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王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第四章 王国の盾と精霊の弓
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参~魅惑的でしたたかなる者~

 パルデギアード帝国領。東部北方領域。――城塞都市ランヘル。辺境域に向かう公道の通過点で、その領域では大きな街である。

 ただ、帝国軍が中央部で集結編成を行っている為に、初期動員兵力の分散が激しく、エストニアとの国境付近のこの街では、慢性的な兵力不足になっていた。


 その情勢でランヘルは、極と獄の入れ替わりを十を超える間、魔王軍――獄魔族を主力とした一軍――に包囲にされていた。そして、何度目かの攻撃で、遂に城門を破られる事態に陥る。


 大型の魔族と魔獣によって、破壊されたその場では、人智の者の叫びが飛び交っていた。


「正門が破られた。正面に兵をまわせ」「弓兵で援護を」「盾で壁を……」「やべぇー」不特定の場所から連続で流れる言葉が、混乱を助長していく。


 その混乱を指揮官らしきが、呆然として「数が多い。……駄目だ」と呟き、領主への伝令を命じていた。――それがその者の最後の動きになった。


 それをなした獄魔族の男が、魔獣を駆り主と認めた魔族に向かう。その先には、ミールレスの姿があった。


「魔解大公。最早、時間の問題です。……ここは、それなり都市。エストニアの北部とも近く、我らの拠点には丁度いいですな。近隣から集めた食糧もかなりありますので」


「人智の者は、皆殺しにしろ。オルゼクスはぬるいのだ。そうだろう……」


「左様にございますな」


 報告を受けたミールレスは、隣のフードの男に視線を落としていく。男の被された奥の瞳は、暗紫色に輝きを見せていた。


 ――エストニア等あの女にくれてやる。こいつが言うように俺が、真の魔王だ。人智は全て俺が貰う。


 前面で広がる虐殺の情景が、ミールレスの瞳に映っていた……




 あの女とミールレスに称されたフリーダは、クローゼの『フリートヘルムの独白』について、食い入る様な視線を向けていた。


 獄属――クロセの知識では、悪魔と同義――の誘惑に、フリートヘルムは対価を払いあの力を得ていた。巧みな話術と魅惑的な囁きに、引き込まれたと言う事になる。


 そして、フリートヘルムは対価が『自身の終わりが本当の終わり』を示す事を、王国の魔導師より提示されて……絶望を見せていた。と言う様な内容であり、クローゼの興味を引いた事で、幾ばくか精細な話になっている。


「王国の魔導師や学士らの見解では、魔解とされるその向こう側の深層から、何らかの力を得ていると言う事です。解明に向けて王国の総力を上げておりますが、今の所。この辺りです」


 クローゼの言葉に、アリッサは冷静な顔つきであり、ヴォルグは既に『そうなのか』の顔をしていた。ただ、フリーダは途中から難しい顔をしたままで、一言も口を聞いていない。


「フリーダ様。これで宜しいですか」


「その竜水晶は、何れにある?」


「王国の最重要案件ですから、厳重に……あの、ばれるからと、教えて貰ってないです……」


 クローゼの答え――グランザにそう言われた事――に、ヴォルグが若干白い歯を見せて、クローゼの視線を引き込んでいた。当然、アリッサの表情でそこまでなるのだが。


「そこまで詳しく話すなら、妾もそれが懸命だと思うぞ。そちは正直なのだな。……まあ良い。その時が来たら、魔王様に助命を願ごうて遣わす。ありがたく思え」


 現状の容認に取れるフリーダの言葉に、クローゼは苦笑いを見せて、「感謝します」の言葉をあわせていた。それに、フリーダは「ならば……」と声を出してクローゼを手招きする。


「クローゼ。近う寄れ……」


 唐突に、近くに来いとフリーダに言われて、怪訝な顔を向けている彼は、少し考える仕草をして見せる。


 ――来いって、血でも吸われるのか?


「んっ? どうした。ここに寄れと言うてある」


 恐らく、思ったままの表情をフリーダは見て取ったのであろう。彼女は、そう口にした。微かに鼻にかかる声に、魅惑のそれが僅かに見える。


 再度の促しに、クローゼは徐に立ち上がりフリーダが指す場に自身を預ける。――相手の意図がわからないなら、考えても無駄だとそんな雰囲気をだしていた。


「何か?」


「見せたいものがある」


 短い問いかけとその答え。クローゼに向けられたフリーダの白い指先が、彼の視線を誘う……。その先には、女性らしさを強調したドレスの胸元に、掛かる彼女の指であった。


 突然、引くように開かれたフリーダの胸元。そのらしさの片側に、紫色のあざの様なものが、クローゼの視界に入る。


「えっ、ちょっ、なっ」


 クローゼの口から、区切りのはっきりとした音が出ていた。全体を視認したからのそれになる。


「何処を見ておる。見たいなら魔王様の裁可を得よ。……まあ良い。それではないこれじゃ」


 恐らく、クローゼにも言われ示されずとも見えていた筈の場所に、フリーダの指が示されていた。見せられて、許可を貰えのそれに、思い切り顔そむけて『見てません』のクローゼ赤らんだ表情と仕草があった。


「その紫色の……それはもしかしてですか」


「そう。妾も獄属成るの魅惑に誘われた。そう言えばよいのか」


 かけた指先を離して、胸元に手のひらを当てるフリーダの仕草とその流れに、アリッサとヴォルグも戸惑いを見せていた。


「クローゼ。もう良いぞ。そちは妾の話を聞きとうないか? 聞かせてやっても良いぞ」


『聞け』としか聞こえないそれに、クローゼは、薄目を開けて状況を認識していた。そして、その言葉に頷きを向けて……元の席に背中を預ける。


 軽い息遣いの合間に、他の二人の呆気にとられた様子をクローゼは意識にいれる。そして、明確な声を出した。


「紫……紫黒の竜水晶。御名前はそこから?」


「まあ、そうともある。永遠のそれの対価が此れになる……」


 ――語り始めたフリーダのそれは、数えきれない極と獄の連鎖……何百年も昔の出来事であった。


 紫黒のフリーダ……彼女の真名は――フリーダ・シール・サイファルード。真名は秘匿したのだが、フリーダの話に出てくる彼女は、自身を(いにしえ)の王国の王族であると告げていた。


 当時の彼女を自身で、絶世の美少女と称した。――現在の有り様から、想像に容易い――その説明の言葉に、違和感なく話が続いていく。


 緑溢れる豊かな大地。大陸の中程にあった美しい王国。それが彼女の生まれた場所になる。小国ではあったが、伝統と格式に育まれた気質が、その国にはあった。


 そこで育った美少女は、幼き頃からその美しい瞳とその端麗な容姿で、周囲の愛情を一身に受けていた。当然、成長共にその美しさは際立っていき、小さな国の王女であった彼女は、大陸にその美貌が風のように流れて広がっていった。


 そして当然のように、彼女には求婚者が列をなしていく。そんな、約束の物語になる。


 近隣の王公貴族に有力諸侯。ひいては、大陸にあった巨大な帝国の皇帝や広大な領域を持つ王国の王に至るまで……。


 ただ、彼女の瞳には既に、想いを向ける相手がいた。それは、その国の若き才能ある騎士。それが、彼女の想いの人であった。互いの刻を紡いで、彼女達は自然の流れで相思相愛となる。


 ――美しく綴られる物語の一頁――


 しかし、愛の物語は、結ばれぬ悲哀の流れにおちていく。彼女の父である国王が、求婚に立つ各国の者達に押しきられて、頑なに拒む王女に、婚儀の条件を提示させるに至る。


「誰でも良いなどではないが、嫌だ嫌だでは……王国自体が立ち行かぬ。本意ではない。ただ、ままでは通らぬ所まで来ておるのだ……」


 正面から……心動かぬなら国ごと。そんな他国――帝国と王国の圧力――の流れが、彼女の国に伝わってきていた。彼女の父王は、思い悩み彼女にそう告げる事になる。


 地位か名声か、または財力か。何でも良いそれで丸く収まるのなら……。


 彼女は、自身の立場の自覚し、それと想いの人を見て思案した。


――並べられる求婚者の名と比べて――


「その女は、愚かであったのだ」


 そんな後悔の言葉から、出されたそれは『個人の力』だった。自身の想い人の唯一可能性があるそれに……。


「私の為に命をかけてくださる方なら……」


 そう、彼女は自身の為に試合う事を望んだ。それは、剣一筋の彼の為にであった。勿論、彼を名指して参加させる。その意志表示を自身の父に見せた上にになる。


 ただ、彼女なりの考えはあった。――まさか、皇帝や国王が、彼ら自身で剣を奮う筈などない。また、他国の見るからに怠慢な貴族や王族に名を連なる者が、自ら剣を取るとは、彼女は思っていなかった。


 しかし、大人は無慈悲であった。再びの圧力とその結果。――記されたそれには、代理の文字の羅列。あたかも、大陸最強を競う舞台かと思われる名が並んでいた。


 帝国最強。王国最高。辺境一。公国随一。最強の傭兵。稀代の剣士。至高の騎士に無双の剣闘士……それで収まらぬ、呆れる程の名だたる強者が書かれていた。


 その流れに、喪失の表情を見せまいとする想いの人。そして、失意と自責の彼女に……男は言った。


「案ずるな。僅かだが、期日まではまだある。……なんとかする」


 恐らく勝てぬと悟ったのだろう、そう彼女は思った。そして、禁断の言葉も口にした。だが、男は「信じてくれ」と彼女の前から消えていった。


 そして、運命の日に彼女の想い人は、黒い魔力を纏って現れる。想いの行き着く先に、男が求めた強さとは――魔解に殉ずるものだった。


 結果的に、その男の強さは体現される。だが、人智を越えたその強さが、彼女の父である王はおろか、近隣……いや、大陸全土に恐怖を呼んだ。


 ――魔王であると――


 そして、大陸を巻き込んだ嵐となり……彼女の王国は滅び――男は彼女の胸で、断末魔……いや、死に際に言葉を残す。


「生まれ変わりが有るとしても、払った代償で恐らくは叶わない。すまない。だが、必ずもどってくる。君が生きている間に……愛している」


 そんな意味のわからない言葉を信じて、人目を忍んでフリーダは生きていた。しかし、流れ行く刻の重ねは、当たり前の様に若さを奪い老いを与えていった。


――不毛な流れと想いに焦り――


そして、彼女は欲した。永遠の刻と陰り行く自身の若さを……。

 そこに、囁かれた紫色の瞳の(ささや)きとその甘美な響きが訪れて……結果的に彼女は彼女(ヴァンパイア)となる。




「なかなかの伽噺(とぎはなし)であろう。そのフリートヘルムとやらも、その囁きにほだされたと言った処か?」


 唐突に、フリーダの口から出た物語に、その場の空気感が震える(さま)を見せていた。

 次に誰が声を出して良いのか、分からない雰囲気になる。――既に、アリッサは俯いたままで、ビアンカも伏せ目がちになっている。そして……ヴォルグは彼の感じであった。


 しかし、クローゼは僅かにずれていた。


「その方が、魔王オルゼクス……ですか?」


「そうではない。魔力の感じ……雰囲気は似てあるが、想いの変わりで気持ちを預けているではないぞ。今は魔王様があるのみ……」


 雰囲気とは違い、普通な感じのフリーダに、クローゼがそんな事を聞いていた。そして、若干道を外れる。


「フリーダ様は、元々は人なのですね。どおりで共用語がお上手な訳だ。ヴォルグのは……」


「ふっ。そちは面白い男だな」


問いかけの答えに、クローゼが怪訝な表情を見せた

。彼は、フリーダが『面白い』と言ったのを理解出来ていない様にみえる。

 そんなクローゼが怪訝のままなのに、フリーダは周りを流す様子になる。そこに、ビアンカの声がはいってきた。


「畏れながら……論点が少し違うではと思います」


 その言葉に、フリーダは頷きをあわせて、彼女に視線を向けていた。


「そうじゃな、ビアンカの通りにな。クローゼ、古の刻よりその暗躍がある。その女があった刻ですら、遠い昔からそれが見えていた。それゆえ、求めるなら、遥か遠きありし日かな。と言う事よな」


 クローゼは、自身に向けられた言葉を捉えきれていない顔して、背中を背もたれに預けていく。それを見たフリーダは、軽く顎をあげて人狼の女を見た。


「ビアンカ。竜伯爵(グレイブ・ヴルム)は、合点が行かぬようだな」


「現状に目を向けながら、(いにしえ)の文書。また、古き叙事詩や伝承と亡国の歴史の辺りを紐解けば、真相に近付けるのではと、フリーダ様は仰られているのではと思います」


「宜しい。ビアンカ」


 フリーダのそれにビアンカが答える。そして、フリーダとアリッサの頷きが続いていた。――明ら様な男二人の呆けた顔。それを互いに見合わせて『おう』とも『はい』ともとれる様子になる。


「そう言う事じゃクローゼ。それと……言葉の話なら、人智の者公用(・・)語と称しているだけで、魔解の者も差異はない。それに、魔王様と既に話しておるではないか。何を今らさと、妾は思うぞ」


 何故かフリーダは、クローゼに敵意などない風になっている。王族たるそれか、または彼女の資質によるのか分からない。ただ、上下の関係性は、クローゼの感じから彼女の方が主であった。


「あの、一つ聞いても宜しいですか?」


 中々の流れである。敵地の直中で、話す相手はフリーダと言う事を考えれば、気軽に出す言葉ではない。

 ただ、クローゼは戦の最中で、敵の将帥の眼前に剣先を向けて『この人すげぇ』と思う男だった。


 それから考えれば、セレスタの仕方ないも納得の範囲に入ると言える。


「妾の眷族になるなら、いくらでも答えてあるぞ」


「それは無理です。と言うかそれ、魔王の意志でなかったんですか」


 妖艶で魅惑的な瞳に、クローゼは見つめられてその真意を掴みかねていた。向けられるフリーダの微笑みからは、優しさとも取れる感じが見えた。


「謀った……で良いか。なんと言うのか、そちの雰囲気の流れが魔王様のそれと似ておる。……『かぷっ』とするだけゆえ、痛くはないぞ」


 フリーダは、しなやかな白い手に、その仕草を付けてクローゼに見せていた。彼は何と無く『それです』の感じを出していく。


 困惑気味のアリッサを、クローゼは知ってか知らずか、自身の興味に続けて声出していった。


「その『かぷっ』ですが、それをされたら皆吸血鬼(ヴァンパイア)になるのですか。まあ、あれですけど、食事的な何かですよね、それって……」


「ふふふっ。どこまでも面白い奴よ。食事か……確かにそうなる。さすれば、食事の度に我が眷族だらけになるの……」


「そうなんですよ。そこが疑問で……」


 会話自体が、既に可笑しな方向に向いていた。そこには、フリーダとクローゼの空間らしきが出来ている。見たままに、クローゼは本来の目的からずれていた。


 そこで「何だそれ」とヴォルグの呟きが、その流れに乗ってくる。

それと、恐らくアリッサは『止めなさい』のタイミングを逃したのだろう。しきりにビアンカを見て、口を動かす仕草をしていた。


「魔力を流さねばそうはならぬ。まあ、端の端の先であれば、勢い余る事あるやも知れぬがな。それと我が眷族はそうであるが、他は知らぬ、と言う事よ……」


 この場だけを見れば、人智と魔解の隔てはないともいえる。天極と天獄を違えた――神々の争いからの派生が簡単に和解などなる筈は、だが。


「……クローゼ。またの機会があれば、語ろうてやろう。その時は、我が眷族やも知れぬな。それが訪れる刻は決着迄は容赦はせぬゆえ。覚悟するのだな。……それと、暗躍する先は人のみではない。それも心するが良い」


 大事な事を言われた気でもしたのだろう。クローゼは、背筋を伸ばしてフリーダに気持ちを向けていく。そして、明確な態度でそれを表していた。


「分かりました。感謝致します」


 切り替わるクローゼの凛とした姿。それを見る女性達のそれぞれの視線――それに含まれるものは、様々だったようである。


「ヴォルグ。アリッサは人狼。この男は協力者。この場の事は何もなかった。……屋敷の者には、当主として申し伝えよ。良いか」


 ――何もなかった――


 それは、自身の話もなかった事にと言う事なのだろう。そう言ったフリーダは、空いたグラスにクローゼからワインを注がれていた。

 斜に構えて、顎に添えられた手が、彼女の美しさに違った形を見せていた。


 フリーダの見つめるその先に、掴み処の無いような先ほどと違う顔をした……真剣に注がれる赤い色を見る、クローゼの子供の様な顔があった。


 ――不思議な男だ。いずれ争う事になると言うのに。あの下衆な輩より、どれ程清々しいか……。


 その視線を感じたアリッサが、フリーダに向けて声をかけていく。


「フリーダ様。感謝致します……あの、どうかなさいましたか?」


「んっ? 大事ない。気にするな」


「――セーフ」


 フリーダが、アリッサの声に目線を動かした、その少しの時間をクローゼの声に戻される。彼女が見たものは、自身のグラスになみなみと注がれた、赤いワインの溢れんばかりの様子だった。


 フリーダは思わず声を上げそうになり、その声の主に意識をむけた。――そこには、よく分からない達成感を出している。クローゼの得意気な表情が見て取れた。


「こぼれませんでした。凄くないですか」


「まったく……」


「ガキかお前は。で、凄いな」


 二人の男のその声に、フリーダは笑い声を出して見せていた。……恐らくは、人智と魔解の最高峰の男達。その子供のような瞳に、アリッサも笑顔を向けていた。


 そんな特殊な……いや、特異な空気感をクローゼの腕にある共鳴竜水晶の輝きが、終わりを告げる。


「うおっ、光った……レニエ? えっなんだ」


「クローゼ。レニエさんに何かあったのかも。いった方がいいよ」


「いや、王都のど真ん中だぞ。それで何かって」


 唐突な光と会話のそれに、周りが説明を促す空気を出していた。


「なんだ。で、それはあれか?」


 ヴォルグは、アリッサのそれと違う色の光に、クローゼに抽象的な言葉をむける。何と無く、理解は出来ている感じだった。その流れに、フリーダも唇を動かしてきた。


「それは?」


 と出されたフリーダの疑問に、クローゼは「転位が出来る魔装具です。これで来ました」と答えて、「次は、茶番は要らぬぞ」の声と促しをフリーダから受けていた。



「フリーダ様、それでは失礼します。……アリッサまた来る。ヴォルグ頼むぞ」


 簡単に言葉を並べて、展開した魔方陣の中にクローゼは消えて行った。その残光に、知らぬ者は驚きを見せていた。


 立ち姿で彼を見送ったフリーダは、暫く無言であったが、綺麗な所作で振り返りアリッサに言葉をむける。


「カルーラに調べさせたい事があるゆえ、人狼を幾人か、選りすぐりで手筈せよ。良いか」


「畏まりました。もし、諜報の類いであるのでしたら、人狼よりも適任があります。よろしければその者達に」


「妾はその意ゆえ、アリッサに任す。……しかし、惜しいの。そちがこちらの側であれば、どれ程良かったか……」


 その言葉に、アリッサは声を出さずに一礼して見せた……。


 魔都ユーベン――南方であるが、僅かに寒さを感じる。ある一頁の光景であった。




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