下にはまた下がある(3)
「もどら...ないと...!!」
でも、戻って何ができる?
今の僕にできることなんて、あるか?
「北に行け」
とセイは言った
「...インベントリー、地図...地図が...」
何にもない空間に二次元のスクリーンがでる
僕の位置は町からずいぶん離れていた
「ここから北に行ったらいいな...」
どれだけ行ったらいいのかはわからないけど、今は行くしかない。
でも、止まっていた
すぐ北に走ったらいいのに、それが出来なかった
「何を悩んでいる僕は...!」
何も変わらないのに
何もできないのに
それでも、悩んでいる僕がいた
「あああ!!!! くそう!!!」
僕は、後ろに走った
「ひひいん!!」
「うぎゃあああ!!?!?」
隣から馬が急に出てきた
「プルルル...」
馬は僕の前に立って、僕を見つめていた
その姿は、´乗れ’というな感じがするほど
「た...す...け...て...」
「馬がしゃべった!!!!」
なわけないだろ
と思って馬の後ろ足を見ると、人が倒れていた
足にロープが縛られていて両足と肩に矢が刺さっていた
「おね...がい...たす...」
「大丈夫か?」
「...あ」
その人は僕を見て、何にも言わなくなった
...さっき、逃げた人だった
鉄の鎧で全身を、頭まで覆っている人。
「...また言ってみたら?」
「ころ...せ...」
「うわ、すぐ言葉変わるな、お前」
まあ、理解できないことでもないけど
「はやく...殺せ...!」
「...言わなくても、やらないと僕が殺されるからさ」
そういって、前にある人の腰のところにある剣を抜いた
そして、剣を持って、僕はー
「すまないとは言わない、あんた達のおかげさまで、今も指が痛いから」
だから、これは正当防衛。
誰も僕を責めることができない状況なんだ
目を閉じて
剣を首に向かって刺した
パシッ
気持ち悪い音が、森に響いた
...
僕は『ばか正直な性格』じゃない。
とんでもない、それよりは、ばかだ。
とんでもない、馬鹿やろ。
「なぜ...剣を止めた...」
「...」
僕は黙って、ただ、自分への不満が、嫌悪感が体を回って反吐が出そうになることを止めていた。
「僕が死ぬ前の反応が、楽しいか...!」
「...うるさい、だったら僕が死ぬ前の反応は、面白かった?」
自分だと思えない、冷たい反応。
「それは...」
目を、開けた。
相手をちゃんとみる
さっき、健一さんは言った。
『自分が選んだ結果について、目を閉じるな』
と、カッコよく、笑いながら
その意味はなんだろ。
『結果が悪かった時でも、自分の選択を後悔するな』?
『選択を、後悔ないようにしたら、後悔するな?』
それとも、「自分が起きたことに、責任をもって見つめろ」かもしれない。
でも、自分勝手で、後悔も多いし
頭もよく回らない僕には、そんなことはできない。
だから、僕にとって、この言葉の意味は違う。
「言え...!!」
「は...?」
人が人を苦しめて、殺して。
正当防衛?
笑わせるな。
僕にとって、その意味は。
『目を閉じると、あきらめたということだ。』
「生きたいといえ!!!!!!」
「は...?」
『だから、最後まで、目を開けて、選択して、後悔がないようにできることを全て使って』
「生きたいだろ!? こんな場所で、こんな風にくたばってもいいのか!!!!」
「なにを...」
「結果を、目を開けて、受けられるように」だ。
後になって、後悔しても、自分が堂々といられるように。
後悔はするしかない、僕は普通の人だから。
「生きたいと!!! 言え!!!」
でも、最後まで頑張ったと
言える人生になるチャンス。
これが最悪の選択だとしても、僕は。
「僕は...」
もう、死ぬとき、もっと頑張ったらよかったと、考えたくない。
それが、後悔。
後悔ない人生は、ないから
これが、普通の僕が異世界でできる、最大の妥協だ
「さっきまで生きたいと言ってただろう! 本当に、そこで、何にもやらずに、死にたいのか!!!」
「君が...わたしの何を知って勝手に!」
「わかるか!!! でも、これは言え! そこで死にたいか!!」
死にたくなかったから、頑張って、奇跡的に2回目のチャンスが来た
後で、この選択は違ってたと考えても
今、一人で逃げたら、絶対に後悔するので。
「生きたいよ!! でも、死ぬしかないだろう!!」
その言葉を聞いて、はっきりした
本当に、すまん、健一さん、セイ。
僕はばか正直なやつじゃない、ただの馬鹿かもしれない。
目の前で、人が傷つくことがいやな、ただの臆病者だから
一生かけて、後悔するかもしれない選択をしたかもしれない
「矢を抜いたら血が足りなくて死ぬかもしれないから、そのまま運ぶ!」
「は?!」
...そのあとは、めっちゃくちゃだった。
何とか人を馬の後ろに乗せて、足を縛っていたロープで全身を縛り、落ちないようにして
乗って、北に走ってきた
後ろから、意味も分からないくらい悪口が聞こえたけど、静かになった
そうやって、太陽がだんだん見えてくるまで走っていると、民家があった
そこで助けを呼んで、僕は、逃げた
どれだけ走ったら着くだろうと思っていると
大きいな、城が見えた。