六話目。
バイトを始めて二日後。
それなりに金額もたまって、さぁあとは羊羹を買うだけとなったのだ。
そして、いざ、和菓子屋『水月』に行ったら。
水月の羊羹、品切れ中。
次の入荷は明日となります。
ご了承下さい。By、店主
こんな張り紙が。
「嘘だ…」
お金がたまった財布を片手に張り紙の前に呆然と立ち尽くした。
よりにもよって、こんなときに品切れ…!
喜助は口をあけて息を吸い込んだあと、
「嘘だあああぁあぁああぁあぁあ!!!」
思いっきり叫んだ。
「喜助君、そんなに落ち込まなくても…」
その日、日は落ちて家に帰ってきたところ、死期石がいた。
「うっせぇ…俺の…俺の一世一代の大事なときに…」
「在庫切れなんてねぇ…羊羹屋さんなのになんで…」
「しるかっ!!」
そう言って喜助は布団を広げようとして襖にてをかけようとした。
「じゃあ作れば? 羊羹」
「はぁ?」
死期石がとんでもないことを言った。
「馬鹿いうんじゃなぇよ。素人に羊羹なんて作れるわけねぇだろ」
「作ろうと思えば作れるんじゃない? 羊羹くらい」
「だから作れねぇって。だいたい、そんな設備がどこにあるってんだよ」
「ここ」
そう言って死期石はどこからともなく自分の座っている場所から立ち上がって、穴を作り、そこからさまざまなものを取り出した。
死期石と喜助が羊羹の作り方について話していたころ…。
一之瀬は電話で友達と話していた。
『そーいえばさー馨』
「なに?」
『あんた好きな奴とかいるの?』
どきん。
友達がそんなことを言うもんだから心臓の心拍数が飛び上がったような気分に襲われた。
「や、やだなぁ、そんな人いるわけないじゃん」
『だよね〜! 馨って好きな人とかいても告白しようとしたらすぐに倒れそうなような奴だもんね〜!』
「もう! そんなことはないよ!」
倒れるまでは行かないが、好きな人に告白しようとしな時に勢いあまってチョップは出しそうだが。
『あ、ひょっとして、好きな人って…』
「おい、人の話聴いてるか?」
『相模喜助くん?』
お風呂に入ってはいないのだが、頭から湯気が出てきた上に、顔や手足が厚くなってきた。
「そ、そそそそそそそんなことないじゃん! だ、だれがあんな…」
と、言ったところで言いよどんだ。
「あんな…」
『お〜い、馨〜? どうしちまったんだ〜?』
「……………」
『あのさ、聞いてるかどうか知らないけどさ、あんまり相模喜助にはかかわんない方がいいと思うな〜、私は』
「え? なんで?」
それはちょっと聞き捨てはならない。
『だってさ〜、不良だよ? ワルだよ? あの人。馨とは絶対にあわないって』
「う〜ん…」
『それよかさ! ほら、あのなんて言ってたっけ? あんたのクラスにいる…』
「琴口くん?」
『そ! それそれ! アンタと趣味が合うし、なかなかにいい人っぽいじゃん! 付き合うんだったらああいう人が言いと思うなぁ〜私は』
「ちょ、それはハルっちの意見でしょ〜? これは私の恋なの!」
『はいはい。んじゃね』
「うん。またあした〜」
そう言って受話器をおろした。すると、
「付き合うんだったら、一度父さんに合わせてくれないかな? 馨」
そういう声を出したのは一之瀬の父親だった。
「なんで…」
「え〜? だって自分の娘の伴侶になる男なんだよ〜? ちょっと位見てもいいじゃんか〜」
「はいはい。それと、伴侶って、この場合使い方間違ってると思うよ?」
「マジで!? うわ〜、やっべぇ〜編集さんに怒られたらどーしよー」
父親の職業は作家である。一応は人気があるらしく、食うに困ったことはない。
ちなみに母は一之瀬を産んだときにはすでに他界しているそうだった。
「でもなぁ、馨」
自分の部屋に行こうとしていた一之瀬を父親は呼び止めた。
「婿を選ぶときには、やっぱ目を見ろよ?」
「なんで?」
「決まってんじゃん。目を見たら大概の奴はいいほうか悪い方って、見極められるんだよ。母さんもそーだったなー」
「はいはい」
そう言って一之瀬は自分の部屋に行き、ベットに入って考えていた。
(相模喜助って、不良じゃん?)
その言葉に言い返せない自分に少し腹がたった。
そんなことない。喜助君は私が不良に襲われそうになったとき、駆けつけてくれた。
その一言がいえなかった自分に、ひどく腹が立った。




