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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第四章 王国の盾と精霊の弓
106/204

四~新たな潮流。事実は……~

 イグラルード王国――王都ロンドベルク。非日常の出来事が映し出した光景が過ぎ去り、新たな潮流が、静かさの中に出来ていた。

 その街並みの中に、新たな竜伯爵(グレイブ・ヴルム)の屋敷となる場所の中庭に、当主たるクローゼを待つ人達が顔を揃えていた。


 共鳴竜水晶を光らせたレニエは勿論。クローゼ専任の二人に、あの戦いでパーティーを組んだ三人の姿もあった。魔導師のジーアは、竜伯爵(グレイブ・ヴルム)家付き魔導師のを受け入れており、ラグーンとパトリックは、クローゼにより録を受ける事になっていた。


 当然、正当な報酬を得て、王都での祝賀を済ませた流れに続いての事になる。


 それに付属して、ジーア所有のクランシャ村は、名目上、彼女の物のままだが、ジルクドヴルムより行政官史の一団を派遣する予定になっていた。


 当然、彼女の代わりの行政監察の為であるが、竜伯爵(グレイブ・ヴルム)領としてのガーナル平原の維持管理に、アーヴェントの裁可を受けた上で、彼女がクローゼに提供していた。それが実情になる。


 これは、クローゼからジーア・シップマンの話を聞いたグランザによっての事になる。そして、当然の様にジーアは「別に返すつもりだったから、クローゼ君にあげる」の言葉で簡単にそうなった。という事であった。


 話の流れで言えば、ラグーンとパトリックはその地で武官としての任官となる。また、ヨルグのあの地には、ライムントの勅命で砦が築かれる事になっていた。それを、ヨルグ領伯である―― クローゼ・ベルク・ヴァンダリア竜伯(ブラーフヴルム)の拠点とし、ヘルミーネの家名,フローリッヒが代官職を担う事とされた。


 ――見渡す限りの草原。ガーナル平原――


「草ばっかりね」


 それはジーアの言葉であるが、湖畔域を除けば、歴史的に人の営を支える環境が無かった訳ではない。戦の事情と言う人為的な側面が、その光景に影響を与えていたと追記しておく。


 そんな言葉を出したジーアは、クローゼの出掛けの「行ってきます」に、何処に行くのかも分からず、彼を送り出して魔方陣の展開を見ている。


 ――また、彼女はレニエに、彼が何処に行くかを聞いて「はぁ?」とした表情を漏らしていた――


「あの子、あんな感じだから貴女達も大変ね」


「大丈夫ですよ。一人で相手をすると大変なのかもしれないのですけれど」


 中庭ではあるが、晴天の射光を受けて,レニエの髪色に煌めきがあしらわれていた。その彼女の横から、ジーアが話しかけている。


 一応に、クローゼを呼び戻すと言う事で、ラグーンとパトリックの二人と共に、ジーアはなんとなくこの場にいた。

 ただ、レニエの技術で普通な感じでなく,美しい顔つきになったジーアは、上機嫌な様子である。

 ラグーンの感嘆を挟んで、共鳴から僅かに流れる刻にジーアがまた声を出していく。


「呼び戻しますって。そんなに直ぐに来るものなの? 行った先があれなら、色々とあるじゃない」


「直ぐに来ると思いますよ。私のクローゼは大事にしてくれておりますから」


 優しい感じに彼女の主張がみえる。そんな風にジーアには映っていた。ただ、彼女の単純な疑問は直ぐに答えが出た。――当然な魔方陣の展開から、クローゼの登場によってになる。


 何人もの目が注がれる中、残光を引きずる勢いでクローゼはその場から動き出していく。そして、立ち姿が際立つその女性に声を投げる。


「レニエ――どうした、 魔王か?」


「魔王なら、ユーベンに在りますでしょう」


「あっ……。なんだよ。みんな揃って。いや、光ったし。緊急事……火急の案件じゃないのか」


 レニエの落ち着いた感じが、クローゼに穏やかさを与えて、安堵の表情を引き出していた。そして、レニエの唇が僅かに笑顔を演出した。


「もっと怖いかもしれませんよ。父上が折り入って、竜伯(ブラーフヴルム)にお願いがあるそうです。『直ぐに呼べ』と」


「それ、お願いと違うよな……まあ、らしいけど」


 出された笑顔と言葉に、クローゼはそんな呟きの声だしている。そして、ユーリを見て何かを思い出した……感じを見せる。


「ユーリ。ビアンカが言ってた話をするから、覚えといてくれ」


「ビアンカさんが、誰なのか分かりませんが、分かりました」


『ビアンカが誰なのか』から始めようとしたクローゼに、ユーリは本題への促しを向けていた。それに「そうだな」の切り替えで、クローゼは話を進めていく。

 内容自体は、ビアンカの見解。獄属の誘惑とその竜水晶の謎を解く話であった。多少脱線があり、中庭の立ち話で『直ぐに呼べ』の流れの最中ではあったのだが……。



 ――ユーベンで、フリーダに馬鹿者と一括りにされた彼ではあるが、根本的に馬鹿と言うわけではない。寧ろ、頭の回転は早いほうである。ただ、諦めが早いとか、気がないとかの影響でこんな感じになっている。

 クローゼのクローゼ――日記の自分に、自身で頼っていた頃は勤勉であった。ベッドのある書庫で生活していた頃の話になるが、知識欲は旺盛であった。


 そして、封建的な領主として自立した辺りで、クローゼになり、周りの助けを受けて適所で人を使うと言うのを覚えていく。……アリッサは、ある意味特別なのかもしれない。


 また、王都に赴いてから 、彼は日記を書くのをやめて、フローラにあの書庫の部屋を明け渡す形になる。最近は、ヴァリアントに滞在しても、彼は、あの部屋には泊まらない。なんとなく、クロセのクローゼの自覚があるのだろう。


 そして、好奇心旺盛の顔をクロセの記憶が補填して、今の感じになる。所謂(いわゆる)、転生者のクローゼにだった。レニエはその辺りから彼を見ているので、彼が誰なのか? と言う問いはしない。


 一番クローゼを知るのは、間違いなくセレスタである。ただ、彼女も特異なる者のクローゼをクローゼと認識していた。積み重なったクローゼも、突然変わったクローゼも、そして、今に繋がるクローゼも彼女達それぞれに、クローゼ・ベルク・ヴァンダリアには違いは無かった。


 ――時折、子供の様な顔を見せ、魔王の雰囲気を醸し出す。六つの守護者を携えた……自由人。物語の基点に成れる、特異なる者……その才幹は、ある意味空気が読めないそれかもしれない。――




 ……少し話がずれた様である。そろそろ彼の話も終わる様だ。綴られる物語の本流に戻るとしよう。魅力的であるかは分からないが、見てみたいとこの視点は思うところではある。



「……と言う事だ。後の事はユーリに任せる。然るべき対応を頼んだぞ」


 若干膨らんだ話を、ユーリは頭の中で噛み砕いて、頷きをクローゼに返していた。一段落付いた感じに、レニエの髪が僅かに揺れた。そこに、ジーアの声が入ってくる。


「そんな話なら、ヴァリアントにあの人がいるじゃない。私が知る限り、王国処か近隣でもあの人程、知識がある人いないわよ」


 唐突な言葉に、真顔になるクローゼ。それに、ジーアが、怪訝な表情を見せた。


「クローゼ君は、ヴァンダリアでしょ。あの人に学術とか魔術、教えてもらってると思うけど」


「えっ。マーリア女史? ……ジーアさん知ってるのか……」


「知ってるも何も、あの人師匠の娘だから。知らない訳ないじゃない。……えっ、うそ。知らなかったの。貴方、ヴァンダリアでしょ」


「聞いてないし」の声が、それなりにその場に響いた。続けて『いや』の連呼が起こっていた。勿論、クローゼのそれである。


 ――マーリア・ジュエラ準男爵。高位の魔術師で、多岐にわたる学士の資格を持つ才女。そして、彼の学術と魔術の教師だった……までは、クローゼの認識にある。追記して、彼の言葉で言うなら美魔女であった。


 その彼女が、王国史上最高の魔術師と言われた、マリオン・アーウィン大魔導師の娘と言う事らしい。


 あらかたの疑問を、クローゼは投げつけて……思考停止に陥る。――要約すると二世は風当たりが強いとなる。


 ジーアの話しでは、魔術に関しても魔力魔量も魔導師として十分であるとの事だった。たた、世間は大魔導師の娘がの流れで、その才能を越えるを要求したと言うことらしい。そして、母方の家名を名乗り今に至るとなった。


 ――彼女個人の功績は素晴らしいのだが――


「いや、……ここでか。マジかー」


 彼の感覚では、中々のぶっ込み具合に、なし崩しの展開だった。それに、クローゼは思考停止を見せていた。流れ的に、それが最善だとユーリの認識が到達した辺りで、クローゼはレニエに腕を組まれ体を寄せられる。


 そして、ドナトナさながらに馬車にのせられていった。そのままダーレンの護衛で、馬車を連ねてグランザに元に向かうのであった。


 ――ジーアさんやり過ぎ。まあ、あの人がどうのじゃないけど。展開が雑だぞ。……事実は小説より奇なりって。でも、転生やり直しもチートも普通に考えたら、似たようなもんか。


 馬車の揺れに落ち着き、クローゼの気持ちが行き着く先で、馬車はヴァンリーフの屋敷に到着する。事実として、彼がクロセのクローゼでなければ、美人なハーフエルフを隣に座らせて馬車に乗る。などと言う事はあり得ない……に彼の思考は続いていく。


 そんな感じで、馬車をおりて改めて明るさを受けたクローゼは、更に、あり得ない雰囲気を認めた。


「レイナード。何してる?」


「見張りだ」


 クローゼにとって、恐らくは想定内の答えがきた。ただ、その場景が想定外である。見るからに、クアナの剣獣がまどろむに座るレイナード。その彼が、腕を組んで存在感をだしていた。


「そうだな」と受け入れるクローゼは、「わぁ、剣獣」のジーアの声を聞いていた。それに自身を若干戻して、その奥に無視できない様子に声をかける。


「イーシュット。何してる?」


 声の先は、見たままそれになる。――剣の師、ジワルドの前で、剣を流すイーシュットの姿とその周りを走り回る、クアナの様子である。


 声に気付いたジワルドに、クローゼは軽く会釈をしてイーシュットの声を聞いた。


「おー。これは、兄弟子……」


 彼の声のそこから先は、只の音なりクローゼを通りすぎていった。そして、クアナの声に……駆け寄るジーアが視界に入ってくる。


「あー、クアナちゃん!」


 聞いて――見たままのそれに、『ああ』となるクローゼは、レニエの「参りましょう」の声に体裁を整えて歩きだす。随行の二人は、至って普通のかんじであった。


 何の変哲もない扉が開かれて、彼らは、そのまま玄関を通り向きを抜けていく。その先のホールで、クローゼは彼の興味を引くであろう女性と、レニエが挨拶を交わしているのを見ていた。


 レニエとって、勝手知ったる場所である。知り合いがいても可笑しくはない。だが、クローゼから見ると……その女性は亜人であった。


 ただ、クローゼにとって、この日は少し刺激的で忙しかった。その為かさほど気にせず、その場を後にすることになる。


 ヴァンリーフの屋敷は、王都にある貴族達のなかでは格段に広い。当然、ヴァンダリアの当主を受け入れる為にである。 そして、その秘匿性と強固さは随一といえた。


 その中をレニエの促しで、クローゼはあるいて行く。何度か訪れている、知らない所ではないのでなんとなくであった。暫くの後。前室となる場所、その大きめな部屋の扉が開かれて、クローゼの前にその光景がみえる。


 そこには、イグラルードの侯爵夫人と宮中伯夫人にエストニアの子爵夫人、彼女達の令息令嬢とその侍女に近習と護衛。また、メイドと執事の姿があった。


 フローラの小さく振る手が、クローゼに見えて、エリーナとオリヴィアの表情も入る。クローゼは短い会話をフェネ=ローラと交わして、そのまま奥の部屋に随員と共に入って行く。


 開けられた扉から、クローゼは視線をずらしてテーブルらしきにある歓談の場を見ていた。


 そこには、グランザがテーブルに肘をついて、向かい側の女性と話をしている。その後ろには、容姿端麗で、精悍さが加わった感じなブラットの立ち姿が見える。


「遅いぞ。クローゼ」


「遅いって、急に言われても」


 その会話を切っ掛けに、その女性が立ち上がり振り向く。恐らく護衛の男だろうそれも、振り返っていた。


 ――云う処に……エルフである――


「レニエ?」


 発した先はクローゼだったが、同じ言葉がその先からも出ていた。クローゼの瞳に映るその女性は、彼自身の横に立つ、レニエと瓜二つのエルフだった。


 淡い……微かに緑がみえる銀髪。そのエルフは、クローゼを瞳に映す事なく、足早に歩き出していた。真っ直ぐに、クローゼの横へ歩み出てレニエを抱き締めて、「レニエ」と声を向けていた。


 作りから、魔動器の明かりが部屋を照らすだけのその場でも、その様子は際立っていた。恐らく、レニエは知っていたのだろう。気丈に振る舞って、それを受け入れていた。その流れで、クローゼ付きの二人は徐に下がり、その雰囲気から消えていった。


「お母様……」


 クローゼは、レニエの言葉で事態を理解する。そして、冷静な感じて、視線を送るとそこにはグランザのどや顔あった。


「クロエだ。どうだ?」


「どうだと言われても……そっくりです」


 グランザの自慢げな表情の意味を、クローゼは分からなかった様であった。しかし、レニエの嗚咽は感じていた。彼は、若干の距離をとって母子のそれに目線を向ける。


「これが頼みごとですか?」


「そんな訳あるまい。それなら、わざわざお前を呼びはしない。……説明するから少し待て」


 母子の対面を暫く受けろとグランザは、クローゼに言っていた。クローゼも、当然の顔をそれに見せていく。長命なエルフの刻では、僅かかもしれない。ただ、そんな問題ではないのだろう。


 慌ただしい流れに、クローゼはこの日呑まれていた。そして、この状況になる。その事を含めてだろう、考える仕草を見せていた。


 ――詰め込み過ぎだろ。と言うか、逆に驚けない。とりあえず、レニエのお母さんだろ。一応、『お付き合いさせて頂てます』的なのいるのか。だけど、エルフの義母って凄いな。……あっ、いや、まて。て事は、この人義父? になるのか……。


「兎に角、座ったらどうだ?」


「マジかー」


「なんだ?……時折、よく分からない単語が出るなお前は。まあ良い。とりあえず、座れ」


 思わず出てしまった言葉に、クローゼは口を押さえてグランザに頷きを見せた。それで、グランザの怪訝な顔から目を背ける様に、引かれた椅子に腰かける。それに併せて、ユーリとヘルミーネはさりげなく彼の後ろに居場所を作った。


「積もる話もあるかと思うので、本題を先にして頂けますか?」


 座ると同時に、落ち着く感じもなくクローゼはグランザにそう言った。それに、グランザも同意を見せる。


「そうだな。先ずは何処から話すか……」


 しかし、グランザは、歯切れの悪い感じをする。その様子に、クローゼは至って普通の顔をしていた。――恐らく、許容範囲を越えたのだろう。逆に冷静な感じにも見える。


「何処からでも。多分驚きませんから」


「そうか。なら、そのままをだな。要は、エルフの王の様子が……おかしいと言う事だ」


「へぇー。そうなんですか。それで、俺は何をすれば良いのですか?」


 正に、『へぇー』の顔を「へぇー」と言ったクローゼに、グランザはおろか、ブラットも呆れた顔をした。それは、後ろに立つ二人にも伝わっていた。


「閣下。些か不謹慎ではありませんか」


「いや、エルフの王と言われても。そんな人知らないしな。宮中伯がおかしいと言ってるから、おかしいのは確かだろ。そこに、拘るよりやること聞いた方が早い。まあ、そこをどうでもいい感じに聞こえたなら、ユーリの感性は確かだよ。実際、どうでも良いから……」


 グランザの配慮は、目の前に立つエルフの男に、なのだろう。クローゼには、その男の顔が複雑になるのが、自身の言葉の途中で見えていた。だが、彼は取り繕う語尾にはしなかった。


「どうでも良い事で、お前に話などしない。それに状況が複雑だ。頼みたい事は、それの調査になるのだがな……」


 クロエの一族からの依頼。それも『内密にだ』との言葉を挟んで、グランザの説明が向けられた。話の流れは、こういう事になる。


 少し刻を戻した辺りで、森の国。イグラルード王国の西方域の更に向こうにある、大樹の森林。その中の極光樹の地(アースヘイム)と呼ばれる地に、エルフ達の領域がある。そこに、エストニアの使者を名乗る物が現れたのだった。


 極神 豊穣を司る稔りの・(アールヴラム)の肢体より生まれし亜人。その一族を人智の者は、エルフと呼んでいる。魔王オルゼクスを退けた、三者の同盟の一角をなし、その状況を記憶する者がいる程の長命な種族である。


 その一族の長にして王。アルフ=ガンド・アールヴの元に、エストニアの使者は、魔王討伐の為『不明瞭な同盟の言』をもたらした。


 ――エストニア王国は現在、魔王オルゼクスの国。紫黒のフリーダの所有である――


 結果的にイグラルード王国が、あの約定を結んだ為に、王国はそれを容認する形になっていた。裏側では、クローゼが好き放題であるのだが。


 そして、エルフの王を訪れた使者は、人智の人で、エストニア王国の者であると名乗った。その上で魔王を倒す為に助力を求めたと言う。


 基本的に、彼らエルフは領域外不干渉であり、自然の理を重視し、その奏での調律を旨としている。その彼らが三者同盟に列したのは、それをなし得たイグラルード王国建国の祖である――初代王、ジルクの人となりによってになる。


 そして、エルフの王は、オルゼクスの復活から再びとなる人との接触に遭遇した。だだ、おかしな点で言えば、その者は依然としてアルフ=ガンド・アールヴの近くにあった、と言う事になる。


 また、あろうことか、その者は三者同盟を提言して……その方法論として、アルフ=ガンド・アールヴに、イグラルード王国と鉄の国――ドワーフの王国――を『征す』事を具申したと言う事だった。


 ただ、人智の人に、森の王またはエルフの王と呼ばれる――ハイエルフのアルフ=ガンド・アールヴは、公明にして至善なる然。その彼が、その様な言で惑わされる筈が無いであったのだが、何故かその者を極光樹の地(アースヘイム)に留め置き、その言に頷きを併せていた。



 ――それを持って、様子がおかしいに繋がる――



「……と言う事だ。その上でお前に、実状を調べて貰いたいのだ」


「何で私が……と言う事は言いませんが、エルフの方々の方が、実状なら分かってるのではないですか?」


『言わない』と言って、『何で?俺が』の顔をしているクローゼに、グランザは難しい表情を向けていく。その雰囲気で、クローゼに向けて声が聞こえてきた。


「それは、我らの方から御説明致します。竜伯爵(グレイブ・ヴルム) クローゼ・ベルク様」


 それは、レニエの母……クロエの声だった。それに意識と視線を捕まれたクローゼの思考。


 ――何か、レニエが二人に見える……。


 ……であった。



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