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39話 兄妹の過去



ジークスは墜ちた後の経緯を

リナリア達に話した。


その間に、ヴィーメランスは紅茶を

淹れており、全員が紅茶に舌鼓を打つ。


上品な匂いは気持ちを落ち着かせ、

緑茶のような爽やかな風味と程好い苦味が

くせになる。


ユーは風味と黄金色した明るい色合いを

気に入り、もうおかわりしている。


郁人も気に入っており、

ヴィーメランスに礼を告げる。


「ヴィーメランスありがとう。

初めて飲んだ時も思ったけど 

本当に美味しい!」

「父上からそのようなお言葉を

いただけるとは……恐悦至極」


ヴィーメランスは郁人に1礼した。


口元が緩みそうになっているのを

顔の筋肉を使って耐えていた。


サイネリアは紅茶を味わい、

頬を緩ませる。


「ヴィーくんの紅茶サイコー!

びっくりした気分が落ち着いたよ!!」


そして、ジークスを見て

眉を八の字にする。


「でも、まさか……

墜ちていたなんて思いもしませんでした」

「お兄様が邪竜と相討ちになったのは

現場を見て理解しておりましたが、

まさか……墜ちていたなんて……」


リナリアもサイネリアの言葉に同意した。

ジークスは苦笑しながら、言葉を紡ぐ。


「左半身と共に翼が焼かれて飛ぶことが

不可能になったからな。

だが、墜ちた事で色々な事を知る事が

出来た。

……なにより、彼に会えた」


ジークスは左斜め前に座る郁人に

視線を向ける。


「彼のおかげで……

私は初めて生きているのだと実感した。

初めて……"生きていたい"と思えたんだ」

「お兄様……」


ジークスの柔らかな微笑みを見て、

リナリアは感極まる。


「お兄様……本当に良かった……!!

イクト様……誠に感謝いたします!!

これからもお兄様をよろしく

お願いいたします!!」

「もとからそのつもりだよ」


頭を下げるリナリアに郁人は

当然だと告げた。


「あのお兄様が血肉を捧げた事も驚きです。

……イクト様が女性なら逃がさないように

外堀から埋めましたのに」

「僕もそれに協力したのにな……

がっつり埋めて、婚約まで持ち込んだのに」

「とんでもない事を言わないでくれ」


ため息をつきながらの2人の発言に

郁人は冷や汗をかく。


「なにより、イクト様に全てお話し

していた事にも驚きです。

お兄様はあまり喋らない方ですから」

「それは……まあ……

タイミングが合ってかな?」

「こういうタイミングでな」


郁人が言葉を濁したとき、

チイトがジークスを指差し、ニヤニヤ笑う。


見るとジークスの様子がおかしい。

顔をうつむかせ、目が虚ろで表情がない。


「ジークス?!」


郁人が席を立ち駆け寄ると、

ジークスは郁人を見る。


「イィクゥトォォォォォォォォ!!」

「うぐっ?!」


力一杯抱きつき、

泣きじゃくりだしたのだ。


「どうしたんだ?!」

「イクトオオオオ!!」


尋ねるが全く聞いておらず、

郁人に抱きつき、感情を噴出するように

泣いている。


肩に乗っていたユーは目を見開く。


(これ……どこかで……)


既視感を覚えた郁人の鼻にある匂いがした。


ーそれは、アルコールの匂いだ。


「……チイト、まさかっ?!」


ハッとした郁人は左に居るチイトを見た。

気づいたチイトは小瓶を見せる。


「こいつの泣きっぷりを見たかったから

酒をこっそり入れたんだ。

本当にすごい泣きっぷりだね。

無様としか言いようがない」


ジークスの姿を見て、鼻で笑う。


「お兄様は酔ったらこのような姿に

なるのですね。

まるでイクト様に甘えてるみたい」

「まず、竜人にとって酒は天敵だからね。

お酒自体この国に無いから」


リナリアは口に手を当て、

サイネリアは頬をかく。


「そうなのか?」

「竜人はアルコールにすごく弱いのです。

下手すれば酒気に充てられただけで

倒れてしまいますから」


郁人の疑問にヴィーメランスが答えた。


「そうだったのか。

……ジークス、苦しいから力を

緩めてほしいんだけど」


自身より大きなジークスに

力一杯抱きつかれているためか、

肺が圧迫されて呼吸がし辛いのだ。


その言葉に、ジークスは勢いよく

顔を上げる。


「……かりぇはぐすっ……

いつも抱きついてるにょに……

ヒック……おれえはびゃめなのきゃ!

ともなのにぃ!

しぇんゆうにゃにょにぃぃぃぃ!!!」


どんどん呂律が回らなくなっているのか

後半からきちんと話せていない。


しかし、言いたい事はわかった。


「ダメとは言ってないからな。

ただ力を緩めてほしいんだ。

呼吸が苦しくて……」

「……わきゃった」


郁人はほとんど動かない眉を八の字にし、

背中を軽く叩くと、少し力を緩めた。


「イクト様を信頼されているのが

わかりますわ。

お兄様……

イクト様にお会いできて良かったですね」


安心するジークスの様子に

リナリアは瞳を潤ませながら微笑んだ。


「お兄様はこちらにいるときは、

まるでお人形のようでしたから……」

「どういう事だ?」


リナリアの言葉が引っ掛かり、

郁人は尋ねた。

尋ねられたリナリアは説明する。


「当時のお兄様はイクト様が聞いた通り、

お父様から冷遇され、日々戦場に

たった1人で駆り出されていました」


当時を思い出したリナリアは 

目を伏せる。


「皆、お兄様への冷遇に対し

抗議しました。

しかし、言った者は処刑され、

接近禁止令が出されてしまいました。

破ればまた処刑され、お兄様も罰として

更に困難な戦場へ出されて

しまったのです……」


声を震わせながら説明するリナリアの

表情はとても辛そうだ。


サイネリアも当時について口を開く。


「ジークス王子は容姿もさながら

頭も良く、剣の腕も見事でしたから。

アナスタリア王妃が健在の頃は

次期国王として有望視されていたんです」


自慢気に語ったサイネリアだが、

沈んだ表情を浮かべる。


「けれど、王妃がお亡くなりになられてから

前国王の態度は豹変し……

ジークス王子への冷遇がはじまりました。

俺達も助けになれないか

陛下の御母様と協力しましたけど……」


リナリアとサイネリアは不自然な程に

体をこわばらせた。


「お兄様は戦場に居る事がほとんどでした。

ですので、帰って来られた日は無事を

確認したく、お父様に見つからないよう

遠目から見ました。

しかし……そのときのお兄様は、

まるでお人形のように見えて……。

胸が張り裂けそうになりました」


顔をうつむかせ、痛むかのように

胸を擦る。


「私はお兄様の為になにか出来ないかと、

せめて美味しいものをと、食事を 

サイネリアやお母様に内緒で持っていき、

お兄様に声をかけて渡した瞬間、

お父様に見つかってしまった

のです……!!」


リナリアの唇が震えた。


「お父様の瞳はとても冷たく、

別の……恐ろしい何かに思えました。

そんな震える私を、お兄様は庇ったのです。

そして……邪竜退治をお兄様は

命じられてしまいました」


思い出したリナリアは、泣きそうなほど

眉をひそめる。


「陛下はその後、監禁されました。

今思うと、陛下はアナスタリア王妃の

面影を持っていたからそれで

済んだのかもしれません。

王妃と御母様は姉妹でしたから」


サイネリアはリナリアにハンカチを

渡す。


「邪竜と相討ちになったお兄様は

行方不明となり、お父様の行動は

エスカレートしていきました。

このままでは、また大切な人を

失ってしまうと……。

国が崩壊してしまう未来しかないと……。

そう感じた私はサイネリア、 

お母様と共に立ち上がりました。


ー王を倒すために。


……そして現在、女王として

この国を統べております」


ハンカチを受け取ったリナリアは涙を拭い、

凛とした表情で真っ直ぐ見た。


その姿は1国を背負う者だ。


サイネリアは目の奥が輝きに包まれ、

涙を溢れさせながらジークスを見る。


「陛下の御母様は現在外交として

様々な国を元気に飛びまわってますし、

陛下が今、無事でいられるのは

ジークス王子のおかげです。

本当に……御無事で良かった……!!」


そして、頭を下げる。


「……ジークス王子。

あの時、陛下を助けてくださり

ありがとうございました……!!」


ジークスはちらりとサイネリアを見る。

そして、再び郁人にしがみつきながら

口を開く。


「……私はあのとき、嬉しかったんだ。

まだ私を気にかけてくれる者がいることに。

その気持ちに答えたかったから、

私はそうしたまでだ。

それに……今は王子ではなく、

ただのジークスだ。

敬語は不要だろう」

「ジークス王子……」

「王子も不要だ」


ハッキリ否定し、意見を述べる。


「私の存在は、再び国を揺るがし

かねない事だ。

下手すれば私を王にと考える輩も

出かねない。

ゆえに、俺はジークス第1王子と

瓜2つの……"ただのジークス"だ」

「お兄様……!!」

「ジークス王子……

いや……ジークスさん!」


ジークスの言葉に更に涙ぐむ2人。


サイネリアは涙腺崩壊したのか、

涙を滝のように流す。


そんな暖かい感情に包まれる場面を

険しい目付きで見る者がいる。


「あいつなんでパパに抱きついた

ままなの?

かなり不愉快だっ!!

パパがどうすればいいか困ってるのに。

泣き続けてるけど呂律が戻ってるし、

もう引き剥がしていいよな?!」


今にも飛びかかりそうなチイトだ。


そんなチイトの肩にポンドは手を置く。


「落ち着きましょう。

まず、なんでと言いましたが、

あの状況を招いたのはチイト殿では?」


図星を突かれたチイトは手を払いのけ、

鋭い舌打ちをする。


払いのけられたポンドは気にせず、

ジークスを見る。


「ジークス殿にとってマスターは、

精神安定剤に近いのでしょうな。

だから、落ち着いて呂律が

回復したのではないでしょうか?」


観察したポンドは、頬をかく。


「それにしても……

私でしたら男に抱きつかれるのは

御免被(ごめんこうむ)ります。

ですので、即引き剥がすのですが……

マスターはお心が広いですな」


ヴィーメランスは当然だと口を開く。


「父上の懐の広さは誰よりも、

いや、空や海よりも広いからな。

しかし……父上が今の状況に口出し

すべきか否か困られているのに変わりない。

タイミングを見て、即引き剥がすぞ」


すっかり蚊帳の外の3人、

特にチイトとヴィーメランスは

引き剥がそうと動き出す。


(話は聞いていたけど、

大変の1言では済まないくらいの

人生を送ってたんだな……)


しっかり話を聞いていた郁人は

ジークスの背中をポンポンと

優しく叩く。


(それにしても……

俺はいつ解放されるんだろうか?

また肺が苦しくなってきたし……

ユーが胸ポケットに入れないから

拗ねてジークスの頭をぺちぺち

叩いてるし……

一体どうすれば……?)


郁人は話を聞きながら、

解放される目処が立たず、

頭を捻らせた。




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