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35話 晩餐と渡すモノ



城にある1室では晩餐が行われており、

郁人達は料理を振る舞われている。


晩餐が行われている部屋は城の外観同様、

白を基調とし気品を醸し出していた。


家具も洗練されたものばかりで、

部屋の雰囲気と見事に調和している。


本来なら、調和した家具や

見上げる程高く、細かな装飾が

施された天井、水晶のように透き通る

シャンデリアなどに目を引かれるだろう。


しかし、郁人達の目を引くのは

長テーブルを彩る豪勢な料理だ。


ドラケネス王国は空にある為か、

魚よりも肉料理が圧倒的に多く見られる。


数々の料理の匂いが鼻孔をくすぐり、

食欲を刺激する。


長テーブルの端に座る郁人は、

食べたいのだが緊張でいっぱい

いっぱいだった。


(映画で見た王様の食事風景そのものだ。

食べるのに緊張する……)


味を堪能したいのだが、腹がソワソワする

感覚で口に入れても食べた気がしない。


(一生に1度あるかないかくらいの

豪華な料理を食べてるのにな……。

味わえないなんて……

勿体ないだろ俺……)


自身に呆れながら、主役料理である、

ソースがかかった1cm以上の分厚い

ステーキを見る。


(せめて綺麗に食べようと頑張ってる

けど……合っているのか……?)


郁人は目をキョロキョロさせていると、

右斜め前に座るチイトが気付き、

以心伝心(テレパシー)で声をかける。


<緊張してるの?マナーが気になってる

感じかな?

不安だったら、俺や前に居るあいつを

参考にしたらいいよ。

俺は当然だけど、あいつも綺麗に

食べてるし>


チイトや左斜め前に座るヴィーメランスを

見ると、所作の1つ1つ綺麗で、

見事に食べ進めていた。


(すごいな2人共。

食べ方がとても綺麗だ。

ありがたく参考にさせてもらうよ)

<パパの力になれるなら大歓迎!>


郁人の感謝にチイトは声を弾ませた。


「どうかしたのかイクト?

マナーが気になるのか?」


実は郁人の後ろに居たジークスが

様子を気にして耳打ちする。


「気にし過ぎているようだが、

君の斜め前に座る彼らを参考にしたらいい。

見たところ、彼らのマナーは完璧だ。

もし、間違えても俺が教えるから

気にするな」

「ありがとうジークス。

遠慮なく指摘頼む」

「了解だ」


側にいるため、小声で礼を告げた。


マナーの見本もあり、間違いを指摘する

者がいる事、なにより、気にかけてくれる者の

存在に緊張がほぐれた郁人は2人を

参考にしながらステーキにナイフを

入れる。


(意外と柔らかいな!)


すんなりナイフが入ったことに

目を丸くしつつ、切ったステーキを

口に入れる。


焼き加減が調度良く、噛む度に肉汁が

口内に広がり、香ばしい匂いが

鼻を抜けていく。

少し酸味がかったソースとも相性が

抜群で頬を緩ませる。


「美味しい!」


目を輝かせながらナイフを入れていると、

胸ポケットで寝ていたユーが

ヨダレを垂らしてこちらを見ていた。


「食べるか?」


郁人の言葉にポケットから飛び出し、

テーブルに着地する。


いつのまにかナプキンを首(?)に

巻いており、大きく口を開けて

準備万端だ。


「ほら」


大きめに切り、ユーの口に運ぶ。


ユーは肉を頬張ると、ちぎれんばかりに

尻尾を振り、(まり)のように跳ねる。


「ユー様にもそのように喜んでいただけて

嬉しいです」


対面に座るリナリアが

花開くような笑みを見せた。


「ユーのことを知ってるのですか?」

「はい。

サイネリアから話をお聞きして

おりましたから」


リナリアは郁人の言葉に答え、

ポンドを見る。


「ポンド様の装備、とてもお似合いですわ」

「お褒めいただき光栄です。

白百合のように可憐な君」


郁人の斜め後ろに立つポンドはリナリアに

向かい一礼した。


ヴィーメランスのコレクションから

貰い受けた鎧は鎧から剣といった一式

全てが“黒“だ。


見た者を威圧するように黒く、

闇に紛れて消えてしまいそうな程。


ポンドが1目見て気に入り、

貰い受けたのだ。


郁人は思い出話や騎士のイメージから、

白とイメージしていたため、

理由を聞くと……。


『マスターのジャケットやチイト殿の

服装が黒ですので、統一感を出そうと

思いましてな。

それに……

私のような者に白は不似合いですから』


黒の鎧を身に纏い、そう答えた。


(何か……思う事でもあるのだろうか?

今思うと……契約した時に何か

感じたような……)


郁人は首を傾げていると、

ポンドが口を開く。


「白百合の君、貴女の瞳は空に輝く

星のようですな。

その星々を近くで見る栄誉を、

私にいただけませんか?」

「コラコラ!

陛下を堂々と口説かないでくれないかい!」


リナリアの側に控えるサイネリアが

慌てる。


「これは失敬。

美しい華を目の前にすれば、

自然と口が開いてしまうので」

「……イクトくん、気を付けたほうが

いいよ。

僕が護衛騎士だから良かったけど、

他の子だったら不敬と騒ぎかねない

からね」

「すいません。

肝に銘じておきます」


何か悪いことでもと不思議そうなポンドに

郁人とサイネリアは肩を落とす。


「イクト様。

料理はお口に合いましたでしょうか?」

「はい。

美味しくいただきました。

特にこのステーキですが、

とても柔らかくて驚いてしまいました」


リナリアに尋ねられた郁人は頷きながら

答えた。


「敬語は不要ですよ、イクト様」

「えっと……!

料理とても美味しかった。

特にこのステーキは柔らかくて

びっくりしたよ」


敬語で話され表情を曇らすリナリアに、

郁人は慌てて敬語を外した。


「そのようなお言葉がいただけて

嬉しいです。

ヴィーメランス様にご指導いただけた

結果ですから」

「ヴィーメランスが?」


リナリアの言葉に郁人は口をポカンと

開ける。


「えぇ。

この国の食事を見たヴィーメランス様から

助言をいただいたおかげで、以前より

味が向上し、バリエーションも

更に増えました」


柔らかな口調で話したリナリアは

誇らしげだ。


「まだまだ増やしていきたいところだ。

料理の美味さが士気に関わる時も

あるからな」

「はい!

これからもお願い致しますね。

ヴィーメランス様!」


腕を組み話すヴィーメランスに、

リナリアは声を弾ませる。


「以前の料理と比べると段違いだからな。

彼の働きは大きい」

「そんなにひどかったのか?」


ジークスの言葉に郁人は小声で尋ねる。


「あぁ。

全て固く、似た味が多かったからな。

俺達、竜人があまり味に拘らないというのも

理由の一端だろう」


尋ねられたジークスは答えた。


「君のところで初めて食べたとき、

料理の種類や美味しさに衝撃を受けた

ぐらいだ。

特に、君が作ってくれたハンバーグが

素晴らしい。実に見事だった」


満足げに腕を組みながら何度も頷く。


(ハンバーグ好きだよな、ジークス。

……こんな豪華な食事が前にあるのに

食べれないし、塔に帰ったらハンバーグ

作ろうかな?

食材は……お願いしてヴィーメランスから

貰おう)


郁人はそう思いながら、食事を進めていく。


ステーキの前に出された料理を食べていたので

食べきれないかと感じていたが、

ユーが見た目によらず、かなり食べて

くれる為に残さずに済んだ。


(出されたものを残さずに済んでよかった。

前より食べれる量が減ったから

心配してたけど、ユーが食べてくれて

助かった)


感謝の気持ちを込め、ユーを撫でる。

気持ちが伝わったのか、ユーは猫のように

喉を鳴らす。



ー「食事もある程度済んだ。

話をさせてもらおう」



ヴィーメランスがナイフとフォークを置き、

口火(くちび)を切った。


「父上達がこちらに来たのは

観光だけではない。

あるモノを届けに来てくださったのだ」

「あるもの……ですか?」


ヴィーメランスの言葉にリナリアは

首を小鳥のように傾げる。


「チイト」

「あぁ」


促され、チイトはテーブルの中心に

黒い球体を浮かべ、そこからあのドラゴンの

頭部を見せる。


「……嘘でしょっ?!」

「……お父様?!」


サイネリアが声を上ずらせ、リナリアは

喉元に触れる。

2人共顔が真っ青だ。


「この者は……どうして……?」


声を震わせながら尋ねるリナリアに

ヴィーメランスが答える。


「理性をなくしたこの者は偶然会った

チイトに襲い掛かり、返り討ちに遭った。

この首はドラケネス王国に関わる者だと

判断し、父上と共に届けに来たのだ」

「首から下もあるから渡すが」


2人の言葉にリナリアは考え、

姿勢を伸ばすと結晶のように透き通り、

引き締めた表情をみせる。


「……かしこまりました。

別の場で貰っても構いませんでしょうか?」

「構わない」


チイトの返答を聞いたリナリアは、

即動く。


「サイネリア。

今すぐ安置所の用意を。

墓を作るのには時間がかかりますから」

「かしこまりました」


サイネリアは1礼し、その場を去った。


「イクト様、チイト様。

届けに来てくださり、誠に感謝いたします。

前王の安否が不明のため、現在も

臨戦態勢でした。

しかし、前王の亡骸がある今、

態勢は解除され国民の憂いも

取り除かれます。

心から感謝を」


リナリアは郁人達に頭を下げ、

席を立つと扉の前まで進む。


「私からも伝えなければなりません。

皆様はごゆるりとお楽しみください」


リナリアが壁にかけてある

ハンドベルを鳴らすと、扉が開いた。


メイド達が入ってきて、アップルパイに

アイスクリーム添えられた皿を

各自の前に置いていく。


「それでは、私はこれで失礼いたします」


リナリアは1礼するとその場を

去っていった。


背中を見つめ、郁人は呟く。


「……女王様自ら動くんだな」

「戦が終わったのは3年程前。

城下は戻ってきていますが、

人手となるとまた別の話になります」


郁人の言葉にヴィーメランスは

説明する。


「城に勤めていた者の大半は戦死、

もしくは怪我をしていますから。

動けるとしても、今戦線に配置

されています。

ですので、城に居る数は少なく

女王自ら動くしかないのです」

「成る程……。

教えてくれてありがとう」

「当然のことをしたまでです」


郁人が礼を言うと、

ヴィーメランスは唇をぎゅっと結ぶ。


(女王様、俺の妹より年下だろうに

あの小さな背中に国を背負っているのか……

ん?)


ふと袖が引っ張られていることに気付き、

見るとユーが袖をくわえ尻尾で

アップルパイを指していた。


食べたいとの意思表示だ。


「わかった。

一緒に食べような」


郁人はユーの姿に頬を緩ませながら、

アップルパイをナイフで切った。





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