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一緒に地獄に堕ちるか。  作者: 雨宮ツムグ


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27/27

或いは自分自身へ

高校一年と高校二年の狭間。

僕と、僕のお母さんと、幸一君と、幸一君のお父さんの四人は、春休みに集まって、大きな公園に桜を見に来ていた。

「咲いててよかった〜」

「綺麗ねぇ」

「風が良い」

「良い天気だな」

四者四様の感想を呟いて、僕はおにぎりに齧り付くつ。

今日は僕のお母さんがピクニックセットとして、沢山とおにぎりとおかずを作ってくれていた。

「あ、幸一君、それ僕が握ったやつだよ」

「なんで分かった」

「ふふ、ちょっと大きいからね!」

あと、ちょっと歪だからね!

笑いながら眺めていると、幸一君は大きく1口齧り付いて、僕を見て笑う。

「美味い」

「へへ」

それもそのはず。

だって、その混ぜご飯の味付けをしたのは僕のお母さんなのだから!

けれど、ちゃんと愛情を込めて握ったから、感想が貰えて嬉しい。

「涼太君も手伝ってくれたのか」

「はい、おにぎりを握って、ウインナーを焼きました!」

「そうか、ありがとう。とても美味しそうだ」

優しく微笑む幸一君のお父さんに、僕も僕のお母さんも微笑んで、食べる姿を見守る。

ベンチと、少しの遊具がある公園は、まだ他に人が居なくて、穏やかで平和だった。

風が吹くと沢山の桜の花びらが散るのに、桜の木はまだまだ全体がふっくらとしていて、一体何枚の花びらがあるのだろうと不思議に思う。

そんな僕を幸一君がじっと見ているから、幸一君が持つおにぎりに僕が焼いたウインナーを乗せると、笑ってちゃんと食べてくれた。

幸せだな、と思う。

皆笑顔で、とても幸せだと思う。

「二人に、相談したいことがある」

「え」

おにぎりもおかずも全部無くなって、遊具に遊びに行こうかな、とソワソワしていたら、幸一君のお父さんが話し始めて、向き直る。

「私は幸一も、涼太君も、それから、芽依さんのことも、幸せにしたいと思っている」

……芽依さん。

それは、僕の、お母さんのことで。

「家族に、ならないか」

「……か、ぞく」

僕が繰り返すと隣から、幸一君が飛び付いてくる。

「わあっ」

「はは、仲が良いな、本当に」

「涼太、涼太」

「こ、幸一君」

ちょっと濡れた幸一君の声に、僕も涙が出てくる。

ずっとずっと願っていた、家族になるという夢。

長いようで、早いようで、念願で、嬉しくて。

「僕たち、ずっと、兄弟になれたら、って、話して、たんです」

止まらない涙の中そう言うと、僕のお母さんも、幸一君のお父さんも、驚いた様子で顔を見合せていて。

「僕も、家族になりたいです」

「……俺も」

「ははは、はああ、そうか、良かった」

「……ありがとう、二人共」

泣きながら言う僕と、僕に抱き付いたまま言う幸一君。

それにほっとして笑う幸一君のお父さんと、涙ぐむ僕のお母さん。

ずっと、ずっと、願っていた。

例え行き先が地獄でも、僕は幸一君とずっと一緒に居たいと、願っていた。

それが今、正式に叶おうとしていて。

幸一君の背中を撫でながら、僕も幸一君を抱き締める。

「嬉しいです、嬉しい。本当に嬉しい」

そうして僕たちがあまりに喜ぶから、幸一君のお父さんがぽつりぽつりと話してくれる。

お正月に僕が言った、また皆でご飯が食べたいという言葉を聞いて、心から嬉しいと思ってくれたことを。

それから、僕のお母さんが言った、『一緒にご飯を食べられる時間も、もう残り少ないかもしれないものね』という言葉を聞いて、考えさせられたのだ、ということを。

「私は幸一と、長い期間すれ違いの生活を送っていた。そのことがどうしても心に残っていて、これからの時間は、何よりも大切にしたいと思っていた。そんな時に、とても嬉しい涼太君からの言葉を聞いたものだから、舞い上がってしまって」

ははは、と照れて笑う幸一君のお父さんに、僕も照れて微笑む。

あの願いは、また皆でご飯を食べたいという願いは、本当に僕の心から出たものだった。

だからそう言ってもらえるのは嬉しいし、何より、二人の後押しになったのなら、素晴らしいことだと思う。

「私は芽依さんにとっくに惹かれていたから、直ぐに話をさせてもらったよ。それから、家族になるのなら、早めが良いという話もね」

この話は、幸一君のお父さんの行動力の賜物なのだな、と思って感動する。

それから、ふと思い出した。

初めて会った時も、そうだったことを。

幸一君のお父さんは残業続きで、仕事以外に割く時間が全然なくて、けれどそれでも、幸一君のお父さんは無理矢理時間を空けて、有給を使って、僕たちと会ってくれた。

あの時も、幸一君のお父さんの行動力に感動していたことを、思い出したのだ。

あの日の会話や決め事があってこその今だし、あの日から今日までずっと、約束を守ってくれていた幸一君のお父さんや、料理を作り続けてくれた僕のお母さん、それから、僕を好きで居続けてくれる幸一君によって、今が紡ぎ出されていることを感じる。

「あとは幸一と涼太君がどう思うかだったけれど、何も心配要らなかったね」

まだ抱き合っている僕たちを見て、幸一君のお父さんが微笑むから、僕は頷く。

「はい。大好きです。大好きなんです」

僕が言うと、嬉しそうに、幸一君のお父さんと、僕のお母さんが再び顔を見合わせる。

きっと僕が言った『大好き』は、友達とか、人としての『大好き』なのだと伝わったのだろうけれど。

僕は愛を込めた、幸一君への『大好き』を、皆に届ける。

この意味は一生、二人には伝わらなくていい。

ただ、大好きであるということが、伝わってくれたら良い。

僕は幸一君が大好きで、それから、僕のお母さんも、幸一君のお父さんも、大好きだった。

意味は違えど同じ『大好き』で、だから、それで、十分だった。

僕の背を強く抱き締めてくれる幸一君からの想いも、僕には確かに、届いている。

それから、いつお引越ししましょうか、色々手続きが大変ね、共に乗り越えていきましょう。

そんな二人の会話を聞きながら、僕はずっと、ずっと泣いていた。

嬉しくて嬉しくて、仕方がなかったから。

病める時も、健やかなる時も、幸一君の傍に居ることを誓います。

何年経っても、僕たちが老いても、僕たちの親が、この世を去ってしまったとしても。

僕は、僕たちは、ずっと一緒に居ることを誓います。

だから神様、お願いです。

僕たちを地獄へ連れて行くのは、もう少し、いえ、かなり先まで、待っていてほしいです。

それから僕は、幸一君だけでなく、僕のお母さんと、幸一君のお父さんも、必ず幸せにして見せます。

だから、行き先は地獄でいいけれど、きっとどうか、幸一君と同じ地獄にしてください。

これから沢山、沢山徳を積みますから。

どうかどうか、見守っていてください。

そう胸の中で、どこかの神様へ、或いは自分自身へ、しっかりと誓う。

けれど、仲睦まじい二人を見ていたら、僕が小細工をするまでもなく、二人は惹かれ合い、人生を共にしていたのではないかなと思う。

でも僕がしたことも事実で、幸一君が『一緒に地獄に堕ちるか』と言ってくれたことも、僕の中の宝物で。

全て、今に繋がっている。

そして、これからに全部、繋がっているのだろう。


僕と幸一君は、高校二年生から、二人共苗字が『久保井』となった。

事情を知った周囲の人は、嘘だろ?ってかなりザワザワとしたけれど、僕たちには何一つ響かなかった。

可哀想に、だなんてとんでもない。


僕たちは、手に入れたのだ。

永遠に近い宝物を。

僕たちは、手に入れたのだ。

誰にも邪魔できない、揃いの苗字を。

僕たちは、手に入れたのだ。

地獄へと続く、素敵な片道切符を。


「大好き、幸一君」

「……俺も」

「そこは大好きって言ってよう」

「大好きだよ」

「ぐ……」


僕たちはきっと、ずっと一緒に居る。

大好きな僕たちのお父さんと、お母さんを大切にしたまま、きっと、ずっと、一緒に居る。


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