20時 エキシビション
一ノ瀬は保安省本部のルネサンス建築から、大通りへ飛び出した。
冬宮の緑白を火炎瓶が照らし出し、広場へと面した正門には人々が押し寄せ、そこへ鋼鉄の巡洋艦が砲口を向けていた。川にかかる大橋が、凍てついた川面に影を落とす。
対岸には灰色の監視塔。大通りをさらに進めば、スケート会場や劇場、絢爛なホテル、路地裏の花屋、そして水族館が、都の英華を歌う。
彼女は歴史のただ中を駆け抜けた。砕けた石畳の割れ目、黒ずんだ壁面、火炎に焼かれた痕。その一つひとつが、街が歴史と共に生きた証を響かせていた。
『レイグラードは溶鉱炉のように、都市全体が赤熱していた
すべてのものは変わりゆく。変わらぬものは、この川の流れのみである。』
——世界を揺るがした12日間
民衆の暴動が最高潮に達した20時。
川の合流地点、凍てついた氷面へ、たった一人、滑り込む少女の姿があった。
街灯の代わりに浮かぶランプが氷を幻想的に照らし、その光の中で彼女の影が揺れる。
群衆の視線が一斉に注がれ、燃え上がっていた革命の炎が、ほんの一瞬だけ静まりを見せた。
──私は滑る。自分の意思で、この国の皆んなのために。
サン=サーンス《死の舞踏》が、どこからともなく流れ出す。
音楽が彼女の身体を包み込む中で、彼女は思った。
神宮の心だけは、私にも読めない。
答えが分からないからこそ、自分の意志で、信じることを選びたかった。
しかしそれは、都合よく形を変えて、自分の欠落を埋めようとしているだけなのだろうか。
確かなのは、私は彼が欠けているからこそ愛したのだ。
大勢の人々が橋の上からこちらを指さして立ち止まった。その背後、冬宮の方角からは大きな爆発音が聞こえてくる。
心が見えないから、人は何かを信じる。
未来を信じること。その行為に何か名前をつけるなら、私はそれを愛と呼びたい。




