20話 軍人と彼
郁人はヴィーメランスの登場に
声を上ずらせる。
「ヴィーメランス……なのか?」
「はい。
お久しぶりで……す……」
ヴィーメランスは顔を上げ、
郁人を見つめると、跪いた状態で
固まった。
「どうかしたのか?
顔になにかついてる?」
首をかしげ、自分の顔を触る郁人を
ヴィーメランスはしばらく凝視し、
両眉を上げると、勢いよく立ち上がり
郁人の肩を掴む。
「どうなされたのです?!
予想より顔色も以前と比べると
病人に近く、体つきはもともと
細かったのが更に女に間違えられても
おかしくないほどに……!!
コロコロ変わられた表情など無いに
等しいではありませんかっ!!」
郁人の変化にヴィーメランスは
声をあげた。
顔色からは驚きと心配が伺える。
(ヴィーメランスはこんな風に
動揺するタイプじゃ……?!)
郁人は口をポカンと開ける。
「貴様が動揺するのも
理解できるが落ち着け。
パパが驚いてるだろ」
チイトの言葉に郁人の筋肉が
こわばっていることがわかると、
ヴィーメランスは手を離して
勢いよく頭を下げた。
「?!
失礼しました。
父上、無礼をお許しください」
「大丈夫。
そこまでかしこまらなくていいから。
ほら、頭を上げて」
頭をしっかり下げるヴィーメランスに
郁人は大丈夫と告げた。
ヴィーメランスはその言葉に、
顔を上げると見た目にわかるほど
震える。
「このような無礼を働いた俺に
なんと慈悲深い御言葉……!!
父上に相応しくなりますよう
精進いたします!!」
目の奥が輝きに包まれた視線を
ぶつけられ、郁人はただ困惑する。
(こんな態度するキャラじゃ
なかったんだが……)
「パパだからだよ。
この戦馬鹿は何よりもパパが
1番だと認識して、尊敬してる
部分があるから」
チイトが郁人に耳打ちしていると
ヴィーメランスが顔をしかめる。
「チイト!
父上に対してその馴れ馴れしい
態度はなんだ!
御尊顔に寄りすぎだ!離れろ!!」
荒々しくチイトを郁人から
強引に引き剥がした。
「貴様に言われる筋合いはない。
俺はパパに甘えたいし褒められたい。
それに、1番引っ付きたいからな。
貴様のようによそよそしいのは
ゴメンだ」
チイトは挑発するかのように
郁人に抱きつく。
「貴様……!!
父上に対して……!!」
声のトーンが低くなり、
尻尾のようになびく髪の先が
炎に変化していき火の粉が舞う。
(これ……!!
ヴィーメランスが感情を乱したときに
見られる反応っ!!
火の粉が引火したらマズイッ!)
このままでは危ない
と、郁人が急いで宥める。
「俺は構わないから全然いいよ」
「しかし……!!」
「俺はチイトを家族みたいに
思ってるし、勿論ヴィーメランスも
そう思ってる。
だから、気にすることはないぞ」
「…………父上がそうおっしゃるなら」
声のトーンは戻ったのだが
炎は治まらず、なぜか片手で
顔を隠している。
「どうしたヴィーメランス?」
心配の色を浮かべる郁人に、
チイトが抱きつきながら
ヴィーメランスを鼻で笑う。
「パパに家族と言われて
嬉しくて照れてるんだよ。
まっ、パパのこと1番に思ってるのは
俺だけどね」
「貴様は相変わらずだな……!!」
ヴィーメランスが睨み付けた。
チイトもそれに応える。
ガンの飛ばしあいに挟まれ、
どうしようか郁人は頬をかく。
ー「イクト……」
ジークスが郁人に声をかけた。
苦しそうな声色に、郁人は急いで
視線を向ける。
「ジークス
って……どうした2人共?!」
2人の様子がおかしいことに気づき
郁人は駆け寄る。
2人は動こうとしているようだが、
蛇に睨まれた蛙のように体がすくんで
動けないでいる。
直立不動のまま、息をするのも
苦しそうだ。
「………………」
特に、フェランドラは顔は蒼白で
意識を保つのに必死だ。
「赤髪の男が……威圧を使っている……
解くように言ってくれないか?」
「威圧?
……ヴィーメランス!
2人を動けるようにしてくれないか!」
ジークスの振り絞った言葉で、
この状況を作ったのは
ヴィーメランスと判断してお願いした。
「父上の仰せのままに」
ヴィーメランスは恭しく1礼してから
指を鳴らす。
なにかが解かれたと肌で感じれた。
「……くそっ!」
「っ!!」
瞬間、フェランドラは膝をつき、
ジークスは足で踏ん張り、
倒れることを防いだ。
額からはすごい量の汗が流れ、
かなりの体力を消費したことがわかる。
「大丈夫か2人共!」
「ちくしょう!あの野郎……!!
いきなり使いやがって……!!」
「威圧で身動きを封じられるとは……」
フェランドラは目を更に吊り上げ、
ジークスは素早く瞬きをした。
「ヴィーメランス。
2人に威圧っていうのを使ったのか?」
「はい。
上空から父上以外の気配を
感じましたので」
郁人の問いにヴィーメランスは答える。
「折角の父上との拝謁を邪魔されては
我慢なりませんから」
「俺にも威圧しただろ」
「チイト……
貴様は特に念入りにしたんだがな」
ヴィーメランスは鋭い舌打ちをした。
余程悔しいのがわかる。
(威圧ってなんだ?
スキルというのは何となく察したけど……)
郁人が首を傾げていると、
ライコが説明する。
〔"威圧"は相手を恐怖で身動きを
封じるスキルなの。
相手が弱ければ弱いほど有効で、
威圧だけで意識を奪うことも可能よ〕
あの2人の動きを封じて、
意識を奪いかけるなんて相当よ
とライコは息を呑む。
〔受付嬢は精神で、英雄候補は
慣れてるのか耐えれたけど
相当な実力だわ。
さすがと言うべきかしら〕
(そうなのか。
いつもだけど、分かりやすい
説明ありがとう)
〔これぐらい大したことないわよ〕
郁人はライコに礼を心中で告げる。
「…………」
ヴィーメランスが突如ヘッドホンを掴み、
手に持つとじっと見つめた。
力が入っているのか、ヘッドホンから
嫌な音がする。
「ヴィーメランスどうしたんだ?
それ大切だから乱暴には……」
汗をかきながら、郁人はヘッドホンに
手を伸ばす。
「……気のせいか。
いえ、何でもありません。
乱暴にして失礼いたしました」
ヴィーメランスは呟くと、
謝罪しながらヘッドホンを郁人に
返した。
「ところで父上、こいつらは?」
ヴィーメランスはジークスと
フェランドラに目をやる。
好意的に見ていないのは瞳から
はっきりわかった。
「ジークスとフェランドラ。
2人共、俺の大切な友達なんだ。
さっきの威圧とかはしないでほしい」
2人を紹介し、危害を加えないように
お願いする。
「わかりました。
しかし、父上の……そうですか」
「おい!お前!!」
興味ない様子のヴィーメランスに
フェランドラが詰め寄る。
「いきなりギルドの天井を
ぶち破った挙げ句、威圧かけておいて
何だその態度は!
謝罪の1言くらいあっても
いいんじゃねーか!!」
尻尾をピンと立たせ、
歯をむき出しにするフェランドラに、
ヴィーメランスは眉をしかめた。
明らかにどうでも良さそうな態度だ。
「犬がきゃんきゃんと騒がしい。
父上の友人だからそのままに
しているというのに身の程知らずが。
それに、天井なら戻っているだろ」
ヴィーメランスが天井を指す。
郁人達はつられて見ると、
綺麗に元通りになっていた。
先程までの状況が嘘のようだ。
「いつのまに?!」
「いつ直ったんだ?」
フェランドラは目を丸くし、
郁人も声を上げる。
「これを使って直したのです」
ヴィーメランスは懐から首飾りを
取り出した。
中央に真紅の宝石だけがある
シンプルなデザインだが、
宝石の魅力を引き立たせている。
「ほう。珍しいものだな」
「……それは?!」
チイトは首飾りをじっと見つめ、
ジークスは息を呑んだ。
「ジークス、この首飾りに見覚えが……」
「ここにドラケネス王国客将、
ヴィーメランス殿はおられるか!」
郁人の疑問は、凛とした声に遮られた。
見ると、仕事服に身を包んだ
カランがおり、部下を数人引き連れて
ギルドに入ってきていた。
「客将……?」
「カランじゃねえか!!
その客将ならこいつじゃねえか?」
郁人は聞き慣れない単語を口にし、
フェランドラはヴィーメランスを
指差す。
「ここに居られましたか」
カランはフェランドラに軽く頭を下げると
指差す方へ行き、口を開く。
「ヴィーメランス殿。
入国手続きがまだ終わっておりません。
至急お戻りいただきたい」
「……いいだろう」
カランの言葉に眉をしかめつつ
了承すると、郁人を見る。
「父上、しばし離れます。
終わり次第すぐ戻りますので……」
「わかった。
いっぱい話したいことあるしな。
ここ、大樹の木陰亭で待ってる」
「了解しました。
すぐ向かわせていただきます。
それでは、一旦失礼いたします」
ヴィーメランスが口許をゆるませ、
郁人に1礼すると、ギルドを出ていった。
「お待ち下さいヴィーメランス殿!!」
フェランドラはその背中をあわてて
カラン達は追いかける。
「イクトくん、合格おめでとう」
去り際、郁人に聞こえるか聞こえないかで
カランは囁き去った。
部下も急いでヴィーメランスの後を
追った。
「ありがとうカラン。
仕事お疲れ様」
郁人もそれに答えながら、
その背中に手を振る。
(客将ってどういうことなんだろう……?
ジークスがびっくりしてた
首飾りのことも気になるし……)
「おい、もやし」
思案する郁人の肩をフェランドラが
叩いた。
「なにフェランドラ?」
「あの客将のこと、聞かせて
もらおうじゃねーか」
「俺も知りたいのだが」
フェランドラとジークスに詰め寄られ、
解放されるのに思いの外時間が
かかった。




