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第9話 王子と公爵令嬢、恋の戦火は紅く

 紅き薔薇の令嬢は笑う

 王子と公爵令嬢、恋の戦火は紅く


 


王宮の大広間。

高く、美しく、冷ややかに。


アリシア=グラディールは、その場に立っていた。まるで処刑台の前に立たされた庶民のように。


「アリシア=グラディール嬢に告ぐ。第二王子ジークフリート=エアハルト殿下との婚約が、正式に検討の段階に入りました」


……その一報が、王宮貴族の耳に届いたとき、社交界は爆発した。


なにせ――相手は「下級貴族の三女」でありながら、貴族学院で頭角を現した新星。そして、中身は元おでん屋のおっさん。絶対に恋愛の波に飛び込みたくなかった本人にとっては、喜びではなく――


(詰んだ……! これは完全に、地雷踏んだ……!)


と、顔面蒼白になるだけだった。


だが、爆発したのは社交界だけではない。


エリザベート=リーベルハイム――王子の“本命”と囁かれていた彼女が、珍しく、そして露骨に怒りを顕わにしたのだった。


 



「ジークフリート様――これはどういうおつもりで?」


昼下がりの王宮・バラ園。エリザベートの声は、静かに、だが確かに怒っていた。


「“一時的な婚約検討”? 戯れ事ですわ」


「エリザベート……これは政略などではない。私は、彼女を――アリシアを、見極めたいと思っている」


「ならば、どうして私には一言もなかったのですか?」


王子は言葉に詰まる。


確かに、王宮筋の一部には“アリシア擁立派”が現れ始めていた。彼女の民間的な感性が、王国の改革派貴族たちの間で注目されていたのだ。


そして何より――ジークフリートは気づいてしまった。


アリシアの目。

あの、すべてを見通すような、老成したまなざし。あれは、どんな貴族娘にもない強さ。


(私は……彼女に惹かれているのか……?)


だが、エリザベートも引かない。


「ジークフリート様。あなたが彼女に“特別な感情”を抱いているのなら――」


そして、薔薇の棘のように鋭く、言い放った。


「それは、私への侮辱ですわ」


 



数日後、アリシアは貴族学院の噴水前で、ジークフリートに呼び出された。


(うわぁ……ここ、ゲーム内でプロポーズイベント起きる場所だ……)


「アリシア。君に伝えなければならないことがある」


「は、ははっ……私など庶民上がり、よく分からないことが多くて……あの、できれば、そういうご立派な場ではなく、下町の屋台とかでお願いしたいんですが……」


「君らしい答えだな」


ジークは微笑んだ。だが次の瞬間、その背後から別の声が響く。


「ご機嫌よう。殿下、アリシア嬢。お揃いとは……よほど親密でいらっしゃるのね」


現れたのはエリザベート。いつもより濃い紅を唇にまとい、髪を高く結い上げた“決戦スタイル”。


「本日はご挨拶に伺っただけですの。ですが、せっかくですから――アリシア嬢に、質問がございます」


アリシアはピクリと眉を動かした。


「……何でしょう?」


「あなた、殿下のどこが……お好き?」


――空気が凍る。


ジークが「やめろ、エリザベート」と声をかけたが、アリシアは手を挙げて止めた。


「……正直に申し上げますと。あまり、恋愛というものが分かりませんの」


「まぁ?」


「好き、という感情が分からないわけではありませんが、それで人生が回るとも思っておりません。誰かの隣にいるには、信頼と尊敬の方が、大切なのではないでしょうか」


エリザベートは冷笑した。


「つまり……殿下に“ときめいて”などいない、ということですのね?」


アリシアは沈黙する。


(中身おっさんだし……恋愛イベントとか無理ゲーなんだよ……)


だが、王子がその肩に手を置いた。


「……ならば、私は君に恋をしている」


「は?」


「ときめきとは、君が持っていなくとも、私の中に生まれてしまった。私は君をもっと知りたい。私の隣にいてほしいと――そう思っている」


「いや、待って。あの、ちょ、ちょっと殿下、落ち着きましょう……!」


アリシアの顔が真っ赤になる。


エリザベートは、微かに目を伏せた。


「……ならば、私も黙ってはおりませんわ。あなたが“心”で彼女を選ぶというのなら――」


その眼差しがアリシアを射抜く。


「私も“誇り”で、奪いにまいります」


 



その日から、学院では見えない戦火が巻き起こった。


エリザベートは貴族の支持を集め、完璧な令嬢としてふるまい、アリシアは下町の人々と交流し、改革派の貴族を味方につけていく。


だが、アリシアの心はずっと、こう叫んでいた。


(こっちは恋愛したくてここにいるんじゃねぇぇぇ!)


しかし、彼女の目の前には――誇り高き公爵令嬢と、真っすぐな王子の、“本気の恋”があった。


 


アリシアの心が、静かに揺れていく。

最後までお読みいただきありがとうございました。感謝です。ポイント評価などいただけると励みになります。m(__)m


新連載始めました。こちらも良かったらよろしくお願います。

【婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの復讐劇が今、始まる! 】

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