34話 軍人のコレクション
スケルトン騎士の思い出話を聞き終えた頃に
サイネリアが訪れた。
ジークスは気配を感じて、すぐ顔無し頭巾を
使用したためにバレずに済んだ。
「ねえねえ!どんな内容だった?
スケルトン騎士の思い出話!」
今は塔の4階にある、武器を収集している
部屋に向かい、ヴィーメランス先導で
螺旋階段を上がっている。
ヴィーメランスの隣に居るサイネリアは
話の内容に対し、期待に胸を膨らませる。
「いや……なんというか……」
サイネリアの後ろに居る郁人は
聞いた話を思い出し、頬をかきながら
言葉を濁す。
「あれだけの腕前だしさ!
すごい武勇伝だったのかい?
是非聞かせてほしいな!!」
瞳を輝かせるサイネリアは前のめりに
なる。
そんなサイネリアにヴィーメランスは
口を開く。
「たしかに。
すごい武勇伝だったな」
「あぁ。
俺も開いた口が塞がらなかった。
なんせ、魔物退治等の武勇伝に
女の遍歴も追加されていたからな」
郁人の隣でチイトは頷き、
ヴィーメランスはため息を吐いた。
「え?」
予想外の言葉にサイネリアは固まる。
「旅に出た先で必ず女と関係を持った……。
しかも、両手足を軽く越えるくらい
だからな」
「任務で旅に出たのはわかるが、
女と関係を持ちに行ったのか、
任務達成の為なのかさっぱりだ」
チイトとヴィーメランスは
1番後ろに居るスケルトン騎士を呆れた目で
見つめた。
スケルトン騎士の思い出話はまさに、
手に汗握る冒険譚に加え、プレイボーイの
手練れにかかった女性との濃密な話ばかり
だったのだ。
(任務に行く度に彼女出来てるし、
もう何人いるのかわからないくらいだ)
チイトやヴィーメランスになぜか耳を
塞がれたりしながらも話を聞いていた郁人は
最初は彼女の人数を数えていたが、
それを放棄するくらいに多かったのだ。
しかも、まだ1部だということが分かり、
話を聞いた全員が遠い目をした。
「任務の仲間から助手、医師だったり
敵のスパイやら戦士、人妻、姫と……
多過ぎるだろ」
「美しい華を見れば愛でたくなるよう、
美しい女性を見たら声をかけるのは
必然のこと。
むしろ声をかけないのは失礼に当たります」
ため息を吐く郁人に
スケルトン騎士は当然だと胸を張る。
「任務内容が明らかに修羅場だったり、
関係をもたなかったら絶対に起きなかった
件もあったがな」
「据え膳食わぬは男の恥と言いますからな。
女性からのお誘いを無下になど……
私にはとても」
「……と、この調子だ」
「彼は生前相当なプレイボーイだった
ようだ」
出来ないと断言するスケルトン騎士に
理解不能だとチイトは額に手をあて、
首を横に振る。
郁人の後ろに居るジークスも思わず
苦笑いだ。
「話を聞いて名前は"ポンド"にした」
「ポンド?なんで?」
郁人の言葉にサイネリアは頭上に
ハテナマークを浮かべた。
「思い出話を聞いて、俺が見たことある
人気な話に色々と似てると思ったから」
「どんな話なんだい?」
先を促すサイネリアに郁人は話を続ける。
「内容は"ポンド"という主人公が
任務で様々な場所へ行き、トラブルを
解決しながら達成する話でさ。
1話完結なんだけど、話ごとに彼女、
ヒロインが違う。
仲間とか敵のスパイと多岐に渡るんだ」
「成る程。
たしかにポンドがぴったりだ」
話を聞き、サイネリアは頷いた。
「着きましたよ、父上」
ヴィーメランスが声をかけた。
着いたのは重厚感が漂う扉の前だ。
人を拒絶しているようにも思える。
「ここがヴィーくんのコレクション
ルームかあ!」
足取り軽く、サイネリアが扉を
開けようとした。
ー瞬間
「熱っ?!」
触れた部分がいきなり発火したのだ。
「燃えてる?!焼き竜になっちゃう!!
氷!氷っ!」
サイネリアはすぐに魔術で消火し、
患部を冷やす。
「不審者対策として、許可なく入ろうとした
者の1部が燃えるように細工していると
言おうとした矢先に貴様は……」
「だって、なにもしてないと思ったし!
まさか燃えるとは思わなかったもん!」
ヴィーメランスは浅慮な行動に
ため息を吐き、サイネリアは涙目で
冷やしながら抗議する。
「では……。
どうぞ父上、これが俺の集めた武具達です」
咳払いをし、扉を開けた。
そこは博物館のように見事に様々な武器が
飾られていた。
明るい照明の下、一段高くなった壇や台に
置いてある数十種類を越える武器が、
剣や槍、弓といった種類ごとに配置され、
手入れも全て完璧だ。
鎧等もホコリ1つなく綺麗に整備され、
全てがいつでも使えるようにされている。
圧倒されながらも部屋へ足を踏み入れると、
大理石の床を歩く足音が響く。
中に入って見渡しても、部屋の完璧さは
変わらない。
素晴らしさに郁人は素早く息を吸い込む。
「すごい……!!
こんなに武器がたくさん!!」
「武器屋でもこんなに品揃えはないぞ!!」
「貴様らしいな……」
「様々な武器を1度にこんなに
見られるとは……?!」
「ヴィーくんこんなに揃えてたの?!
しかもメンテナンスも完璧だなんて……
すごいすごい!!」
見事さに5人は感嘆の息をもらした。
チイトも珍しくその中の1人だ。
滅多に御目にかかれないコレクションに、
特にサイネリアは頬を紅潮させる。
「わあああああ!
僕の語彙力じゃ素晴らしさを表現
出来ないくらい!!
本っっっ当にスゴいよ!!」
瞳を輝かせながらコレクションを見回し、
尋ねる。
「ヴィーくん!!
見て回ってもいいかな?」
「見て回っても問題ない。
だが、中には曰く付きの物もある。
先程のように無闇に触れるなよ」
了承を得たサイネリアは喜びを
表すように満面の笑みで跳び跳ねる。
「やったー!!」
「では、私もお言葉に甘えさせて
いただきます」
「………」
「俺も甘えさせていただこう」
郁人以外の4人はそれぞれ気になる場所へ
進んでいく。
(いっぱいあるからな。
どこから見てみようか……?)
郁人は種類が多いため、どこから見るか
キョロキョロさせながら悩んでいると、
ほとんど瞬きをしない状態で
ヴィーメランスが声をかける。
「父上。
よろしければ案内させていただいても
よろしいでしょうか?」
「ありがとう!
どこから行くか迷ってたから助かるよ!」
ヴィーメランスの提案を郁人は
喜んで受け入れた。
「では、まず父上が知っている可能性が
あるものから行きましょう」
喜ぶ姿に笑みを隠そうと眉をしかめ、
ヴィーメランスは郁人をエスコートする。
「例えば、これはどうでしょうか?」
剣のコレクションがある一角へと進み、
1つを手に取る。
「わあ……!!」
ヴィーメランスが手に持つ剣に瞳を
奪われる。
神秘を感じさせ、この剣があれば
どこまでも行けると思わせる剣であった。
よく見れば、鍔には繊細な模様が
彫られており、職人の腕の良さは
誰が見てもハッキリわかる程だ。
「これは"エクスカリバー"と言います」
「……マジで?!」
あまりのビックネームに郁人の息は
止まりそうになる。
「はい。
どこかの国では国宝として祀って
あるようですが、あれは贋作。
こちらが本物です」
「そうみたいだな」
いつの間にか来ていたチイトが鑑定し、
結果を述べる。
「調べたところ、間違いなく本物だ」
「うわあ?!
ヴィーくん、伝説級まで持ってたとか
びっくり!!」
「すごいな……これがあの……?!」
「エクスカリバーとは……
まさか目にするとは思いませんでした」
全員が集まり、エクスカリバーを凝視する。
(ライコが話せたら、叫んでそうだな。
それにしても……)
郁人は気になって尋ねる。
「どこで見つけたんだ?」
「邪竜戦争時に倒したドラゴンの尻尾から
出てきました」
「……その逸話だと草薙剣の
ほうが連想されるな」
「それは俺も思いました。
ヤマタノオロチではないからかも
しれませんね」
郁人の感想にヴィーメランスも苦笑しつつ
同意した。
「これをポンドにと最初思いましたが、
国宝と間違われては面倒だと思い
除外しました」
「私には恐れ多い代物です」
ヴィーメランスの案を聞き、
ポンドは胸を撫で下ろす。
じっとエクスカリバーを見ていた
サイネリアは尋ねる。
「ヴィーくん!
あのさ……持ってみてもいいかな……?」
「落としたりするなよ。
見終わったらそこの棚に置いておくように。
いいな?」
「うん!わかったよ!」
サイネリアはプレゼントを貰った
子供のように頬を紅潮させながら
受けとる。
「これがエクスカリバーか……。
伝説を目の前に、しかも触れるなんて……!」
「何度見ても、やはり素晴らしいの
1言に尽きるな!」
丁寧に持ちながら、抑えきれない笑顔で
見つめ、ジークスも光輝く目で見ている。
チイトは飽きたのか、すでに別の
コレクションを見に行っていた。
「ヴィーメランス殿のコレクションには
驚かされますな。
パッと見ただけでも、目を引くものが
数多くありますから」
「そうだな。
見てるだけで1日過ごせそうだ」
「おい、ポンド。
一応聞くが剣以外に使えるものはあるか?」
ヴィーメランスが尋ねると、
顎に手をやりながらポンドは答える。
「そうですね……
ヴィーメランス殿の腰に提げた銃……
でしたか?
それ以外でしたら使えます。
しかし、手に馴染むのはやはり剣ですな」
「剣以外にも使えるのか?!」
郁人はポンドがいかにも騎士な雰囲気の為
他にも使えることに目をパチクリさせる。
「緊急時に必ず剣がある訳では
ありませんから」
臨機応変さも大事ですとポンドは答えた。
ヴィーメランスの携えた銃をちらりと
見た後、お願いする。
「銃の使い方も教えていただけると
ありがたいのですが……」
「時間があれば教えてやる」
「ありがとうございます、
ヴィーメランス殿。
では、私はまた見に行ってきます」
ポンドは姿勢を正したまま頭を下げると、
銃が保管されている場所へ行った。
じっくり観察しており、教えてもらう前に
構造を把握しようと勉強しているようだ。
「銃を使っている人を見かけないから、
てっきり無いのかと思ってたよ」
大樹の木陰亭には、冒険者も多く
出入りしている。
しかし、剣や槍を所持している者が多く、
銃を持っている者を見かけた事は
無かった。
ジークスと一緒に武器屋に入った際も
見なかった為、無いものだと
認識していたのだ。
「銃は弾が消耗品でありますから、
使うとなればそれなりに収入が
必要だからでしょう」
ヴィーメランスが説明していく。
「それに、銃を作れる者が少ないですから
尚更、使う者が限られます」
「成る程。
少ないとなると、銃自体も値段が高くなるし
弾を定期的に補填していくとなると
更に出費がかさばるものな。
冒険者は収入がなかなか安定しない
って聞くし、定期的には難しいか」
だから見なかったのかと、
説明に納得した郁人は頷く。
頷く郁人を見て、ヴィーメランスは
目を閉じ、ゆっくり呼吸したあと
口を開く。
「父上……。
奥に寛げるスペースがあります。
ですので、そこでゆっくり……」
「パパ!
あそこに切れ味で有名なデュランダルも
あるよ!!
行こ行こ!!」
「あっ、これ竜殺しの剣じゃん!?
どうやって入手したのヴィーくん?!
竜人が触ると火傷しちゃうのに!!
ねえねえ!どうやってどうやって!!」
「イクト、あそこの武器も素晴らしいぞ!!」
ヴィーメランスが郁人を誘おうと
しようとした矢先、チイトが郁人を
連れ出そうとしたりサイネリアの質問攻めが
始まった。
話を遮った上でのお構い無しの様子に、
ヴィーメランスの額に青筋が走る。
「父上と折角、2人でお話できる機会を
貴様らは……!!」
「?
話したいことがあるのか?」
ヴィーメランスの呟きを郁人は拾った。
拾われ、素早く瞬きをしたヴィーメランスは
顔を少し背けた後、身を屈め
耳打ちする。
「チイトが……自己紹介といいますか、
設定等を話したみたいですので……。
俺も近況報告を兼ねて父上と色々
話したいと言いますか……」
気恥ずかしいのか、言葉をどもらせながら
告げた。
郁人は耳打ちされた内容を了承する。
「いいよ。
いつがいい?」
「ありがとうございます。
では、就寝前にお時間をいただいても?
見せたいものもありますから」
「その時間で大丈夫。
俺からヴィーメランスのとこに行くよ」
郁人の言葉にヴィーメランスは首を
横に振り、胸に片手をあてる。
「いえ、ご足労おかけする訳には
いきません。
俺が父上の部屋まで行かせていただきます」
「わかった。
部屋で待ってる」
「父上の貴重なお時間を頂き、
誠に感謝します」
ヴィーメランスはとろけるような笑みを
浮かべ、1礼した。
「ねえ!ヴィーくん!
……あれ?なんかすごくご機嫌になってる!
珍しい!!」
「ヴィーメランス殿!」
「わかった。
説明してやるから黙れ貴様ら!!」
呼ぶ声に答え、説明しに足を進めた。
「パパ、邪魔しちゃダメ?」
「ダメ。
ヴィーメランスも話したいことが
あるみたいだからな」
「はーい。
……今回は譲ってやるか」
影にいつの間にか潜んでいたチイトは
後ろから郁人に抱きつき、しょうがないと
説明するヴィーメランスを見てため息を
吐いた。




