17話 見た瞬間、空気が変わった
「じゃあ、この頭の持ち主は……
ジークスの父親なのか?!」
ジークスの言葉に郁人は声を
上ずらせた。
「間違いない……!
この魔力は……王だ!!」
郁人の問いに、ジークスは震える声で
答えた。
〔英雄候補の言う通りよ。
間違いなく、ドラケネス王国の
元国王だわ。
額の紋章は竜人からドラゴンになった
証だし、調べたけど魔力からして
本人よ〕
ライコも本人だと話す。
「竜人は理性を失うとドラゴンに成る
と聞いたが……なぜ王は理性を……?!」
「貴様が憎かったのではないか?」
混乱するジークスに、
チイトは当時の様子を語っていく。
「支離滅裂な言語を繋ぎ合わせれば、
"あいつさえいなければ
アナスタリアは死なずに済んだ。
あいつさえ……
あいつさえいなければ……!!"
と繰り返していたように思える。
憎しみの果て、貴様を殺すために
理性を捨てたのだろうよ」
「……そうか。
……そこまで……王は……」
ジークスは唇を噛み、肩を震わせる。
「王はそこまで……
理性を捨てドラゴンに変わるほど……
国を捨ててしまうほど……!
俺が憎かったのか……!!
俺はやはり、生きていては……
国が捨てられることも……
あのときに私は……!!」
「そんなことない!」
表情を曇らせながら自身を責め、
目が虚ろになりだしたジークスに
郁人は勢いよく席を立ち、
近寄って肩を掴む。
「俺はジークスと会えてとても
嬉しいし絶対にこれからも
生きてほしい!
それに、ジークスは俺のそばに居て
楽しくてはじめて"生きたい"と
願えたんだろ!」
「イクト……」
ジークスは郁人をじっと見つめる。
郁人はそのまま訴え続ける。
「だったら生きろ!!絶対に!!
生きたいと願うのは当然の権利だ!
……それを自分から放棄するなんて
絶対に駄目だ!」
自身の思いをジークスへぶつけた。
ぶつけられたジークスはしばらく
呆然とし、ゆっくりと微笑んだ。
「……そうだな。
私は君ともっと話がしたい。
この先もずっと共にいたい。
ならば……俺が否定してはいけないな」
先程までの雰囲気は霧散し、
いつもの様子に戻ったことに郁人は
息を吐く。
〔よかった。元に戻ったわね。
こいつ、落ち込んだら暗い方に
行きがちだから、あんたがいて
助かったわ〕
ライコも安心し、息を吐いた。
安心していた郁人だが、
ある事実を思い出し、慌てる。
「あっ……でも……
父親を……その……」
「気にしなくていい」
自身のキャラが親友の親を殺した事に
一体どうすればいいのか、
頭を巡らせているとジークスが
告げた。
「俺が衝撃を受けたのは国を捨ててまで、
王に疎まれ、憎まれていた事実だ。
彼が王を斬ったことに対して
何も感じていない」
「けど……」
「薄情かもしれないが、俺は王を
父と認識したことがないんだ。
母は父と見て欲しかったみたいだが、
そばにいてくれた事もなく、
愛情を1度も向けなかった者に対して
認識するのは無理でな。
王としてしか認識できなかった」
眉を下げ、母に申し訳なかったが
と口にした。
「気を使って言っているのではないぞ。
君は気づいてないかもしれないが、
俺は王のことを1度も
"父"と呼んだことはないだろ?」
「言われて見れば……」
郁人は思い返すと、ジークスが王を
父と発言したことは1度もなかった。
酔っていた時でも父とは呼んで
いなかったのだ。
「家族の形はいろいろある。
俺と母はたしかに家族だ。
しかし、王はそんな関係ではなく、
赤の他人だったということだ。
君が胸を痛めることは……何もない」
郁人を慰めるように手を包み込む。
「父親は勿体ないな……
ジークスみたいな良い奴を
息子にしないなんて。
俺が父親なら自慢の息子って
皆に言いまくるのに」
「君にそう言ってもらえるなら光栄だ」
ジークスは穏やかに微笑んだ。
その光景を前に、チイトが鋭い舌打ちを
する。
「……こいつに始末させれば良かった。
それならパパを独占できたのに。
本当に貴様は邪魔だな」
「俺が今対峙したとしても斬り捨てる
自信はある。
君の思うようにはいかなかっただろう。
これからも君の邪魔はさせてもらうぞ」
「?」
ジークスに突然耳を塞がれ、
郁人には2人が何を言っているか
わからない。
が、険悪な雰囲気であることは
間違いない。
目付きが明らかに鋭く、
表情にもそれが浮かんでいる。
郁人は止めようと手をばたつかせた。
「すまない。もう大丈夫だ」
その様子を見て、ジークスは塞いでいた
手を外した。
「わからないけど、
暴れたりとかしたら駄目だからな」
「わかってるよパパ。
このクラーケンのカルパッチョも
美味しいよ!食べて食べて!」
〔さらっとすごい名前出したわよ、
この猫被り!!〕
チイトが郁人の腕をマントで引っ張り、
ジークスから引き剥がす。
そして、自身の隣に座らせ
無邪気に笑いながら、郁人の口に
入れた。
クラーケンと言われて郁人は目を
丸くしたが、美味しさにも更に丸くする。
「本当だ!
歯ごたえがあって、レモンもきいて
すごく美味しい!!
改めてだけど、チイトは料理も
できるんだな!!」
「パパにそう言われると嬉しいな!
あいつと比べたらまだまだかも
しれないけど、もっと上達できるように
頑張るね!」
褒められ、頬を紅潮させるチイト。
突然、ハッとすると王の頭部を
空間から取り出す。
頭部しか見れなかったが、首を綺麗に
斬り落としていたようだ。
「それにしても……これどうしよ?
今見てもやっぱり不味そうだし……」
頭部を持ちながら、チイトは顔を
しかめる。
「いや。食べるのは止めようチイト」
〔なんで食べようとしてるのよ〕
食べる手段を考えているチイトを
郁人は冷や汗を流しながら止める。
ー「……ドラケネス王国に渡すのは
どうだろう?」
ジークスが顎に手をやりながら
提案した。
「国を捨てたとはいえ、
1国の王だったことは事実。
王であった死体を国へ渡すのは
当然だと考える。
それに……王が捨てた後の国、
母が大好きだった国が
どうなっているのか気になる……
俺が今更現れては混乱を招く恐れが
あるため内密に事を進めたいが……」
腕を組ながら、国を憂う心情を
語っていく。
その姿を見て、郁人は決める。
「よし!
最初の旅の目的地は
ドラケネス王国にしよう!」
郁人は高らかに宣言した。
「…いいのか?
巻き込んでしまう恐れが……」
「気になるんだろ?
国がどうなっているか……
気になることは早めに
片付けといたほうがいいから。
巻き込まれたら一緒に考えよう!
だって、パーティだろ?」
見つめる郁人に、
ジークスは無意識に唇を開いた。
「……そうだな。
ありがとうイクト」
「気にしなくていいよ。
空にある国ってすごい気になるし、
行ってみたいのは本当だからさ。
チイトも……その……いいか?」
郁人は嫌がられるのを承知で尋ねた。
「パパが行きたいなら俺はついていく
だけだよ。
ジジイの用を片付けるのは
気に食わないけど」
ジークスの為でもあるので、
頬を膨らませながら、郁人の肩に
もたれかかる。
「ありがとうチイト。
チイトも行きたいところがあるなら、
言ってほしい。
一緒に行くからさ」
「わかった」
郁人の言葉を聞き、
肩に頭をぐりぐりと擦り付けた。
「目的地も決まったし、早くスキルを
知りたいな」
(俺が倒れたから延期になったし。
2人には迷惑かけるな)
<迷惑とか思ってないよ。
俺達が原因でもあるから>
チイトが笑いかけると、口を開いた。
「気になるならスキル見ちゃう?
俺も気になるし」
「わかるのか?
スキルなどは、ギルドの魔道具がなければ
確認できないのでは?」
「あんな魔道具にできることが、
俺にできない訳がないだろ」
ジークスに吐き捨てると、
チイトは郁人の指環に触れる。
すると空中にスクリーンが浮かび上がった。
「これ……
チイトがくれたYパッドの画面だよな?」
「制作者は俺だからね。
自由に画面を出せるんだ」
「これでスキルがわかるのか?」
「うん。
このコマンドを選ぶと……」
チイトがスクリーンに触れ、
選択していくと画面が変わる。
【所持スキル
・クリエイト(ユニークスキル)
描いたものを創造する特殊スキル。
材料がなければ創ることは不可能。
情報が多いほど存在することができる】
スキル内容がスクリーンに現れた。
「クリエイト……か……」
〔こいつ何でもありなのね……
開いた口が塞がらないわ……〕
郁人は口をポカンと開ける。
ライコの声は驚愕と困惑に染まっていた。
「これってパパが迷宮の壁から
出てきたときに使ったやつ?」
「多分これだな。
内容が合ってると思うから」
「あの"ひらけゴマ"とは使うときの
詠唱なのだろうか?」
ジークスは場面を思い出しながら
尋ねた。
「いや、あれは壁に扉ないかと思って
無意識に口ずさんだから詠唱では
ないかな?多分……」
(あのときは仕掛け扉とかないか
探してたからなあ……
本当に無意識かも)
当時の状況を振り替えると、
郁人には無意識としか思えない。
「"ひらけゴマ"ってアラビアンナイトに
出てくる有名なフレーズだよね。
読書家のパパらしいや」
「アラビアンナイト?」
聞き慣れない単語にジークスは首を
傾げた。
郁人は疑問に答える。
「"アラビアンナイト"は本の題名なんだ。
"千夜一夜物語"とも呼ばれている。
"ひらけゴマ"はその本の1篇で、
これを唱えると岩の扉が開くっていう
話があるんだ」
郁人は内容を説明すると
ジークスは顎に手をやり興味深そうだ。
「初めて聞いたが……
そのような本があるのか。
フレーズを唱えると開くのが
不思議なものだな。
アラビアンナイト……
是非読んでみたいものだ」
「見つけたらジークスに貸すよ」
「ありがとう。
俺も見つけたら君に貸そう」
ジークスは題名をメモした。
(こっちにあるのかわからないけど、
もしかしたら、あるかもしれないし。
……そういえば、寝る前に
じいちゃんに読んでもらったな……
見つけたら、また読もうかな)
幼い頃の記憶が脳裏を過り、
懐かしさがわいた。
「フレーズがいるかはわからないけど、
本当にパパらしいスキルだよね」
「そうかな?
……使いようによっては戦闘とかに
使えそうな気がするな」
文章を注意深く読んでいると、
チイトが袖を引っ張る。
「使い方によっては戦闘とか
できるかもしれない。
けど、パパに傷ついてほしくないから
絶対に駄目!」
「このユニークスキルは、
君だけのスキル。
絵を描くのが得意な君らしいスキル
でもある。
使い方は君次第だろう。
しかし、彼と同意見だ。
戦闘には出ないでほしい。
君が傷つくことがあれば、災厄もだが
私もどうするかわからない」
「……うん。わかった」
2人に真顔で言われ、あまりの圧に
郁人は頷いた。
〔あんたが戦闘に出れば、2人が
気が気じゃなくなるのは事実ね。
おまけに、あんたに傷1つでもついたら
何をしでかすかわかったものじゃないわ。
猫被りなんか、傷つけた相手どころか
地形まで変形させるほど暴れるかも……〕
(おとなしくサポートに徹しよう。
戦闘だけがパーティに必要とは限らないし)
〔そうしなさい。世界のためにも〕
ライコの言葉に郁人は
サポートに徹しようと心で誓った。
(足手まといにならないように
したかったんだけど……
あれ?)
郁人は画面をよく見ると、
スクロールバーがあることに気付いた。
(バーがあるってことは……
続きの文章があるってことだよな?)
試しに画面に触れるとたしかに動いた。
「続きがあるみたいだ……
なんだろ?」
「ホントだ。続きがあるね」
「スキルがもう1つあるとは……珍しい。
本来なら、旅に出た過程で得ることが
多いのだが」
「戦闘は諦めるけど、2人のサポートが
できるのであれば良いな」
胸を弾ませながらスクロールバーを
動かすと、次の文章が現れた。
【・死霊魔術
死霊やアンデッドを使役する者】
短い文章であるがハッキリと記されていた。




