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76話 朝のクッキング




日光が窓から差し込み、

鳥が鳴き、人々に朝を告げる。


「楽しみだなあ」


郁人は早起きし、体を揺らし

リズムをとりながら、上機嫌で

自室のキッチンに立っていた。


〔もっと寝とかないで大丈夫なの?

疲れはとれた?〕


昨日のドタバタを思いだし、

心配したライコは声をかけた。


(大丈夫。

フカフカベッドで疲れとれたし、

ユーを抱きしめながら寝ると

すごい眠れるんだ)


ユーはマシュマロみたいに

フワフワで抱き心地が良いからと

郁人は告げた。


〔この生物、あんたが

抱きしめやすいサイズに

わざわざ変化してたわね〕


就寝前の様子を思い出した

ライコは呟いた。


〔動いたり、大きくなったりしても

魔力を使わないとか……

本当になんなのかしら?〕


尻尾で郁人のリズムに合わせ、

手元を覗きこむユーを見て

不思議そうな声をライコは上げた。


〔で、あんたは何をしているの?〕


興味深々にライコは尋ねた。


郁人は質問に答える。


(米を炊こうと思ってな。

あのポチ袋自体に空間魔術が

施されてたみたいで、結構な量が

入ってたから土鍋で炊こうかと)


郁人は洗い、30分水に浸けていた米を

ザルにあけてしっかり水気をきる。


「炊飯器もありだが、

土鍋が好きなんだよなー。

おこげとか出来て最高だしさ!

……ここに炊飯器は無いけど」


郁人は用意していた土鍋を手に取る。


〔その土鍋どうしたの?

この世界にあった?〕


記憶にないわとライコは呟いた。


(この土鍋は魔道具の店で見つけたんだ)


ウキウキしながら郁人は答える。


(この街にいろんな魔道具を揃えた

店があってさ。

不思議な物が多いんだけど、

これみたいな良いものもあるんだよ)


見てて面白いんだと告げた。


〔魔道具店ってことは、それも?〕

(うん。

熱を閉じ込めれる魔道具らしい。

俺じゃ使えないって言われたから、

普通に調理道具として使ってるんだ)


魔道具として使わないのは

君くらいだと、店主に呆れられた事を

郁人は思い出した。


〔それ、あんたの血で魔力の代用は

可能みたいよ〕


調べたライコは教えた。


(断固拒否)


郁人は首を横に振った。


(俺の魔力を使うと俺の四肢が

吹き飛ぶらしいから)


命は惜しいからと告げた郁人に

ライコは声をあげる。


(なにそれ?!どういう……!?

ホントね……

調べたけど、事実だったわ)


どれだけスキルに特化し過ぎてるのよ

と息を吐いた。


(使えても、食べ物を扱うものに

血なんて使える訳がないけどな)

〔英雄はあんたが食べる物に

喜んで自分の血肉を使ってるけど〕

(……俺とジークスは価値観が違うから)


ライコの言葉に視線をそらしながら、

土鍋に米をいれ、水を入れた郁人は

強火にかけた。


〔それにしても……

あんたの部屋にもキッチンを

用意してたなんて驚きだわ。

トイレにお風呂、洗濯機、冷蔵庫とか……

ここで十分暮らせるわよ〕

(俺もびっくりした)


郁人はもう1度、部屋を見渡す。


以前とは比べ物になら無い程、

部屋は充実し、実に豪華になっている。


自身に用意された塔の内部と同じ、

使うのをためらわれる高級な家具。


それに加えて、ウォシュレット付き

"トイレ"。


いつでも温かい湯に浸かれる広々とした

"浴室"。


放り込むだけで全てしてくれる

"全自動洗濯機"。


どんなものでも入れられる大容量の

"冷蔵庫"。


そして、どんな調理器具もある

使い勝手抜群の"キッチン"だ。


(母さんが使ってるキッチンも

ここと同じだし、宿には男女に分かれた

大きな風呂場も設置されたからな)


郁人はの風呂場を思い出す。


チイト達が設置した風呂場は

とても大きく、まさに銭湯のようだった。


見たジークスとポンドは

しばらく口をポカンと開け、

隅々まで観察していた。


郁人は気持ちよさに長湯してしまい、

ついのぼせてしまいそうになった程。


風呂上がりに冷えた牛乳やらが

置いてあったのはありがたかった。


(母さんはキッチンと冷蔵庫に

1番大喜びしてた。

……あんなに嬉しそうな母さんを

見れて良かったよ。

2人と妖精族に本当に感謝だな)


ライラックは頬を紅潮させ、

女神の微笑みを全開にしながら

自身に説明していた場面を思い出し、

郁人は頬を緩ませる。


「さて」


そして、冷蔵庫から使用する具材を

取り出した。


〔なにを作るのかしら?〕

("おにぎり"だ。

米を味わうならやっぱり

おにぎりかなと思って)


久しぶりに食べたいしと

郁人は告げた。


〔あら?

魚もいっぱいあるじゃない〕


具材に使用する食材の中に

魚があることにライコは声をあげた。


〔この辺りは海とか川が近くに

ないのに、珍しいわね〕

(チイトとヴィーメランスが

釣ってきてくれたんだ)


不思議がっていたライコに

郁人は答えた。


〔そうだったの!

かなり釣ってきたわね、あいつら〕

(俺的には有難いよ。

ライコの言うように、

近くに海や川が無いから魚は

高いんだ)


魚が商店に並んだら早い者勝ちだし

と郁人は肩を落とす。


(だから、魚とか食べたくても

なかなか食べれないんだよなあ。

これだけ魚があるなんて

嬉しいよ)


まだ冷蔵庫の中にある魚を思い浮かべ、

次はなにを作ろうか郁人は気持ちを

弾ませる。


冷蔵庫にはチイトやヴィーメランスが

郁人の為に狩ってきた食材が

山程詰め込まれている。


宿で使う冷蔵庫にも食材を

入れてくれているので、

しばらく食材に困らなくて済むのだ。


(スイーツに使うものも入ってるから、

まさに食材の宝庫だな)


郁人は具材の調理に取りかかる。


(最初はツナマヨにしよう。

ポンドと約束してるし。

昨日作っておいたツナを出すか)

〔ツナを手作りするとかこだわるわね〕


ライコは感心したように呟いた。


(缶詰めがあったらもっと楽が

できたんだけどな)


缶詰めのありがたさを感じながら

自家製のツナに手を伸ばした。



ーーーーーーーーーー



「おはようイクトちゃん。

この白くてホカホカしてる

これは何かしら?」


店の準備を終えたライラックは

おにぎりを見た。


「おはよう、母さん。

これは"おにぎり"って言うんだ」


郁人は嬉しそうに説明する。


「俺の故郷にある米で作った、

携帯できて、腹持ちがいい、

しかも、お手軽にできる料理なんだ。

見た目は一緒だけど、中に入ってる

具は違うから」


郁人はいつも家族で食べる1階の角の

スペースにおにぎりを持ってきていた。


テーブルには大量のおにぎりが

並んでいる。


「これが君が食べたがっていた

"コメ"とやらか……」

「湯気が出ておりますな」

「パパお手製おにぎりだ!」


ジークスとポンドは興味津々で見つめ、

チイトは声を弾ませた。


ユーに至ってはよだれを流して、

いただきますの合図を今か今かと

待っている。


「これがイクトちゃんがいつも

食べたがっていたおコメなのね。

全部1人で食べても良かったのよ」


気を遣わなくてもと告げたライラックに

郁人は照れくさそうに口を開く。


「美味しいものは皆で食べたほうが

良いし、なにより……

故郷の料理を母さん達と

一緒に食べたかったんだ」

「イクトちゃんらしいわね。

ありがとう」


ライラックははにかんだ笑みで

見つめながら郁人の頭を優しく

撫でた。


「じゃあ、食べようか。

ユーが待ちきれないみたいだし」

「そうね。

これ以上待たせたら可哀想だわ」


待ちきれない様子のユーを見て、

ライラックは微笑んだ。


「では、いただきます!」


郁人とともに、皆がおにぎりに

手を伸ばす。


「どれがどのおにぎりか忘れたし……

まず、これにしよ」


最初に1番端にあるおにぎりを掴み、

郁人は思いきり頬張る。


「鮭だ!」


ご飯のふっくらとした甘みと

鮭の肉と油がほどよく口の中で溶けて

混ざり合う。


その味わいは炊きたてを頑張って

握った甲斐がある。


「これだよ!

これが米の美味しさだよな!」


久々の米に感動しながら、

郁人は頬張っていく。


〔おにぎりって、こんな味わいなのね。

鮭との相性もバッチリだわ!〕


いつの間にか味覚を共有していたライコが

声を弾ませた。


「イクトちゃんが食べたがっていた

理由がとてもわかるわ」


目を輝かせながら、ライラックは

薔薇色に頬を染めて食べ進める。


「コメにもほのかな甘みがあっていいな。

この甘じょっぱい肉と合う」


ジークスは1口で食べたのか、

手にはもう新しいおにぎりがある。


「マスター!

マヨネーズと和えたこれは

とても私好みですな!」


ポンドはツナマヨを取ったようで、

喜色満面に溢れる。


「パパのおにぎり美味しい!」


チイトは無邪気に笑いながら、

頬張っている。


食べた全員がおにぎりの中身は

なんだろうと食べ進め、頬を緩ませた。


ユーもおにぎりを頬張り、

尻尾がちぎれそうな程振っている。


郁人はおにぎりを食べた後、

ライラックに告げる。


「母さん。

この米があるのが気になるし、

なにより、会わなくちゃいけないから……。

家でゆっくり出来ずにごめん」


すぐ旅に出ることに対し、

郁人は謝罪した。


「いいのよ。

少し寂しいし、心配だけど……

イクトちゃんが帰って来てくれることは

わかってるから」


だから私は大丈夫と、優しく微笑む。


「ここで貴方の帰りを待ってるわ。

また帰ってきたらお土産話を

聞かせてちょうだい」

「うん。

絶対に帰ってくるから」

「皆さんもイクトちゃんを

よろしくお願いしますね」


ライラックは郁人の頭を撫でたあと、

全員に頭を下げる。


「パパを守るのは当然だ」

「言われなくとも」

「マスターを必ず母君の元へ

帰してみせますとも」


頭を下げられた3人は当然だと

態度でも示した。



「お邪魔します~」



ーすると突然、扉が開く音が響いた。





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