11話 止めるべく、彼らのもとに全力で
あまりの眩しさに目を閉じていたが、
光が収まったので目を開く。
「ここが……迷宮……」
明かりがないのに周囲をはっきり見渡せ、
白い壁はところどころ蔦に覆われており、
どこか神秘的なものを感じさせた。
「ギリシャの遺跡に似てる気がする。
おどろおどろしい感じかと
思ってたんだけど……」
予想とは違ったなと郁人は思わず呟いた。
(とりあえず何が起こるかわからないし、
武器になるものでも探そう)
〔確かにそのほうがいいわね。
あんた、1撃でも食らったら
終わりそうだもの〕
(俺、そんなにやわじゃないからな
……多分)
ライコの言い分を撤回しつつ周囲を
見渡すと木の枝を見つけた。
「木の枝でも持っておくか。
いざとなれば目を突けばいいし」
弱点は大概真ん中に集中しており、
目を突けば怯ませられると
フェランドラが言っていたことを
思い出したのだ。
長さや固さも申し分ないと、
郁人は木の枝を装備する。
そして、道なりに進んでいった。
どれだけ進んでも進んでも、
白い壁にたまにある蔦と変化がないため、
方向感覚が狂いそうになる。
時計もないので、どれくらい時間が
経ったのかもわからず気が滅入りそうだ。
「……目印がいるな。
自分がいたところに目印がないと、
また戻ってきそうだし」
〔代わり映えしないし、
そのほうがいいかも。
壁とかに進んだ方向を書くのは
どうかしら?〕
「木の枝で書けるのか?」
ライコの意見を聞き、試しに枝で
書いてみると堅そうな壁は意外と脆く
すんなり書けた。
「意外と脆かったな」
〔見かけ倒しね〕
「じゃあ、矢印でも書くか」
郁人は進む方向の矢印を書き、
歩みを進める。
途中で休憩を挟みつつ、
同じ景色にうんざりした頃、
道が2つに分かれた。
「やっと分かれ道が出てきたな」
〔この迷宮、あんたの体力を試して
いるのかもしれないわ。
旅には体力が必須だもの〕
「体力か……」
郁人は自分がこちらに来た当初を
思い出す。
当初の体力なら肩で息をし、
既に倒れていただろう。
ジークスがこの場にいたら、
心配して抱えていた可能性だってある。
まず、旅に出る事をライラックが
認めなかったに違いない。
しかし、今の郁人は違う。
(フェランドラやジークス、
母さん達のおかげで体力はついたし、
前よりは大丈夫だ)
〔でも、油断は禁物よ。
休憩は絶対にしなさい〕
(わかった。
気にしてくれてありがとう)
郁人はライコに感謝を告げる。
ここまで冷静でいれたのはライコの
おかげである。
ライコがこうして話しかけてくれるので、
不安に押し潰されそうになることを
防げているのだ。
〔別にあたしはなにもしていないわ。
あんたのメンタルが強いだけよ〕
(でも、ライコが話しかけてくれる
からだと思うし)
〔そっ、なら勝手に感謝でもしてなさいな〕
(そうしとく)
素っ気ないライコに返事をし、
郁人は枝を地面に立たせる。
「どっちに倒れるかで行く方向を決めよう」
〔そんな適当に決めていいの?〕
(だって、迷宮の全体はわからないし、
悩んでたら進めないだろう)
立たせた枝は、パタリと左に倒れた。
「よし!左に行くか!」
枝を拾って壁に書いた後、左に進んでいくと
音が近づいてくるのに気づいた。
その音は、耳を鋭く突き刺してくる。
「なんの音だろ?」
〔ガシャガシャ聞こえるわね……〕
音の正体を見ようと、郁人は慎重に
近づいてみる。
そして、音の正体が目に入った。
白い骨をあらわにし、年期の入った
重そうな鎧を身に纏ったスケルトン騎士が
いたのだ。
足取りは真っ直ぐこちらに向かって
きている。
「目が無いから突いても無駄だな……。
逃げたほうがいいかな?」
〔逃げたほうがいいわ!
普通のスケルトンなら、まだ勝機があるけど
スケルトン騎士は武芸に長けた魔物なの!
あんたの実力じゃ無理!
八つ裂きにされるのがオチだわ!〕
「よし!逃げよう!」
郁人は全力で走り出す。
ミアザも言っていたが、郁人のクリア条件は
"無事に脱出する"こと。
相手を倒せとは1言も言っていない。
ゆえに、無理して戦う必要はない
と判断したのだ。
〔意外と足速いのね〕
(頑張って鍛えていたからな!)
〔あんた、足っ?!〕
「っ?!」
ライコが声を上げた瞬間、
足首を何かに掴まれた。
突然のことに受け身もとれず、
顔から地面に激突する。
「何が足に……?」
郁人は掴んだものを見ようと振り返った。
「なんだこれ……?!」
掴んでいたのは壁に生い茂っていた
蔦だった。
蔦はしっかりと足首に巻き付いている。
〔イービルアイヴィ?!
まさか生えていたなんて!?〕
「くっ!?離せ!!」
ライコは声をあげる。
郁人が必死に剥がそうとするも
抵抗は空しく、どんどん上へと
這い上がってくる。
このままでは、身動きがとれなくなるのも
時間の問題だ。
「枝じゃ切れないし……どうすればっ?!」
〔前っ!!〕
「え?」
前を向くと、スケルトン騎士が
すぐそばにいた。
そして、携えていた剣に手をかけている。
(いちかばちか、この蔦が
斬られるように動くか……!!)
攻撃を利用しての脱出を計るが
蔦が更に巻きつき、動きをさらに
封じられていく。
〔イクトっ!!〕
ー郁人の目の前を閃光が走った。
スケルトン騎士が郁人を斬った。
しかし、郁人の目の前が赤く染まる
ことはなかった。
間一髪で郁人がかわした訳ではない。
スケルトン騎士は郁人を……
ー正確には郁人に巻きついていた
蔦を斬ったのだ。
証明するように剣は血塗られておらず、
蔦だけが斬り裂かれている。
「……どういうことだ?」
事実に頭が追い付かない郁人。
そんな郁人にスケルトン騎士は
手を差し伸べる。
「……ありがとう」
手を取り、立ち上がると礼を言った。
目の前にいるスケルトン騎士に
助けられたのは明らかだからだ。
スケルトン騎士はどこからかハンカチを
取りだし、郁人の鼻に当てる。
ハンカチを見ると赤く染まっていた。
顔面を強打した際に出ていたのだろう。
(痛くなかったから気付かなかった)
郁人がハンカチで鼻を押さえるのを確認し、
スケルトン騎士は手を放した。
そして、前へと進むと途中で歩みを止め、
振り返る。
ーまるで着いてこいと告げているように。
察した郁人はスケルトン騎士を
追いかけた。
〔ついていっていいの⁉
罠かもしれないのよ!!〕
(あのスケルトン騎士は
大丈夫な気がするから)
郁人が自身に追い付いたことを確認すると、
スケルトン騎士は再び歩みを進める。
郁人もその背についていった。
ー結果的に郁人がついていったこと
は正解だった。
スケルトン騎士が先導し、先程の
イービルアイヴィが巻き付こうと
すれば即叩き斬る。
他の魔物が出ても攻撃される前に
斬り伏せたりと護衛してくれているのだ。
〔この魔物……
本当に信じていいんでしょうね?〕
(信じてもいいと思う)
声を低くして囁くライコに
郁人は安心させるように心で告げる。
〔なんでそう思うのよ?〕
(なんとなく?)
郁人にもスケルトン騎士を信じていい
と言いきれる確証はないのだが、
少しでも信じられると思えたのだから、
それに従うまでだ。
(それに、騙すよりは騙されるほう
がいいから)
〔なによそれ?
どれだけお人好しなのよあんた〕
呆れたと、ため息が漏れる。
〔あんたが騙されたとなると
猫被りと英雄候補が黙っちゃいないわよ。
最悪、暴れるかもしれないから
注意しなさい〕
街1つ潰されたら敵わないんだから
とライコは危惧する。
ー瞬間、迷宮が今にも崩れるのでは
と思わせる破壊音が全身にぶつかってきた。
あまりの音に倒れそうになる郁人を
スケルトン騎士が支える。
「ありがとう。
この音は……?迷宮の仕掛けとか?」
郁人の問いに、スケルトン騎士は
首を横に振る。
どうやらスケルトン騎士も
わからないようだ。
〔大変よ!
あいつら本気で戦ってる!!〕
ライコの切羽詰まった声が耳をつんざいた。
〔猫被りと英雄候補がこの壁の向こうで
本気で戦ってるのよ!!
さっき調べたら、猫被りが英雄候補を
仕留める気だわっ!
さすが英雄候補なだけあって
渡り合ってるけど……
このままじゃ……!!〕
「この壁の向こうで2人がっ……?!」
声からでもわかるようにライコが
慌てているおかげか、
郁人はまだ冷静でいられた。
(どうにかして2人のところへ
行かないと!!)
なんとかしなければと、
郁人は頭をフル回転させる。
「スケルトン騎士!
この壁の向こうに一刻も早く
行きたいんだけど、このまま進んだら
壁の向こうには行ける?!」
スケルトン騎士の答えは"NO"だ。
首を横に振る。
「……そうか」
郁人は唇を噛み、頭をさらに回転させる。
(だとすれば、この壁を壊して
進んだほうが1番早いことになる!
この壁はたしかに脆いが、
俺がどう頑張っても無理だ!
どこか仕掛け扉とかそういうの
あったりしないのか!!)
郁人は壁に触れ、仕掛けがないか探す。
すると、枝が突然光り輝いた。
いや、違う。
郁人自体が輝いているのであり、
光が1番強いのが枝を持っている
手なのだ。
(なにが起こって……?!)
頭が動くよりも早く、体が動いた。
手の光は枝に移り、枝を羽ペンへと
変貌させ、手が勝手に動き、壁に光の
軌跡を描く。
そして、口が勝手に開いた。
ー「ひらけゴマ!」
軌跡が描かれた部分に扉が現れ、
2人の姿が目に飛び込んだ。
その姿めがけ、郁人は走った。




