人生に別人のレイヤーをかけられた男
(ぴぴぴぴ)
アラームの音がする。
俺はアラームを止める。
大きなベッド。
なんやここ。
アパート違う。
ホテルか?
隣に髪の長い女が寝てる。
俺はシーツをそーっとめくる。
全裸や。
俺もーーーー。
誰なんや。この女。
(うにゃうにゃ)
女が目を開ける。
「ろ六九。もう起きたん」
眠そうに言う。
青ちゃんか?
「青ちゃんか?」
「当たり前やん。ほかに誰がおるんよ」
「誰がおるって、青ちゃんこそ、なんで俺の横で裸で寝とるん」
「別に不思議やないやん。私ら夫婦やねんから」
青ちゃんは指輪を見せる。
俺も指輪をしている。
指輪には青ちゃんの名前と俺の名前があった。
ちょっと待て。
青ちゃんと俺が結婚やて。
まぁ青ちゃんはタイプやし、ええんやけど。
「なぁ青ちゃん。付き合うってどっちが言い出したんやっけ」
「六九。あんたほんま何度もそれ聞くなぁ。
私があんたの追っかけやって、それで私が好きですって言ったんやん」
青ちゃんが追っかけ?
俺の?
「もう恥ずいから何度も聞かんといてくれる」
どういう事や。
「キャバは行ってるんか?」
「キャバはすぐやめたやん。あんたがたこ焼きロックを、フランチャイズチェーン展開するいうから、それ手伝えって」
「そんな金はどうしてん?」
「ほんまな。寝ぼけるんもええ加減にしといてな。西条の爺ちゃんが出資してくれたやん」
「西条の爺ちゃんって?」
青ちゃんはスマホを開く。
「この人、六九と私の間のおじいちゃん」
そこには、冷やしたこ焼きを買ってくれた爺さんがいた。
「これ冷やしたこ焼きの人やん」
「そうや。テレビの取材で冷やしたこ焼きが紹介されたのを見て、店まで来て、あんたにフランチャイズ展開しろやって勧めてくれたんやん。お金も出してくれて。うちの大株主やで」
「そうなんか」
「そうや。昨日ウイスキー飲みすぎたんと違う?」
青ちゃんはテーブルの上のウイスキーの空瓶を指さす。
そこにはラベルの剥がれかけたウイスキーがあった。
「このウイスキー。バンド仲間にもらったやつ」
「そうや。出店祝いにもらって、それから瓶だけ何度も再利用してるやん」
「そうか。そうなんや」
「あんな……ドブネズミロックスどうなった?」
「学生にテープあげたやろ。その学生さんの投稿がバズって、配信サイトで配信されてるよ」
「印税とかは?」
「みんなに分け前入ってるって言ってたよ」
「そうか……」
「今日は銀座店に行って、そのあと株主総会があるから、しゃきっとしてな」
銀座店……。
株主総会……。
脳が処理しきれない。
「今何店舗あるねん」
「日本だけで千三百八十店舗。
もうこれ見とき、たこ焼きロックのホームページ」
俺は青ちゃんにスマホを手渡される。
ホームページには全国の地図があった。
俺は店舗を見ていく。
たこ焼きロック青森北店
青森市ーーー
ギターの飾られた店内にツンツン頭の男がいた。
「こいつ見たことある」
「あぁこの人ウルフキャットの大沢さんやん」
「ウルフキャットの大沢って、あのハードコアバンドの?」
「そうそう。たこ焼きロックのFCのオーナーってみんな元バンドマンとかやで。忘れたん」
「そうなんか……」
「なんでバンドマンがFCのオーナーしてんの?」
「そんなん。あんたが“音楽をあきらめるんやったら、ギターのピックをたこ焼きのピックに持ち替えな。たこ焼きはロックンロールやで”って口説いて回ったんやん。あの元保険屋の夫婦と一緒に」
「元保険屋の夫婦?」
「そうや。店に保険の営業に来た時に、なんか言うたんやろ。それであんたに惚れたって言って、歩合給でええからって、FCの開拓を引き受けてくれたやん」
青ちゃんは、スマホで二人の写真を見せてくれる。
あの時の保険の営業やった。
……
俺は青ちゃんに連れられ、
銀座店に向かう。
銀座店からは、
場所に似つかわしくないドブネズミロックスの曲がかかっていた。
身なりの良い客が並んでたこ焼きを待っていた。
なぜか不思議な光景だった。
「あんな感じの人もたこ焼き食うねんな」
俺は銀座店の店長に話しかける。
「ココのたこ焼きは、ジャンクフードではなく、ソウルフードというか、ロックンロールやってよく言われますよ」
そう言われた。
俺らは株式総会に顔を出す。
そこには隣のアパートのおばちゃん、
喫茶店のマスターがいた。
「なんで隣のアパートのおばちゃんがおんねん」
「なにいうてんの。経理部長やん。お金をムダに使わんように目を光らせるって重宝してるやん」
なるほど、わかる気がするな。
「そそうか。あのマスターはなんでおるねん」
「あの人は、管理が上手いからって言って来てもらったんやん。事業部長やで」
なんや、
俺の見てたのは夢やったんか。
俺は現実と夢の区別が曖昧になる。
俺はスマホで、
たこ焼きロックの一号店を探す。
しかし、
それは見知らぬ店舗だった。
「なぁ。この一号店で俺は仕事を始めたんか?」
俺は青ちゃんに尋ねる。
「そうや」
「あの大阪の○○区の○○にあった店は?」
「なに言うてんの?そんな店知らんで」
青ちゃんは不思議そうな顔をした。
……
後日、俺は記憶を頼りに、たこ焼きロックをやっていた場所を探す。
記憶にある道。
記憶のある商店街。
しかし、俺の住んでいたアパートはなく、
店も店の隣のアパートも喫茶店も文具屋もなかった。
店の場所には、
手入れのされていないふるぼけた稲荷神社があった。
俺はそのお稲荷さんに手を合わせる。
ふと横を見る。
売り土地の文字と不動産屋の電話番号。
俺は迷わず電話をかける。
「あの○○商店街のお稲荷さんの土地。お稲荷さんはついてくるんか?」
「もちろん撤去できますよ」
「いいや。撤去やない。この土地買って、ここのお稲荷さんを立派にしたいんや」
「まぁそれはいいですけど。そんなことしてどうしますん」
「ここを六九稲荷社という名前にすんねん」
……
そこで横山の話は終わった。
「なんかすごい話でしたね。狐につままれたような話です」
「稲荷神社だけにか」
横山は笑う。
「まぁそういうわけでは」
私はそう言い、半信半疑でいた。
横山は窓に近づき、
ブラインドを開けた。
眩しい光が目に入り、
真っ白になった。
「だから君の人生も、
本当は違うのかもよ」
横山はそう言った。
END
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は完結していますが、
反響があれば続編を書く可能性があります。
ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。
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