙が出そうだったけど、ボクは今旅に出ているんだから泣いちゃ駄目だって我慢したんだ。その後も頑張って帰ろうとして、いろんな道に入ってみたけれど、知ってる場所はどこにも無くて、お空は遂に真っ赤になって、それでも全然帰れなくて、堪え切れなって泣いちゃったんだ。
丸い光の粒ばかりがいっぱいあって、目の前が全然見えなくなって、それでもっと怖くなって、涙がどんどん溢れていくんだ。
それでも頑張って帰ろうとしていたら、後ろからお母さんの声でお家に帰ろかって言われたんだ。
すぐに振り返ったけれど、涙でぐちゃぐちゃで前がよくわからないから、必死に目を擦ったら、涙の隙間からお母さんの姿が見えたんだ。そうしたら、ボクはいつの間にかに走り出していてお母さんに抱きついていたんだ。
お母さんは暖かくて、いい匂いがして、いつの間にかに流れ続けていた涙も止まっていたんだ。
それで、お母さんが友達はできたの? って聞かれたんだけれど、友達はできなかったのって言って、今日の僕の冒険をお話ししたんだ。そしたらなんでか友達ができて良かったねって言われたんだ。
何でそう言われたのかよくわからなかったけれど、手を繋ぎながら一緒に帰っているときに、今日は楽しかった? 小さな勇者くんって聞かれたから、精一杯にうんって頷いたんだ。
一人じゃ怖くて泣いてた道も、お母さんと一緒なら笑顔で帰れるよ。




