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49話 スタンピードを制する為




風を切り裂く音と共に

空から凄い勢いで何かが

こちらに向かってきている。


空と同化しているのか

視認出来ず、郁人は目を凝らす。


(なんだろう……?)

〔色が似てるのかしら?

よく見えないわ〕


正体を確認しようとする郁人。

同じく、じっと見ていた

サイネリアは声を上げる。


「アイズだ!!」


気づいたサイネリアは急いで駆け寄る。

郁人達もその後を追う。


「アイズ?」

「サイネリアが飼っているワイバーンです。

あいつは勝手に行動しない筈なんですが……」


郁人の問いにヴィーメランスが答えた。


向かってきていた"アイズ"は

ふらふらとサイネリアの元に着地した。


いつも綺麗に手入れされている

鱗はぼろぼろ、体から血を流して

今にも倒れそうな姿にサイネリアは

顔を青ざめる。


「どうしたアイズ?!一体何が……!?」

「急いで手当てしないと……!!」

「パパ落ちついて。

これを使うから」


2人が傷だらけのアイズに

慌てていると、チイトが空間から

虹色に輝く液体が入った小瓶を

取りだし、そのままアイズにかけた。


「なんと……?!」


ポンドが驚くのも無理はない。


アイズがみるみる回復し、

傷1つも見当たらない万全な状態に

なったからだ。


自身の体を見たアイズは目を輝かせ

上機嫌で鳴きながら、嬉しそうに

翼をはためかせる。


「チイト、何をかけたんだ?」


郁人は息を呑みながら尋ねた。


「"エリクサー"だよ。

こいつ邪竜の気に当てられて

体の自由を奪われかけていたから。

傷も治るし、あらゆる弱体化を解除する

これの方が良いと思って」


チイトは空間から同じものを取りだし、

郁人に見せる。


「エリクサーだと!?」

「嘘?!本当に!?」


ジークスとサイネリアは目を丸くした。

ポンドはあまりの衝撃に固まっている。


(エリクサーってなに?)


頭にはてなマークを浮かべる郁人に

ライコは説明する。


〔"エリクサー"。

別名"神の万能薬"!

飲めば不老不死や、あらゆる

病気や怪我を治すといわれる

作り方すらわからない……

魔術師の永遠の課題とされる幻の薬!!

なんであんたが持ってるのよっ!?〕


興奮さめやらない様子のライコに

チイトはため息を吐く。


<俺が作ったからだ。

それに言われる程の万能薬ではない。

不老不死ではなく、寿命を10年

延ばす程度。

効果を持続させるには"毎日飲み続ける"

という条件つきだ>

〔そうなの?!〕

<知らなかったのか?>


ライコの驚き様に呆れながら

チイトは続ける。


<弱体化解除には最適だが、

治癒は使用者本人の自然治癒力を

一時的に高めて治す為、

自然治癒力が無ければ焼け石に水。

ただの液体に過ぎない>


チイトは空間からエリクサーを

1瓶取り出す。


「作ってみたものの、パパの体調は

治らない上、通用しないんだよね……」

「待って!

俺、飲んだ記憶無いんだけど……」


眉を下げ、エリクサーを

見つめるチイトに郁人は尋ねた。


疑問にチイトは答える。


「パパと最初に会ったとき

お水渡したでしょ?

あれがエリクサーだよ」

「……全然わからなかった」


見た目や味も変えてたからね

と、チイトは笑う。


「いきなりエリクサーだから飲んでと

言っても不審がられるかなって……。

勝手にごめんなさい」


謝るチイトに郁人は頭を撫でる。


「俺の為にしたことだろ?

謝らなくても大丈夫。

あとびっくりするけど、チイトが

渡すものを不審に思う事はないから」


不審に思ってたなら水も断ると

ハッキリ言う郁人にチイトは

目を丸くした。


「そっか、そっか……」


照れたようにふにゃりと

チイトは笑った。


「パパにそう言ってもらうと

心がぽかぽかするや。

でも、パパに効果がないから

捨てるね。

毎日飲んでも飽きないように

味や色のバリエーションも増やしたけど

結局役に立たないし……」


パパに使えないんじゃ意味が無い

と肩を落とし、空間から大量の

エリクサーを再び出すと地面に

投げ捨てようとする。


捨てようとするチイトを

郁人は慌てて止める。


「チイトの気持ちで充分だから!

弱体化解除や自然治癒力を高めるのも

すごい事だぞ!

勿体ないから捨てるのはやめよう!

なっ?」

「……わかった」


チイトは考え直したのか空間に

戻した。


ヴィーメランスが口火をきる。


「エリクサーで流れてしまったが、

貴様……"邪竜"と言ったな」

「あぁ、言った」


チイトはハッキリ告げた。


「こいつは邪竜の気によって

あと少しで自我を失いかけていた。

飼い主に危険を知らせようと

抵抗してここまで来たみたいだがな」

「邪竜……?!

陛下が危ないっ!」


サイネリアは更に顔を青ざめる。


「安置所は邪竜の封印の真上!

陛下の御身が……!!」

「サイネリアはアイズと共に

すぐに向かえ!!

この場は俺がなんとかしよう!」

「ありがとうヴィーくん!

頼むよアイズ!!」


サイネリアはリナリアの危機に、

アイズに(また)がり、風のように

飛んで向かった。


「この場って……

一緒に行かなくて良かったのか?」

「一緒にいけば、彼らが街に

侵攻することを許してしまうからだろう」


ジークスの指差した先を見て、

郁人は愕然(がくぜん)とする。


草原を黒い波が染めていっている。


魔物のあまりの数に草原自体が

見えなくなっているのだ。


〔なんて数の魔物なの?!

地平線全て埋め尽くされてるじゃない!!〕


あまりの数にライコは悲鳴をあげた。


「……全て邪竜に当てられているな。

自我が無く、操り人形と化している。

街には……まだ邪竜の気は及んでない。

この国の本拠地である城と、

魔物の巣窟(そうくつ)でもある迷宮に

範囲を絞っているようだ」


チイトは冷静に分析し、

現状を把握した。


「これだけの魔物が街に行けば

壊滅するだろう。

……そうはさせないが」


ジークスは大剣を構える。


「全て燃やし尽くせばいい話だ。

ポンド、貴様は父上の護衛だ。

傷1つでもつけてみるがいい。

その首、魂ごと燃やしてやる」


ヴィーメランスの睨みに臆することなく、

ポンドは口を開く。


「貴方様なら出来そうで怖いですな。

ですが、その機会は無いのでご安心を」

「パパはさっきいた木の下に

ポンドとユーといてね」

「わかった」


足手まといになることは

理解している為、郁人は素直に従い、

木の下に駆け足で向かった。


「3人であの数……大丈夫か?」


木の下から再び魔物の数を見るが、

かなりの多さに郁人は冷や汗をかいた。


瞬間、轟音(ごうおん)と共に

真っ赤な光が辺りを染め上げた。

熱風が郁人達のもとにまで届く。


「あつ……?!」

「マスター!私の後ろに!!」


これ以上の熱風から庇う為、

ポンドは郁人の盾になるべく前に立ち、

郁人はユーを守るために抱っこし、

光に背を向け熱風が弱まるのを

2人は待つ。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫。

ありがとう、ポンド。

何が原因だったんだ?」


弱まった頃に郁人達は光と熱の正体を

確認する。


「あれは……火なのか?!」


正体は、遠くからでもわかるくらいの

巨大な火柱だ。

火柱は青空を朱と金に染め上げていく。


そして、次々と魔物を飲み込んでいった。


〔なによあれ……?!

炎が大蛇みたいに動いてるじゃない!!〕

(……ヴィーメランスだな。

ヴィーメランスは炎を自由に

操る事が出来るから)


ライコが気圧(けお)されたように

息を吸い込んだ。


逃げ惑う魔物をヴィーメランスが

炎を(まと)った剣で切り裂き、

遠くに居ても、銃が火を吹きお構い無しだ。


たとえ、炎の地獄から命からがら

逃れても待っているのは地獄に

変わりない。


暗さに気付き魔物が空を見上げれば

空を埋め尽くす、夜を思わせる杭が

降り注ぎ命を簡単に奪い取っていく。


その地獄絵図を産み出したのは

チイトだ。


氷のように冷たい目で見下ろしながら

再び空を黒で染め上げると、

容赦なく黒い雨が降り注ぎ

魔物の命を散らした。


〔相変わらず凄まじいわね。

空を飛びながら杭を魔法で

何度も作り出して攻撃とか……

並の奴等じゃ飛ぶだけでも大変だってのに〕


ライコは思わずこぼした。


〔まあ、英雄候補もスゴいのだけど〕


ライコの言葉に郁人は視線を

ジークスに向ける。


出口付近にいた魔物は白刃一閃(はくじんいっせん)

ジークスの大剣が魔物を刈り取っていく。


たとえ攻撃できたとしても、

ジークスの肌に傷1つつけることはない。

魔物が出来ることは自身の命が

刈り取られるのを待つのみ。


出口に辿り着けた魔物は1匹もおらず、

ジークスの周囲に斬られた魔物が

どんどん山積みにされていく。


ー 1目でわかるくらいに圧倒的だ。


〔3人は意識してないでしょうけど、

エリアに分かれてるように見えるわ。

それぞれ担当エリアがあって、

自身のエリアの魔物を倒してる感じね〕


ライコは感想を述べ、光景に思わず呟く。


〔……本当に容赦ないわね。

魔物からしたら地獄よ、これ〕

(実力差があり過ぎて可哀想に思えるな)


郁人はユーを抱っこしながら

ホッとする。


「心配は杞憂(きゆう)に終わったな」

「そうとは限りません」

「どうしてだ?」


郁人がポンドを見ると、

ポンドの前には魔物の死体があった。


「ここは迷宮です。

邪竜の気により"スタンピード"

"魔物の大量発生"が起きています。

何より、私が元迷宮の魔物でしたから

知っていることですが……」


郁人の顔の横をポンドの剣が迫る。


そして、背後から悲鳴が聞こえ、

頬に何か生温いものがかかる。


「え?」


振り向くと、背後に魔物がおり、

額に剣が突き刺さっていた。


頬を触り、見ると生温いものは

真っ赤な血だった。


「スタンピードの間、迷宮の魔物は

どこからでも出現可能です。

安全な場などありはしないのです」


ポンドは剣を振るい、血を落とすと

ハンカチを取りだし郁人の頬の血を拭う。


「ありがとう……」

「迷宮は魔物を供給しているようなもの。

ですので、迷宮との持久戦ですな。

街への侵攻を防ぐ為、攻勢には

なかなか出られませんから」


ポンドの言葉にライコは同意する。


〔こいつの言う通りね。

調べたら、迷宮の魔力は邪竜の気が

流れてきた事によって暴走していたわ。

普段のスタンピードとは桁違いで

魔物の出現率が上がってる。

迷宮の暴走が治まるか、

魔力が尽きるまでの持久戦よ。

……侵攻されるのも時間の

問題かもしれないわ〕


ライコがポンドの意見に更に加えた。


〔出現場所がわかれば

一網打尽にしやすいけど、

ランダムじゃあいつらでも

厳しいんじゃないかしら?〕

「出現場所を特定……」


(あご)に手をやり郁人は呟く。


「特定ですか?

特定出来れば倒しやすいですが

難しいでしょうな」

「難しいか……あっ」


郁人はある案を思い付いた。

ユーを肩に置いて、提案する。


「ポンド」

「なんです?」

「俺の魔力は魔物にとって

"御馳走(ごちそう)"なんだよな」

「はい。

喉から手が出る程の代物で……

まさか?!」

〔あんた……?!〕


ハッと息を呑む2人をよそに、

息を大きく吸い込む。


「おーーーーい!!」


郁人は腹の底から声を出し、

3人に告げる。


「今から俺を狙って魔物が来るから

倒してほしい!

他力本願で申し訳ないけど、

後はよろしくお願いします!!」


郁人はペンを出現させると、

利き手ではない右手にペンを突き刺した。


手の平が熱くなり、赤い液体が流れていく。



ー 流れた瞬間、魔物の目の色が変わった。





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