12話 災厄と英雄候補
※今回、戦闘描写が含まれております。
残酷表現もありますのでご注意ください。
迷宮の出口……
本来ならクリアした者達がお互いの
無事を祝い、喜ぶ場面が見られる場所だが、
そこはもう掛け値なしの戦場と化していた。
ー雨あられのように降り注ぐ
黒い無数の杭が大気を切り裂き、
襲いかかる
ー鋭い一閃がその杭をかいくぐり、
そして、なぎ払っていく
杭1つ1つに凄まじい威力があるのだが、
それをなぎ払ったジークスの実力は
英雄候補にふさわしいものだ。
「……君は飛ぶこともできたのか」
自身に降りかかる杭を払いのけた
ジークスは上を見据える。
その先に、マントをはためかせた
チイトが凍えるような視線で
見下していた。
「これは大気を圧縮させ足場を
作っただけだ。
それにしても……」
マントの1部が杭に変貌し、
再びジークスに襲いかかる。
先程のように1人が余裕で隠れる程の
大剣で斬り捨てた。
しかし……
「なにっ?!」
斬った杭が分裂し、
再び、弾丸のように迫り来たのだ。
すんでのところで身を交わしたが、
ジークスの頬から血が流れる。
「……思いの外、頑丈だな。
交わしても肉が抉れるくらいの
威力なのだが」
傷が浅いことにチイトは鋭い舌打ちをする。
雨あられのように降らせた杭の中には
ジークスをかすめたものもあった。
しかし、ジークスは平然と構えている。
無傷という訳ではないのだが、
まず立っていられること自体がおかしい。
直撃ではないとはいえ、
手足が千切れたり、肉が抉れたりと
かすめても満身創痍が当たり前の
威力にも関わらず、ジークスの傷は
あまりにも浅い。
浅いなんてあり得ない、
あってはならない光景だ。
しかし、ジークスの傷は浅いのが現実だ。
ー深手を負わない理由が、彼にはあるのだ。
チイトはその理由を知っているからこそ、
思いの外と言ったのだが。
「災厄にそう言ってもらえるとは……
光栄だなっ!!」
「?!」
ジークスは言い捨てたと同時に、
なんと、チイト目掛けて大剣を投擲した。
自身の腕に魔術が施していたため、
剣は音速の壁を突き破り、チイトに向かう。
当たれば致命傷確実の大剣を、
チイトはマントで弾き、
地面に降り立った。
ーこの瞬間をジークスは狙っていたのだ。
この機会を逃すまいと、
ジークスは地面を踏みしめ、
一気に跳躍する。
腕に施した魔術を、両足にかけての突撃。
大地を揺るがすほどの突撃は、
チイトとの距離をつめる。
そして、唯一肌が晒されている胸元から腹、
鳩尾めがけ、拳を思い切り
叩き込む。
「っ!!」
強烈なボディーブローをくらい、チイトは
吹き飛ばされるが、無様に転がることは
なかった。
勢いを利用し、膝をつくことなく着地する。
弾かれた大剣はジークスのそばに落ちた。
鳩尾を抑えジークスを睨み付けるチイト、
口の端からは血が流れている。
「気絶させるつもりだったのだがな」
1撃を耐えたチイトに、ジークスは
大剣を手に取りながら苦笑を浮かべる。
「……血か。
久しぶりだな、流すのは」
チイトは自身の血に気付き、手で拭うと
ジークスに尋ねる。
「おい、ジジイ。
なぜ気絶させようとした?」
彼にとって戦闘とは、命の取り合いを
意味する。
今は郁人と約束している為、
チイトなりに命を奪わないよう動いているが、
ジークスには関係ない話だ。
だが、ジークスは気絶させるつもりで
動いている。
チイトにはその行動が理解出来ない。
だから、尋ねたのだ。
ジークスは口を開く。
「イクトがそれを望まないからだ。
彼の心を傷つける事はしたくない」
ジークスは真っ直ぐ見据えて答えた。
彼には気に食わない相手だが、
郁人にとっては違う。
態度からみて、家族に等しい相手なんだと
わかる。
戦闘した時点で郁人が悲しむのは
わかってはいたが、それ以上は
悲しませたくない、傷つけたくない。
だから、気絶させる方針でジークスは
動いているのだ。
「……………………………」
ジークスの答えに、チイトは不自然なほど
押し黙り、白目も見えるほどに
目を見開いた。
「………ふざけるなっ!!
パパが望みもしない行為を……
傷つけるかもしれない行為を……
貴様は平然と繰り返ししている
だろうがっ!!!!!!」
チイトの激昂は全体に響き渡った。
全身に怒気を溢れさせ、空気が更に
張り詰めたものへと変貌する。
「パパと約束していたから、
命だけは取らないように加減していたが……
変更だ!!
絶対に貴様を殺してやるっ!!!!!!」
殺意を瞳に宿し、マントの1部を
杭に変え、手に持つと、自身の手を
傷つけた。
流れた血は意思を持っているように
動きだし、やがて、ある形に変化する。
「剣……か……?!」
目にした瞬間、ジークスは体が凍りつく
感覚がした。
その剣は、まさしく血のように紅く、
見る者全ての背筋を凍らせるほどの美しさ
―そして、狂気を感じさせた。
「これは剣ではない"刀"だ。
剣とは違い、斬ることに特化したものでな。
冥土の土産によく目に焼き付けて
おくがいい」
チイトが刀を構える。
瞬間、ジークスの脳裏に
自身の首が飛ばされる姿がよぎる。
ーこれは直感だ。
このままではこうなってしまうと
今までの経験が告げている。
すぐに距離をとろうとするが、
足が動かない。
恐怖で身がすくんで、
ではない。
ジークスの影が、杭によって地面に
縫い付けられ、動きを奪われているからだ。
「くっ!」
大剣で杭の破壊を試みるも、
びくともしない。
「よそ見をしている場合か?」
抑揚の無い声が近くから
聞こえた瞬間、猛烈な1撃が鳩尾に入る。
「……ぐっ?!」
あまりの威力に思わずジークスは
膝をついた。
口内に鉄の味が広がる。
加減していたとの言葉は本当だったようだ。
先程の杭よりも威力がある。
痛みに顔を歪ませながら首を上げると、
チイトがすぐそばにいた。
先程の1撃は蹴りによるものらしい。
冷徹な、そして、殺意を込めた目で
睨み付けている。
「久々に血を流させた礼だ。
綺麗にその首を刈り取ってやろう。
ーでは、死ね」
宣言通り、ジークスの首筋を狙っている。
その刃を防ぐ手段はどこにもない。
影を縫い付けた杭は、目を離した隙に
増えており、先程動かせた腕すらも
動かせないように固定してある。
杭の猛攻を防いだ理由は、
あの刀の前では無力だと
見たときに理解している。
理解したから、自身の首が飛ばされる姿が
よぎったのだ。
(イクト……すまない……
もっと君と……話がしたかった……)
ジークスが思うは、
身命を賭しても惜しくない親友の姿。
チイトの凶刃は容赦なく降り下ろされる。
ー「ひらけゴマ!」
光と共に、聞き覚えのある声が聞こえた。




