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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第四章 王国の盾と精霊の弓
112/204

十~変わる点とその裏側は?~

 イグラルード王国西方域――大樹の森に向かう辺境を西に向かい進む、数騎の騎影があった。


 一迅の風と()りて、人智ならざる速さで疾走する様に『火急成る』その件が見えていた。

しなやかな馬体に施された馬具は、無いものと等しく、その迅速な場景の真実味を消していた。


 その場景で、特筆すべきは一つの角にある。いわゆる、一角獣(ユニコーン)のそれであった。先頭を行く白い馬体は、雄風の様を纏いて疾走を引いていた……それになる。


「――叔母上。宜しいのか?」


 風に言葉と表情を流し、何度めかの問いかけをラルフはクロエに向けていた。クロエが頷きを返したラルフの問いに、別の風に乗せた美しい声が続いていく。


「その為の貴方、ラルフ=ガンド・アールヴ。それゆえの一角獣(ユニコーン)なのです――」


 その声の主は、ラルフの本当の意味での姉であるアルフの子の一人で、カルエ=ガンド・フィーリアだった。


 彼女が向けたラルフの声は、雄風の精霊の魔力を使い一角獣(ユニコーン)の姿をあらわにして、人の地で、その力を行使――行い使う事――が良いのかの問いに答えたとなる。


「本当に? 」の再度の彼の言葉。それに「心配しないで!」とカルエの言葉が、強目の風にのっていた。


 ――クロエに、任せきりだったけど。粗暴な割りに妙な所で真面目なのは、まだ救いがある。歪み切って無いのは、彼女のおかげね。


 その声に、ラルフは前向きな感じに一角獣(ユニコーン)と同化して行き、その一団を更に引き上げていった。ラルフの目指す先の向こうには、極光樹の地(アースへルム)が続いているはずであった。




 ラルフの目指すその先、大樹の森林がなす森。その奥に極光の巨大樹の宮殿がある。その宮殿の玉座の間に通じる一角で、エストニア王国の使者を名乗るサンドラ・フェルメールは、アルフの子ら数名と対面していた。


 勿論、彼女は獄属……淫靡なる夢獄(ウルジェラ)である。時折、変わる紅紫色(カーフ)の瞳を隠して、アルフの子らに臆する事なく人智の人として振る舞っていた。


「我等の王に会わせぬとは、どういう事だ」


「我が君は、気分がすぐれぬと」


「ならば、尚更、会わせて貰わねば」


「風の旅団の集結のおりには、お会いになられると」


 感情的な言葉に、美しい人形の様な雰囲気で、ウルジェラは受け答えを見せていた。その顔はサンドラのそれであるのだが……。


 言葉を発したエルフの二人。その年長者の感じが、苛立ちつのは珍しいものではある。ただ、それは目の前のウルジェラの言葉だけに、向けられたものではなかった。


 エルフの王と彼らの間には、何人かの人が挟まれており、あり得ぬ事に理解が繋がらない感じに見える。そして、戦士の様を持つエルフが、言葉を返していた。


「戦士を集めよと言っても、二百の年刻の間(ながいあいだ)無かった事だ。暫くの間は必要なのだ。その間中このままでは……」


「ですから、私がこうして御世話を――」


「――我等一族でもない貴女がなぜその様な!」


 区画と空間の区別が曖昧なその一角で、ウルジェラの言葉にその声が被っていった。その先に向かうには、通らねばならない場所を押さえられた苛立ちが、そのエルフ戦士の言葉を()んだとなる。


 それに、サンドラの容姿の淫靡なる夢獄(ウルジェラ)は冷やかな瞳を向けて、唇を動かして、至極当然の顔をその場に見せていた。


「我が君に、アルフの子を成せと乞われた身。当然の事と存じます」


 そう言ってウルジェラは、既に、自身は特別だとその言葉と表情で、排他的な言動を上から握り潰していく。それに、恐らくは長老の域にある、アルフの子が、戦士の肩に軽く制止意思を込めた。


「我等の王は、風の旅団の前には立つと申したのだな。人の子よ」


「『戦士を集めよ』は我が君の意にして志しであります。『しかと申し伝えよ』は我が君からの言葉。それをお伝えしているだけです」


 ウルジェラの言葉に、キリキリと音がする雰囲気が出来ていた。その若干の空気の流れを、今度はエルフの側が握り潰して「良かろう。王には御慈愛をと」の言葉と共に、踵を返していく。


「其の様に……お伝えは致します」


 ウルジェラの反応に、拳に力入る者もいた。だが、見た目ではわからない、長老の部類に入るアルフの子は去る足を止めなかった。しかし、追従する戦士の様相は、暫くの歩みの後に声を出していた。


「此処だけの話。アルフ王は正気とは思えません。押し通して、お助けすべきです」


「本意なら?」


「しかし、あまりにも不可解です」


極光風の精霊(シルヴェルスト)が動いていない。そこを考えると、正気か邪気かはわからないのだ。致し方ない集めるとする。何と戦わねばならないか。分からないのだがな……」


 歩みを進めるエルフ達が、何度目かのその光景の後に、王より聞いた唯一の言葉に向かう事になる。アルフの子らの意向で、エルフの戦士に正式な招集がかかった……。


 その決意の瞬間の後ろ姿を、ウルジェラは偽りの姿で視界に入れ、微動だにせすそれを見ていた。そして、僅か揺らぎを感じて、彼女は眉をひそめる。


「あからさまにするな。虚無なる無獄(ヴァニタス)――ばれる」


「これはこれは。王妃様……ご機嫌斜めですな」


 空間を魔力で折り畳み距離を無くす。――そんな感じの魔力行使の発動で、扉の様な空間の湾曲した。それが、あからさまに見えていたという事になる。その状況で、ヴァニタスにウルジェラは言葉強めていった。


「下らぬ事を言うな。消し飛ばすぞ」


「そう怒るな。竜の背の向こうから来たのだ。お前もここに来たのだから分かるだろ」


 獄属の彼らのこの魔力行使は、竜の背――越えられぬ山々の頂――に干渉出来ない。それに、転移魔法と違い、何処にでも行ける訳でもなかった。その為何度となく秘匿の行動で、ヴァニタスはここにやって来たのだ。それをそう言っていた。


 ヴァニタスの言葉で、不快な表情を淫靡なる夢獄(ウルジェラ)は見せて、促す仕草を歩みに合わせる。そして、振り向く感じに声を出した。


「で。何だ? 遊びに来たのでは無いのだろう」


「つれないな……無論だ。魔解の王が状況をと」


 言葉と様相が合っていない、ヴァニタスの言葉に、ウルジェラは歩みを止めて、振り返って彼をみる。


「順調だ。……と言いたいが、なかなか堕ちぬ。まあ、エルフの王だ。そこら辺の玩具とは違う。それに、魔解の王の意向など知らぬ。まだ、貰ってもおらぬのに催促とは何様だ?」


「まあ、魔解の者(ゴミ)か? 人智の者(カス)と差異はない。ただ、なかなか面白いぞあれは。母の次は、妹とは魔族より我らに近いな」


 僅かに揺れる茶色のフードが、笑う仕草を真似ていた。魔解の者が、絶対的な悪であるかの自問自答に見えるその言葉。正に、悪と称するなら自身が上だと、ヴァニタスは声を流していた。


「では、本題はなんだ? まさか勤勉な使いなどではあるまい」


「ああ、獄の眷属神……カーイムナス様の件だ。起因の者を見つけた。傲然たる豪獄(アロギャン)が見に行くらしい。……面白そうだから、百眼を使えと言いに来た」


「虚無に堪えれぬなら、本意で消してやるぞ? それに百眼? そんな余裕は無いな」


「ああ、残念だ」の感じだと、ヴァニタスは気持ちを言葉で示していた。それに、残念な表情一つしないウルジェラに、彼は言葉向けていた。


「見せてやりたいが、竜の背の向こうが本格的になってきた。勿論、オルゼクスも動くだろ。忙しくなる。それに、借り物でも『寄り偽(よりしろ)』が無くなると面倒だからな……まあ、あれだが」


「オルゼクスか……。そこまでやって、奴の妹だけだと割りに合わぬか。契約の刻には合うと思ったのだが」


 話の流れで、オルゼクスの名が出てきた。それに、ウルジェラは反応して声を見せる。ただ、契約自体は対等等価であると、その事を踏まえて、ウルジェラは「そういうものか」とサンドラの顔をカクカクと僅かに動かした。


 そして後ろから呼ばれて……彼女の我が君の元に向かっていった。――残されたヴァニタスは、周りで動く人らしきを見て。ウルジェラのそれを思った。


「意外と便利なのだな。……睨み付けたら俺にもできるか? ……『はははっ』だな」


 そう、誰に言うでもなく呟いて、雰囲気を突然変える。そして、手とおばしきを空間にかざして、魔力を発動した。


「また行くのは今度だ。アロギヤン……楽しみだ」


 と、言葉と共に、その獄属は扉の向こうへ身体を解かしていった。




 ヴァニタスの言動の先には見えるのは、勿論、クローゼ・ベルクのそれである。当然、クローゼ自身がそれに気付いていたかは別であった……。


 その彼を追いかける視点に戻れば、別館での話の流れから、幾ばくかの刻が過ぎていた。獄の入りを向かえて、軽めの夕食の席が訪れる事になる。


そこに、唐突な来訪者を迎えいた。


「……なかなか趣きがいい屋敷だな。装飾の類いはレニエ殿なのだな。感性が素晴らしい」


「ああ、そうだけど。……シオンは何でここに?」


 当たり前の様に、テーブルに席を取る、シオン・クレーヴレストの言葉にクローゼはそう返していた。勿論、クローゼ自身が、突然訪れた彼女を受け入れていたのではあったのだが。


「父上が、セレスタを夕食にと。ただ、何度誘っても『竜伯爵(グレイブ・ヴルム)の言が必要』といって断るので、仕方なく……やって来た。で良いか」


 その言葉の後、その場に溶け込む様に彼女は、果実酒のグラスを唇に当てていた。それに、クローゼは「ああっ」という感じの苦笑いで、セレスタを見る。

それには、セレスタの和かな笑顔が帰って来くる。


 ――セレスタ。そんな笑顔で…… 誤魔化してる?


 無論、そんな事はない。ただ、シオンの父親が王国中央の要所である、城塞都市バーシヴァルの領主であり。その近隣を所領する、シルミオン・クレーヴレスト伯爵である。という事実があるだけだ。


「レニエ殿には通してある。後は、クローゼの言だけだ。……いや、竜伯爵(グレイブ・ヴルム)の許可が頂ければ……嬉しい」


 円形の配置の席で、クローゼとセレスタが顔を見合わせる。シオンはその感じを視界に入れて、僅かな隙間に続けて声を出す。

 無言だったと言えばそうなるが、クローゼもセレスタの顔で何となく分かっていた。


「御父上の名を出さず。シオンが、誘えば良かったんじゃないか……」


「えっ。いや、一応の配慮があってだな。……セレスタは卿の婚約者だ。それゆえ、父上が『私が誘った事にしなさい』と。どちらにしても、そう見られるならと初めからそうしなさいと……」


『それは面倒くさいです』の顔をクローゼは作っていく。そして、その顔の表情を笑顔に変えていった。

どちらかと言えば、クローゼの印象と違うシオンに、彼もそんな口調になっていく。


「なら、今日の事は御父上は知らないんですね」


「何故だ? 確かにそうだ。ただ、セレスタもレニエ殿も直接『卿に』と言うのでそうしたまで……」


 シオンは、クローゼの表情に言葉尻を濁して、テーブルで対面するセレスタを見る感じになる。

 彼女は、いつもの凛としたセレスタでは無いのに気が付く。

そんなシオンに、クローゼが問いの先を向ける。


「流石に、昼間の警護と登場の仕方。それとシオンの御父上の意見を踏まえて、面倒くさいです」


「面倒くさい? 竜伯爵(グレイブ・ヴルム)は何を……警護の件は、レニエ殿に時間を取らせたゆえ、非番の者に声を掛けただけだ。それに随員も我が家の……あっ」


 はっとなるシオンに、クローゼは軽く頷きを向けていた。セレスタもそれに、同意の感じを出している。二人の動きに、シオンは手にしていたグラスを置いて、テーブルに肘をついて呟きを見せる。


「はぁっ。そうか、またやってしまったのか」


「まあ、仕方ないのでは。貴女は、オーウェン太公(デューグラン)派だ。それで、中立だった御父上もそうなる。その上で――」


「――悪かった。帰る」


 クローゼの返しにそう言って、シオンは突然立ち上がる。ただ、踵を返し歩く先にヘルミーネが、その歩みを遮る様に立っていた。――流れの中で、ヘルミーネはセレスタの視線を拾っていた。その上の動きになる。


「何だ貴様?」


 それに対してシオンは、唐突で、当たり前の動きをする。言葉と共に、――振り上げられるシオンの腕。その先が僅かに、下降線を刻んでいく。


 微動だにしないヘルミーネ。そこに向かう、シオンのしなやかな腕の振りをクローゼが捕まえる。――ほぼ同時に、セレスタの視線の動きを入れて、クローゼも立ち上がっていた。


「伯爵令嬢。気が早い」


「なっ。クローゼ?」


銀白乃剱(シオン)殿。一旦、御席に」


 気に入らない呼び名と気を入れる呼び名。それぞれを出した、クローゼとセレスタの柔らかい様子に、シオンは僅かに姿勢を巻き戻していた。


それに併せて、雰囲気が落ち着いて行く。


「何の喜劇だ。公私の区別もつけられぬ私を笑い者にでもするのか? ……だから、私は帰るといっている。何だ、監禁でもするのか!」


「しませんよ。兎に角落ち着いて。あれです。大人の事情です。ただ、上手く説明出来ないから、説明させるので宜しいか……と言うか聞いて」


 クローゼの一連から、シオンの矢継ぎ早の言葉。それをまとめて彼は、ユーリに預ける。渡された感じのユーリは、苦手なシオンに、改めて自身が誰なのかを告げていく。当然、真剣な眼差しである。


 ――クローゼ・ベルグ・ヴァンダリア・ヴルム=ヨルグ竜伯爵(グレイブ・ヴルム)付、特務外交官待遇兼任臨時副官代行のユーリ・ベーリット――


「馬鹿にして……いる訳ではないのだな……」


 ユーリが名乗り終えてから、シオンの言葉を挟んで、大人の事情について説明が始まる。ただ、クローゼの「準騎士を付けてやったろ」をユーリは、全力で無視をしてであった。


 分かった様で分からない展開であるが、簡単に言えば『一枚岩で纏まった』様に見える王国も、そうではないと言う事になる。勿論、グランザの見解であった。


 国王アーヴェントとオーウェン太公――王位継承権を持つ公爵――の各々側に付く、派閥の様な流れが出て来たと言う事になる。当人達は、全く眼中にないのではあるが。


 そして、シオンが個人的に肩入れしている、オーウェン=ローベルグ。彼は、アーヴェントの意向もあり、王位継承権一位のまま公爵となった。


 王国では公爵は王族と同義で、形式的な要素が強く、大きな力を持つ家名は現在は無いと言えた。


 そんな中で――オーウェン=ローベルグ・イクラルード・ノーズンリージュ公爵――太公となった彼は、旧ノースフィール侯爵領域の大半を太公領として、ノーズンリージュの家名と公爵の爵位を得て、名実共にその地位を確立した。


 また彼は、先の(いくさ)の功績で、マーベス・ベルグを伯爵に推挙して、ノースフィールの体面を守らせて、自身が北方領の旧エドウィン派の拠り所になり、北方から中央部の一部に影響力を持つにいった。


 結果的に、エドウィンが実力行使で王位を願った所に、オーウェンは立ったとなる。ただ、これはアーヴェントが近い将来、王位を譲る気である。その暗黙を通せば、過剰な事ではなかった。


 それに加えて、シオン・クレーヴレストが持つ潜在的な中央部の勢力が、オーウェンの派閥で有る為、見た目の領域よりもその力は大きく見える。


 そのバランスをとってはいるのは、勿論、正統なヴァンダリアと特異な竜伯爵(グレイブ・ヴルム)クローゼ・ベルグになる。……ここまでの話なら、シオンとクローゼの結びつきは、過剰な警戒を必要としない。


 しかし、元々王位継承争いから外れていた、アーヴェントの側近や、彼の派閥である西方域の貴族達の権力欲求が著実になった事。また、旧国王派――潜在的オーウェン派――だった者の思惑や行動。更に、その処遇には苦慮する点が、目に見える以上に多々あったと言える。


 また、人智として、対外的な干渉が落ち着いている現状で、宮廷闘争の様相の火種が、燻り始めている雰囲気があった。


 そして、その一番の対象がクローゼ・ベルグになる。だだ、戴冠式からの流れで、クローゼが人形の様に大人しいイメージだったのと、クローゼ自身の所在が分かりにくい事もあって、その対象に、ヴァンリーフ宮中伯令嬢のレニエに向く。


 公に姿を表した、彼女の立ち振舞いやその容姿。そして、現状アーヴェント王の側近中の側近と目されるグランザの娘で、竜伯爵(グレイブ・ヴルム)が公言する婚約者の一人となれば、触手が動かない訳がない。無論、式典の言いなり感がそれに拍車をかける。


 また、近衛の再建にセレスタの手を出させているのは、グランザから言わせるとシオンへの牽制になる。と言うよりも、シオンの父上が内々に、グランザに相談したのだった。


 本来なら、カレン・ランドールである。ただ、アーヴェントが、それにはたて向きの答え出さなかった。その為二人で当たる筈が、シオン一人でとの流れになり……セレスタにその役が回ったとなる。


 無論、能力だけで言えば、シオン・クレーヴレスト――彼女一人で問題などない。だが、その他勢力に問題があった。そして、セレスタも表舞台に出て注目を集める事になる。無論、王国軍内では既に高い評価であった。


 ただ、だからと言って、闇雲に接点もなくクローゼやその周りに出せる手などないが……シオンがそれを提示して見せてしまった。――陛下への具申である。……一方的に評価して『どうですか』の接点を作ると言う流れが、きっかけになった。



「私が悪いのだな」


「推挙の話云々が山ほど。そんな官職有ったか? 位の勢いで。まあ、シオンが悪い訳でもないけど。まあ、面倒くさい」


 聞いたままの面倒な感じに、シオンが項垂れて行く。それにユーリが、「この辺りで宜しいですか」とこんな内容の話をまとめていた。


「殺し文句が『クレーヴレスト伯爵のご令嬢とはご昵懇のご様子。やはりコネですな』て……シオンの御父上とは挨拶しただけだし。そんな感じに言われるとセレスタなんか、愛想笑いしかしないし」


「なら、今日のは駄目だったのだな」


「警護の件は、姉上が受けてくれたから、レニエのと言うよりも、そっちだから助かりました。それは感謝します。……でも、その後直ぐに、騎士団の正装で正面からは勘弁してほしかった」


「帰りだったのだ」と言葉を小さく出して、その声より小さくなるシオン。因みに、連れ立った騎士は分隊を越えていた。


「まあ、開き直るからいいけど。話の内容は他言無用で、くる時はなるべくこっそりと。でいい? 」


 テーブルで斜めに体を向けて、クローゼはシオンにそう言っていた。体現で歳の差を言えば、シオンが年長である。――あの時のあの場面で、彼女がクローゼ・ベルグと認識してから、根本的な部分でその差はなくなっていた。


 軽い頷きが項垂れに続いて、シオンのらしさが消えていた。空いたグラスを軽く摘まんで、揺らす感じが、しおらしさを出している。


「食事を運んで貰いましょう」


「そうだな。シオンも付き合って。お酒も良いのがある。グランザ殿から貰ってるから。……まあ、ドワーフのあれに比べると、何でも美味しいよ」


 セレスタの言葉で、クローゼもシオンに促しを向ける。『ドワーフ』の単語で、少しシオンの興味を引こうとした感じが、クローゼから見えていた。


 饒舌な感じのクローゼ……ヘルミーネから見ると女性に対する軽さが目に着く。その感じが、少し引っ掛かる。そんな様子であった。


 だた、ヘルミーネは話の途中でセレスタから、食事への促しを受けて、その光景をユーリと二人で後にする。……廊下で彼女達は、ダーレンと騎士らしきとすれ違い。彼らが、ヘルミーネ達の代わりに護衛が室内に入っていった。



「まあ、王国でこうだから、帝国はもっと大変だと思う……僕の国は、もっともっとだけどね」


「副官殿?」


 ユーリの呟きに、ヘルミーネは一瞬足を止めて彼の歩みと背中を見た。それに気がついてユーリは立ち止まり振り返る……。


「ああ、何でもないです。独り言……」


「そう」


 ユーリの答えに、ヘルミーネの頷きと歩みが続いていった。並ぶ形に戻って……どちらともなく踏み出した足を置く瞬間――明らかに正面から異種の音が聞こえてきた。


 ――断末魔か破壊の音が聞こえた――のである。




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