あの日に戻れたら
みずきが友達と旅行に行く日。
不安になってしまったゆうへいにおきたこととは。
朝、スマホの通知音で目が覚めた。
画面を見ると、みずきからメッセージが届いていた。
みずき「おはよ! 今から行ってくるね!」
続けて送られてきたのは、旅行用の荷物を持ったみずきの写真だった。
ゆうへい「おはよう。気をつけて行ってきてね」
みずき「うん! 楽しんでくる!」
ゆうへい「いっぱい楽しんできな」
みずき「ゆうへいも寂しくなったら連絡していいからね笑」
ゆうへい「寂しくないって笑」
みずき「ほんとかな〜?笑」
ゆうへい「ほんとほんと笑」
そんなやり取りをして、僕はスマホを置いた。
画面に映るみずきの笑顔を思い出す。
楽しそうに笑う顔。
嬉しそうに話す声。
僕のくだらない冗談に笑ってくれるところ。
その全部が好きだった。
だからこそ、僕は彼女を信じたかった。
過去のことなんて関係ない。
みずきは、るなじゃない。
何度もそう言い聞かせて、僕はいつも通りの一日を過ごすことにした。
昼過ぎ。
スマホが震えた。
みずき「着いたよー!」
添付されていた写真には、旅行先の景色が写っていた。
ゆうへい「おお、いい景色だね!」
みずき「でしょ! すごい綺麗!」
ゆうへい「楽しそうでよかった笑」
みずき「うん! ゆうへいにも見せたかった!」
その言葉を読んで、思わず笑みがこぼれた。
わざわざ写真を送ってくれる。
僕のことを気にかけてくれる。
それだけで十分なはずだった。
みずきは何も悪いことをしていない。
友達と旅行を楽しんでいるだけだ。
わかっている。
わかっているのに、ふとした瞬間に昔の記憶が頭をよぎる。
るなも、僕に優しかった。
好きだと言ってくれた。
一緒に笑って、これからの話もした。
それでも、裏切られた。
あのとき、僕は何も気づかなかった。
いつからだったんだろう。
僕の知らないところで、何が起きていたんだろう。
考えても答えなんて出ない。
それなのに、思い出すたびに胸の奥が苦しくなった。
ゆうへい「……もう、いいだろ」
誰もいない部屋で、小さく呟く。
過去のことだ。
終わったことだ。
今の僕には、みずきがいる。
それなのに、どうして僕はまだ、あの日に縛られているんだろう。
夕方になっても、みずきから連絡は届いていた。
みずき「今ご飯食べてる!」
みずき「これめっちゃおいしい!」
みずき「見て! これかわいくない?」
送られてくる写真を見るたびに、僕は安心した。
少なくとも、今のみずきは僕のことを忘れていない。
離れた場所にいても、僕に話しかけてくれる。
それが嬉しかった。
ゆうへい「いいなー! 僕も食べたい笑」
みずき「今度一緒に行こうね!」
ゆうへい「うん、約束ね」
みずき「約束!」
そのメッセージを最後に、しばらく連絡が途切れた。
友達と過ごしているのだから、当然だ。
ずっとスマホを見ているわけにもいかないだろう。
僕だって、そんなことはわかっている。
スマホをテーブルに置いて、テレビをつけた。
けれど、内容はほとんど頭に入ってこなかった。
数分おきにスマホを確認してしまう。
通知はない。
もう一度、画面を消す。
それでも気になって、また手に取る。
自分でも馬鹿らしいと思った。
みずきは何もしていない。
ただ、友達と旅行を楽しんでいるだけ。
なのに、僕は勝手に不安になっている。
こんな自分を、みずきが知ったらどう思うだろう。
面倒くさいと思うだろうか。
信用されていないと感じるだろうか。
そんなことを考えると、余計に苦しくなった。
僕はみずきを信じたい。
本当に、それだけなのに。
夜。
部屋の明かりを消して、ベッドに横になった。
窓の外は暗く、部屋の中にはエアコンの音だけが響いていた。
スマホを見ると、みずきからメッセージが届いていた。
みずき「今日はいっぱい遊んだ! そろそろ寝るね!」
みずき「ゆうへい、おやすみ! また明日ね!」
その文章を読んで、僕は少しだけ安心した。
ゆうへい「おやすみ。ゆっくり休んでね」
みずき「ゆうへいもね! 大好きだよ!」
ゆうへい「僕も大好きだよ」
最後にそう送って、スマホを枕元に置いた。
みずきの言葉は嬉しかった。
本当に、嬉しかった。
それなのに。
目を閉じると、別の言葉が頭の中に浮かんできた。
るな「好きだよ」
あのときも、彼女はそう言っていた。
るな「ずっと一緒にいようね」
あの言葉を、僕は信じていた。
信じていたからこそ、裏切られたと知ったとき、何もかもがわからなくなった。
僕の好きは、何だったんだろう。
僕が信じていた時間は、何だったんだろう。
あのとき、僕は何かを間違えたんだろうか。
もっと相手のことを見ていれば。
もっと早く気づいていれば。
違う未来があったんだろうか。
考えたくないのに、記憶は勝手に蘇ってくる。
胸が苦しくなった。
息を吸っても、うまく落ち着けない。
みずきのことを疑いたいわけじゃない。
疑いたくなんてない。
ただ、怖い。
また同じことが起きるのが。
また大切な人を失うのが。
そして何より、そんな未来を想像してしまう自分が嫌だった。
ゆうへい「……もう、疲れたよ」
声に出した途端、目の奥が熱くなった。
涙が頬を伝って、枕に染み込んでいく。
誰かに助けてほしいわけじゃない。
みずきに心配をかけたいわけでもない。
ただ、何も考えずに眠りたかった。
過去のことも。
これからのことも。
何もかも忘れてしまいたかった。
ゆうへい「……消えたいな」
小さな声が、暗い部屋に溶けていった。
もちろん、本当に何もかも終わらせたいわけじゃない。
みずきと一緒にいたい。
これからも笑っていたい。
それなのに、どうしようもなく苦しかった。
過去に戻れたら。
あの日に戻れたら。
何かを変えられるんだろうか。
それとも、結局同じ結末になるんだろうか。
そんなことを考えながら、僕は目を閉じた。
涙で濡れた頬が、少し冷たかった。
やがて、意識がゆっくりと遠のいていく。
僕はそのまま、眠りに落ちた。
――朝。
誰かの温もりを感じて、僕は目を覚ました。
「……ん?」
いつもと違う。
そう思ったのは、目を開けるよりも先だった。
僕の部屋は、こんなに明るかっただろうか。
それに、この匂い。
どこか懐かしい、柔らかな香り。
隣から、規則正しい寝息が聞こえる。
まさか。
ゆっくりと顔を横に向けた。
そこには、女の子が眠っていた。
長い髪。
見覚えのある横顔。
何度も隣で見てきた顔。
忘れるはずがない。
忘れられるはずがない。
ゆうへい「……るな?」
思わず名前がこぼれた。
彼女は目を覚まさない。
僕の声が聞こえていないかのように、静かに眠り続けている。
どうして。
なんで、るながここにいるんだ。
僕たちは、もう別れたはずだ。
あの日、確かに終わったはずなのに。
震える手で、枕元に置かれたスマホを手に取った。
画面に表示されていた日付を見て、息が止まった。
そこにあったのは、僕が知っているはずの今日ではなかった。
何度も確認した。
目を擦って、もう一度見た。
それでも、日付は変わらない。
僕は知っている。
この日付を。
この部屋を。
隣で眠っている、彼女のことを。
忘れるはずがない。
だって、ここは――。
ゆうへい「……嘘だろ」
声が震えた。
僕は、過去に戻っていた。
過去に戻って、るなとの日に戻ってしまったゆうへい。
これからどんな未来なのか分かってしまっているからこそどう過ごせばいいのか悩んでしまう。
続きをお楽しみに!




