第19話:白い回廊、古の記憶
勾玉を握り締めた瞬間、視界が真っ白に染まった。
坑道の湿った空気も、肉壁の不気味な脈動も消え去る。気づけば俺は、どこまでも広がる静寂に満ちた白い空間に立っていた。
「……ここは何だ?」
問いかけに答える者はいない。ただ、真っ直ぐに伸びる空間の先で、光の粒子が編み込まれ、一人の人影を形作っていく。
現れたのは、質素ながらも高潔さを感じさせる和装を纏い、手には一振りの扇を携えた男だった。その瞳には、遥か昔からすべてを見通してきたかのような、底知れぬ知性と哀愁が宿っている。
「ようやく、辿り着いたか……」
その言葉は、風の音のように柔らかながらも、空間そのものを震わせる重みを持っていた。
「その勾玉は、烏という種族の『最終進化』を解き放つ唯一の鍵だ。お主の相棒たちが持つ真の姿を覚醒させ、限界を超えた領域へと導く触媒よ」
彼が扇をかざすと、俺の肩で様子を伺っていたケイの全身から、かつてないほど濃密な星の輝きと妖気が溢れ出した。力が、内側から強制的に引き出されていく。
「だが、それは諸刃の剣。進化の奔流は、まだ未熟な今の彼らにとっては強大すぎる。……そして何より、この勾玉の存在こそが、我らのような古い魂をこの深淵に縛り付け、この地を永き呪縛の中に封じ込めている『楔』なのだ」
彼は、自らの身体が透けていくのを気にも留めず、静かに続けた。
「我らは、この地を護るために魂を捧げた。だが、その強すぎる誓いが、図らずも我らを時の流れから切り離してしまったのだ。お主が烏の進化を導き、そして……対となる『もう一つの勾玉』を見つけ出した時、二つの勾玉が合わさる。その時こそ、我らの魂にかかった永き封印は解かれ、この呪縛から脱する道が開かれるだろう」
「脱する道、だと?」
「そうだ。もしお主が真のテイマーとしてさらなる高みへ至るならば、我らの悲願も果たされる。次なる勾玉は、ここではない遥か遠き地に眠る。……我らの願いは眠ることではない。その勾玉を手にし、お主の旅路に同行することだ。若き術者よ、お主の戦いを見届けさせてくれ」
彼が扇を閉じると同時に、その姿が光の粒子となって霧散し、俺の胸の中へと吸い込まれていくような不思議な感覚が走った。
白い空間が割れ、再びダンジョンの冷たい空気が俺の肺を満たした。
手の中の勾玉は、相棒の進化を待ちわびるように熱く、脈動している。俺は決意を込め、その勾玉をケイに見せ、強く握り締めた。




