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一緒に地獄に堕ちるか。  作者: 雨宮ツムグ


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3/23

僕の罪悪感ごと

僕が転けてから、もしくは、僕がおんぶをしてもらってから。

はたまた僕が保健室で落ち込んでいた時から、または久保井君が、僕の頭を撫でてくれた時から。

久保井君は、少しだけ、僕に優しくなった。

優しく、という表現が正しいのかは分からないけれど、なんというか、体が少しだけ、僕の方を向くようになった。

いつもの色気ある流し目はそのままだけれど、角度でいうと十五度くらい、いつもより僕の方を向いてくれるようになった。

だから今日も僕は質問をする。

君のことをもっと知りたい、と、そう思うから。

僕が丁寧に読み続けている久保井君攻略本は、多分十ページくらいは進んだと思う。

けれど、攻略本が辞書くらいの厚さなのだとしたら、それはまだまだ何十分の一の情報量だし、五冊セットで売られているノートの、一冊分くらいの厚みなのだとしたら、それは結構攻略が進んでいるなと思う。

つまり、全体像はまだ見えていなかった。

久保井君はどんな人なんだろう。

僕は久保井君を、どこまで知ることができるんだろう。


久保井君はお昼、いつも買ってきたパンを食べていた。

だから僕はお母さんに頼んで、お弁当の量を増やしてもらった。

高校生になったら急に量が足りなくなっちゃって、と、言って。

代わりに久保井君には、お弁当食べ切れないから、手伝ってもらえないかな、って言った。

その日から、僕たちは一緒にお昼を食べるようになった。

久保井君は最初顔を顰めていて、人の家のご飯はキツいかな、と少し心配したけれど、どうも嫌だからではなく、自分が食べてしまってもいいのか、という遠慮から来ているものだと分かって、笑った。

僕は久保井君の為に、少しだけお母さんに嘘を吐いたんだ。

だから、良かったら、僕の罪悪感ごと、一緒に食べてほしい。

流石にそんなことは言えなかったけれど、寧ろ勿体無いから食べて、という言葉を伝えた。

僕は大人になったら、お母さんに沢山美味しいものを贈ろう、と誓った。


週が明けて、膝の傷も癒えてきた頃。

僕と久保井君は、この間できなかった五十メートル走のタイムを計ることになった。

他の皆は整列して膝を抱えていて、大勢に見られているというこの状況に、緊張感が増す。

けれど、先に呼ばれた久保井君が、僕をじっと見てから、スタートラインに立って。

合図と共に走り出したその軽やかさに釣られて、僕の心も不思議と軽くなっていった。

何故だか分からないけれど、多分、『大丈夫』って、その目に言われたような気がしたから。

続けて呼ばれた僕がスタートラインに立つと、ゴールの側に居る久保井君が真っ直ぐ先に見える。

この距離だと目が合っているのか正確には分からなかったけれど、あの眼鏡の奥の目は、多分僕を見ているんだと思う。

だから、その目に引っ張られるようにして、僕も合図と同時に走り始める。

今日は体に変な力は入っていなかった。

だから転けることなく、軽やかにゴールまで走り切ることができた。

そのままゴールの近くで立っていた久保井君に体当りすると、ちゃんと受け止めてくれたから笑って、それから。

ああ、僕。

久保井君が好きだな、って、そう思った。


久保井君が好きだと自覚してから、僕は久保井君に触れたくて仕方なくて、そんな僕を、僕自身が抑えることに苦労していた。

気が付けば目の前の広い背中に触れたくなる。

気が付けばお昼ご飯を一緒に食べる久保井君の指先を見ていて、気が付けばお弁当が運ばれていく、その唇を見ていた。

僕は、おかしくなってしまったのだと思う。

触れたい気持ち以上に、久保井君に、触れてほしくて仕方なかった。


読み進めていた久保井君攻略本は、最近全然、進んでいない。

何故だか久保井君の目を見ることができなくなって、だから、目で語ることの多い久保井君の情報が、全然更新されていかなかった。

毎日あれだけ、くだらなくてもなんでも質問していたのに、できなくなってしまった。

久保井君に嫌われたら、嫌だなと思って。

久保井君に嫌われるのは、怖いと思って。

だからお昼休みも会話が減って、その分早く、久保井君が前に向き直ってしまう。

だから引き留めたいのに、何も思い浮かばなくて、上手くいかない。

目の前に居るのに、全然話せない。

こんなに近くに居るのに、僕は久保井君に、触れることすら叶わない。


移動教室があって、皆疎らに散りながらも纏まって移動していく。

僕は久保井君の斜め後ろに居て、前を見て歩くふりをして、久保井君のつむじを見ていた。

僕はいつから久保井君が好きだったんだろう。

初めて眠そうな久保井君を見たあの時からなのだろうか。

それとも、つむじを初めて見たあの時からなのだろうか。

最初から好きだったような気もする。

つい最近、好きに転がり落ちたような気もする。

片想いって、一体どうしたらいいんだろう。

友達の場合は、友達のままで居ていいのかな。

ていうかそもそも、僕たちは、友達なのかな。

全部が曖昧で、不明瞭で、僕は少しだけ、疲れていた。


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