表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

23. 凍結

「……な、はぁ?」

「無理は承知だ。でも、こうしなきゃこの戦いは勝てない」


 困惑する彼女の前にゆっくりと立ち、大剣を目の前に突き刺す。


「……ふぅ」


 一つ息を吐き、強張っていた全身の力を抜く。

 


 ────視界は良好。頭もすっきりしていて、状況が今まで以上に良く見える。



 枷に囚われ続けていたヒュドラも『お仕置き』が緩みかけているのか、皮膚の黒化も薄れ始めていてその目は再び紅色へと戻り始めていた。だが、確実にダメージは蓄積されているはずだ。後がない奴は必ず、一撃で俺たちを仕留めに来る。

 そして、後がないのはこっちも同じだ。魔術がほとんど使えそうにない俺と、獰猛化を躊躇せざるをえないテン。まともな攻撃を仕掛けることも難しいこの戦力では、超短期決戦を仕掛けるしか他ない。

 

 勝負は恐らく数秒、一撃で戦いの行方は決まる。

 

 ならば、勝つために俺は何を賭けなければならないか。その答えは、もう既に出ている。


「待て! 手を出すなってどういうことだ!」


 後ろからテンの怒鳴り声が聞こえてくる。表情は見えないがあいつのことだ、きっと表情を強張らせて真剣に怒っているのだろう。


 その怒りが、たまらなく嬉しいのはなんでだろうか。


「その言葉の通りだ。お前は俺の許可なくその場から動くな」

「どういうことだ、ゼノンは何をしようとしてるんだ!」

「……お前が知ったらきっと止めるだろうからな。だから言わないでおく」

「死ぬつもりなのか!?」

「死ぬ気は毛頭ないが、何せ分の悪い賭けだからな。もし賭けに負けてしまったらどうなるか分からない」


 敢えて顔は向けない。もう一度彼女の顔を見てしまったら、ようやく決めた覚悟が揺らいでしまいそうになる。

 この道を進むと決めたのなら、振り返らずに進まなければならない。後になって辞めた、なんて言っても効かないだろうし、きっと未来の俺は後悔してしまうだろうから。


「もうこれしか俺たちには残されていない。だから、俺を信じてついてきてくれ」


 今から進む道は茨の道だからこそ、一緒に歩いてくれるテンには一瞬たりとも迷ってほしくない。だから敢えて説明はしない。策の概要を知ってもし躊躇してしまったら、必ず二人もろとも呑み込まれてしまう。


 それに、この策は()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 今の俺が彼女に掛けられる言葉は、信じてくれ以外にない。


「……ふ、ざけるのも大概にしろ! いくら何でも死ぬのは許さないからな!」


 怒鳴り声が鼓膜に痛いほど響く。その怒りはもっともだが、今は聞き入れることはできない。

 後ろ髪を引く彼女の言葉を無視して、あくまで冷静にヒュドラだけを視界に入れる。


「俺は死なない。だからそこで待機していてくれ」

「そんな根拠のない自信は信用できない! 頼むから私が納得できるように説明をしてくれ!」

「……ダメだ。それはできない」

「だ、ダメってそんな……! それだったら私は単独で動くぞ!」

「俺に従ってくれ。さっきお前は俺についていくって言っただろ? なら俺にその『忠義』を態度で示せ」

「忠義……!?」

「今のお前と俺の関係を示してくれ。そうすれば、必ず逆転の芽は見えてくる」


 ヒュドラの容体が落ち着き始めている。黒ずみももう消えていて、整い次第いつでも攻撃に移れる臨戦体制になっていた。


 もうこれ以上、長話はできないようだ。


「信じているぞ、テン」


 最後に一言だけ告げ、後ろへの意識を遮断して視線を一点に向ける。


 回復したヒュドラは湖底に身を沈め、顔だけを覗かせて虎視眈々とこちらの隙を伺っている。圧倒されかねないその威圧に、俺は全身をもってそれを受け止める。会敵した最初の頃はその鋭い眼に恐怖して強張ってしたその身体は、今は自然体で待ち構えることができている。

 

 俺の後ろには守るべき存在がいる。例えこの戦いで再起不能になったとしても、俺の夢を継いでくれる心強い仲間がいる。それだけで心に安心が生まれて、どんな困難にも立ち向かうことができる勇気が芽生えてくる。


「…………来いよ。叩きのめしてやる」


 突き刺した大剣の柄頭を重ねた両手で軽く包み込み、両の足を肩幅に開いて仁王立ちで立ちふさがる。


 死線が張り巡らされた湖との間はおよそ三十メートルほど。だが、俺たちにとってその距離はないに等しい。ほんのひと瞬きで地を抉りながら飛んでくる蛇の口を躱せるほどの力は俺にはもう残されていない。そしてヒュドラも、二撃目を即座に繰り出せる余力を残してくるとは思えない。


 即ち、両者にとってこの場面が決死。一刀を以て、この戦いの幕は下ろされる。

 


 そして、



「────────来た!」



 微かに、ヒュドラの気配が揺れ動いた。


 瞬時、飛び込んでくる蛇の口を感覚で察知し、最期の詠唱をもって身体を魔術で塗り替える。



「一閃────────!!」



 一つの魔術式の詠唱。体内の魔術回路発現、構築。


 これでこの身は魔術を行使する撃鉄へと──── 

 

  

「────────凍結(フリーズ)



 ()()()詠唱。魔術回路、凍結。魔力循環、停止。



 撃鉄は『凍結』する。


 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ