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77話 狐とぬいぐるみ




扉を開けた人物は口を開く。


「朝早くにすいませ~ん。

頼まれていたもの届けに参りました~」


その人物は黄金色の獣耳を動かし、

艶々した長い金の髪をゆるく2つ下に結び、

狐の尻尾を揺らした肉感的な美女だ。


服装も自慢のスタイルを強調したもので、

全てが自信に満ち溢れている。


「……って、なんでしょ?

すごく美味しそうな匂いがしますね~」


鼻をひくつかせながら、

長い睫毛に縁取られた大きな瞳を

キョロキョロと動かした。


(どこかで見たような……)


思い出そうと頭を捻る郁人の前を

ライラックは進み、

そのまま美女へと駆け寄る。


「あら、ガーベラさんおはよう」

「おはようございますぅ~」


"ガーベラ"と呼ばれた美女に

ライラックがおにぎりを差し出す。


「美味しい匂いの正体はこれよ。

イクトちゃんが作ってくれたの。

よかったらどうぞ」

「朝あまり食べてなかったので

ありがたくいただきますね~」


美女はおにぎりを貰うと、

郁人を見つける。


「あら、もう帰って来てたんですね、

その子。

……相変わらずお若いですね~」


ガーベラと呼ばれた美女は郁人を

羨ましそうに見た。


郁人はその視線で思い出した。


「あ、俺の肌がどうとか言ってた人だ!」

「君の肌に触れて色々尋ねていた者か」


ジークスも覚えていたのようで、

あっと声に出した。


「あの時は不躾(ぶしつけ)に触り、質問責めなどの

はしたない行為、失礼いたしました」


ガーベラは頭を下げる。


「自己紹介が遅れましたが、

わたくしはガーベラと申しますぅ。

貴方とライラックさんの若さの理由を

知りたく、この街に越して参りました。

以後、お見知りおきを」


おにぎりを持っていないほうの手を

狐の形にしながら、ガーベラは挨拶した。


「わたくし、服やアクセサリー等の

販売をしておりまして、オーダーメイドも

可能となっておりますぅ。

もし気になりましたら、

是非是非、お立ち寄りくださいませ~」


豊かな胸の谷間から名刺を取り出し、

全員に渡していく。


〔あそこに名刺を入れてるのね……〕


予想外な入れ場所に

ライコは思わず口に出した。


「おしゃれになりたいあなたの味方

"狐福(きつねふく)"。

家から近いんだ」

「男性の服も扱っておりますし、

男性店員もいますから気楽に

いらっしゃってくださいませ~」


いつでも歓迎します~

と、ガーベラはあでやかに微笑むと

おにぎりを頬張る。


「これすごく美味しいですね~!」


ライラックから受け取ったおにぎりを食べ、

尻尾を揺らした。


「イクトちゃんが作ってくれたの。

この子はとっても料理が上手なのよ」


自分の事のように、ライラックは

郁人の自慢をする。


「パパが作ったから美味いに

決まってる」

「彼の料理はとても美味しいんだ」

「マスターの料理は絶品ですからな」


ポンドはお茶を淹れると、

ガーベラに渡す。


「宝石のように輝く君。

お茶をどうぞ。

おにぎりにこのお茶は合いますので」

「ありがとうございますぅ」


ガーベラは微笑みながら

ポンドから茶を受け取った。


「……噂にはいろいろと聞いてましたが、

貴方達の反応からしてそのようですね~」

「噂?」


お茶を飲むガーベラに郁人は尋ねた。


「知りませんかぁ?

貴方、イクトさんが来てからここの料理が

更に美味しくなったと有名なのですよ~」


料理目当ての客が更に増えたとかと

ガーベラは告げた。


「もっとも、周囲の方のほうが

噂の的になっておりますが」


ガーベラは片手を狐にし、

全員を見る。


「この街、いや国で1番の美人と

名高いライラックさん」

「そう言ってもらえると

嬉しいわね」


ライラックはフフと口元を綻ばせる。


「逆鱗に触れたら死を覚悟。

"歩く災厄"チイトさん」


チイトはどうでもいいのか

黙々とおにぎりを頬張っている。


「その実力はまさにS級。

今でも国からランクアップを

熱望されるジークスさん」

「きっぱり断ったんだが……」


ジークスはため息を吐いた。


「剣を抜かずとも相手を瞬殺、

黒鎧の騎士ポンドさん」

「もう噂になっているとは早いですな」


ポンドは予想外と告げた。


「……と、この街以外でも色々と

噂になっておりますよ~」


チイトさんはもとから有名ですが

と語りおにぎりを口に含む。


〔あんた達は噂の的になるわよ。

黒鎧は大衆の前でしたから当然よね〕


ライコはガーベラの話に

頷いているようだ。


「ジークスって今でも熱望されてたんだな」

「ここでお話してたけど、

ジークスくんきっぱり断っていたわね」


使者の方が肩を落としていた

とライラックは語る。


「国から打診ってかなり名誉な

ことなのですが……。

貴方には執心しているものが

あるようですから~」

「執心?」


頭に疑問符を浮かべる郁人を

ガーベラが指差す。


「貴方ですよぅ、あ・な・た!」

「俺?」


ビシッと指差され、目をぱちくりさせる。


「そうです~。

ジークスさん、貴方と遊びたいから

女性の誘いもきっぱり断ってるそうで」


取りつく島もないとかと語る。


「それで、しくしくと枕を濡らす女性が

後を絶たないそうですよぉ~」


バーで涙を流す女性を実際見ましたし

とガーベラは告げた。


「君以上に優先するものでは

ないからな」


ジークスははっきり断言する。


「……いい人が出来たらその人を

優先してくれな。頼むから」

〔こいつ……

恋人が出来てもあんたを

優先しそうで怖いわ……

まず、出来るかしら?

この状態で?〕


郁人が頬をかき、

ライコが深く息を吐いた。

ユーも思わずため息を吐く。


「まあ、イクトさんはチイトさんの

執心相手のようですから更に

話題になっておりますよぅ」


もうすごいものだと告げる。


「あの永久凍土並みにクールな

チイトさんが無邪気な子供のようとか。

2度見する方が後を絶たないそうです~」


わたしも驚いて耳がピンとなりましたと

語る。


「イクトさんが女性なら更に

盛り上がるのに、実際は男同士の

熾烈(しれつ)な戦いですからね~。

……1部の方には脚光の的ですが」


最後の言葉は聞き取れなかったが、

郁人の背筋がぞくりと泡立つ。


「……なんだろ、寒気が」


寒気に郁人は肩を抱く。

ユーは心配して頬にすり寄った。


「イクト、大丈夫か?

顔色が悪い気がする。

俺の上着を羽織るといい」

「貴様の上着なんか必要ない。

パパ、マントいる?」


ジークスが上着を脱ぐもチイトが制止し、

マントを渡そうとする。


「ありがとう、2人共。

でも、大丈夫だ。

こうやって暖もとれるように

なったから」


郁人は意識を集中し、

カラドリオスの翼を出した。


サイズは皆に当たらないように

以前より小さめだが人1人を包むには

十分だ。


「まあ!

これがイクトちゃんが言ってた羽ね!

触ってもいいかしら?」

「わたくしもよろしいでしょうか?」


目をキラキラと輝かせる2人に

郁人は頷く。


「大丈夫だよ、母さん。

ガーベラさんもどうぞ」


2人は郁人の翼に触れる。


「とってもフワフワだわ!」

「……これで布作ったらかなり

上等なものになりそうですね」


ライラックは触り心地に

目をとろんとさせ、

ガーベラはなにやら剣呑な

目付きに変わる。


その剣呑さに郁人は更に寒気を覚え、

身を包む。


「この羽で空も飛べるのよね。

本当にすごいわ!」

「まだそんなには飛べないけど、

これくらいなら……」


郁人は羽ばたいても大丈夫なように

翼を更に小さくし、羽ばたかせて

少し浮いてみせた。


「まあまあ!」

「こんな小さくても飛べるんですね~。

あっ、オプションで作りましょうか?」

「えぇ!

お願いするわガーベラさん!」

「オプション?

なんの話ですかな?」


ポンドが盛り上がる2人に声をかけた。


「この頼まれていたものの事ですぅ。

テレレレッテレ~」


少し危うい感じのBGMを口にしつつ、

谷間から頼まれていたものを取り出した。


「それって……俺?!」


取り出したものは

郁人のぬいぐるみであった。


服装や死んだ目も完璧に

再現されている。


〔あんたの世界に似たものあったわよね?

着せ替え服とかも売られてるやつ〕


見たことあるわとライコは告げた。


「ライラックさん、

貴方が旅に出てからかなり

寂しそうでしたので、

ノリで作りましょうか?

とお声をかけしたら前のめりで

是非とお願いされましてね~」


ガーベラは経緯を説明した。


「あっ、姿はギルドのスキャフープに

貴方のデータがあったので

スケッチさせていただきましたよ~」


自信作です~

とガーベラは胸を張った。


「スキャフープは借せないけど、

スケッチならとOKと許可を貰ったの!

それにしても……

イクトちゃんにそっくりだわ!

本当にありがとうガーベラさん!」


郁人のぬいぐるみを抱きしめながら、

花開く笑みを浮かべた。


「オプションで翼も作っときますね~。

あと、これお2方もどうぞ」


ガーベラは谷間から2体の郁人ぬいぐるみを

出すと、チイトとジークスに渡す。


「貴方達にも作らないと怒られるかと

思いましたので、差し上げますぅ~」

「怒りはしないのだが……

ありがたくいただいておこう」

「いい判断だ、狐女」


ジークスは自身に対するイメージに

困惑しながら、チイトは堂々と

受け取った。


〔あの女将さん、あんたが旅に出て

本当はかなり寂しかったんじゃない?〕


あんたには隠してたけどと告げた。


〔あんたの為を思って、旅に出るのは

認めてるけどやっぱり寂しい……

みたいな?

長旅になればなるほど、

あんたのぬいぐるみが増えそうね〕

(……長旅はなるべく控えよう)


自身のぬいぐるみに気恥ずかしさを

覚えながら、郁人は静かに決意した。




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