表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国の盾~特異なる者。其れなりの物語~  作者: 白髭翁
第四章 王国の盾と精霊の弓
104/204

弐~出会い頭は……妖艶なり~

 エストニア王国――ユーベン。魔王のある都『魔都』として、その名が浸透し始めている。その不文律な様式が、場景にらしさをみせていた。


 その魔都で、イグラルードの様式に影響を受ける側に、人智に列なる者が多く見え、その区画の要な場所に、魔都の守備を担う、紫黒兵団長に昇格した黒銀のヴォルグの屋敷がある。


 その屋敷の庭に極の晴天が射し、それを遮る様に張られた天幕の開け放たれている両側から、時節がらの南風が通りすぎていた。


 その中では、テーブルを間に向かい合う女性が、歓談とも取れる会話をしている。一人は、アリッサであり、相手は、魔王の正妃とも、魔王の情婦とも呼ばれる紫黒のフリーダであった。


「正妃様。この区画から、人智の者をこちらに……と言う事で手配致すと当主が申しております。それで、幾分か落ち着くとの事です」


「そちの思案だとは分かる。妾にヴォルグの体裁を繕わぬでよい。あれが、その分の男でないのは、妾はよう知ってある」


「痛み入ります」


 軽く会釈をするアリッサに、フリーダはしなやかに手を見せて、それを受け入れていた。そして、アリッサの顔が見えるあたりになった所で、彼女は続けて話しかけていく。


「それに、ヴォルグが余計な頭を使わず、ドンと構えて睨みを効かせておるゆえ、新参の馬鹿共に大きな顔させずに済む。それも、そちが在るゆえよ」


「感謝致します」とアリッサの再びな会釈に続いて、彼女の後ろから声が聞こえてきた。


「脱ぐのが面倒くせぇ。外で食う。……で。頼む」


 その声の主は、武具を纏ったヴォルグであった。


 彼はメイド長のルヘルに、昼食を取るのに防具を外すのが面倒くさいと言っていた。しかし、それらしきは、特殊な形状の籠手(ナックルガード)脛当て(シンガード)のみに見える。


 全体的な感じは、ゆったりとした服になる。ただ、急所に革製の防具が当ててあり、擬態でなくとも機能する作りだった。


 そんなヴォルグは、自身の声に振り向いたアリッサに、片手を上げて見せている。そして、彼女の向こうのフリーダに、気が付いた感じになっていた。


「面倒くさいとは何じゃ。その程度で面倒くさいなら、紫黒の騎士の鎧は着けれぬぞ」


 フリーダのかけた音とその表情。それは、子を見る親の感じになる。それに、ヴォルグの歩みを止めて「着けねぇし」と呟いて、アリッサとその斜め後ろに立つビアンカの表情を視界にいれた……。


「また、極刻に起きてる。で、ですか?」


「ヴォルグ。折角、お前の顔を見に来てやったのにその言とは。それに、妾は凡俗(ぼんぞく)吸血鬼(ヴァンパイア)と違って、極刻も獄刻の異さもない」


「いや、アリッサの顔を。で、しょう」


 ここのところフリーダは、ヴォルグの屋敷に度々訪れていた。先ほどのヴォルグの視線は、『また』の言葉の同意を得る感じになる。そのまま『目的は自分ではない』の断定をフリーダに向けて、ヴォルグは、二人から斜めの位置で椅子に腰をかけた。


「拗ねておるのか?」


 あくまでも、子供扱いをするフリーダに、拗ねた風の顔をヴォルグは見せる。そして、フリーダから満足げな表情を引き出していた。


「で。魔王は変わらず……」


「変わらずに。御力は戻りつつも、覇気も闘気も足らぬ。故に、鉄黒の言う『穴もこじ開けれぬ者』にあの様な言を……まあ、魔王様はまるで眼中にいれぬ(さま)ゆえ、さして意はやまぬが」


「ミールレス、斯様な名前の。魔王様と類様な獄魔族でしたかと存じますが 」


「そう。妾の意がある魔王宮で、『俺が真の魔王だ』と起きたまま寝言いうておうた。それも、こそこそとな。……只の馬鹿者だ」


 アリッサの言葉に、フリーダの肯定に続いていった。ただ、言葉と裏腹にフリーダの美しさが、若干――癪に障る感じをだして――揺れていた。


『ミールレス』


 それは、魔解において多数を占める獄魔族。――所謂(いわゆる)、魔族の同義である――その上位個体であった。


「そんな者の事は良い。それよりも……」の言葉でフリーダは話題を変えた。それから徐々に離れて、アリッサとの歓談な風に戻っていった。


 かけた話題から、外れてしまったヴォルグは、特に気にすることも無く二人を見て、満足げな表情をしていた。二人の会話が続き、その流れでミールレスが、魔解では地位の高い奴だとなんとなく理解していた様であった。


 ――ただ、魔解を知らないヴォルグは、関係ない感じを出している……。


 彼と丁度良い距離感な二人の話題が、ヴォルグの意識的から離れて行く。手持ち無沙汰なのか、彼はテーブルの飾りと化していた菓子を鷲掴みにして、口に入れていた。――口を動かす音がそれなりに連続して……止まる。


「今は。で、不味いだろ」


 ヴォルグは、感じた懸念を聞こえない感じに呟いて、アリッサに視線を送る。会話の中で、アリッサは、その仕草をさりげに感じている様に見えた。


 流石に、極の晴天――昼間の光――の下である。『異さはない』と言ってもフリーダは吸血鬼(ヴァンパイア)であった。人智の側での派生が主流な、人魔の類であっても、彼女はその特殊性で力は弱くなると言える。


 勿論、彼女の眷族ならいざ知らず。成り立ての吸血鬼なら、この場がいかに天幕で遮光してあっても只では済まないだろう。流石に灰になる事はないが、全身火傷の様な状態にはなるだろう。


 ただ、彼女はオリジナルである。


 赤ワインを口に入れて、喉を動かす仕草だけでも妖艶に見える彼女に、ヴォルグとアリッサの交錯が『辛うじて』通っていた。


 彼らが感じたのは、クローゼの転位型魔装具がなす魔力の流れだった。――フリーダの訪問が頻繁になり、彼女が懸念していた事態になる。

 アリッサ自身は、その報告を繋いではいた。しかし、それが通っているのかは、まだ分からない所になる。


 ――僅かな思考と状況の流れに、懸念と現実の問題。しかし、それで止まる流れではない。


 フリーダの真後ろに、当たり前の様に魔方陣が展開していく。足が触れる部分に、輝きと重なりが見て取れた。その中から黒の六循(クロージュ)が姿をみせる。


 驚くビアンカの顔に、フリーダが視線を向けて行く。アリッサは彼女の視線で、何かを認識した様に見えた。


「ビアンカ――曲者ですか? ――」

「――恐らく――」

「――俺がヤる!」


 瞬間的に、アリッサの思惑と現状をビアンカは認識してみせた。フリーダが振り向く前に、彼女の視線を声で引き延ばす。その差で、ヴォルグの椅子が逆方向に飛んで行った感じになる……。


 それは、彼女達の距離感がそうさせていた。


 アリッサは、ヴァンダリアの方式を人狼らに採用して、ヴォルグの屋敷で教育と訓練を行っている。ビアンカは、ヴォルグに『頭が良い』と思われて、その補佐と彼女の専任護衛になっていた。


 そして、ビアンカは何と無くを彼女を察している。そんなビアンカの驚きの顔は、クローゼの当たり前とフリーダがいる現実によってだった。

 彼女の視線の先では、瞬間的に距離を詰めたヴォルグが、クローゼとの相対距離を殺していた。そして、クローゼの驚愕の表情をフリーダから、遮ぎっていた。


 唐突な登場のクローゼは、状況を理解する前に……目の前にヴォルグの姿が映っていた。と言うことになる。


 ――何だ、いきなり。


 ヴォルグの放たれる拳。籠手(ナックルガード)の防護な部分が、ヴォルグの意図を持ってクローゼに迫る。


「今は、で。不味い」


 出された声に、クローゼは答える事が出来ない。瞬間的に下がる仕草と、辛うじて片側の剣を抜いて拳と合わせていた。……衝撃は思いの外であったが。

 ヴォルグが詰めた速度。それは、クローゼ認識で、恐らくは『体感』最速であった。それを、擬体のままヴォルグは体現している。


 僅かな刻の筈である。現状のヴォルグは、少なくとも、フリートヘルムのあの場を越えていた。そうクローゼに、認識させるに十分であったと言える。


 ――はっ、速いぞ、ヴォルグ。


 そのまま、勢いに乗せてヴォルグが拳を奮えば、或いは結果が出たかもしれない。だが、ヴォルグは、クローゼに促す言と拳を彼に合わせていた。


 ――フリーダの認識を遮り、見るからに激闘を演出するそれを。


「フリーダ様。で、不味い」


「何でいるんだ」


 ヴォルグの連打で、クローゼが操られる様に動かされ、彼の余裕を呼ぶ。その合間に、「分からん」「どうすんだ!」「で、帰れ」と互いの言葉が飛んでいく。


 無駄に広い庭。人狼や人獣の訓練に使っているその場所をいっぱいに使い、その場景が続く。その演武は、場の人狼達に、ヴォルグの加減を秘匿する程の速さを見せていた。


 全くの素で、気持ちも意思も持たないクローゼは、幾度目かの拳に「いきなり出来るか――」と双剣の構えまでは、自身を魅せていく。


 ――流動合わせれん。てか、使ったらばれるな。


 手詰まり感を出す、クローゼとヴォルグの動き。それを見れていたのは、瞬間に強化魔法を使った――アリッサとビアンカ辺りになる。


 演出が、クローゼの剣擊を挟ませるに至り、アリッサの思考の回転が加速していく。その回転が、徐々に美しい金属音の奏でに変わる中で……止まった。


 ――どうしたら、良いの? 今さら協力者と?


 選択を誤ったかと、アリッサの顔に困惑が出ていた。その瞳が捉える、場の景色に入るフリーダの立ち姿。その背中に、彼女は意識を向けた……。


「フリーダ様……」


「――アリッサ。茶番はもう良いぞ。あの雰囲気……お前を想うあやつであろう。それにヴォルグの殺気もないゆえ……。ふっ、あやつらは、あれで妾を惑どうておるつもりか。まるで、子供の芝居よな」


 思わぬ言葉に、アリッサにも更に困惑が表情になる。しかし、振り返ったフリーダの何事でもない様な顔に、彼女は傍らのビアンカに意識を向けた。


 おもむろに、椅子に座り直したフリーダがグラスに手をかけた辺りで、ビアンカの声が響いた。


「主命ゆえ、それまでに――」


 掛けられた声に、二人はその勢いを殺して行く。僅かな金属音の響きの後に、クローゼの双剣が鞘に収まる音がした。


「ばれかたか?」


「そうだな。で、困った」


『ばれたか』と顔に出すクローゼと、ばつの悪そうなヴォルグが、フリーダの背中に向かって戻ってくる。その二人の目に、アリッサが入って来た。


「正妃様に、寛大な御裁可を頂きました。……フリーダ様感謝致します」


「先ずは良い。……そちらも、立っておらぬで座るがよい。兎に角、話を聞かせて貰おうか」


 然程大きくないテーブルから、フリーダの促しがあり、彼らは対面する形で席をとった。些か、不思議な光景になる。


 若干の沈黙で空気が流れていく。男に分類される二人の荒い息吹きが、その光景に音を付けていた。眺める様に二人を見るフリーダは、少し高揚を表している様に見える。


「ヴォルグは、食事がまだであろう。先に済ませて良いぞ。……食事が冷める」


 そう、フリーダは食事を乗せたワゴンのそばで固まるメイドを見て、言葉出していた。彼女には、最後の言葉は感じられない。それを向けられたヴォルグは理解して「食う」と答えていた。


「それで、そちはクロセであるな……」


 フリーダの瞳に、申し訳程度の仮面を見せるクローゼ。彼は、場を掌握されたのを理解していた。そして、仮面を外す流れで呪文を呟く。

 当然二つ、盾と壁の待機状態(アイドリング)になる。


 パチンと音がして、その仮面をクローゼが二の腕にはめていた。そして、彼はフリーダの言葉をのみ込んで、アリッサに瞳を動かしていた。

 見つめ合う共有と思われるで、アリッサの頷きに合わせてクローゼは答えを返す。


「今は、黒の六循(クローゼ)として頂ければ」


「……で、取り、引き、だ」


「ヴォルグ。『食べながら話すでない』と、いつも言ってあるではないか。行儀が悪いぞ」


 途中で割り込んだヴォルグの言葉に、フリーダはそう説いていた。物腰は柔らかく、圧を感じる雰囲気ない。彼女はその言葉を入れて、クローゼに向き直って来ていた。


「『クローゼ』とな。まあ、そちらの事は今は些細な事よ。別に、我れの命を取るでもあるまい。(かしこ)まる事はないぞ。それで良いの、アリッサ」


 フリーダは一度アリッサの顔を見て、クローゼに続けて行く。


「では、聞かせて貰おうか。ヴォルグと話がついている様ゆえ。まさか、逢瀬などと言わぬよの、クローゼとやら」


「フリーダ様……」


 フリーダの視線を追い掛けていたアリッサの言葉を、二人は軽く制していた。その過程で、クローゼはアリッサに軽い笑顔を向ける。


「正妃様。私は、ヴァンダリア竜伯爵(グレイブ・ヴルム)クローゼ・ベルグと申します。イグラルード王国の位爵を得ておりますゆえ。斯様な諸行になりました」


 ――形式的な相互の内政不干渉の約定――


「目的は、ユーベンの民の為。ヴォルグ殿に最低限の庇護を願い、その対価に情報を提供する『取引』をして頂いております」


「ならば、人であるアリッサを置いているのは、その為か。では、そちら、二人の『想いの人』とは詭弁なのか? 存外(したた)かなものよな」


「――違います」


 クローゼの言葉と同じ感じに、ヴォルグの頬張った口も動いていた。ただ、別の意味でもヴォルグは驚きを持っている様に見える。それが、アリッサにも……またビアンカにも移って行っていた。


 ヴォルグは、アリッサを人狼だと言い続けていた。勿論、フリーダにもである。そして、フリーダは彼女をヴォルグの思惑のまま扱っていた。


「違う? 何が違う。目的と理由の何れか? またはそちの素性か。それともアリッサが人と言う事か。それか、好いたと騙る気持ちがなのか……」


「全部ですね。フリーダ様が、思われている全てです。単純に、俺もヴォルグも好きな女がしたいと言ったから、そうしているだけです」


 形式を整え大義を語り、名目を付けて、想いの女性に答える。クローゼが魔王を打倒するのは、目的ではなく目標になる。実現したいのは、アリッサの人智――ユーベンの残された民――と魔解――ヴォルグを頼るの力無き者――への優しさになる。


 エストニアの解放もその過程であって、その為に正面から戻って来ると、クローゼはヴォルグに告げていた。勿論、ヴォルグとの決着は必要ではある……。


 ――魔族の法で従える……その結果の実現――


「そちに何の益がある。アリッサのみを連れ帰るなら、出来ぬ事もなかろう。敢えて、魔族の中に好いた女を置き去りにして……」


 フリーダは、クローゼの答えに問いを加えていた。その途中で、アリッサの視線とヴォルグの表情を見て言葉を止めた。


「『男としてどうなの』と最近言われまして。ヴォルグ殿もそうだと思いますが。魔族だろうが、また人であろうが、敵と味方であっても……好いた女性に悲しい顔をさせるのは、男としてどうかという感じです。『何の益が……』そうですね。ただ、格好をつけたいだけです」


「愛ゆえ……と言うことなのじゃな」


 クローゼの雰囲気が変わり、フリーダは出て来た言葉を聞いていた。フリーダは、誰とでもなく言葉を出していた。そして、微かに間を置いて彼らを見回していく。


「そちらは馬鹿か。ヴォルグは致し方ないとしても、アリッサもそこまで馬鹿だとは。クローゼであったか。そちも、魔王様の眼前に飛び出した勢いのままの馬鹿者であるな。――生ある若さとはここまで人を馬鹿に出来……」


 そこまでフリーダは続けて、再び言葉を止めた。


 彼女の視線には、両手を広げて『食べたぞ』と発言を待つヴォルグと、短い瞬間に思案を巡らせて、それ伝えたい顔アリッサ。そして、フリーダの発言をまるまる受け入れて、「確かにそうかもだけど」と呟いているクローゼがあった。


「アリッサは。で、嘘をついてない。俺は騙されてもない。で、俺が嘘を――」


「――アリッサが人なのは、ヴォルグが人狼と言うならそれで良い」


「私が我が儘な為に、彼らに苦労をかけているのです。お気に障ったら――」


「先にも言うたが、アリッサがこの地に在るがゆえ心地がよい。それに、ヴォルグの相手として見て、アリッサも十分じゃ。それが、(いず)れであろうとどうでない」


「フリーダ様。私は最終的に、魔王オルゼクスの前には立ちます。立ちはだかる、ヴォルグ次第で生死はわかりませんが……その上で、残る者が彼女の気持ちを人智と魔解の区別なく表すと……」


 続けて交わされる、テーブルでの弁明と答え。


 その最後に、クローゼがフリーダに向ける。オルゼクスの名を出して、自身の立場を明確にした。その上で、フリーダの微かな表情の変化に言葉を止めて、それを見る。


 ――その表情は、吸血鬼(ヴァンパイア)らしく生気なく冷たい感じで……美しかった――


「要するに。アリッサが有れば、そちの思惑は成されると言いたいのじゃな。ヴァンダリア竜伯爵(グレイブ・ヴルム)。そちのこれは、貴族の言ではなかろう。それに、我れが否と言えばそれで、しまいよな。クローゼ」


「言わないですよね。アリッサは、優秀でヴォルグ殿から好かれている。それに私も、魔王オルゼクス様に取引で貢献している。また、魔族に益が出る事をアリッサがしても咎める気はないし、寧ろ積極的に指示します。ですから、フリーダ様に不利益は、この時点ではない」


 クローゼの言動が、守護者のどれかのそれに見える。ただ、考えて整理した感じでないので、思いのままなのかもしれない。


「成る程な。妾に不利益は確かにない。それに、魔王様から免責を二人とも受けておる。以後、何かすれば処分せねばならぬが……。ゆえに、クローゼ。そちの事を断ぜねばならぬ……な」


「取引。で、協力者です!」


 ヴォルグの言葉に、アリッサが軽い制止を合わせていた。クローゼは、それに複雑な表情を一瞬見せて、情報提供者としての体で、利益を出せると言う証明を始める。


「提供出来る情報の書簡です。後でご確認を。目立った所では、帝国の『七つの剣士シエテ・エスグリミスタ』の辺りになります」


「帝国領域は、ミールレスらの領分。妾が欲しているものでないの。それに、それを帝国領域に伝える気もないのゆえ。何か別のものを提示して貰わねばな。……貴国の情勢や近隣のそれに、森の王の話しなどは興味がある」


 本格的な情報の要求に、クローゼは戸惑いを見せる。当然の様にアリッサを彼は見たが、それに関しては、アリッサの範疇にはなかった。


 ――出せる話が、どの辺まで良いのか分からん……


 クローゼに、暫くの思考が見えた。そして彼は、フリーダのその美しい顔を見て、考えを止めた様に見えた。


「魔王様に行くだけですよね……」と切り出したクローゼは、自身がわかる範囲でフリーダに答えた。ただ、肝心な部分は彼自身が『なんとなく覚えている』なので、話の流れ以外で分かったのは、アリッサ位だったと思われる。


 ――クローゼは、最後にユーベンに来てからの自身の流れで、イグラルード王国で起こった事を話していた。王の事。勇者カイムから、獄の眷属カーイムナスの話。そして王国と帝国との争いに、自身の戦いの事。……恐らく、アリッサに話そうとした内容をそのまま話していた、と思われる。


 フリーダは偽物勇者、獄の眷属辺りで僅かに。獄属の言葉には、明確な反応を見せて……紫の竜水晶と暗紫色の竜水晶で眉が揺れ、眉間にしわがよった。


「クローゼ。その竜水晶の話。もう少し詳しく申せ。……それで、そちらの事を不問にするゆえ」


「えっ?」


「紫の竜水晶の事じゃ。妾もそれに少なからず、縁がある。ゆえに、聞きとうあるのだ」


 ――紫色の暗い竜水晶――


 フリーダは、その話を所望していた。既に、話す事に夢中だったクローゼは、面を食らった表情を見せる。ただ、フリーダのそれは真剣であった。




妖艶なりの調整しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ