第16話 運命の日
自宅で早めに休む俺。
その日、俺は不思議な夢を見た。黒い太陽に白い影、それはまるで光と闇が反転した世界。誰もいない町で俺は不安にかられながら優大をひたすら探していた。
【回想】
「優大~優大~どこにいるんだ優大」
しばらく探しても見つからず、諦めて帰ろうとした時に優大と思われる影を見つけ駆け寄る。
「優大探したぞ。こんなところで何してたんだ?」
振り返った優大には顔がついていなかった。
【回想終了】
「ハッ……夢か……」
午前5時、薄気味悪い夢に冷や汗をかいていた。それからは眠れず、いつもより早めに会社へ行く事にした。
会社についた俺はとりあえず、乱雑になっていた机の上を片付ける事にした。
机を片付けていると笠原が出社し、プレゼンの準備を始めていた。
「今日は悪いな。宜しく頼むよ」
「任せといて下さい。きっと成功させてみます」
自信満々の笠原。
「ありがとうな」
笠原には心の底から感謝した。午前の業務が終わると急いで帰宅し、車で病院に向かう。
病院に近い駐車場が満車だった為、少し離れた駐車場に停める事になった。病室に行くといつも通りの元気な優大の姿に安心する。
「あれ?出るって言ってからずいぶん遅かったじゃん何してたの?」
少し遅れた事にイライラしている真優美。
「なんかいつもの駐車場が満車で少し離れた所に停めたから遅くなっちゃった。悪いな」
「まあ別にいいけどさ」
退院の手続きをして外へと出ると優大が走り回る。
「優大、ダメでしょ走り回っちゃママ手ギューでしょ」
優大が真優美と手を繋いでいる。反対の手には大好きな車のオモチャが……。
「俺、車を回してくるからここで待っててくれよ」
俺が待っててくれと言うと優大が怒り出す。
「いやだ。いやだ。優大も一緒に歩く」
見かねた真優美が提案する。
「荷物こんだけだし、そんなに駐車場遠くないでしょ?みんなで歩いて行こうよ」
「真優美がそう言うなら歩いてくか」
だがしばらく歩くと真優美が文句を言う。
「全然近くないし、もう疲れたよ。私、ずっと一緒に入院付き添ってたから体力落ちてんだよ。もっと考えろよこのバカ」
だから車を回すと言ったのだが……
「この横断歩道渡ったらすぐだから頑張ってくれ」
信号が点滅し始めたので急いで渡りきると優大が叫ぶ。
「あれ?優大のブーブーがない」
次の瞬間、真優美の手を振りほどいて逆走する優大。真優美は体勢を崩し倒れてしまう。
急いで追いかける俺。優大は横断歩道の真ん中ぐらいの所でオモチャを拾っており、後ろからはトラックが迫っていた。
「優ぅーー大ぃーー」
もう間に合わない……そう思った瞬間に走馬灯のように優大との記憶が甦る。
【回想】
「おめでとうございます。立派な男の子ですよ」
「あっありがとうございます。よく頑張ったな真優美。ほらウチラの子だぞ可愛いなぁ」
「うん。本当にちっちゃくて可愛い。生まれてきてくれてありがとう。今日から私があなたのママよ」
出産の時の記憶だ。
「優大もうハイハイ出来るようになったのか凄いな」
「でしょ?私も驚いた優大は天才かもよ」
得意気に言う真優美に大喜びの俺。
「クゥマ~おっきして」
「ううう……まだ眠いのに……ぐぅええ」
「優大……お腹の上に飛ぶのは勘弁……」
思い出が次々と浮かび上がる。
「クマ~どこいたい?とんでけ~しようか?」
「優大ありがとな。クマどこも痛くないよ。大丈夫だよ」
【回想終了】
優大……こんなにも優しい優大が死んでしまう……頼む神様……優大を優大を救ってくれ。
ただひたすら優大の無事だけを祈った。
目を開くと時が止まっていた。トラックの運転手は電話しながら運転しており優大には気づいておらず、距離的に間に合わない事を悟った。
しばらくすると黒頭巾の男が降りて来る。
「我は運命を告げし者、選択の時が来た。心して選びたまえ」
「お前が何者なのかはこの際どうでも良い。頼む優大を……息子救って欲しい。もう、あんただけが頼りなんだこのままじゃ優大が死んでしまう。この通りだ」
止まった時の中で藁をもすがる思いで黒頭巾にお願いする。
「我には直接手を下す事は出来ぬがそなたをこの停止した時の中で動かす事は出来る」
「だったら今すぐやってくれよ。頼む」
黒頭巾の男が話を続ける。
「だが止められた時の中を動く事は禁忌とされており、その代償としてそなたの足の筋肉は耐えきれず断裂してしまうだろう。その場合、そなたを救う事は叶わぬが構わぬか?」
俺は……俺の選択は………。
覚悟と決心をした俺は黒頭巾に言う。
「俺の体を動かしてくれ、優大を救いたいんだ。俺はどうなっても構わない」
「そなたの覚悟しかと受け止めた。我が消えた後、数秒止まった時の中を動く事を許可しよう。幸運を祈る」
黒頭巾の男が消えると優大のところまで急いで移動する。この距離ならなんとか優大を救えるはずだ。
時が動き出したと同時に優大を抱え、真優美のいる歩道に思いっきり優大を投げる。次の瞬間、両足の筋肉がブチッと裂けたのがわかった。
「真優美………優大の事、頼んだぞ」
次の瞬間、凄まじい衝撃と共に視界が真っ白となり、意識が途絶える。