おまけ回 レイとリズ
山奥だった。
普通の人間なら「なんでこんな場所に来たの?」と真顔になるタイプの山奥である。岩だらけ。草ボーボー。虫だらけ。しかも微妙に霧まで出ていた。
その中を、レイはやたら楽しそうに歩いていた。
「のだっ♡ 冒険なのだっ♡ お宝なのだっ♡ 金貨なのだぁあああ!!」
テンションが高い。
隣を歩くリズは既にちょっと疲れていた。
「……ねぇ」
「のだぁ?」
「その地図、本当に合ってるの?」
「のだっ♡」
レイは胸を張る。
「王都の酔っ払いから銀貨三枚で買ったのだぁ♡」
「絶対偽物じゃない」
「しかもぉ♡ 昔の盗賊王の財宝の地図なのだっ♡」
「もっと怪しいわね」
だがレイは全く気にしていなかった。そもそも、宝探しという響きだけでテンションが上がるタイプなのである。
「のだぁ〜〜♪」
鼻歌まで歌っている。
リズは呆れながら後ろを歩いていた。だが、内心では少しだけ気楽だった。最近の王都は重い。王の死後、空気がずっと張り詰めている。盗賊団ですら、今後どうなるか警戒していた。
だからこそ、こういう馬鹿みたいな時間は妙に楽だった。
「のだっ♡」
レイが突然しゃがみ込む。
「むむっ!」
「何よ」
「キノコなのだぁ♡」
「食べるな」
「美味そうなのだぁ♡」
「絶対毒」
レイはぷくーっと頬を膨らませる。
「リズは夢がないのだぁ!」
「夢見る前に死ぬわよ」
しかし数分後。
「のだぁあああああ!!!」
レイは転がっていた。
「足がぁああ!!」
「……何したの」
「変な草踏んだら痛いのだぁ!!」
「イラクサでしょ」
リズはため息をつきながら薬草を擦り込む。
「うぇぇぇぇん!!」
「うるさい」
「痛いのだぁ!!」
「子供かあんた」
レイは涙目だった。
しかし五分後には完全復活していた。
「のだっ♡」
「立ち直り早いわね」
「お宝が吾輩を呼んでるのだぁ♡」
その後も酷かった。
レイ、崖から落ちかける。
「のだぁあああ!!」
リズに襟首掴まれる。
「死ぬわよ!?」
「ヒゲ生えた蛇がいたのだぁ!!」
「ただのトカゲでしょ!!」
さらに。
「のだっ♡ 宝箱なのだぁ♡」
レイ、全力ダッシュ。
開ける。
ボフン。
「のだぁあああああ!!!」
顔面へ白い粉。
古典的罠だった。
リズは腹を抱えて笑っていた。
「あはははは!! 何その顔!!」
「うぇえええん!!」
レイの顔が真っ白である。
「最低なのだぁ!!」
「ひっ、ふふっ……! だ、駄目……笑う……!」
リズ、完全にツボへ入っていた。
レイはぷんすか怒りながら川で顔を洗う。
「のだぁ……」
「怒った?」
「復讐するのだぁ」
「私に?」
「世界に」
「迷惑」
だが。
宝探しは意外と本格的だった。
地図自体は本物らしく、途中で古い石碑や崩れた街道跡が見つかる。
「……本当に盗賊王の隠れ家っぽいわね」
「のだっ♡」
レイは目をキラキラさせる。
「金貨なのだぁ♡ 宝石なのだぁ♡ 高級酒なのだぁ♡」
「最後だけ趣味出てるわね」
やがて二人は山中の洞窟へ辿り着いた。
暗い。
じめじめ。
しかも妙に広い。
「のだぁ……」
レイは急にリズへぴったりくっつく。
「怖いのだぁ」
「さっきまであんなテンションだったでしょ」
「暗いの嫌なのだぁ」
「……」
リズは呆れたが、少しだけ口元が緩む。
「ほら、行くわよ」
「のだっ♡」
洞窟の奥には古い扉があった。
ボロボロだが、妙に立派。
「むむっ!」
レイが震える。
「これは……!」
「財宝部屋?」
「絶対ヤバい魔物いるのだぁ!!」
「帰る?」
「お宝も欲しいのだぁ!!」
欲望に忠実過ぎた。
二人で扉を押し開ける。
ギギギギ……
中は広間だった。
そして。
大量のガラクタ。
「……」
「……」
「……のだぁ?」
レイが固まる。
錆びた剣。
壊れた壺。
ボロ布。
腐った木箱。
全部ゴミだった。
「……」
「……」
「……騙されたのだぁあああああ!!!」
洞窟へ絶叫が響く。
リズが吹き出した。
「あははははは!! 銀貨三枚!! 詐欺じゃない!!」
「うぇええええん!!」
レイは床をバンバン叩く。
「吾輩のお金ぃぃぃ!!」
「安い授業料ねぇ!」
だが。
その時だった。
リズがふと気づく。
「……待って」
「のだぁ?」
「これ」
壁の裏。
隠し扉。
レイの目が輝く。
「のだっ♡」
二人で開く。
中には。
小さな金庫。
「……」
「……」
「……本物なのだぁぁぁ!!!」
中には金貨と宝石がぎっしり入っていた。
レイ、大歓喜。
「のだぁあああ!! 勝ったのだぁああ!! 吾輩、天才なのだぁああ!!」
「さっきまで泣いてたでしょ」
レイは宝石へ頬ずりしていた。
「愛してるのだぁ♡」
「気持ち悪い」
だが。
リズも少し嬉しそうだった。
久しぶりだった。
こんな風に、何も考えず笑えたのは。
王国は揺れている。
これからもっと荒れる。
だが今だけは。
洞窟の中で。
最低な勇者と元盗賊が、宝石を前に大騒ぎしていた。
「のだっ♡」
レイは突然リズへ金貨を押し付ける。
「ほれ!」
「?」
「デート代なのだっ♡」
リズは少し目を丸くした。
「……珍しい」
「吾輩、今すごくお金持ちなのだぁ♡」
「単純ねぇ」
レイはケラケラ笑う。
そして。
「のだっ♡ 次はもっとデカい財宝探すのだぁ♡」
「絶対また変な地図買うでしょ」
「夢があるのだっ♡」
洞窟の中へ、二人の笑い声が長く響いていた。




