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第9話:爪牙を研ぐ(前編)――訓練所の門番

Eランクへの昇級手続きを終えた翌日。俺の胸元には、Fから一つ上がった緑色の『Eランク』のギルドバッジが鈍く光っていた。

公的な権限は手に入れた。だが、俺たちのステータスはまだ発展途上だ。生駒山のあの「土蜘蛛・変異種(Lv.25)」に確実にリベンジを果たし、その奥にある未踏エリアの深淵へ進むためには、ケイのスキル進化が絶対に欠かせない。

「あと2レベル。ここで一気に引き上げるぞ、ケイ」

「カァッ!」

大阪・扇町公園の地下に広がる訓練用ダンジョン、その最下層・第3階層。

俺たちは数日前までのように周囲のモンスターを回避するのではない。正面から、2階層と3階層のゴブリンやスライムどもを徹底的にハメ殺しながら最深部へと突き進んでいた。

手にしたのは、ショップで購入したあの黒刀――『炭化タングステン製・剛直刀』。

Eランク昇級試験で剛田さんの『鉄甲犬』や木剣の重圧を経験したことで、俺の身体能力はさらに研ぎ澄まされていた。通常の2.5倍の重量を持つこの黒刀が、今や自分の体の一部であるかのように軽く、鋭く振り抜ける。

ズバッ、と一閃。3階層のゴブリンファイターの革鎧ごと、その肉体を一刀両断にする。

レベルはすでに『9』。進化の臨界点であるレベル10まで、あとわずか。

そして俺たちは、第3階層の最奥に位置する、巨大な鉄格子の前に立っていた。

この先に居座るのが、この扇町公園ダンジョンの「卒業検定」であり、通常なら複数のEランクパーティが万全の準備を整えてようやく討伐できる、訓練所最強の番人。

【フロアボス:大蜘蛛・ケイブラットラー(Lv.12)】

「ソロで挑む相手じゃない」と、座学の教科書なら赤字で書いてある。レベル12。訓練所としては破格の強さだ。だが、今の俺たちにとっては、最高効率の経験値の塊でしかなかった。さらに言えば、生駒山で俺たちを蹂躱したあの化け物も「蜘蛛型」だ。ここで格上の蜘蛛型モンスターとの戦闘経験を完璧に積んでおくことは、リベンジへの最高の予行練習になる。

ギギギ……と重い鉄格子を押し開け、俺はボス部屋へと足を踏み入れた。

そこは、地下水が天井から滴り落ちる、広大な円形のドーム状の大部屋だった。中央の天井には、おぞましい太さの糸で編まれた巨大な巣が張られている。

「――グルルルアァッ!!」

闇の奥から、無数の節足が岩を削る不快な音が響き、そいつが姿を現した。

体長3メートルを超える、禍々しい斑点模様の巨躯。レベル12にふさわしい重圧。八本の鋭い脚は、それ自体が一本一本の強靭な鋼鉄の槍のようだ。何よりも不気味なのは、その頭部に並ぶ、血のように赤い複数の複眼だった。

====================================

**【個体識別:ケイブラットラー】**

* **現在のレベル:** Lv.12(フロアボス)

* **脅威度:** Eランク最上級

* **状態:** 敵対・捕食態勢

====================================

巨体が静かに身を沈める。突進の構えだ。

「ケイ、星の導きを!」

俺の合図とともに、ケイの瞳が金色に輝き、俺の視界に『ケイブラットラー』の放つ魔力の流れと、その巨体が次に繰り出すであろう攻撃の軌道が、鮮やかな光の筋となって放射された。

突進ルートは、中央からやや右寄り。

同時に、尻の糸腺から粘着糸の弾を射出する構え。

「見えた。……生駒山の化け物に比べれば、まだ捉えられる!」

ドンッ!! と凄まじい風圧とともに、大蜘蛛が突進してくる。それと同時に、俺の顔面を狙って白い糸の塊が撃ち出された。

俺は半身をずらし、黒刀を斜めに構えて糸の弾を刀身の側面で叩き落とす。タングステン刀の冷徹な硬度と重量が、粘着糸を強引に引きちぎった。直後、目の前に迫った巨躯に対し、俺は逃げるのではない。あえてその懐の死角へと滑り込むようにスライディングを敢行した。

ガギィィィン!!!

頭上を、大蜘蛛の鋭い前脚が通り過ぎ、闘技場の岩盤を木端微塵に砕く。

すれ違いざま、俺は仰向けの姿勢のまま、両手で握った黒刀を、大蜘蛛の比較的柔らかい腹部に向けて突き上げた。

ザシュゥゥッ!!

「ギガァァァッ!?」

手応えあり。黒刀の圧倒的な重量と鋭さが、大蜘蛛の緑色の体液を派手に撒き散らさせる。

だが、相手はレベル12のフロアボスだ。一筋縄ではいかない。大蜘蛛は苦悶に身をよじりながら、残る六本の脚をデタラメに振り回し、全方位への盲目的な暴風攻撃へと移行した。

岩石の破片が弾け飛び、鋭い脚の先端が、俺の頬を掠めて血を飛ばす。

「くっ……!」

体勢を立て直すためにバックステップを踏んだ俺の目の前で、大蜘蛛の複眼が、さらに妖しく、怒りに染まって赤く発光し始めていた。


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