八話目。
ついに、最終話に差し掛かってまいりました…。
「…う…」
一之瀬が目を覚ましたところは暗く、じめじめとしたかび臭いところだった。
「ここって…」
そう言って体を動かそうとしたら、手足に痛みが走った。どうやら縛られているらしい。
体がしびれているような感覚に襲われながらも、回りを確認した。そしたら目の前に先ほど一之瀬に告白しようとしていた琴口がいた。
そしてうつむいたまま、琴口は何かをつぶやき続けていた。そしてその傍らには…。
「ひっ…!」
息を呑んだ。ポリタンク。そして微妙に分かるが、やや薄いオレンジ色の液体…ガソリンだろう。
そして手にはマッチが握られていた。
「やぁ…おきたんだね…馨」
そう言ってこちらに琴口はやってきた。
「怯えなくていいんだよ…ただ僕はちょっと耳が遠かったかも知れないんだ…さぁ、こんどこそ、もう一度言ってごらん…?」
そして耳元でささやいた。息が耳や首筋にかかる。
「『琴口くんのことが、大好きです』ってさぁ…言ってごらん…?」
ぞわっと鳥肌が立った。
ただ一之瀬は泣きたくなってきた。なぜなら本気で人を怖いと思ったから。特に琴口が。しかし、
「いや…言わない…」
その一言を絶え絶えになりながらも言った。そして殴られた。
「…どうしてかなぁ…?何で言ってくれないのかなぁ? 言ってよ。『大好きです』って」
「…あなたは何か、勘違いをしている」
そして、一之瀬は話し始めた。
「心の底から人を好きになるっていうのは、かなり難しいことなの。そして、愛するということは、もっと難しい。力ずくでとった恋なんて、なんにもいいものじゃない。悲しくなるだけ。そんな恋なんていらない。あなただってそうでしょう? こんな方法はとりたくないんでしょう? 今ならまだ引き返せると思うわ。早くここから放して」
願いを言葉の一つ一つに込めながら話した。しかし、
「…さい…」
「え…?」
「…うっさいんだよ!!」
そして一之瀬の腹を蹴った。ずん、と思い感触、そして靴の先の固さが伝わった。
琴口は何度も蹴る。それはまるで、母親にお願いを聞いてもらえなかった駄々っ子のような。
そんな感じに見えた。
「なんでだよ!? 何でそういうことを言うんだよ!? 僕のことをすきって、なんども、何度も、言ってくれたじゃないか!! それなのになんだよ!? いまさら手のひらを返したように嫌いって!! ふざけんなぁ!! 僕は悪くない!! 悪くないんだぁ!!」
そして一頻り蹴って、肩で息をしていた。
一之瀬は蹴られながらも、ただ一人のことを考えていた。
そしてこんなことも思い出していた。
(「ねぇ、私がピンチのときになったら、来てくれるの?」
「ったりまえだ!! お前がピンチのときになったら、いつでも助けになってやらぁ!!」)
――――ぴんちのときになったらあらわれてくれる、せーぎのひーろー。
それが、一之瀬馨の、相模喜助に対する評価であり、気持ち。
…今になって考えてみたら何であんなことを言うんだろうか。今度あったら聞いてみよう。
そして目の前がぼやけていたが、琴口はポリタンクの中身をあたりにぶちまけていた。狂ったように、「馨は僕のものだ、誰のものでもないんだ」そ、言いながら、そこかしこにぶっ掛けていた。
そしてポリタンクをぶちまけたあと、そのままマッチ棒を擦って火を出した。
「馨は僕のものだ…誰にも…渡さない」
そう言って火をつけた。火は瞬く間にまわり始め、そして辺りを煌々と光らせ始めた。
火は熱く、激しく、燃え盛っていた。




