表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/377

41話 魔力の量と質



満天の星空の下、

辺りは湯気に満ち、肌を湿らせる。


しかし、不愉快なものではなく、

心地よいと思わせるほどだ。


なぜなら……



「温泉最高!」



ーそう、温泉だからだ。



ヴィーメランスが案内した場所は

源泉かけ流しの"露天風呂"だった。


"炎竜の湯"と呼ばれており、

ドラケネス王国で"人気1位"を

獲得している。


今回、ヴィーメランスが

貸し切りにしたので郁人達の独占だ。


絶景と温泉を満喫し、

胸を軽くする郁人。


「炎竜の湯だからか、

体がポカポカしてる気がするな」


ふと、頭に疑問が浮かぶ。


「なんで炎竜の湯なんだろ?」


赤くないから色ではないな?効能か?

と、湯を手で掬う郁人に

ヴィーメランスが答える。


「名の由来は、俺が理由でしょう」

「ヴィーメランスが?」


キョトンとする郁人に、

前で浸かるヴィーメランスは話す。


「はい。

俺が発見したからかと。

ドラケネス王国は火山がある為、

探してみると、源泉がありましたから」

「そうだったんだ!」


ヴィーメランスの説明に、

郁人は目をパチクリさせる。


「他国にもあるようですが、

湯に浸かる習慣が無いからか、

見つけたとしても、足に浸ける程度。

この温泉は今では、ドラケネス王国の

観光産業の要でもあります」


浸かる文化を教えるのに苦労したと

ヴィーメランスは眉間にシワを寄せる。


「まさか温泉に入れるなんて驚いたし、

なにより嬉しいな!!

見つけてくれてありがとう!

ヴィーメランス!」


感情に溢れた声で、

郁人は心から感謝を告げた。


この世界でヴィーメランスが言った通り、

湯に浸かるという習慣、文化がない。


風呂と言えば、

シャワーを浴びるのみだ。


湯に浸かる文化、習慣となっている

郁人には物足りず、

体が芯から温まった気がしない。


なので、桶に湯を張り足湯で

誤魔化していたのだ。


風呂、しかも温泉に浸かれる事は

郁人にとって、とても嬉しい。


「恐悦至極」


喜びに満ちる郁人の言葉に

ヴィーメランスは1礼する。


口許が緩んでいるので、

郁人の言葉や態度が嬉しかったのが

丸分かりだ。


「この湯は体に良い事も

証明されております。

父上の御体にも良いかと」

「言われてみれば……

パパの血色良くなってるし、

表情もよく見たら微かに動いてるよ」

「本当か?!」


隣で顔を覗きこむチイトの言葉に、

郁人は顔に手をやる。


「パパの体はすっごく冷たいからね。

入った事で、血流が良くなったのかも」

「……家にもあったらなあ」


毎日入れば少しは体が良くなるかもと、

郁人はため息を吐く。


「湯に浸かるというのは

気持ちいい事なんだな。

君がよくぼやいていた理由がわかった」


髪をいつもより上に結んだジークスは、

温泉の体全体を満たす心地よい温かさに

感嘆の息を漏らす。


「だろ?

疲れた時に入ると生き返るんだよ。

もう最高!」

「あぁ。最高だな」


郁人のはしゃぐ姿を

微笑ましくジークスは見つめる。


「マスター」


ポンドが温泉の縁から手招きし、

郁人に呼び掛けた。


「どうかしたのか?

風呂に入らないの?」


ポンドに近づき、(ふち)に腕を置きながら

伺う。


「要件を終わらせてからと思いまして……」

「要件?」


郁人に視線を合わせるため、

ポンドは膝をつく。


「契約内容についてです。

とその前に……

マスターの魔力についてお話が……」

「魔力?」


突然で、郁人は首を傾げる。


「はい。

マスターは自身の魔力量や質を

知らないようですので。

知っておいて損は無いですからな」


ポンドは郁人に分かりやすいように、

図を見せる。


手書きだが、とても正確で見やすい。


「まず、魔力の量から説明しましょう。

マスターは平均の魔力量に対して、

3分の1程しかありません」


平均と郁人の魔力量の図を指し示した。


「ですので、術によっては発動する前に

魔力が枯渇し、倒れる危険性があります。

マスターの場合、体が弱いですから尚更。

スキルは魔力をあまり消費しませんが、

契約できるのは1体だけですな」

「……俺の魔力ってそんなに無いんだな」


図に示された自身の魔力量を見て、

肩を落とす。


「しかし、魔力の質は桁違い。

量の少なさを補える……

いえ!それ以上なのです!」

「え?」


桁違いの言葉に郁人の体がうずく。


「こちらに大きな湖があるとします。

この湖を染める為の染料を

魔力の質に例えましょう」


別の図面を取り出し、説明する。


「他の方は染料をかなり消費しますが、

マスターの場合はほんの1滴で

染め上げる事が可能なのです!」


図面をバシンと叩く。


「もっと具体的に申しますと、

他の方の血を頂いても1週間に対し、

マスターの血を少し頂くだけで、

私は1年も余裕で現界が可能なのです!!」

「そんなに違うのか!?」


郁人は声を上げ、

期待に胸を膨らませる。


「じゃあ、魔術も使えたりするのか?!」


やはり、ファンタジーの世界に

来ているので、魔術に対して

憧れを抱いている。


フェランドラに教えて貰おうとしたが、

体力がついてからの話だと、

教えて貰えなかった。


量に対して落ち込んだものの、

可能性が見えた事は嬉しいのだ。


「理論上、マスターの質は

魔術を行使する際、魔力をあまり

使わなくても問題無いので可能ですな。

しかし、実際に使えるかとなると

また別の話でして……」


ソワソワする郁人を前にして、

ポンドは言い辛そうに口を開く。


「マスターの質は魔術に対して、

その……相性が最悪なのです。

まさに水と油と申しますか……」


ポンドは視線をそらす。


「マスターの質はスキルとの相性に

特化され過ぎてまして……。

下手すれば、魔道具に魔力を込めた段階で」

「段階で?」


先を促す郁人にポンドは断言する。


「暴走して四肢がちぎれますな」

「よし!

絶対に魔術使わない!!」


憧れより命を優先した郁人は宣言した。


いつの間にか、側で聞いていたユーも

同意するように頷く。


「それが1番かと。

後、絶対に迷宮で怪我をしてはいけません」


その宣言に深く頷きながら、

注意する。


「なにかあるのか?」

「はい。

マスターは私と初めて出会った時を

覚えておりますかな?」


ポンドの問いに、顎に手を当て

思い出す。


「覚えてるけど……。

イービルなんちゃらとかに

足を掴まれた時だよな?」

「そうです。

あの時、マスターは微量ですが

出血しておりました。

体液には魔力が込められており、

特に血は更に濃いものなのです。

私はマスターの血、もとい

魔力に惹かれて現れたのです」


ポンドは説明する。


「マスターの魔力は魔物にとって、

喉から手が出るほど惹かれるものなのです。

もし私以外が現れていたら魔力を得ようと

食べられていた可能性がありますな」

「……俺の魔力ってそんなになのか?」


血の気が引く郁人に、

ポンドは力強く頷く。


「それはもう、かなりのご馳走です。

私はそこまで魔物寄りではないので、

警護につかせていただきました。

最悪の場合、あの迷宮で

魔物の餌になっていましたでしょうな」

「ポンド助けてくれてありがとう!

絶対に怪我しないようにする!!」


ポンドの手を取り、心から感謝した。


「そのように心掛けていただきたい。

私もお護りしますが、

気をつけていただいたほうがよろしいので。

さて……」


ポンドは郁人の言葉に頷きつつ、

懐から書類を出した。


「契約内容に移させていただきます。

契約はしましたが、細かいところは

決めておりませんでしたからな。

どうぞ、お目通しください」


そして、郁人に差し出した。


差し出された郁人は、

首に巻いていたタオルで手を拭き、

受けとった。


ユーも肩に乗り、覗き込む。


目を通すと、

書類は"履歴書"そのものであった。


「動機は、契約の際に申しました通り、

貴方様をお守りしたいと、

そう思ったからですな。

他には、そこまでではないとはいえ、

私も魔物ですので、魔力の質に惹かれて……

というのもございます。

契約されましたマスターの安全は勿論、

人生相談もお受けしますし、

恋の悩みとなれば私の技術を

お教えしましょう!!」


自身の動機や長所を語っていく

ポンドに耳を貸しつつ、

手元にあるファンタジーとは

かけ離れた書類に目を遠くする。


(なんだろう……

俺って面接官だったか……?)


ポンドは自慢気に胸を拳で叩く。


「戦も女性も百戦錬磨な

私にお任せください!!」

「女性関係は修羅場になりたくないので

丁重にお断りします」

「なぜですかな?!」


モテる術は聞きたいが、

女性方面はお断りしつつ、

郁人はポンドと雇用内容について語った。



「ところで、皆さんマスターとお話する際

結構近いのですがなぜでしょう?」


ポンドの疑問に郁人は答える。


「俺も前、気になったから聞いた。

理由は、目を見るためらしい。

"目は口ほどに物を言う"

って言うだろ?

表情が無いから、目を見て感情を

読み取ろうとしているって」

「成る程」

「ポンドだってそうだろ?

目を見るためか近いし」

「確かにそうですな。

無意識でした」


ポンドは郁人との距離に気付き、

納得した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ