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0時1分の欠落  作者: リョーシリキガク
午後編 愛

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22/24

22時 愛のメモリ

 23時55分。


 監視塔の最上階――階段の奥、暗闇の中から、時計の針のように規則的な靴音が響く。


 現れたのは神宮だった。黒い制服が、闇に溶けている。


「千里眼か……」


 そう呟いた後輩は白いコートを纏い、壁際の装置の傍に立っていた。


「貴方に勝てないのはわかってる。少し話そう」


 後輩は肩を落とし、苦く笑う。


「これが、すべての答えだ」


 彼女は黒いUSBメモリを示す。その端子は、装置に繋がれていた。


「このデータを破壊しなければ、世界は滅ぶ。

しかし破壊すれば、漣先輩の真実も、永遠に失われる」


 彼女は記憶を操る能力者だった。この国のあらゆる機関を巡り、漣に関する記憶を消し回ってきた。

 今、このUSBに残された映像だけが、彼の痕跡のすべてだった。


「0時まで貴方を止めることはできなかったが、残りは4分。USBのデータを無傷で外す時間はない。世界を救うには、破壊するしかない」


 外では、悪魔も能力者も、すでに全滅していた。部屋に配置していた護衛も瀕死だ。

 神宮の力の前には、時間稼ぎにすらならなかった。


「それだけの力がありながら、なぜ全てを壊してでも、先輩を救わなかった?」


「理由は分からない。ただ考え続けようと思う」


「……今夜、世界は滅ぶ。貴方の選択は結局間違いになる」


 神宮は黙って、USBを見た。暗闇の中にカチカチと、赤い光が点灯している。


「君は、世界を滅ぼさない」


「未来でも見えたのか?」


 神宮は静かに頷いた。後輩はハッと笑って続けた。


「未来は、過去と違って変えられるさ」


「未来も、変えられないよ」


 沈黙が落ちる。秒針が一つ進む音がやけに大きく響いた。

 再び、はっ、と後輩はため息を漏らした。

 やはりこの男は悪魔だ。他人を救いなどしない。漣を再現すること、それにしか興味を持てないのだ。

 今だって私の名前も知らず、"後輩"としか認識していないはずだ。


「もう映像を観る必要はない」


 神宮はUSBメモリに向かって指を向けた。


「漣くんなら、“世界”を選んだ」


 指先が赤く光り始める。


「最初、僕は漣くんを再現することを求めてた。でも、それは出来ない。ガラスの靴は、誰にも嵌まらないから美しい」


──ゴーン。


 0時の鐘が鳴った瞬間、USBはパリンと割れた。

 現実は残酷だから、過去には戻れないから、全てのものは移ろい行くから美しい。


「……そう」


「この1分を観ずに世界を救う。それだけで模倣を超えた継承だと分かるから。もう答えはいらない」


 ──ゴーン、ゴーン……。鐘が深く響き続ける。


「それが、貴方の答え?」


 神宮は、僅かに頷いた。


「欠けたままの問いと生きる。僕は彼を愛してる」

 

 時計は0時1分を指した。魔法が解けた後も、人々は生きていかなければならない。この不完全な世界で。

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