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小話 あの子の名前は……




   これはとある前の出来事……。


   「おい、またやってるぞ」

   「毎日よくあきないねえ〜」

   「ずっと追いかけてるもんなあ」


   夜の国にて、ある光景が名物と

   なりかけていた。

   そんな名物を見て人々はまたかと

   笑いながら見ている。


   「お願いじゃっ!! 俺を蝶の夢で働かせ

   てくれんか!! ほんに頼む!!」

   「何度も言っているが俺に採用権

   などない! 本っっっ当にしつこいな!

   あんた!」


   それは見回り中のナランキュラスに

   すがりついてでも頼み込む破落戸(ゴロツキ)

   光景である。


   「俺はあの子に謝りたいんじゃ!! でも、

   俺の稼ぎじゃあの子と話すのなんて

   夢のまた夢!! じゃから、せめて話すことは

   出来んでも護ることだけはしたいんじゃ!!

   もう犯罪なんかに巻き込まれんでええよう

   にしたいんじゃ!!」


   破落戸の青年は必死にナランキュラスが

   聞いてくれるまで離れないといった様子。


   「じゃから、本当に頼むっ!!!

   俺を働かせてくれ!!」


   数日間、ずっとつきまとってきた

   青年をナランキュラスは無理やり

   引き剥がして提示する。


   「あぁ! もう! しつこいな、あんた!!

   そこまで言うならまず身だしなみを

   どうにかしろ!! 就職活動、いや人に

   頼み込むのをそんな汚い格好でする

   者がいるか!! 髪もボサボサできちんと

   していないだろ!! 人に頼むならまず

   態度から示せ! いいな!!」


   ナランキュラスはびしっと指さして

   告げると足早に去っていった。


   「………身だしなみ」


   言われた青年は目をぱちくりさせて

   呆然としている。

   なぜなら今までそのようなことは

   言われたことがなかったからだ。


   (服装……このままじゃあかんっちゅう

   訳かの? 兄やん達に今まで言われた

   こと無かったきに、気にしたこと

   なかったがや)


   青年は窓ガラスに反射する自分の姿を

   見て思い浮かべる。


   (たしかに、蝶の夢で働いちょる者は

   皆きちんとしとった。とくにナラン

   キュラスの旦那はきちんとしとる。

   見回りに行くときだけでも髪も

   ちゃあんとしとる。服装も綺麗で

   護衛なんぞの力仕事してるとは思えん

   くらいや。けど、それに比べて俺は髪も

   ボサボサやし、服もだるだる。破落戸やて

   一発でわかると言われるくらいや。

   ……俺に出来ることはなんじゃ?)


   青年はしばらく考えたあと、ぐっと

   握り拳を作ると走っていった。

   その表情はなにか確信がある表情を

   していた。



   ーーーーーーーー



   ー 1週間後


   ナランキュラスは前の日常を取り

   戻していた。

   破落戸にまとわりつかれることなく、

   見回りをしている。


   「ナランキュラスさん! おはよう

   ございます!」

   「おはよう。髪を少しいじったか?

   前も良かったが、今のほうがいいかも

   しれないな? フワリとした髪が今のあんた

   の服装とマッチしていてとても良い」

   「ありがとうございます!

   キュラスさんは……ヘアオイル変えました?

   いつもよりサラサラ感が増している

   ような?」

   「よく気付いたな! 今日は気になっていた

   ヘアオイルを使ってみたんだ!

   香りも良いが、付け心地も良いんだ!

   よかったら試してみるといい!

   あんたの髪質にも合うと思う!」

   「もしや以前気になると言っていた

   あのヘアオイルですよね? あとで

   休憩時間にでも買ってみます!」


   とナランキュラスが顔なじみの者と

   世間話に花を咲かせていると…… 


   「ナランキュラスの旦那!!」


   あの青年の声が聞こえた。


   「……またあんたか。あんたに旦那と

   言われる筋合いはない。それに、

   あいにくだが今はこの者と話しに花を

   咲かせている最中だ。邪魔を……」


   ナランキュラスは額に手を当て、

   ため息を吐いたあと青年を見る。


   「あんた……」


   ナランキュラスは目を見開いた。

   その理由は……


   「俺なりに頑張ったつもりじゃ!!」


   破落戸の青年の服装、いや姿が

   理由だ。


   おざなりで(くし)すら通していないと

   一目でわかる髪は整えられ、服装は

   破落戸だとわかるものから、清潔感の

   あるものへと変わっている。

   顔もきちんと洗ったとわかるほどで

   無造作に生えていたヒゲも剃られ、

   肌のケアもしたとわかるくらいに、

   変わっていたからだ。


   「旦那に言われて俺なりに考えたんじゃ。

   服装も綺麗なん探して、ほころびも直して、

   ちゃあんと洗った。髪も洗って、顔もケア?

   っちゅうもんを俺なりに調べてやってみた。

   髭も剃ったほうがええか思って剃った!!」


   身綺麗になった青年は頭を、いや、

   地に額をつけて土下座する。


   「どうか!! 俺を旦那のいる店、蝶の夢で

   働かせてくれ……!! いや、働かせてくださ

   い……!!!」


   青年が本気なのだと、態度や声色から

   わかる。


   「………………」


   ナランキュラスはしばらく考えたあと

   口を開く。


   「……自分が出来る範囲でやったか。

   努力は認めよう。だが、前にも言った

   が俺にあんたを働かせていいと決める

   最終決定権などはない。

   持っているのはトップのレイヴン様と

   フェイルート様だ。しかし……」


   ナランキュラスは青年を指さす。


   「あんたを御二方に推薦することは

   出来る」

   「じゃあ……!!」


   顔をあげる青年にナランキュラスは

   提示する。


   「ただし! 推薦するのは研修をした

   あとだ!! 研修を無事乗り越えれば

   推薦してやろう!! 俺の研修は大半の

   奴らが裸足で逃げだす過酷なもの!!

   蝶の夢の仕事をなめてかかり、働きたいと

   ぬかす輩の鼻っ柱を折り、心を折って

   諦めさせるものでもあるからな!

   その研修をクリアすればあの御二方も

   あんたを採用されるだろう!

   さあ……どうする?」


   挑発的な笑みを浮かべながら尋ねる

   ナランキュラスに青年は頷く。


   「それでも構わんきに!! 喜んで

   研修に参加させてもらいます!

   力の限り頑張りますんで、よろしく

   お願いします!! ナランキュラス

   の兄貴!!」

   「誰が兄貴だ!! 先輩と呼べ!!」

   「はい!! ナランキュラス先輩!!」

   「威勢がいいのは良しとしよう。

   で、あんたの名前は?」

   「俺は"リオトロープ"じゃ!」

   「リオトロープか、わかった。

   では、今から蝶の夢の研修メンバーに

   飛び入りで参加させてやるから

   ついて来い。働きたかったら研修で

   きっちり励め。俺に、いや蝶の夢に

   あんたの覚悟を見せろ!」

   「了解じゃ、ナランキュラス先輩!!」


   青年、リオトロープは歩くナランキュラス

   の背中に走ってついていった。


   彼はこのあとの地獄の研修を乗り越えた者

   として店で働くことになるのは言うまでも

   ない。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白い、続きが気になると

思っていただけましたら

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