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第1話 転職したい……

 ――冒険者になればカノジョが出来る。


 その言葉を信じて冒険者になるべく田舎から首都へと上京して4年。


 気がつけば俺、盗賊のダルは18歳の誕生日を迎えていた。


 ちなみに冒険者になって4年、浮いた話は一切ゼロッ! 女ッ気も一切ゼロッ!


 俺の周りに寄ってくる奴らと言えば、身長2メートル近い全身鎧の謎の獣人の男戦士に露出狂のドワーフ騎士、そしてゴブリンを性的に愛しているイケメン魔法使いという、一体前世でどれだけの悪行を重ねればこんな悲惨なメンバーに囲まれるのだろうか? と頭を抱えたくなるレベルの奴らが集まっている。


 もちろんコイツらとバカをするのは楽しい。


 だが、俺は野郎共とバカをするよりも女の子とイチャイチャしたいのだ!


 一緒に薬草を取りに行って、一緒に野宿をして、共に危険を乗り越えていく内にだんだんと2人の距離が近づいていくような、そんな甘酸っぱい恋がしたいのだ!


 だが現実はどうだ?


 全身鎧の謎の男戦士と薬草を摘みに行き、全身鎧の謎の男と一緒に野宿をし、全身鎧の謎の男と一緒に危険なクエストをクリアしていく。


 そこに甘酸っぱい恋は芽生えないし、仮に芽生えようものなら我が身命(しんめい)()してでも粉砕する所存(しょぞん)である。


 そう俺は恋がしたいのだ。


 キュンキュンしたいのだ!




「ねぇ、どうしたらいいと思う!? 助けてよジョニーッ!?」

「……ボクはジョニーじゃない」




 兜の上から器用に葡萄(ぶどう)ジュースを飲みながら、例の全身鎧の謎の獣人の男――もとい重戦士のアレスが突き放すようにそう言った。




「そんな冷たいことを言うなよ相棒ぉ~っ!? 俺マジで困ってんだからさぁ~っ!?」

「……ダルくん、うるさい。そんな大きな声を出してたら酒場の人に迷惑」

「あれオコ!? もしかしてオコですかアレスさん!?」

「……怒ってない」




 我が相棒アレスは注文していた枝豆のおつまみを器用に兜の上からモグモグ咀嚼(そしゃく)する。


 よくそのフルフェイスの兜で料理を食べられるもんだ。


 晩御飯の最中くらい兜を取ればいいのに。


 というか俺、アレスとコンビを組んで4年になるけど、いまだにコイツの顔を見たことがねぇんだよなぁ。


 まぁガタイと身長からして、かなり(いか)つい野郎だとは思うが。


 ……俺と同い年で同じタイミングで冒険者になったハズなのに、いまだに顔を知らないというのは流石に相棒として薄情だろうか?


 でもコイツ、人前だと絶対に鎧と兜を取らないんだよなぁ……。


 なんてことを考えていると、葡萄ジュースで一息いれたアレスがゆっくりと言葉を(つむ)ぎだした。




「……でもちょっと意外。ダルくん、女の子に興味あったんだね? ずっと男の子たちと一緒に居るから男色の毛があるのかと思ってた」

「失礼な!? あるよ、バリバリあるよ! 俺、変態だよ!?」

「……その発言はどうかと思う」




 相棒が静かに引く。


 いやまぁ……うん。俺も自分で今の発言はどうかと思うよ。


 なんで俺は野郎相手に【変態宣言】をしなければならんのだ? 罰ゲームか?




「というかアレスお前、俺が男色ホモ野郎だと思いながらコンビを組んでくれていたのか!? ふざけんな、誰がホモだっ! ありがとうっ!」

「……怒ったり感謝したり、ダルくんは毎日楽しそうだね?」




 アレスは残っていた葡萄ジュースを一気に(あお)ると、どこか安心したような吐息を溢した。




「……でもそっか。女の子に興味あったんだ。ちょっと安心した」




 そう言ってアレスは近くのウェイトレスさんに葡萄ジュースのおかわりを要求した。


 安心? なんで俺が女の子に興味があることで安心するんだ、コイツ?


 とそこまで考えて『あぁ、なるほど!』と納得する。


 そうか、コイツはずっとホモ野郎である俺に貞操を狙われているんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたのか!


 だから(かたく)なまでに鎧を脱ごうとしなかったワケか!


 ようやくこの4年間の謎が解けたわ!


 ……えっ、ちょっと待って? もしかして俺、4年間もの間、相棒に男色ホモ野郎だと思われていたってこと?


 えっ、ナニソレ? 新手のイジメですか?


 ヤベッ、ちょっと泣きそう……。




「……ところでダルくん、明日はどうしようか?」

「うんっ? そうだなぁ、今日はワイルドボアーの討伐クエストを受けて疲れたから、明日は休みにしようぜ!」

「……休み。ならダルくんにお願い、というか相談があるんだけど?」

「おっ? なによ、相談って? 俺のスリーサイズが知り合いのか? いや~ん、エッチ❤」

「……それはもう知ってる」




 さも当然のようにそう答えるアレス。


 いや、何で知ってんのさ? 


 教えてないよね、俺? 


 ちょっと怖いんだけど?


 と俺が口を開くよりも早く、アレスは言葉を重ねた。




「……転職したい」

「転職?」

「……重戦士から僧侶に」

「えっ、マジで?」




 コクリと頷くアレス。


 マジか……最近なんか悩んでいるっぽいなぁと思ってはいたが、まさか転職について考えていたとは。


 てっきり俺以外に友達が出来ないのを悩んでいるのかと思っていたぜ……。




「……ダメ?」

「いや、ダメじゃねぇけどさ。なんでまた突然僧侶に?」

「……元々僧侶になりたかったんだけど、家の都合で18歳までは戦士として活動しないといけなかったから」

「な~る。それでついこの間18歳になったことだし、夢だった僧侶に転職してやろうと?」

「……うん。それで、そのぅ……」




 突然兜の下でモゴモゴし始める重戦士アレス。


 フルフェイスの兜のせいでナニを考えているのか分からないが、長年の付き合いから俺の様子を(うかが)っていることが雰囲気で分かった。


 この感じはアレか?


 僧侶に転職したら、俺とのコンビを解散すると思っている感じか?


 まったく、舐められたモノである。




「おいアレス、最初に言っておくぞ? 別に僧侶に転職したくらいで俺たちの絆が無くなるワケじゃないし、なによりコンビを解消する気はサラサラないからな?」

「……いいの? 転職したらレベル1からのスタートになるんだよ?」

「構わん、構わん! 相棒には散々世話になったからな! 僧侶をやりてぇって言うのなら、今度は俺様が全力でサポートしてやるよ!」

「……ありがとう、ダルくん」




 アレスが鎧の下で嬉しそうに声を弾ませる。


 鎧の隙間からハミ出たシッポがブンブンと左右に揺れていた。


 この巨体で子犬チックなんだよなぁ、コイツ。




「しかし思い切ったなぁ。重戦士レベル35から転職して僧侶レベル1とは」

「……ダルくんは今盗賊レベルいくつだっけ?」

「俺はレベル34だな!」




 そう言ってグッ! と左手に力をこめる。


 するとスゥッ! と左手の甲に『34』の数字が浮かび上がる。




「……あと1つレベルが上がれば上級職に転職できるね」

「あぁ、『海賊』か『レンジャー』だろ? う~ん? どっちもしっくりこないから上級には転職しないかな、俺」

「……そうなの? もったいないね?」

「そんな事を言ったらお前、アレスこそ上級職の『聖騎士』に転職できるのに普通の僧侶に転職しようだなんて、勿体(もったい)ないの極みだろ?」

「……それもそうだね」




 クスクスと兜の下で上品に笑うアレス。


 男のクセにまるでレディーのように笑うヤツである。




「それじゃ明日は転職しにマーダ神殿に行くか! 10時に中央の噴水前集合でいいか?」

「……一緒に行ってくれるの?」

「あたぼーよ! 俺たちは一心同体だぞ? 生まれた日は違えども、童貞を捨てる時は同じ日でありたいと誓い合った義兄弟(ブラジャー)じゃないか!」

「……そんな約束はしたことないけど、うん。ありがとう、ダルくん」




 こうして我が相棒である重戦士アレスは、明日僧侶に転職することが確定した。


 この時の俺は知らなかったのだ。


 この転職を境に、俺の性癖が明後日の方向へと()じ曲がっていくことを。


 この時の俺はまだ知る(よし)もなかったのだ。

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