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58話 最初で最後の会話




頭に突如流れてきた映像に

ジークスの鼓動が激しくなる


「……これは……もしや………?!」


流れてきた映像は間違いなく

前王"ローズイヴァン"の

ものであったからだ。


確信できた理由は、

映像に出てきた正室が

自身の母"アナスタリア"。


そして、出てきた子供は正真正銘

"自分自身"だったのだから。


(なぜ流れ込んできた……?!

まさか……?!)


自身の手を見ると、

真っ赤に染まっている。


財宝を見れば、

そこに写りこむジークスは

返り血を全身に浴びていた。


邪竜の体ではない為、

前王の血だ。


(血を浴びていたから

流れてきたのか……?!

いや、邪竜の罠かもしれない……!!)


自身が知っている前王とは

全く違う。


自身を愛しい我が子と呼ぶ、

まさに父親の姿にジークスは

思考が停止する。


ジークスが固まっている間も、

邪竜は必死に動こうとしている。


「邪魔……するなあっ……!!!」


が、邪竜は呻くも体は動かず、

ジークスを待っている。


そして、再び口を開く。


「……ジー……クス……。

こん……な……父親で……

すまな……かった」


次の声は間違いなく

ローズイヴァンの声だ。


ジークスを見つめ、語りかけた。


その瞳は、母親と同じ色、

愛情を浮かべている。


「首を……斬られ……て……

死ん……だこと……で……

邪竜に……取り込まれて……いた

私……は解放……され……た。

こんな……形でも……お前と

話す……ことが……出来……て……

……嬉しく……思う……」


柔らかな瞳で見つめたあと、

自身の手を見て悲しげに呟く。


「この手……では……

抱き締め……るどころか……

もう頭を……撫で……ることも……

出来……ないな……」

「何を……?!」


自嘲する姿に言葉を紡ごうとした瞬間、

ある記憶が流れ込む。


母と共に寝ている

幼い頃のジークスを

前王が見つめ、頭を撫でている

映像だ。


嘘だと考えたが、

この映像に、記憶には身に覚えがある。


母のではない、がっしりとした

大きな手がぎこちないながらも、

優しく頭を撫でてくれていた事が

度々(たびたび)あったのだ。


寝ぼけていた幼いジークスは

誰かわからぬまま、

大きな手のあたたかさに

心地よさを覚え、安心して眠気に

身を任せてしまった事を思いだす。


ーあの手の正体が、わかった。


「貴方……だったのか。

あの時、頭を撫でてくれていたのは……」


ジークスは息を呑んだ。


そんなことは露知らず。

邪竜……いや、ローズイヴァンは

思いを吐露していく。


「お前が……こんなに……大きく……

なってい……たとは。

この……目で見……れて……嬉し……い。

アナ……スタリ……アの……喜ぶ顔が……

目に……浮かぶ」


嬉しそうに目を細めるローズイヴァン。


「お前とは……もっと……

話した……い事が………山…程……

いや……それ以上は……あ……るが

……無理……だ……ろう……な」


消え入りそうな声で

自身の現状を伝える。


「邪竜……から……解放さ……れた

と……はいえ、……私……も……

1度……死んだ……身だ……。

今……このように……いられるのは……

奇跡……そのもの……。

私が……邪竜……を……

抑……え……られ……るの……も

……時間の……問題……だ……」


ローズイヴァンはジークスを

真っ直ぐ見つめ、告げる。


「私が抑えて……いる内に……


ー 邪竜ごと……討て……」


「?!」


ローズイヴァンの言葉に

ジークスは息を止めた。


先程まで、邪竜を討つべく

構えていた大剣は震えている。


(あいつは邪竜だ。

前王の意識が戻っていても

それに変わりはない。

なのに、なぜ……

俺の手は震えているんだ?!

なぜ……?!)


自身の鼓動がバクバクと早鐘を打つ。

なぜだと自身に問いかけるジークスに

ローズイヴァンは口を開く。


「邪竜に……乗っ取られて……

いたとはいえ、私が……した事……は

……許される……訳がない。

国を……民を……なにより……お前を……

大切な宝物……を殺そう……とした

事実は……変わら……ない……のだ」


ローズイヴァンは視線を下に向けた。


「お前にも……守り……たいも……のが、

宝……が……出来……た……ことは

顔……を……見れば……わかる。

あのとき……とは……違い、

目に……光が……ある…。

誇り……が宿って……いる。

その顔を……その姿……を……

見れた……だけで……

……私……は……充分……だ」


ローズイヴァンの瞳に優しい光が宿る。

紛れもなくその瞳は"父親"の瞳だ。


我が子を愛おし気に見つめる、

優しい父親の瞳。


命令を下し続け、

死地に送り続けた時の

冷たい瞳ではない。


これは間違いなく……

"子を想う父親"の瞳だ。


本当の父親の瞳は、こんなにも……

あたたかく優しいものだった。


幼い頃、とうに諦めていたものが

本当はあった。


邪竜というおぞましいものに

隠れていただけだったのだ。


「……………っ」


その事実にジークスは唇を噛む。


「さあ……。

早く……止めを……」

「……その前に、1つ……いいか?」


ジークスは拳を握りしめたあと

尋ねた。



ー「俺が……私が産まれてきて……

良かったと思っているか?」



ジークスにとって、幼い頃から

ずっと尋ねたかった問いだ。


言葉をろくにかわしたことはなく、

顔を見るのも命令が出される時のみ。


本人の口から直接聞きたかった。

ずっとずっと聞きたかった言葉だ。


ローズイヴァンは目尻を下げ

はっきり告げる。



ー「そんなの……当然だろ……う。

お前は……私とアナスタリアの……

大切な……宝物だ。

産まれてきてくれて……

ありがとう。

我が……愛しい子よ」



「その言葉が聞けて嬉しいよ。

こうやって言葉を交わせて良かった。


ー父上」



ジークスの手からギロチンは

振り落とされた。



ーーーーーーーーーー



邪竜が討たれたことにより、

湧き出ていた魔物は砂のように

消滅した。


郁人達はジークスの元へと

洞窟を進む。


特に、事の顛末(てんまつ)を見届けた

郁人の足取りは他の者達に

比べると前に出ている。


〔まさか、邪竜の中に

王様の意識が残っていたなんて……〕


ライコは声を震わせる。


〔死の間際で、親子として

初めて会話が出来るなんて……

言葉に出来ないわ。

しかも……

自分で手を下す事になるなんて……〕

(……………)


郁人は一目散に階段を進み、

穴から身を乗り出してジークスを

確認すると、そのまま下へ飛び降りた。


「パパ?!」

「マスター!?」

「父上?!」

〔ちょっ?!

あんた危ないから誰かと一緒に

降りたほうが!?〕


全員が慌てる中、郁人は本番に強い

タイプなのだろう。

翼を出して無事に舞い降りた。


翼の音に気付いたジークスは、

郁人のほうへ振り向く。


ジークスの表情はいつもより力がない。


「イクトッ!?

いつの間にここへ!?」

「その……チイトの力で

ジークスが戦っている姿を見てた」

「……そうか」


郁人の言葉にジークスは息を呑み、

1拍、間を置いてから話し出す。


「無事に倒した。

だから、早く上に……」


しかし、言葉は途中で終わる。


郁人が涙を流していたからだ。


「どうしたイクト?!なにが……!?」


オロオロと慌てるジークスに

郁人は声を震わせながら告げる。


「ジークスが泣かないからだ。

泣きたいって……

顔に書いてあるのに」

「……!?」


郁人は袖で涙を拭うが、

止まらない。

ポロポロ涙は落ちていく。


嗚咽を漏らしながら、

郁人は言葉を紡ぐ。


「ジークスの気持ちが……

全部わかる訳じゃない。

けど、泣きたいって事だけは

わかるから。

それに、俺はどういう

言葉をかければいいのか

頭がごちゃごちゃして、

さっぱりだけど……

涙がどんどん出てくるんだよ」

「……君は優しいな。

いや、君はそういう人だったな」


ジークスはじっと見つめたあと、

郁人の頭に手を置く。


「俺の為、私の為に泣いてくれて、

父の為に泣いてくれて……

ありがとう」

「……俺が慰めなきゃいけないのにな」


郁人は目を腕でこすると、

ジークスの顔を見る。


「チイトに頼んで、ジークスの父さんを

上に運んでもらおう。

ここは邪竜の棲みかであって、

ジークスの父さんの場所じゃないからな」

「ありがとう、イクト」


郁人の言葉に、ジークスは

目尻を下げる。


「………………」


ジークスの表情をじっと見て

郁人は口を開く。


「……ジークス。

泣きたい時は思いっきり

泣いたほうがいいぞ」


その言葉にジークスは首を

横に振る。


「人前では泣けない性分でな。

彼らもいるから尚更だ」


いつの間にか降りてきていた3人を

横目で見た。


「だが……」


郁人の頬に手を伸ばし、触れる。


「もし、泣きたくなったら……

君の隣を借りてもいいだろうか?

私の感情を受け止めてほしいという

我が儘になるが……」


不安そうに瞳を揺らし、

唇をぎゅっと結んだ。


了解したと、郁人は頷く。


「よし!どんと来い!

きっちり受け止めるからさ。

お前が1人で泣いたら、

どんどん暗い方向に

考えが行きそうだしな」


任せろと、郁人は自身の胸に拳を当てた。


「ありがとう、イクト」


いつでも受け止めるという姿に、

ジークスは柔らかく微笑んだ。


「パパ!

ジジイの親はもう仕舞ったよ!

だから、早く行こう!」


2人の様子に、チイトは駆け寄る。


「父上!

このような場に長居は不要です!」


ヴィーメランスも足早に迫る。


〔……あいつら我慢してたわね。

あんた達が話していたのを

すごい顔で見てたわよ〕

(そうなのか?)


ライコの言葉にキョトンとなる。


〔そりゃそうよ。

あいつらファザコンだし。

英雄に少し同情したのか、

話が終わるまで我慢してたもの。

すごい嫌そうな顔で見てたわよ。

あの顔は……〕


話している途中で、

視界がぐらりと揺れる。


「なんだ?!」


これは目眩(めまい)ではない。

地面が揺れているのだ。


同時に、鼓膜を揺さぶる

地鳴りが周囲に響き渡った。


思わずライコは声を上げる。


〔なになにっ?!なんなのよ?!〕

(すごい揺れだなっ?!

力を入れないと倒れそうだ!!)


郁人は頑張って足を踏ん張る。


その揺れは、今にもこの場所が

崩壊するのではないかと

連想させる程のものだ。


積まれてあった黄金の山が次々と

崩れて行く。


ーそして、熱風とともに地面から

天高く何かが噴き上げた。




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