九話目。
「火事だー!!」
「空き家から火が出たぞー!!」
「火を消せー!! 早く火を消すんだ!」
「消防はまだなのか!?」
「衛生兵ー!!」
等というような阿鼻叫喚のまぁ、騒がしかった。
そしてその中に相模喜助がいた。
「喜助! 何ぼ〜っとしてんだ!! はやくバケツリレーに参加しろ!!」
「兄貴、早く!!」
そういいながらも体を動かしていた。
そして喜助はぽつりと。
「一ノ瀬…」
一言つぶやいた。
「はぇ!?」
「喜助、何してんだ! さっさと火を…!」
言っている間にその辺にあったバケツの水を頭からかぶり、ずぶ濡れとなった。
黒く改造された学ランは水を吸い込み、余計に黒くなった。
「き、喜助!?」
「兄貴!?」
そういって二人が呆然としている中、喜助は燃えている家の中へと駆け込んでいった。
くらい。
くるしい。
こげくさい。
どこなんだろう。ここは。
なにがあったんだろう。わたしに。
きが…とおくなる…。
「…ちのせ…」
あれ…?
「…一ノ瀬…」
この声は…?
「一ノ瀬!!」
そうやって見つけたのは打撲傷がたくさんある一ノ瀬だった。
ひどく衰弱している。
その傍らにはもはや命はないのだろう、一人の人が転がっていた。
肉が焼ける、人の肉が焼ける、いやなにおいがあたりに漂っていた。
「大丈夫か!? 一ノ瀬!」
「喜助、くん…?」
「よ〜し、まってろよ…今すぐ助けてやっから…」
そういって喜助は適当に壁を選んでそこに体当たりをしていた。
一ノ瀬はかすむ視界でそれをみていた。
そして一言。
「…どうして…あなたはそんなに…」
「あぁ!?」
「どうしてあなたはそんなに、がんばれるの…? あかの他人のために…」
そして喜助は反応した。
「好きなやつのために体張らない男がどこにいんだよ!?」
そして一ノ瀬を抱き起こし、そのまま抱きしめた。
「一ノ瀬。今しかいえねーけど、言うぞ。…おまえが好きだ」
そういった後、また壁に体当たりをして通路を開こうとした。
その間、一ノ瀬は周りの炎のせいか、顔が赤くなっていることに気づいた。
しかし、そうじゃない、と言うこともわかった。
そうやっているうちに、壁を壊して通路を造った。
「一ノ瀬、脱出するぞ!」
そういってお姫様だっこをして、そのまま脱出通路に突撃した。そして、もう一歩で外というところで、
朱く燃えた木の支柱が、二人の頭上に落ちてきた。
「!!」
「ふんごらぁああぁあぁああああぁ!!!!」
喜助は渾身の力で一ノ瀬を外へ投げた。そして最後に一ノ瀬がみた喜助の顔は、
「……んお? ここはどこだ?」
「気づいたかい? 喜助君」
そこは、船の上だった。
死期石が船を棒状のもので押して、どこかに進めていた。
そう。自分がいるのは、川だった。
どこの川かはわからない。ただ。
寒く、暗く、そして、すべてが見えない。
そんな川を進んでいた。
「ああ…おれ、死んだんだな」
「うん」
「…なぁ、俺の気持ち、届いたかなぁ…あいつに」
「さぁて? どうだろうね…?」
「…俺ってさ、どっちに行くんだ?」
「…………」
死期石は答えなかった。
しかし、そんなことは意に介さず、喜助は話し続けた。
「おれってさ、人に迷惑かけてばっかりの人生だったんだよな。いろんなことで俺のために頭を下げられたし、いろんなことで、注意とか、怒られたりした。
正直、いきていてもさ、あんまりいいことはないと思ってたんだよ。てきとーにいきて、てきとーに死ぬ。それが、人間ってもんだろ? でもさ…」
死期石がみたとき、喜助の肩は震えていた。若干、涙声にもなっていた。
喜助はそのまま話し続けた。
「でもさ…俺、今初めて、生きてぇ、って思うんだ。この一週間、生きていることが苦痛なんて…っつーか、つまんねーなんて、思わなかったんだ。すんげー幸せだった。この一週間。……でもさ…
生きてぇよ。
向こうでで待ってる人がいるんだよ。
俺の帰りを、待ってる人がいるかもしれねーんだよ…」
死期石はそこまで聞いた後、おもむろに語り出した。
「じつはね、喜助君。
僕らはとんでもないミスを犯していたんだ。
君が死ぬのは一週間後、僕はそういったよね。
でも、日付のうちでは一週間はまだすぎてはいないんだ。
だから、この船が向かっているところは…」




