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一緒に地獄に堕ちるか。  作者: 雨宮ツムグ


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大問題

学校が始まって、大問題が起きた。

幸一君がなんと、告白をされたのだ。

三年の……中学から知り合いだったという女性に。

「それってガチじゃんか……!」

「知らない」

「もう!」

慌てる僕に、幸一君は通常運転。

僕が知ったキッカケだって、たまたまなんだから本当に油断も隙もない。

「こんな……分厚いラブレター貰っちゃって……」

そう。

いつも通り学校が終わって、幸一君のお家にお邪魔して、ぎゅっと抱き付いたら、その勢いで幸一君がカバンを落として。

ごめんね、って拾おうとしたら、カバンから飛び出していたのだ。

明らかにカワイイ、ピンク色の封筒が。

だから恐る恐る引き抜いて、表を見ると、『久保井くんへ』の文字。

その文字が手書きで、尚且つ上品さすら感じられるほど綺麗な字で、それから、裏には、明らかに女性と思われるお名前が書かれていて、僕は固まってしまう。

動かない僕に察した幸一君は、僕を引き上げると幸一君のお部屋まで連れて行ってくれて、僕の手からその封筒を回収するから、僕はやっと覚醒して、問い詰め……取り調べを行っていた。

そもそも学校で僕たちが離れる時間なんて御手洗くらいの時しかなくて、休み時間はそれぞれ別の人と話したりしているけれど、同じ教室に居るから側に居ることは把握できていて。

いつ渡されたのか、いつ受け取ったのか、全く、本当に、想像がつかなかったのだ。

だから最初に問い詰め……取り調べたのは、いつ受け取ったかってことだった。

「い、いつ貰ったの……それ……」

「今朝」

「今朝?」

「ん。家出たら、居た」

「家!」

まさかの直だった。

しかも朝一。

てことはお家が近い人なのかな、と思って、次の問い詰め……取り調べ内容が決まる。

「な、なんでそんな、朝一で来られるの」

「家が近い」

「家!!」

家が近いのは敵わないなと思う。

僕がそんな朝一の接触を阻止しようと思ったら、きっと僕が毎朝起きている時間には家を出なくちゃいけないと思う。

それは……流石にキツい。

でも幸一君がこうして朝一の奇襲に合うなら、僕だって負けないぞ、の気持ちではある。

「ていうか、家が近いってことは……」

「中学が同じだった。二個上だからそんな関わりはない」

「中学……二個上……」

中学の頃の幸一君を知っていてズルいと思う。

僕も見たい。

僕も知りたい。

それから、二個上というのもなんだかズルいと思う。

きっと僕より大人で、こんなに綺麗な字が書けるほど、努力家で素敵な人なんだと分かるから。

「涼太」

「……」

僕からの問い詰め……取り調べが止むと、幸一君は僕に近付いて、僕の頬を撫でる。

だから幸一君の目を見るけれど、僕の心の中は依然騒がしいままだった。

誰から、いつ貰ったのかは分かった。

けれどそんな、あまり関わりのなかった二個上の先輩から、今お手紙を貰う理由が分からなかった。

僕の知らないうちに会っていた?

僕の知らないうちにメッセージでやり取りをしていた?

なんで幸一君は平気そうにしているんだろう。

なんで僕が知るまで、隠していたんだろう。

僕が気付けなかったら、そのまま隠し通すつもりだったのかな。

「涼太。何もない」

「……何もなくは……ない」

「……中学の時、告白された。でもその時も別に、そんなに関わりが無かったし断ってる。今回だって、卒業を間近にして、記念に、みたいなもんだと思う」

僕の頬を撫でながら言う幸一君は、本当に何でもないように言うから悔しくなる。

関わりがなかったのなら、尚更今告白してくるのは、それだけ幸一君のことが忘れられなくて、本気ってことじゃないのかなって思ったのだ。

幸一君は背が高くて、入学式の時、離れた所に居た僕でさえ、その眠そうな顔が記憶に残る程、遠くからでもよく見えた。

前を歩く幸一君の、ちょっとだけ左寄りにあるつむじを、後ろから眺めて癒されていたこともある。

最近はずっと、ずっと傍に居たから、意識していなかったけれど。

幸一君は、目立つのだ。

背が高くて、遠くからでも、よく見えるのだ。

だから、もしかしたら。

いや、多分、きっと。

三年のその人は、幸一君が入学した時からずっと、どこか遠くから、幸一君の姿を眺めて、恋心を募らせていたのではないかなと思った。

じゃないと、あの厚みにはならないと思ったのだ。

さっき触れた時、その封筒は、確かな厚みがあったから。

だから、冒頭に戻る。

「それってガチじゃんか……!」

「知らない」

「もう!」

慌てる僕に、幸一君は通常運転。

僕が知ったキッカケだって、たまたまなんだから本当に油断も隙もない。

「こんな……分厚いラブレター貰っちゃって……」

幸一君はクラスメイトにも、同じ学年の人にも、実は結構モテている。

基本僕が傍に居るせいで、告白の隙を与えていないだけで、きっと、幸一君に好意を寄せている人は他にも居て。

「涼太」

「……やだ」

やだ、と思う。

幸一君は僕と付き合っていて、僕の恋人で、僕の好きな人で。

ちょっかい掛けないで、と思う。

けれど、それを堂々と言う権利を持ち合わせていない。

僕たちはお付き合いを公表できないから。

公表……は、してもいいのかもしれないけれど。

それは僕の、僕たちの夢である、同じ苗字を得るということの、障害になるかもしれなくて。

どうにもできないから、やだ。

幸一君をそんな目で見ないでほしいと思う。

けれど、そんな目で見たくなる気持ちは分かってしまうから、悔しい。

「幸一君のこと、僕が一番、好きなのに」

じわ、と視界が滲むから余計に悔しい。

こんなこと、幸一君に言ったってどうにもならないのに。

幸一君は僕がこうなることを見越して、隠そうとしたのかなと思い至る。

けれど隠し事は嫌だった。

でも知ってしまって、幸一君の前で泣くのも嫌で、困らせたくもなくて、上手く感情が処理できなくて、心がめちゃくちゃで。

「涼太」

幸一君の、優しい声がする。

幸一君は呆れてもおかしくないのに、僕が愛しい、って気持ちが込められた声で、僕を呼ぶ。

だからもっと涙が出て、堪えようとするのに駄目で、息が苦しくて、フラフラする。

「思ってること全部言って」

ほら、って頬の涙を拭われて、滲む視界のまま、幸一君の目を見る。

眼鏡の奥のその目は、何故か嬉しそうにしているから、訳が分からなくてモヤモヤする。

「僕以外に好かれないで」

「……うーん」

それはどうしようも、みたいな顔をするから、ベシベシ幸一君の二の腕を叩く。

嘘を吐かない誠実さは好きだけれど、ここは頷くところでしょうって理不尽に怒る。

「僕の恋人なのに」

「……うん」

「嬉しそうにしないでっ」

「……」

僕の言葉に微笑んだ幸一君は、僕の言葉でその表情を引き締めていて。

「もうっ」

僕の言う通りにしてくれているのに、僕が怒るから笑う幸一君。

「僕、怒ってる」

「そうだな」

キッと睨んでも、僕の頬を撫でる幸一君の手は止まらない。

その穏やかな微笑みが幸一君の心の余裕を表しているから、僅かに腹が立つ。

「隠し事はしないで」

「分かった。ごめん」

「……でも毎回泣いちゃうかも」

「いいよ」

触れるだけのキスが降ってきて、僕は少しだけ、涙が収まる。

「ちゃんと断る?」

「うん。てかもう断ってる」

「……えっ」

僕は、てっきり、ラブレターを貰ったから、読んでから、返事をするのかと、思っていて。

「えっ!?」

「嫉妬可愛い」

「……本当にっ、ばか!」

泣くほど嫌だったのに。

今はすっかり安心しているからズルい。

「本当の本当に断った?」

「うん」

「諦めてくれた?」

「うん。まあそうだよね、聞いてくれてありがとうって言ってた」

「……そっか」

きっと本当の恋だったんだ。

幸一君は渡せないけれど、卒業を思うと、伝えたくなる気持ちは少し分かる。

「好きな人と好き同士になるって、凄いことだね」

「……うん」

「大好き、幸一君」

「うん」

「大好きだよ」

涙はもう止まった。

けれど、少しだけ、鼻の奥がツンとした。

僕が幸一君を好きで居て、幸一君が僕を好きで居てくれることで、傷付く人も居るってことを知ったから。

「俺も」

「んっ」

「大好きだよ」

「……へ」

キスが落とされて、そのままの距離で、幸一君からの『大好き』が聞こえて。

「あ、えっ」

足の力が抜けて、思わずその場に座り込む。

僕の頬を撫でていた幸一君は、驚いた様子で付いてきて。

「今」

「……」

「大好きって言ってくれた?」

「…………」

赤く見える、幸一君の耳が答えだった。

「かっ、可愛い……んっ」

その後容赦の無いキスに襲われたけれど、僕はずっと、にこにこが止まらなかった。

だって、本当に嬉しかったから。

僕を泣かせたお詫びとか、不安を拭う為とか、そんな感じかも、しれないけれど。

言葉にしてくれたことが本当に嬉しかった。

大好きって言葉を貰って、大好きって気持ちが溢れて、僕はずっと、大好きだと繰り返し伝えていた。


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