89話 ある意味似た者?同士
心身ともに軽やかになった郁人は
ジークスに連れられ、廊下を進む。
「綺麗な旅館だな」
〔本当ね。品があって、落ち着きも
あるから心地いいわ〕
窓から見える景色から3階以上の
階にいる事がわかり、廊下に飾られた
花々が色を添え、品を感じられる。
「俺が居た部屋ってどんな部屋なんだ?」
「彼らが経営するこの旅館の中で
最上級の部屋だそうだ」
「道理で……」
郁人は部屋の内装を思いだし、
頷く。
〔納得だわね。
内装は勿論、家具類も最上級だったし、
たしか……欄間っていうのかしら?
あれ凄く精巧で、使われていた木も
かなり珍しいものだったもの〕
(俺に勿体ないと思うけど……
2人に感謝しないとな)
考えていると、ふと疑問が浮かぶ。
「そういえば、チイトはどうやって
報告したんだろ?」
ユーに乗ってきたから郁人達は
短時間で着いたが、ソータウンから
こちらまでは相当距離はある。
「ユーに乗って伝えたのか?
それとも飛んで行ったのか?」
「それは……」
「パパ!!」
ジークスが答えようとしたとき、
とてもはしゃいだ声が聞こえた。
「起きたんだね!よかった!!」
声の主、チイトは影移動で瞬きする間に
郁人の影へと移動し、抱きつく。
「体調とかも問題ないみたいだね!
あの花が疲れてるパパに最適って
聞いてたけどそうみたいだ!
元気になって本当によかった!」
「おはようチイト」
「うん!おはようパパ!!」
嬉しそうに抱きつくチイトの頭を
撫でる。
撫でられたチイトは頬を緩ませた。
「マスター、おはようございます」
廊下を歩いていたポンドも郁人に気付き、
3人に駆け寄る。
「顔色も申し分無い……
いや、それ以上ですな。
元気なお姿を見られて安心しました」
「ポンドもおはよう。
心配してくれてありがとう」
「心配するのは当然です。
私はマスターの従魔ですからな」
胸に手をあてていたポンドは、
あっと声をあげる。
「フェイルート殿達にもお知らせ
しなければなりませんな。
とても心配されておりましたから」
郁人の元気な姿にポンドは
声を弾ませながら、先へ進む。
「おっと、伝え忘れておりました」
が、途中で足を止めて振り向く。
「チイト殿、ジークス殿!
修繕が終わったそうです!
いつでも大丈夫との事です!」
伝えると、再び廊下を進んでいった。
内容がわからない郁人は首を傾げる。
「修繕ってなんのことだ?」
「鍛練場のことだ。
君が寝ている日から彼と手合わせを
していたんだ」
疑問にジークスが答えた。
「フェイルート達が、俺達がいちいち
険悪になってたらパパの心労が
堪えないから手合わせで落ち着けって。
手合わせの内容も竹刀か肉弾戦かに
絞られてるけど、ストレス発散には
なってるかな?」
「内容は限られているが、その分
どのように動くか考えるのも面白くてな」
ガス抜きにはなってると2人は語る。
〔手合わせするのはいいかもね。
こいつらが初迷宮のときみたいに
暴れられたら敵わないもの。
適度に条件の下、暴れられるには
問題ないわ〕
ライコも手合わせに同意した。
「そうか。
怪我したら言えよ。
羽で治すぐらいは出来るからさ」
「了解した」
「ありがとうパパ」
ふと郁人に疑問が浮かぶ。
(……それにしても、ジークスとチイトは
なんで険悪になるんだ?)
顎に手をあて、思考する。
(迷宮の時は、ジークスが無断で俺に
血肉を食べさせていた事にチイトが
激怒したからだ。
だから、険悪を通り越して命を奪いそうに
なるまでになった)
あのような光景は2度と見たくないと
郁人は口を一文字に結ぶ。
(けど、今はそんなきっかけみたいな
事は無いと思うんだが……
俺がきっかけに気付いてないだけか?〕
それとも、単に相性とか?
と郁人が考えていると、
とても長いため息がヘッドホンから
聞こえた。
〔マジで言ってるのこいつ……?
いえ、こいつならマジでしょうね……〕
そして、チイトが郁人に物言いたげな
目を向ける。
「どうかしたか?」
「……パパがそういった機微に疎いのは
わかってるけど」
〔……あたしでもわかるわよ、これ〕
「えっ?なに?」
ライコの言いたげな声とチイトの瞳に
少しうろたえてしまう。
<あまり言いたくは無いけど……
俺とジジイはある意味似てるんだよね>
かなり癪だけど
とチイトはぼやく。
<独占したいというか、なんというか……
あっちは無意識な分、たちが悪いけど……>
あっちが自覚したら尚更たちが悪くなる
と呟いた。
<だから、俺達は無意識に言葉や
態度にいろいろと出ちゃうんだよ。
もし、関わらない内容なら仲良く
とまではいかないけど……
連携とかは出来るかもね?>
(似てる?
2人に共通点があるのか?
どういうことだ?)
頭に疑問符を浮かべる郁人に
チイトはため息をつく。
「……まあ、うん。
そう思っていいよ。
うん。俺が頑張るだけだから」
郁人の首に頭をすり寄せたあと、
眉を下げる。
「…………ごめんなさい。
勝手にパパがどこから来たのかとか、
俺達の事とか全て話しちゃって」
チイトは話した経緯を告げていく。
「こういうのは、パパに了解を
とってからが良いってわかってたけど、
パパの記憶の治療中にその事が出て、
はぐらかすのも無理だと分かったから……。
本当に……ごめんなさい」
懇願するような口調でチイトは
郁人に謝罪した。
「謝らなくていいよ」
ビクビクと怯えている態度に、
郁人はチイトの頭を撫でる。
「もとは俺が言ってなかったのが
悪いんだから気にするな。
言うきっかけが出来て、気にしていた事が
なくなって清々してるくらいだしさ」
ちっとも気にしてないという気持ちを
込めて優しく触れた。
本心からの言葉だとわかったのか、
チイトはほっと緊張を解いた。
固かった表情が和らいでいく。
「そっか。
パパが怒ってなくて良かった」
「ちなみに、どうやって伝えたんだ?」
ソータウンまで距離があっただろ?と
尋ねた郁人にチイトは答える。
「簡単だよ。
"転移"してこのキューブを渡しただけ」
「……てんい?」
思いも寄らな方法に郁人は
目をぱちくりさせる。
「うん、転移。
"瞬間移動"とも言うかな?
すぐに行けるようパパの宿に印を
つけといたんだ。
だから、パッと転移してあいつらに
キューブを飲ませて、感想を聞いて
パッと帰って来た」
だから時間もかからなかったよと
無邪気に笑うチイトにライコが叫ぶ。
〔転移ってそんな簡単に出来るかああああ!
転移は魔術ではなく魔法……!!
しかも空間魔法の最上位魔法!
奇跡とも言われているのよっ……!!〕
ライコはあり得ないと叫ぶ。
〔空を飛ぶより上の、魔術師なら誰でも
夢みる魔法なのよ!!
習得する為に人生の全てを捧げた奴だって
いるのに……!!
そんな簡単に言うなああああああああ!!〕
<印を付けて、ただ行き来するだけだ。
人生捧げる程のものじゃない>
〔捧げる奴だっているわよ!!
だって、奇跡なのだから!!〕
この規格外はと叫ぶライコに
呆れるチイト。
「転移魔法をこの目で拝める日が
来るとは思わなかったよ……。
俺もだが、ポンドはしばらく
固まっていたな」
「あのさ、転移魔法や空間魔術の
属性ってなんだ?」
あの時は心臓が止まるかと思ったと
告げるジークスに、郁人が問いかける。
(空間魔術の最上位らしいし、
転移魔法も同じ属性になるよな?)
スケールをいまいち理解しきれず、
属性やらを考えだす郁人。
ジークスは眉を下げる。
「転移の属性は私にもわからないな」
「転移は空間魔術と同じ無属性に
あたるよ」
わからないジークスに代わって、
チイトが疑問に答える。
「移動系統だから風属性だという奴も
いるけどね。正直、俺みたいに
印を付けて移動できるなら
そこまで属性にこだらなくてもいいかな?
無属性はここでは1番ポピュラーなもの
みたいだし、1番使い勝手が良いから」
誰でも持ってる属性だからね
とチイトは告げた。
「そして、空間魔術も魔力によって
大きさや質が左右されるから
属性はやっぱりそこまで関係無いよ。
使い勝手が良くて、誰でも出来るから
無に分類されてるだけだから」
「そうなのか……」
チイトの説明に郁人はふと思い出す。
(そういえば、あいつは風属性だったな……)
自身が描いたキャラクターの1人が
風属性なのだ。
(あいつなら無属性をどうやって
使うんだろ?
キャラの設定上、風属性だけで
満足するとは思えないし。
あいつも使いこなそうとするだろうからな)
<そうだね。
あいつ、かなり強欲で自信家だから
“余に使いこなせないものなどない!
とか言ってやってそう>
キャラの1人について考えていると、
ジークスが乾いた笑いを浮かべる。
「彼はもう何でもありだな……。
後、あのキューブは色々とおかしい。
ポンドがうずくまった理由がわかったよ」
「飲ませた全員がうずくまったが、
そんな酷いものか?
ただ記録が脳に流されるだけだろ」
「……母さん達は大丈夫だったのか?」
ジークスが思い出したのか青ざめ、
口元をおさえる姿に不安になった
郁人は尋ねた。
「大丈夫だよ。
全員にエリクサーを飲ませといたから。
あの医師やパンダはエリクサーを見て
また気絶したけど」
エリクサーだとわかった瞬間、
奇声をあげて倒れたとチイトは告げた。
<そりゃ伝説の霊薬を見れば誰だって
そんな反応するわよ!!>
「……君の驚きの基準のハードルは
高過ぎると思うぞ」
ライコは声をあげ、ジークスは
頬に汗をかく。
「じゃあ、パパ早くフェイルート達の
とこへ行こ!
用が済んだら一緒に観光したいもん!!」
ライコやジークスの意見を流し、
郁人の腕を組んでチイトは廊下を進んだ。
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