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19話 "軍人"は彼に一礼する






昼頃、ジャルダンの受付の1角にて

郁人、ジークス、チイトはカウンターを

挟んでフェランドラと向かい合っていた。


「警報がきたが……

あいつがあの……?!」

「あの“歩く災厄“がなぜここに?!」

「国を1晩で滅ぼしたとか……

マジなのか?!」

「本当だよ。でないと警報なんて

出やしないさ」


チイトがいるため、遠巻きに

見つめる者もいれば、触らぬ神に

祟りなし……と出ていく者など

反応は様々だ。


フェランドラは3人に話しかける。


「よし!お待ちかねのスキル発表だ!

って、どうしたもやし?

顔色わりいぞ?」


郁人の顔色が悪いことに気付き

尋ねた。


「少し不安なだけだから、大丈夫」


尋ねたフェランドラに、大丈夫だ

と告げる。

しかし、心中穏やかではなかった。


(本当に隠せているのだろうか?

信じているけど、不安がないか

と言われたら嘘になる)


昨日、郁人はチイトの手により

スキル内容を改竄(かいざん)してもらったが、

結果は大丈夫なのか、

胸がうずいてしまうのだ。


<大丈夫だよパパ>


チイトを見ると、穏やかな笑みを

向けていた。

その笑みを見ると、不思議と安心感を

覚えた。


<俺がしたんだから、見破れる訳がない。

だから、安心して>

(……そうだな)


郁人は不安が取り払われ、

吐息を漏らす。


「無理はするなよ、もやし。

そら、手を置きな」


フェランドラに促され、

郁人はそっと水晶に手を置いた。


【イクト 所持スキル

・クリエイト(ユニークスキル)

描いたものを創造する特殊スキル。

材料が無ければ創ることは不可能。

情報が多いほど存在することができる】


・従魔(死霊)

主にスケルトン系などの魔物を

仲間にできるスキル】


「おっ!

初っぱなから2つ持ちとは

珍しいじゃねえか!」


スキル内容を見たフェランドラは

目を丸くしながら声をあげた。


(よかった……)


改竄結果が無事出たことに、

郁人は胸を撫で下ろす。


「なんだよもやし!

もうちょっと喜べよ!」


フェランドラは郁人の肩を叩く。


「なんというかホッとして……」

「スキル持ちになるか心配だったのか?

スキルは絶対1人に1つはあると

されてるから問題ないってのに。

まあ、お前が戦闘スキル持ちに

ならなくてよかったぜ」

「どうしてだ?」


息を吐くフェランドラに尋ねた。

フェランドラはカウンターに

肘をつきながら答える。


「お前が戦闘スキル所持とか

ヒヤヒヤものだろ。

戦闘には怪我がつきものだ。

万が一お前が怪我でもしてみろ?

後ろの奴が絶対に暴れまくって、

周囲を巻き込むことは確実だろーが」


チイトとジークスを指差す。


〔受付嬢の言うとおりだわ。

この2人絶対暴れるわね。

クレーターが出来るぐらいには。

あんたが戦闘スキル持ってなくて

本当によかったわ〕


ライコも同意した。


「それに、俺が教えたとはいえ

お前が受け身を失敗したり、

かわせなかったりしてみろ。

お前みたいな紙耐久じゃ

重傷間違いなしだ。

痛みを感じにくいとかも

相当ヤバいんだぞ。

迷宮でスケルトン騎士に言われるまで

血が出てたのに気付いてなかったろ?」

「フェランドラ……なんでそのことを?」


誰にも言ってない事を言われ、

郁人は不意をつかれた。

フェランドラは理由を話す。


「試しの迷宮で死人が出たら

困るからな。

迷宮内部は職員が監視できるように

なってるんだ。

まさか……出口で暴れるとは

予想できなかったがよ」


肩を落とすフェランドラから、

出口の修復が大変であったことが

見てとれた。


「ミアザさんはまだ修復中?」

「あぁ。

お前がスキル知りたいだろうから

俺が見てやれって任された」

「ありがとうフェランドラ。

ミアザさんにもお礼言わないとな」

「別に気にしなくていいだろ。

それにしても、お前……

よく死にかけるからって

スケルトン系を従えやすいとか……

黒魔術に間違えられてもおかしくねえぞ」

「そうかな……?」


郁人は頬をかきながら

誤魔化した。


(本当はガチの黒魔術、

禁忌のスキルだもんな……)

〔バレなきゃいいのよ。バレなきゃ〕

「パパ」


捕まるより断然良いと考えていると、

チイトが声をかけた。


「よく死にかけたって……?」


眉を下げながら郁人の様子を伺う姿から

心配していることがありありと

伝わってきた。


郁人は来た頃の様子を語る。


「俺が来た頃、寝たきりで

1日を過ごすことが多くて、風邪を

引いただけでも危なくなったりしたんだ。

だから、母さんは勿論、先生や

フェランドラ、ジークスにもとても

世話になったんだ」

「あの頃に比べれば、君は丈夫になった」

「教えてる途中で倒れたりするから

本当に焦ったぜ」

「あのときはお世話になりました」


郁人は礼を言い、頭を下げる。


(フェランドラには、先生や

母さんのところまで運んで

もらったりもしたからなあ。

ジークスと会ってからは、

ジークスが運んでくれたみたいだけど。

今こうしていられるのは、

みんなのおかげだ。

絶対にお土産を買おう)


郁人は心に決めた。


「パパ……そんなに大変だったんだ。

そんなパパをいじめるとか……

あいつら、もっと痛め付けといたら

よかった」

「十分だからな、チイト。

俺の気は済んでるから」


冷気をまとった声に郁人が反応した。


あれ以上となると、R-20を超える

凄惨な光景にしかならない。


「じゃあ、迷宮で怪我したとかは?」

「怪我ってほどじゃないんだ。

蔦に足を取られて転んだだけ。

それをスケルトン騎士に

助けてもらったんだ。

ハンカチまでもらったし」


郁人は丁寧に畳んだハンカチを

見せた。

いつか会えたら返そうと、

綺麗に洗ったのだ。


「イービルアイヴィが生えてるとか

予想外だったが、

スケルトン騎士が助けたのも驚いたぜ。

お前の鼻血に反応してハンカチを

渡したのもな」

〔あたしも驚いたわ。

魔物が相手を気遣うなんて

普通じゃあり得ないもの〕

「……足を取られた……鼻血」


言葉を聞き、チイトは目を細め呟く。


「どうしたチイト?」

「パパの足を掴んで転ばせたとか……

あの迷宮壊せばよかったな。

今からでも壊しに……」

「絶対ダメ!」

「勘弁してくれ!!」


マントを蠢かせるチイトを、

郁人とフェランドラが制止する。


「おい災厄が……!?」

「ひいっ!!逃げろ!!」

「このまま居たら死んじまうぞ!!」


蠢くマントに恐怖を感じ、

遠巻きに見ていた者達も

脱兎のごとく逃げた。


ギルドにいるのはマントを蠢かせる

チイトに、郁人、ジークス、

フェランドラのみとなった。


「ギルドの迷惑になるから!」

「そうだぞ!!

迷宮はいつ、どうやって出来たか

わからねー、かなり貴重なものだから

絶対にやめろ!」

「ほら!迷宮は貴重らしいから!!」


迷宮とはレアなアイテムも

ドロップするため冒険者にとって、

一攫千金を狙える大切な場所だ。


特に、試しの迷宮は冒険者の

実力を計れるため、依頼の

難易度に対して、的確な人材派遣を

可能にし、死亡リスクをかなり

下げれるのでギルドにとっても

冒険者(働き手)が減るのを防げる、

とても貴重な迷宮でもあるのだ。


国によっては、迷宮に入るための

入場料をとったりと

収入源にもなっていたりする。


そんな迷宮はいつできたのか、

どのようにして発生したのか

未だに解明されていない。

解明しようとした者は数多く

存在したが、全員(さじ)を投げた。

ゆえに、迷宮は謎に包まれたものなのだ。



「パパ、迷宮は簡単に作れるよ」

「へ?」



チイトの言葉に、思わず間抜けな声を

出してしまった。

ポカンとする郁人に、チイトが説明する。


「迷宮は大気中に漂う魔力と

土地の魔力が集まってできたもの

なんだ。

魔力以外にも残留思念を糧に

しているから、その土地特有の

ものになる」


迷宮のメカニズムをチイトは

郁人にもわかりやすいように

話していく。


「試しの迷宮もここが冒険者が

集まる街だからあんな迷宮に

なったんだよ。

1回作れるかなと思って、

死の渓谷で実験したけど

ちゃんと迷宮が出来たよ。

場所通りの難易度で、土地特有の」

「死の渓谷の迷宮……

たしかに凄そうだ」


自慢気に笑うチイトに、難易度を

思い浮かべ郁人は冷や汗を流す。


「ん?」


やけに静かな事に気づいた郁人は

周りを見渡すと、固まるフェランドラと

ジークスの姿があった。


「どうかしたのか?」

「……迷宮を作れるとは本当なのか?」


ジークスが重い口を開いた。


「俺にできないことはない。

証拠が欲しいなら特別に見せてやろう。

パパ!見ててね!」


ジークスを一瞥(いちべつ)し、

郁人へふにゃりと笑みを向ける。


「まず、このように大気から魔力を集める」


チイトが手の平を上に向けると、

風が集まってくる。

すると、空間が1部歪んでいき、

小さな穴が見えてどんどん

広がっていった。


「次に土地の魔力、そして残留思念を

集めていく」


発言した瞬間、地面から光が溢れて

小さな穴に集約する。

そして、穴から景色が見えてきた。


景色は、白い壁に蔦が覆われており、

試しの迷宮と酷似していた。


「と、これをもう少ししたら

迷宮にとって大切な核が出来て

迷宮の完成だよ。

位置とかも決めれるけど、

土地の残留思念。

つまり、土地にいた生物の思いが

ないと難しいし、色々条件があるから

面倒なんだよね」


チイトは小さな穴、迷宮のなりかけを

握り潰しながら、面倒そうに呟いた。


〔そんな簡単にできてたまるかあー!!〕

「そんな簡単にできてたまるかあー!!」


ライコとフェランドラが同時に叫んだ。


「あんな風に大気中の魔力をコントロール

できるわけないだろ!!」

「大気の魔力を扱えるのは……

魔法の領域。

世界を見渡しても数人しかいないが……

君は出来るのか」


フェランドラは目を皿のようにし、

ジークスも顔を強ばらせる程に

驚いている。


〔神々同士の機密情報を

なんであんたが知ってるのよ!!

迷宮がぽかぽか増えたら

世界の魔力を使いすぎて、

土地が枯れちゃって人々が

生きられなくなるの!!

だから!絶対に神しか作れないように

難しくしたのに……!!

それをあっさり作るなあー!!〕


ライコが爆弾発言をした。


(迷宮作成って……そうだったのか。

でも、機密情報って言ってよかったのか?)

〔あぁーーー?!

今の無し無し!!忘れなさーーい!!〕


ライコがますます慌てふためく様子が

声からでもわかる。


「どうかな?

できたでしょ!」


3人の様子に我関せず、郁人の腕に

抱きつき、チイトは笑いかける。

そんなチイトの頭を撫でながら、

郁人は諭す。


「チイト見せてくれてありがとう。

でも、簡単にできちゃダメみたいだから

作り方とかは内緒にしておこう」

「わかった!内緒だね!」


チイトは小指を立てると、

郁人も察したのか、自身の小指を

絡める。


「「ゆびきりげんまん、

嘘ついたら針千本のーます!

ゆびきった!」」


言い終わると同時に指を離すと、

チイトは子供のような笑みを

浮かべる。


「パパとゆびきりしちゃった!

いつも見てたからしたかったんだよね!」

「見てたって?」


いつのことか聞き出そうとしたとき、

突然、チイトの表情から無邪気さが

抜け落ちた。


「…………」


気づいたように顔を上げる。


周りを見ると、2人も天井を見ていた。


「どうした?」

「……なにか凄い勢いで来てるな」

「この魔力は……」


フェランドラは耳をそばだて、

ジークスは大剣に手をかけている。


「明日だというのに来るの早すぎだろ、

あいつ」


チイトだけは正体を察して、

鋭い舌打ちをした。


「一体なにが……」


郁人が聞こうとした瞬間、

頭上から音が爆発し、一瞬で拡がった。


「うわあっ?!」


破片が頬を掠めかけたので、

なにかが天井を突き破ってきたのだと、

遅れて理解する。


「パパ大丈夫?」

「ありがとう、チイト」


あまりの衝撃に尻餅をつきそうになったが

チイトが支えてくれたおかげで、

つかずに済んだ。



ー「さすがと言うべきか……

憎らしいと言うべきか……

簡単に動けるとは」



誰のでもないバリトンボイスが

聞こえてきた。


「まさか……?!」


郁人が視線を向けると"軍人"が

立っていた。


紅い髪を完璧なオールバックとは

いえないが後ろに流し、

束ねた髪をまるで尻尾のように

靡かせている。


眼帯で片目を隠し、隠していない瞳は

夕日を思わせるが、刃のように鋭く、

優しげな雰囲気は微塵もない。

しかし、よく見ると少しタレ目で

あることがわかった。


目が合った瞬間、妹の言葉が郁人の脳裏を

(よぎ)る。



『イメージカラーは紅!!

服装は軍服よ!』

『堅物みたいな感じで眼帯をつけてるの!

堅物だからって完璧なオールバックは

やめてよね!

完璧なオールバックではないのが

色気を感じさせるのだから!』



―「ヴィーメランス……」



その姿を見て、郁人は声が漏れた。

軍人は真っ直ぐ歩み寄り、郁人の前で(ひざまず)く。



「不肖、ヴィーメランス。

後れ馳せながら参じました。


ー父上」





活動報告にも書いたのですが、

書き貯めていたものが、このままのペースで

投稿していきますと、あっという間に

底をついてしまいます。


ですので、私事ですいませんが、

これからは、週に1回のペースで

投稿させていただきます。

土日のどちらかに投稿させていただくつもり

ですので、温かい目で見守っていただけたら

とても嬉しく思います。



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