22話 2つの懸念
郁人は眠りについたはずなのだが、
目の前には白い空間が広がり、
ライコが立っていた。
(これは……夢の中か……)
自身の状況を認識していると、
話しかけられる。
「ここで話すのは久しぶりかしら」
「……そうだな」
2度目なのであまり驚きはしないが、
少し戸惑ってしまう。
「話したい事があるから、
あんたの夢に入らせてもらったの。
長くなるから座りなさいな」
ライコが手を叩く。
すると、アンティークの椅子や
テーブルが現れた。
テーブルの上にはティーセットなどがあり、
完全に英国式のお茶会である。
郁人は口をポカンと開ける。
「自由にできるんだな」
「あんたの夢だからかもしれないわね。
あんた警戒心ないから」
ライコが席につくのを見て、
郁人も席につく。
そして、尋ねた。
「話したいことって?
夢の中じゃないといけないのか?」
「あいつがいるから夢じゃないと
話せないのよ」
「あいつ……?」
チイトのことかと首を傾げる郁人に
ライコは口を開いた。
「軍人の方よ」
「ヴィーメランスか」
「えぇ。
あいつ、信じられない事に
あたしの気配を勘づいたのか
こちらを探ってくるのよ」
ヘッドホンを持たれた時は肝を
冷やされたわとライコは呟く。
「気付かれたらマズイのか?」
危ないのかと尋ねる郁人に、
ライコはため息を吐く。
「あんたは気づいてないでしょうけど、
あの軍人、あんたに近付く奴が気に
食わないのか無意識で威圧してるのよ。
あたしなんか、私物に変わってるから、
気付かれたら即灰になる可能性があるわ」
「まさか……」
息を呑む郁人に、ライコははっきり告げる。
「あり得るわよ。
あの軍人も独占欲の塊だもの。
今は英雄候補に意識が向いてるから
あたしの存在は気付かれずに済んでるけど。
……独占欲で気付かれそうになるなんて
思いもしなかったわよ」
ヴィーメランスの鋭さにライコは
身を震わせた。
自身を落ち着かせようと、紅茶を飲む。
「ふぅ……」
ホッと息を吐くと、
陶磁器のような指で郁人を指す。
「あんたが虐められてるのを知って
怒り狂ってたでしょ?
それくらいあいつの心はあんたで
占められているの。
あたしの事を知ったら
絶対に骨の髄まで燃やされるわ」
怒り狂うの単語で、郁人は
ヴィーメランス達がVRを見た後の
様子を思い出す。
ーーーーーーーーーー
あの後、客が連れてきたカランに
ヴィーメランスがいじめた者達を差し出せ
と主張した。
カランがどうするのか尋ねると、
額に青筋を浮かべ、火の粉を舞わせながら
はっきり断言した。
ー"骨の髄まで燃やしてやる!!"
と……
郁人は終わったことだと言っても、
気が収まらないと言い出し聞かないのだ。
チイトも気が収まっていないと言い出し、
なんとジークスまでも言い出したので
場は更に混乱した。
ライラックが面会だけでもさせて
あげたほうがいいと、カランに相談し、
手を上げないことを条件に
急遽面会となったのだ。
牢屋前に案内され、面会したのだが、
ヴィーメランスの威圧により
意識を失う者や失禁する者が続出。
それにチイトやジークスまで加わって
いるので恐怖が倍増し、阿鼻叫喚
と化した。
郁人は、ライラックの冷気を感じさせる
微笑みに思わず身を震わせてしまったが……
面会はこのまま終わるかと思えば、
余罪があるとチイトが言い出し
ヴィーメランスと共に全て吐かせたのだ。
すると、窃盗やら人身売買など……
様々な犯罪歴を持つ者がいたので
カランが大慌てで捜査を開始し、
1波乱どころか2波乱になった。
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郁人と共に思い出していたライコは呟く。
「1晩で色々と起こりすぎでしょ。
というか余罪とかどうやって
調べたのよ?」
「チイトが頭を読んだときに見つけた
みたいでさ。
俺の身近に危険人物がいちゃいけないと
思って行動したそうだ」
「あの猫被りが1番危険でしょうに。
自分のこと棚に上げるんじゃないわよ」
ライコが毒を吐き、郁人は頬をかきながら
紅茶をいただく。
夢だから味はしないが、郁人の心は
ホッとした。
紅茶を飲み、ライコは郁人を見据える。
「しっかり見ときなさいよ、あの2人。
あたしは気付かれないように強化しないと
いけないから、軍人が居る間はしばらく
会話出来ないし……」
「わかった、気を付ける。
ライコが話したかった事って
この事なのか?」
問いに、ライコは首を横に振り、
口を開く。
「注意したかったこともあるけど、
もう1つあるわ。
ーあたしは忠告するためにも来たの」
眉間を寄せ、改まった声で切り出した。
空間から1つの紙の束が現れ、
ライコは片手に取る。
「これはドラケネス王国の資料よ。
調べたら、2つの禍々しい気配が
確認されたわ。
詳しくは調べられなかったけど、
1つは憎悪に満ちたもの。
もう1つは調べようとした瞬間……」
紙を見ようとしたとき、
激しく燃え上がり消えていった。
「このように燃えていくのよ。
軍人かと疑ったのだけど気配が別だったわ。
だからこそ……
ー注意しなさいイクト
ヤバイのがドラケネス王国に
潜んでいるのだから」
いつもの強気な表情に、危惧の色が
浮かんでいる。
それを見て郁人は背筋を伸ばす。
「気を付けるよ。
ありがとうライコ」
「礼を言われるまでもないわ。
あんたに死なれたら困るもの」
ライコはクッキーを頬張る。
そして、思い出したように尋ねる。
「そういえば、死霊魔術は使えるの?」
「禁忌だし使わないほうがいいんじゃ……
それにバレたりしたらさ……」
不安そうに言う郁人にライコは語る。
「猫被りの改竄を見破れる奴はいないから
大丈夫よ」
見破れる奴がいたら、その顔を拝みたいと
ライコは呟いた。
「それに、ドラケネス王国には懸念材料が
"2つ"もあるの。
特に、1つはかなりヤバめのものなのよ。
いくらあの猫被りや英雄候補がいるとしても
対処しきれない事態が起こっても
おかしくない。
自分の身を守る為に使えたほうがいいわ。
「たしかに……」
郁人は顎に手をやる。
(ライコの言う通りだ。
そんな事態が起こってもおかしくない。
2人に頼りきりも嫌だしな。
でも……あれ?)
ふと、郁人は疑問が浮んだ。
「スキルってどう使うんだ?」
「スキルの使い方ね……。
説明するからペンを貸しなさい」
「わかった」
郁人は差し出された手にペンを渡した。
「ほら。
使えてるでしょ」
「へ?」
郁人は差し出したペンを見て、
迷宮のときに使ったペンだと気付いた。
意識せずにしていたため、目を丸くする。
「スキルはこうやって
無意識で使えるものなの。
慣れたらコントロールできるようになるわ」
「なるほど……」
郁人はペンを見つめる。
(起きたら練習する必要があるな……
内容は読んだだけで、どう使えるかは
実践しないとわからないし……)
ペンをじっと見つめたままの郁人に、
ライコは構わず話を続ける。
「クリエイトは問題ないとして。
死霊魔術は死霊やスケルトンを使役できるし
従えるためにも、死霊系で相性が合う
魔物を探す必要があるわね。
えっと……」
ライコは郁人の名前が表紙に書かれた
ファイルを空間から取りだし、ページを
めくる。
「ドラケネス王国の魔物はワイバーン
といったドラゴン系統が圧倒的に
多いのよね。
あんたに合うのがいると良いのだけど……
あら?」
ライコはあるページを凝視している。
「どうかしたのか?」
「あんた……もう契約が済んでるのだけど。
しかも、これ以上契約できないみたい」
「え?」
郁人は頓狂な声を上げた。
5/12
すいません(汗)
曜日を間違えて、金曜日に投稿してしまってました(汗)
ふと、投稿時間が目に入り、
(あっ……金曜日に投稿している…?!)
と先程、気付いた作者です……(汗)
これからは、以前書いたように、土日のどちらかに
投稿させていただきます。
間違えてしまい、すいませんでした(汗)




